『B-B-C』
それだけを告げると、
佐藤さんからの電話は一方的に切れてしまった。
僕は電話を切り替えると
緊急事態が発生した事を高橋に告げた。
「高橋、落ち着いて聞いてくれ。
たった今、
佐藤さんがエメラルド星人に襲撃された。
僕はバスケ部員として
救出に向かわなければならない。」
高橋はかなり動揺している。
「田中先輩!無茶は止めてください!」
「高橋!!」
僕は高橋を諫めるように
毅然とした態度で問いかける。
「我々バスケ部の『BASUKE』。
『B・A』は何の略だ!?言ってみろ!?」
「『バッド・エイリアンズ』。
悪い宇宙人の事です!」
「ならば『S・U』は!?」
「『サベージ・ユーフォー』。
残忍な未確認飛行物体の事です!」
「そして『K・E』が『キープ・アース』。
すなわち、この地球を守る事だ!
我々『BASUKE部』は、
悪い宇宙人や残忍なUFOから
地球を守る部活動なのだ!」
高橋の悲痛な叫び声が耳に届く。
「そんな事は言われなくても解っています!
しかし、敵はエメラルド星人なんですよ!
去年の夏の合宿の時に
焼きソバを作りながら倒したニッポコ星人や、
学園祭の打ち上げで
フォークダンスの合間にやっつけたアピヨーン星人とは
ワケが違うんです!!」
「確かにエメラルドは、
アピヨーンみたいに
練り消しをぶつけたくらいじゃ死なないし、
ニッポコのように
レーザー光線には滅法強いが、乗り物酔いには死ぬほど弱い等という
決定的な弱点も発見されていない。
しかし、
僕は逃げる訳には行かないんだ。」
高橋が歯を食いしばって涙をこらえ、
どうにか僕を引きとめようとする。
「田中先輩、
あなたは今日卒業したんです!
私は現役BASUKE部員として命令します。
部外者の戦闘への参加は断じて認められません!」
言葉とは裏腹の
今にもこぼれ落ちそうな涙を、
どれほど幸せに感じた事か。
「高橋、立派になったな。
さすがBASUKE部員だ。
でもな、3月31日が終わるまで、
僕はまだ学校に籍があるんだ。
まだ卒業できてないんだ。
高橋、
短い電話だったけど嬉しかったよ。
ありがとう。」
受話器を置くと、
全力速で走った。
「僕は卒業できていない・・・。
学校からも・・・
佐藤さんからも・・・。」
パニック状態の街を血眼で走る僕の頭上を、
嘲る様にエメラルド星人特有の『ドラ焼き型宇宙船』が
流星群のごとき飛びかい、
さながら駄菓子問屋大爆発
といった様相を呈している。
僕もドラ焼きも
目指すは佐藤さんの家だ。
ゴゴォォォ!
突然、目的地の方角が
真っ赤に燃え上がった。
一面の炎のフェンスを突き破り、
巨大なロボット兵器が姿を現した。
怪光線を発射し、
次々と街を破壊し尽くす巨大ロボット兵器は、
その姿から去年の二学期の終わりにH・Rで、
『トンマルキ』というコードネームで呼ばれる事となった、
エメラルド星最大にして最強の兵器である。
「畜生!
エメラルド星の奴ら、総攻撃を仕掛けてきやがった!」
僕は佐藤さんの家を断念して、
目標の方角を学校へと変えた。
ほんの数時間前、
これが最後と誓った校門を乗り越えて
校舎に突入。
階段を駆け上がる。
三階の廊下を走り抜け、
放送室に飛び込んだ。
放送室のメイン電源をONにする。
眠っていた室内を
無数のパイロットランプが駆け抜け、
息を吹き返した。
いつもは教育テレビばかりを映すモニターは、
僕の正面で地獄と化した街を映し出す。
僕はセンターの椅子に腰を下ろし、
全てのつまみを最大まで上げた。
フィィィィン
机の上のマイクに赤いライトが灯る。
「学校ロボ『マナビヤ』発動!!」
僕の声に従うように
地響きを立て、
校舎が変形していく。
僕のいる放送室を核に、
右手に
一年生教室が連なり、
左手に
二年生教室が連なる。
用務員室を腰に、
美術室、視聴覚室、音楽室が重なる。
そして最後に
頭のてっぺんから
センターポールがにょっきりと生え、
我が校旗がはためき、
キーンコーンカーンコーン・・・・
夜の校庭に始業チャイムが鳴り響いた。
「変形コンプリート!
目的地・佐藤さん家。
学校ロボ・マナビヤ発進!!」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
背中にセットされた
科学室のアルコールランプが
一斉に火を噴いた。
「目的地上空に到着!
マナビヤ着陸!」
土煙を巻き上げて大地に立つ
『マナビヤ』。
仁王立ちで迎え撃つ、
最終兵器『トンマルキ』。
決戦を前に、
無数のドラ焼きが『トンマルキ』のつむじに吸い込まれていく。
エメラルド星の持てるエネルギーを
全て集結しようというのか。
最後のドラ焼きから
虫唾の走るダミ声が響いた。
「聞こえるか地球人ども!!
いや、BASUKE部キャプテン田中よ!
ワシの名はエメラルド星の大王であり、
この宇宙の支配者。
人呼んで、
『オポロフン・ドコヌ・メンコロボッヘ・コンサドーレ・ラ・ベットコス・
ペロキシーマ・ムスケントブルグ・シャンピロウ・ペペマン太郎・モツァレラ・
クピクピ・ド・モンベレバンベレチェンギョレン・ぽこ乃進・13世』だっ!!」
今夜、この地球は
我々エメラルド星人の物となる!
繰り返し警告する!
ワシの名は『オポロフン・ドコヌ・メンコロボッヘ・コンサドーレ・ラ・ベットコス・ペロキシーマ・・・」
「黙れメンコロ13世!
お前らの好きにはさせんぞ!!
去年の二学期の期末試験最終日の時の様に
返り討ちにしてやる!」
「ほざくな田中!
あの時はワシらの星が丁度期末試験一週間前に
入っていたから早めに引き上げたまでだ!
しかし、今度はそうはいかん!
エメラルド星人全員がこの戦闘に参加しておる!
なぜなら、
この戦いが卒業式を兼ねているからだ!」
「それでこのブサイクロボットが
卒業式の式場ってワケか!
気の毒だが、式場もろとも
木っ端微塵に吹っ飛ばしてやる!!」
「クックックッ。
田中よ、
よくもそんな残酷な事が言えたものだな。
クックックッ。
まあよい。
今年の我が校の卒業式には、
素晴らしいご来賓のお客様をお迎えしておる。
その方のご挨拶を聞いてから、
攻撃でも何でもするがいい!
ガーッハッハッハッハーーーーーーーーッ!!!」
下品な笑いを残し、
『トンマルキ』のつむじに吸い込まれるメンコロ13世のドラ焼き。
つむじが閉じると同時に、
『トンマルキ』のブラジャー部分がポロリと外れ、
サンバカーニバルよろしく
トップレスになった。
「サービスか?」
一瞬、我を失いそうになる僕を
間髪入れずダミ声が引き戻す。
「田中よ、
喜んでいる場合ではないぞ。
左の胸をよーく見るがいい!」
コクピットのモニターに
左の胸がアップになる。
半透明のカプセルの中に、
ピンクのリボンが揺れていた。
「さ、佐藤さん!!!」
「第一ヒントで正解とはさすがだな。
そうとも!
我々のゲストはこの女だ!
こいつがここにいればお前は攻撃できないし、
こいつもロボットに乗る事は出来ない。
一石二鳥だ!!
この世からの卒業記念に
よく顔を見せてやろう。」
モニターが勝手に切り替わり、
カプセル内の佐藤さんが鮮明に映し出された。
佐藤さんは必死に叫んでいるが、
その音声は届かない。
「さあ田中!
これでは攻撃できまい!
な・ら・ば、
こちらから行かせてもらうぞ!
エメラルドパンチ!!」
ドガァッッ!!!
『マナビヤ』は軽く十メートルほど吹っ飛び、
コクピットに物凄い衝撃が走った。
「エメラルドキーック!!」
ズガガッッ!!!
孤を描くようにして繰り出された『トンマルキ』の左足が、
胸の職員室にめり込んだ。
今度は五十メートルは飛ばされた。
割れたガラス窓から
歴代校長の写真が吹き出した。
「エメラルドアッパー!!」
「エメラルドエルボー!!」
「エメラルドチョップ!!」
「エメラルドデコピン!!」
全く無抵抗の『マナビヤ』に
次々と荒技が襲いかかる。
コクピットの限界ももう近い。
僕の意識も朦朧としてきた。
思えば、
名前だけのキャプテンだったな・・・。
いつも佐藤さんの『マナビヤ2』に助けられ、
本部の高橋の無線に助けられ、
たった三人の部活だったけど、
楽しかった・・・。
「エメラルドジャイアントスウィング!!」
ブォン!
ブォン!
ブォン!
ブォン!
僕が思い出に浸るスキも与えてくれず、
『トンマルキ』は『マナビヤ』を抱えあげ、
渾身の力で振り回し、
遠心力に任せてブン投げた。
ズガガッッーーン!!!
百メートル以上飛ばされ、
校庭の桜並木に突っ込んで
やっと止まった。
もう体が動かない。
コクピットの無残に割れた窓から
桜が見える。
「心残りと言えば、
桜が満開になるのを見れない事と・・・」
「エメラルドフィニッシュ!!」
百メートル先から、
桜に埋もれ、
仰向けに寝転ぶ『マナビヤ』目掛けて
『トンマルキ』が突進して来る。
ぐんぐん加速する『トンマルキ』。
衝突まであと五十メートル・・・
三十メートル・・・
二十メートル・・・
十メートル・・・
アンテナも折られ、
モニター越しに
無言で叫び続ける佐藤さんも
消えかかっている。
「・・・佐藤さんの『マナビヤ2』も
今度ばかりは来てくれないね。
・・・高橋の無線も、
もうキャッチ出来ないな・・・。」
5メートル、
4メートル、
3メートル、
2、
1・・・
覚悟を決めて目を閉じる僕。
しかし、
いつまでたっても衝撃が来ない。
「僕は死んだのか?」
「早く!早く反撃を!」
ノイズ混じりのスピーカーから
元気な声が聞こえる。
驚いて顔を上げると、
『マナビヤ』の目と鼻の先に
『トンマルキ』とがっぷり四つに組んだ、
『新校舎ロボ・マナビヤ2』の姿が!
ノイズだらけのモニターには、
依然として佐藤さんの姿が映っている。
「『マナビヤ2』は
佐藤さん専用のロボット兵器。
一体、誰が!?」
「先輩!高橋です!
『エメラルドフィニッシュ』は私が止めました!」
スピーカーの下には、
『TAKAHASHI SPEAKING IN THE MANABIYA2』
のデジタル表示が点滅している。
「高橋!何故お前が!?」
「先輩!私だってBASUKE部員です!
憧れの佐藤先輩を見ていて、
大方の操縦はマスターしました。
それより先輩!
『エメラルドフィニッシュ』の衝撃で
『マナビヤ2』はもう持ちません!
早く反撃を開始して下さい!」
尚も突進しようとする『トンマルキ』を受け止める
『マナビヤ2』の関節から
煙が上がっている。
「先輩!何をしているんですか!早く反撃を!!」
「で、でも『トンマルキ』の中には、佐藤さんが!」
「何ですって!!」
バフッ!!
『マナビヤ2』の右腕が吹き飛んだ。
熱暴発である。
力の均衡が崩れ、
『マナビヤ2』がじりじりとズリ下がる。
「せ、先輩・・・」
『マナビヤ2』のコクピットの
全てのパイロットランプが真っ赤に光る。
「先輩、もうダメみたいです・・・。
『2』は
体育館と部室の寄せ集めですから・・・。」
ボフッ!!
『マナビヤ2』の左腕が爆発した。
「先輩・・・
先輩、いつも
佐藤先輩の事を見てました、ネ。
佐藤先輩も田中先輩の事、
ずっと見てた。
でも、
BASUKE部は三人だから・・・。」
左胸の佐藤さんが
肉眼でハッキリ確認出来るほどに近い。
佐藤さんも虚ろな目でこっちを見つめて、
何かを伝えようとしている。
『マナビヤ2』のボディが
大きく傾いた!
その時、
スピーカーから高橋の声が溢れ、
佐藤さんの口の動きが
読み取れた・・・・・・・・・!!
「ア・イ・シ・テ・ル」
・・・高橋が僕の事を
「愛してる。」と言ってくれた。
誰にも愛されないと思っていたのに。
・・・佐藤さんも僕の事を
「愛してる。」と言ってくれた。
誰にも愛されないと思っていたのに。
高橋が僕の事を「愛してる。」と言ってくれた。
佐藤さんも僕の事を「愛してる。」と言ってくれた。
高橋が僕の事を「愛してる。」と言ってくれた。
佐藤さんも僕の事を「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
「愛してる。」と言ってくれた。
アイシテル。
「愛してる。」と言ってくれた。
僕はどうするべきなのだろう。
『マナビヤ2』の腰の関節が
メキメキと音を立て始めた。
「高橋!」
僕はどうするべきなのだろう!?
モニターに映る佐藤さんも虫の息だ。
僕はどうするべきなのだろう!?
「先輩から電話が来た時、嬉しかった・・・。」
「高橋!」
「でも結局・・・。
いいんだ、
先輩こと、大好きだから・・・。」
僕はどうするべきなのだろう!?
「高橋もういい!
逃げろ!脱出するんだ!」
『マナビヤ2』の腰が火を噴いた。
「田中先輩、
私の事は構わずに脱出して下さい。」
「高橋!」
『トンマルキ』は
更に『マナビヤ2』を押し込み、
三体のロボットは密着した。
コクピットの目と鼻の先に
佐藤さんが見えた。
しかし、僕には何も出来ない。
轟音を押しのけて、
彼女の肉声が届いた!
「田中君!
私の事はいいから脱出して!」
僕には何も出来ない。
僕には何も出来ない。
僕には何も出来ない。
僕には何も出来ない。
僕には何も出来ない。
僕には何も出来ない。
僕には何も出来ない。
僕には何も出来ない。
僕には何も出来ない。
僕には何も出来ない。
僕には何も出来ない。
・・・僕に出来る事は・・・
僕の頭の中で、
何かが弾け飛んだ。
無様に寝転んでいた『マナビヤ』は、
渾身の力で右のパンチを繰り出した。
グシャッ!!
拳は、
『マナビヤ2』の胴を貫き、
『トンマルキ』の左胸を粉砕し、
背中へと貫通した・・・・・。
ドゴオオオオオオーーーーーーン!!!
一瞬の静寂を経て、
三体のロボットは
一つの火柱となって、
消滅した・・・。
火柱の熱で、
七分咲きだった桜が
早送りの様に開き、
爆風で
一瞬のうちに散った。
まるで・・・
完
TOP