粉雪のキセツ
1.三人の秘密
「友っ!夕食できたよ〜」
そういってスリッパの音と共に、肩まで伸びたまっすぐな髪の女の子が、おぼんを持って現れた。
美人というよりは可愛いというほうが合うような子だ。
友と呼ばれた男の子は、あぐらをかきテレビを見ていた。
薄茶の髪に、ツリ目で少し生意気そうなカンジだ。
「でもよぉ、兄貴帰ってきてねぇぞ?」
男の子はそう答えた。
それを聞いた女の子は、テーブルに夕食を並べながら言う。
「でも冷めちゃうから先に食べてよう。たぶんもうすぐ帰ってくるから」
テーブルには美味しそうなクリームスパゲッティーが三人分置かれていた。
あと少しだけだが、おかずも。
一つはその夕食を持って来た女の子のもので、もう一つはテレビを見ている男の子のもの。
たぶんあとの一つは・・・まだ帰ってこないというお兄さんのものなのだろう。
ガチャリと音がする。
うわさをすれば。
ただいまという声と一緒に一人の青年が入ってきた。
茶色の少しだけ長い髪の毛。整った顔。
かなりの美形だ。
「和兄おっそ〜いっ!ご飯冷めちゃうじゃんっ」
「や、ごめん。っていうか、先食べてて良かったのに」
「今から食べよーと思ってたんだよっ!ったくおせーっつのっ」
「なんだよ友!少しは兄を敬えっ」
「なんで俺にだけ言うんだよっ!香里もだろ〜」
「友が口悪いからでしょ。もうっご飯食べようよ〜」
女の子がそう言うと、男の子はムスっとしてテーブルの前に座る。
・・・実は三人は兄弟という訳ではない。
男二人は本当の兄弟なのだけれど。女の子は彼らの”イトコ”にあたる。
女の子の名前は「浜崎香里」。高校二年生だ。そしてさっきから友、と呼ばれている男の子は、本名「月岡友希」。
香里の通っている高校の一年生。友希の兄が、「月岡和也」。大学一年生である。
和也が独り暮らししている部屋に友希が潜り込み、それ以来兄弟で暮らしている。
お金は親が毎月送ってくれているようだ。
香里は友希達の住んでいるマンションの部屋の隣に一人暮らししているため、いつのまにか三人で過ごすことが多くなっていた。
「あっ!ね、クリスマスイブは今年も良と出かけるから〜」
香里がフォークにパスタを巻きながら嬉しそうに言う。
それを聞いて和也は笑いながら言った。
「良と!?香里達まだ続いてたんだな〜。」
友希は黙々と食べ続けている。そして最後に水をごっくんと飲み終える。
「ごちそーさん」
それだけ言うと、傍に置いてあった黒いリュックを持って玄関へ向かってしまった。
「あれ?友、どこ行くの〜?」
香里は立って追いかけようとする。
「彼女のトコ、だろ?」
和也がニヤニヤしながら友希に言う。
「・・・へ?」
驚いて香里は和也を見た。
友希は後ろを向いたまま
「兄貴には関係ないだろ」
と言うと、部屋を出ていってしまった。
「えーっと。友って彼女・・・いたっけ?」
「いや、知らねーけど。ったく、今日もか。あいついっつも俺にやらせんだよな、食器洗い」
「あははっ、お疲れ様です〜。ついでに私のも洗っといてね!」
笑顔で言う香里の言葉に、和也はがくんと肩を落とす。
「はー?ちょっと待てよ〜」
「このから揚げ一個あげるから。ね、お願い〜」
食べようとしていたから揚げを和也の皿に置きながら言う。それを見て和也はあきれる。
「おいおい。から揚げ一つで俺が動くかっ」
なーんて言いながら、結局から揚げを食べてしまったのだけれど。
香里は肘をつきながら、ぼそっと呟いた。
「ねぇ和兄。友、悪い女にひっかかったりしないかな〜」
その言葉を聞いて、和也は吹き出しそうになる。
「なによ〜、その反応」
「や、もしかして惚れちゃったのかと。ま、そんな訳ねーよな。香里には、ちゃーんとした彼氏がいるし?」
「ん。今のとこ、良が一番好きだから」
恥ずかしそうに言う香里を見て、和也は笑った。
「おしっ。香里そろそろ帰んな」
和也は左手を後ろにつきながら言う。
「え?もう〜?」
香里は不満そうだ。和也はニヤリと笑いながら言った。
「女の子が男と二人っきりになったら危ないって知ってるだろ?」
香里は予想外のことを言われて、しばらく固まる。そしてようやく意味を理解すると笑顔で言う。
「だーいじょうぶっ!和兄は絶対安心ってカンジだもん」
「・・・どーゆう意味だ?それ・・・」
「あーーーーーーっ!!」
香里の突然の大声にびっくりして、思わず後ずさりしてしまう。
「やだー、TV始まっちゃう!じゃ、帰るね」
「は・・・?」
「ばいば〜い!」
それだけ言うと、手を振って出て行ってしまった。
「はー・・・」
溜息をつきながら、髪をかき上げる。
「・・・ちょっと本気だったんだけどな」
独り残された和也は少し笑いながら言った。
「きゃーっ、卓也さんかっこいい〜!」
一方香里はテレビを見ながら騒いでいた。
これから始まる出来事を予想することさえできずに。
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