2003/07/12(土)「暇」

 暇だ。なんさん暇だ。「なんさん」って熊本弁だろうか・・・。なんさま、とも言うな。何様、が訛ったのかな。よくわからない。

 とにかく、そんなどうでもいいことがふっと気になってしまうくらい、暇だ。今まで忙しかったのだから、暇はいいことだ。友達と遊ぶ時間も出来、やりたいことが出来る。だが、やはり暇だ。

 俺一人に時間が出来たって他の人は何かに拘束されているのだから、何度も簡単に誘うわけにはいかないし、かといって一人でウロウロ出来るほど楽しい遊び場は熊本にはない。だから暇だ。

 仕方がないのでインターネットなどして時間をつぶそうとするが、それも長くは続かない。面白いページなどなかなか見つからないし探す気がまずない。

 以前の知り合いのページをこっそり覗いたりしてみる。日記などを読んで、本当に成長していない様子が見て取れると、本当にやる気をなくす。それでいいのか君は!などと突っ込みたくなるが、別に俺がどうこういう問題ではないので放っておく。そしてまた暇になる。

 自らを省みる。俺自身成長していないとしたら、人のことは言えないからだ。だが俺には俺の成長はあまりわからない。きっと自分で自分の成長はわかりにくいものなのだ。だがそれでも、成長していかなければならないという難しさ。勉強し、考え、悩み、自らの成長を促す。きっと成長しているはずさ、などと希望的観測を用意して、そしてまた暇を持て余す。

 悩んだ末に恋をしてみようかとも思う。だが、それでも暇はなくならない。恋愛による充実感では、暇だ、という感覚はなくならない。目的や希望、将来への自信、やりたいことを自ら遂行し、実現していくそのモチベーションこそが、唯一の暇つぶし。

 日本人はきっと、仕事人間になる素質を持っているのではないだろうかと、ふと考えたりしてまた、俺は暇になっていく。

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 2003/07/11(金)「タイミング」

 数年前、ローソンのアルバイトをしている時、その店が売上不振によりクローズしてしまったことがあった。近くに競合店としてコンビニ最大手のセブンイレブンがあり、熊本国体に合わせて開通した国体道路の影響によって車の流れが大きく変わってしまったことがもろに響いたクローズだった。

 オーナー(旦那さんは他の仕事をしている主婦のオーナーだった)は土地を所有しており、それを利用する形でのFC契約だったらしいが、ローソン側からは場所を変えてやってみないかという話もあったそうだ。あまり詳しいことは知らないが、ノウハウを取得した末に勝手に独立されることを防ぐために、FCの場合長期年数の契約になるらしく、そのローソンは10年間の契約になっていたらしい。だが、その当時で5年程度しかまだ経っておらず、オーナーは苦境に立たされていた。

 これ以上この場所でローソンを続けたとしても売り上げが伸びる可能性は低く、もはや営業努力の問題を通り越していたので、ダメージの少ないうちに辞めるか、もしくはローソン側の勧めに従って場所を変えてもう少し続けてみるかしかなかった。

 だがオーナーは、自宅兼用の店舗である今の場所からの出勤はしたくないという話をしていた。家庭の問題もあり、場所を変えての経営には消極的だったのである。その時、こんな話をしてきた。

 「もしNくんでも、やる気があるのならやってもらいたいところだけど・・・」

 当時の俺といえば、まだ19か20歳くらいだったと思うが、自分のことを見つめなおし、これからのことについて必死で考え、勉強していた時期であり、人を使うなど思いも及ばず、また、経営なども全くわからず、やる気もない男だった。そんな話をされても寝耳に水と打ち消し、冗談だろうと歯牙にもかけなかった。

 タイミングの問題である。

 仮に今そのような話を受けたら、やってみようかな、と考えるだろう。もちろんFCによるコンビニ経営などは、基本やノウハウはすべて完成しているし、足りない部分はスーパーバイザーの指示に従って遂行するのみという経営する側にとっての魅力は小さく、やりがいもあまりない仕事ではあるが、一つの勉強と思えば一考の価値はある。

 結局そのローソンはクローズになったが、人材との出会いやタイミングさえあえば、まだわからなかったはずである。

 能力ある人材は放っておいてもやがて芽を出すというのが持論であるため、運命やタイミングに左右される人生というのはあまり考えたくないが、それに恵まれなければなかなか陽の目を見ないということもあるのかもしれない。理想はそんな受身の姿勢を圧倒的な力で飛び越える、秀逸な能力を獲得することだが、なかなか難しいものである。

 結局は人にかかっている。タイミングやチャンスはその人次第でいくらでも作り出せるのだから。

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 2003/07/10(木)「店を作る」

 辞めるまでは寂しいような気がするが、辞めてしまえばあっさりしたものだ。先を見据えて手を打って動いていかねばならないのだから、寂しがっている暇などない。ここ数日間、考える日々が続いている。

 武器は経営ノウハウとどこでもやっていけるという自分の素質、能力に対する自信。その他にはほんの少しの料理技術とあまり使えそうにない知識の数々。武器としてはまだまだ全然足りないが、考えた末に、俺は自分の新たな夢を見つけた。

 もともと、自分で世界を作っていくということに魅力を感じ、何事も自分で作り出していく世界を好んでいた。文章による世界構築、イラスト、ホームページ制作しかり。そして今回の店舗経営。店長ではなかったが、それに近い形で店を動かしていたという自負があり、またそれが非常に楽しかった。自分にきっと、向いていると感じた。

 自分で考え、創り出し、動かせる店を持ちたい。そう考えるようになった。それが新たな一つの夢である。

 事業計画書を書いたり、細かいプランを作ったり、調査、データ分析をしたり戦略を練ったり、売り上げ、在庫管理からアルバイト募集、育成まで、何もかも自分で出来るところがこの上なく魅力的に思えるのである。職人向きではないが、経営者にはきっと俺は、向いている。自分で経営するのなら、営業なども苦とも思わない。以前なら考えられないが、人は長い経験によって苦手ジャンルも克服してしまうということを知った。

 まず資金がいる。細かい武器もいる。それをこれから手に入れるべく努力していく。目的がはっきりするとやるべきことも見えやすくなる。その過程で、やりたい店のジャンルも見えてくるだろう。飲食店系が好ましいが、それには一層の経験と資金が必要になる。もちろんリスクも大きい。だが、何もかも自分で出来るところが魅力的である。

 資金を安く、リスクを小さくすませようと思うのならFC形式があるし、営業力で勝負する手もある。どんな方法でもある。まだ焦る必要はない。人は、少しずつ成長していけばいい。

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 2003/07/10(木)「転職5」

 場所は知っていたが、中に入るのは初めてだった。外装から想像していたよりも遥かに雰囲気のいい店舗で、ここで働いてみたいなと、第一印象で感じた。さらにSOさんが武蔵ヶ丘店は美人が本当に多いから移動がうらやましいなどと言っていたのを思い出した。そういう問題ではないと、それを聞いた時は呆れたものだが、どれほどの美人たちがいるのか少し見てみたいなとも思った。余裕があったのか、開き直っていたのかはわからないが、緊張などはほとんどなかった。

 店員に話を聞いたところ、Mさんは外で草むしりをしているということだった。探してみるとすぐに見つかった。

 「お疲れ様です」

 そう声をかけた。Mさんはこちらを見、誰何するでもなく凝視したあと、「ああ、Nくんか、誰かと思った」と柔和な声で応じてきた。それからしばらく、雑談をした。何をどう、話せばいいのか、わからなかった。

 だが、話をしていれば話題など自然に見つかるもので、核心に迫る話題も少しずつ引っ張り出し、Mさんの人間性と考え方、将来性と俺との相性を吟味していった。口が滑らかで弁が立つことは知っていたが、なるほど考え方もそれなりにしっかりしている。全店をまとめているだけのことはあるかもしれない、そういう印象を持った。だが、どこか知性に欠けている。

 威圧感がある。独善的でもある。自信家で、自己中心的で、人の話に耳を貸しそうにない。やがてこれは駄目だと、思えてきた。

 俺は文章を書き、テキストを持って議論を展開するのは比較的得意だが、会話でのディベートとなるとまるで自信がない。もちろん文章で表現できるのだからある程度の表現技法は体得していても、それが即興で出てこないという弱点がある。そもそも喋り言葉と書き言葉は似て非なるものでもある。

 思考パターンの豊富さという意味では、俺の方が多いと感じたものの、反駁する術をもたず、俺は言われるままに、はあ、そうですねなどと納得して流していく方法に立場を変えた。反論しても意味がないような気にもなっていた。経験の長さが自分の能力に対する盲目さに変わっており、若輩者が何を言うという雰囲気があったのである。

 前店長のOさんについて話しても、馬の耳に念仏だった。ナンバー2がトップの側につかないでどうすると叱責されたのである。

 「そんな状況だったんじゃ、Oくんは相当やりにくかったと思うよ。俺だったらNくん、すぐに切ったね。ガタガタ言うようなら他のメンバーも全員入れ替える」

 聞いていた通りの人だった。そして、その意見には一理あるとも感じた。もしもOさんが能力のある人だったなら。

 Mさんがいうには、ナンバー2の人間が他の人間側に回ったときほど自分がやりにくいことはないそうだ。嫌われることなどなんとも思わないが、それでは上手く店が回っていかない。ナンバー2は何があろうともトップの側についていなければ意味がない。自分のやりにくい環境なら人はどんどん入れ替えれば済むこと、代わりなどいくらでもいる。

 それはそうなのかもしれないと感じたため、俺はその点素直に納得した。従業員と仲良くするばかりが正しい経営ではないのだ。だが、無理に嫌われる必要もないはずである。Mさんのリーダーシップは、人がついてこないリーダーシップだと判断した。それ自体、悪いとは思わないが、俺は馴染まない。トップが能力のない人間だった場合、ナンバー2がそれでもトップの側についていたら、一体どうなるのだ。

 「まあそんな考え方じゃ辞めたほうがいいよ。ま、考え方変えないとどこに行っても通用しないと思うけどね」

 と、ここまで言われた。要するに、人と仲良くするだけの能無しのように判断されたのだろう。だが、人と仲良くなれることは一つの才能だと思うし人脈は世の中で何より大切なものの一つだと考えている。人を信用しないMさんは、本当に困ったときに助けてくれる仲間が一体どれだけいるのだろうか。

 「疑うところからこの会社は始まっている」と言う。さらにMさんの考え方で全店をまとめているのなら、なるほどSOさんなどはさぞかし能無しに見えていることだろう。Oさんの前のTD店長も、きっとHRさんと必要以上に仲良くなりすぎていたのをリークされてMさんに飛ばされたのだ。そういう会社なのだ。

 俺はもっともMさんに嫌われるタイプに違いない。売り上げありきなのは当然わかっているが、それと同じくらいに人同士のつながりも大切にしたい俺は、目障りで邪魔な能無し男と判断されるに違いない。実際、既にそういう空気を感じていた。続かない。合わない。

 「どうする? 俺別に誰でもいいから好きにしていいよ」

 「はい、じゃあ辞めますね。色々勉強になりました」

 そこで俺の退職が、決定した。

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 2003/07/09(水)「転職4」

 武蔵ヶ丘店に行こう。そう決心したものの、月出の仲間たちと一緒にいるとその決心もやはり揺らぐ。寂しさばかりが去来してどうしようもない。やるせない気持ちになる。皆に移動の決定を告げた後も、その気持ちは変わらなかった。

 だがいつまでもそれを引きずっていても仕方がない。切り替えて、前向きに武蔵ヶ丘店で頑張っていく気持ちを持ち始めたところで、SOさんからMさんの話を聞いた。

 「多分N君かなりいじめられると思うよ」

 そのような話はその時に始まったわけではないのであまり気にもしていなかったが、その次の言葉が俺の注意を引いた。

 「向こうも人数は足りてるみたいだからシフト減らされたりするかもね・・・」

 そうなると話は別だ。武蔵ヶ丘店へ行く意味がない。どれだけ頑張っても働き場を奪われてしまってはどうすることも出来ないからだ。人数が足りているのに移動になるということは、俺が加わることで弾き出される人間が出てくる可能性が十分にあるということでもある。それは仕方のないことだが、Mさんなら嫌っている人間から切っていくのは間違いないから、第一の標的が俺になるということは外から見ている人にとっては自然の流れなのである。

 「そんなに嫌われてるんですか?」

 不安になってSOさんに聞いた。多分ね、としか返事はない。それはそうだ。MさんではないSOさんにMさんの思惑などわかるわけがない。

 「ちょっと俺、今日終わってから武蔵ヶ丘店に行ってこようかな」

 俺はSOさんにそう言った。忙しい日だったから躊躇われたが、移動までもうほとんど日数がなかったし、Mさんと話もしないまま移動になるのはそういう状況であれば不安が大きすぎる。覚悟を決めて何も言わないSOさんを無視する形で武蔵ヶ丘に向かった。

 運転中というのは、物事を考えるのに非常に適している気がする。俺は足が自転車だったときもそうだったが、移動中に物思いにふけるのが非常に好きなのである。家で考えれば眠くなるし、他に考える場所など特にないから自然そういうことになるのだろうが、その日も、武蔵ヶ丘店に移動する際にいろんなことを考えた。そして悪いことに、次第に腹が立ってきたのである。

 顔を知っている程度にしか知らない相手をそこまで嫌うというMさんの度量の狭さに対して、である。

 予想通り武蔵ヶ丘店は非常に混んでいて、今Mさんを訪ねてもおそらく話す時間はあるまいと判断し、その日はそのままUターンすることになった。そして月出店に帰り俺は、笑顔で全員に相対した。

 「俺やっぱ辞めますね。Mさんのところじゃ俺多分続かないと思うし。そんな馬鹿の下で働きたくもないし。まあとにかく話さなきゃ何もわからないから一応話してはみるけど、辞める方針で行くことにします」

 「辞めたらMさんの思う壺じゃないか」

 「思う壺も何も、結局向こうでシフトを減らされたら辞めるしかないじゃないですか。同じですよ。Mさんに気にいられなきゃ生きていけない会社なんでしょ? 何をいまさら」

 「まあそうだけどさ・・・」

 SOさんは黙った。気持ちでは辞めて欲しくないのだろうが、現実はそう簡単にはいかない。Mさん次第なのだから俺が続けていく気があろうとなかろうと、同じなのだ。

 本当は、月出に残りたかった。だが、さらに新人を入れ続けている状況で、俺の居場所は既になくなりつつあった。もちろん新人とベテランでは仕事の量も質も全然違うし、店長に近い位置で働いてきた俺とは思考方法から違うのだから、どちらかを選べと言われれば俺の方が生き残ることは間違いなかったが、そんな実力主義を度外視して、俺は武蔵ヶ丘移動を了承したことで月出に居辛くなってきていたのである。

 もちろんKYくんをはじめとする仲のいいメンバーたちはアルバイトに降格してでも残ればいいと進めてくれたりもしたが、SOさんや部長の手前、それは出来なかった。武蔵ヶ丘に行くか、さもなくば辞めるか。既に俺の中でその二つしか選択肢はなかった。

 すべてはMさんとの話し合いで決まる。

 月出最後の日、早めに仕事を片付けた俺は、武蔵ヶ丘店へ向かった。月出の仲間たちに別れを告げて。

 「本当に今までお世話になりました。じゃあMさんと戦ってきますね」

 冗談でもなんでもなかった。

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  2003/07/09(水)「転職3」

 七月に入って、店長会議があった。俺はSOさんと会う機会がなかったため、何日か後にその時の決定を知らされた。

 H2さんは俺よりも先にそのことをSOさんに聞いていたらしい。だが、俺が自分で言うまでは何も言うまいと思ったそうだ。一言もそのことを口にしなかった。俺は何も気づかなかった。後で思い返せば、確かにH2さんの寂しそうな様子は思い当たるのだが。

 普通に仕事を終えて、俺はSOさんに呼ばれた。話があると。何事だろうと思った。

 「N君、移動になりました」

 あっさりと、SOさんは笑顔で言い放った。

 「は!? どこに?」

 その時の俺は、本当に面食らった顔をしていたに違いない。青天の霹靂だった。月出で皆と仲良く続けていこうと決心した矢先である。

 「武蔵ヶ丘店です」

 武蔵ヶ丘店。このグループの店長たちのトップ、Mさんがいる店舗。言わば敵の本拠地。

 以前俺は、武蔵ヶ丘に行きたいとずっと考えていた。Mさんをどれほどの人間か見極めたかったし、Mさんのいる武蔵ヶ丘で働くことが出来れば、頑張りが即評価される。働き甲斐のなかった今までとはわけが違う。俺は一瞬でそこまで判断して、これはチャンスだと考えた。

 「またなんでいきなり?」

 「昨日の店長会議で決まりました。部長が『あいつは辞めんことになったんか』って聞いてきてね、それならMくんのところにやって勉強させろ、と」

 「部長が? てことは嫌われてるわけではなかったんですかね・・・?」

 「どうなんだろうね? でも最終試練みたいなことを言ってたよ」

 やる気が出てきた。少なくとも期待はされているらしい。期待されればやってやろうという気になる。人間誰でもそういうものではないだろうか。だがそこで、ふと気になった。

 「Mさんはなんて言ってました?」

 受け入れる側のMさんの気持ちは、当然気になる。SOさんは一瞬口ごもった。気にしないからはっきり言って欲しい、そうしないと正しい判断が出来ない、そういうと、SOさんは重そうに口を開いた。

 「あんまりMさんにはNくんは好かれてないみたいだね。『辞めたいって言ってたならさっさと辞めさせればよかったのに』って言ってた。『俺がクビにしていいですか』って部長に聞いてたからね」

 「部長はなんて?」

 「まあそういうなってMさんをなだめてたよ」

 今嫌われていることなど別に大した問題ではない。俺はMさんとほとんど話をしたことがないのだから、嫌われていたとしてもあらぬ噂によって判断しているに過ぎないからだ。俺は誰とでも、話をすれば好かれる自信があった。武蔵ヶ丘店に行こう。そう決心した。部長に期待されているのであればこれは出世コースと考えていいはずだ。(続く)

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 2003/07/08(火)「転職2」

 SOさんは俺の判断に頷き、俺は6月いっぱいで退社ということになった。特に隠す気もなかったので、俺は皆にそれを伝えた。KYくんには「冗談でしょ?」と言われ、KSさんは「マジで?仕方ないけど・・・」と言い、H2さんとFさんは笑顔でショックを打ち消すような態度を取った。仲が良すぎる弊害と言える。別れが辛すぎるのである。

 俺が辞めることが決定したその日に、KSさん、Tさん、H2さんと飲みに行き、楽しく騒いだばかりだったからなおさらだった。KYくんは知り合いの不幸で来れなかったが、次回は絶対行くと楽しみにしていた。

 KYくんは特に、時間が重なることが多かったこともあり、本当に仲のいい友達であり弟のような存在で、迷惑をかけることになるのが何より辛かった。どうすればいいのか、数日間悩むことになった。

 そんなある朝、俺は部長にたまたま会った。この会社では社長に続くナンバー2的存在で、元地元銀行の頭取だったらしくその銀行に太いパイプを持っている重要人物である。その部長が開口一番、「お前、辞めるとや?」と、少し寂しそうな顔で問いかけてきた。俺はずっと、部長には嫌われていると考えていたため、この反応は意外で、返答に窮した。だが、なんとか口を開き、「今月いっぱいで・・・」と言った。「そうか」と一言残し、部長は去った。

 部長は俺を追い出そうと新人を大量に入れたわけではなかったのだろうか。俺は揺れた。続けられるものなら続けていたい。何よりせっかく慣れた職場だし、SOさんが店長になって、月出の雰囲気は比較的良くなってきていた。話をすると、システムエンジニア経験者で、接客業や副店長を他の業種で経験しているということで、常識と知性があり、考えていたよりもずっとまともな人物であるということがわかってきた。俺が戦略的な提案をすると的確に答えてくれ、久しぶりに働き甲斐というものを感じた。続けるべきではないか。

 翌日、7月のシフトがSOさんによって作られていた。約束どおり、俺の名前はなかった。

 それを見てKYくんは、笑顔を凍りつかせた。

 「ホントに名前ないし。冗談かと思ってた。でもまだ間に合いますよ」

 そう言われて俺は、SOさんに言った。「辞めるのやめていいですか?」

 「キミがそうしたいならもちろんいいよ。俺も死ぬほど無理しなくてよくなるし。助かる」

 「すみません、ご迷惑おかけしました。お願いします。部長にも謝っておきますね・・・」

 そうして俺は、まだこの会社で働いていくことになった。働き甲斐が少なくても、仲間たちとの交流を大切にしていたかった。もう少し、続けてみよう。毎日がまた、楽しくなった。

 だが、予想もしない展開がその後、俺を待ち受けていたのである。(続く)

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 2003/07/08(火)「転職1」

 色々と忙しかったのでずいぶんと更新をサボっていた。結果的に、今の会社を辞めることになった。

 Oさんが移動する直前まで話は戻る。ちょっとしたきっかけから、俺の方が彼に対して合わせる気を失ってしまっていた。気まずいままに日数は経過し、こじれたまま結局別れることになった。俺は顔を合わせたものの、特に会話もなくさっさと帰ったし、他の誰からも最後の日だというのに別れを惜しまれなかったそうだ。その話を聞いて可哀想だなと思ったものの、自業自得なのだから仕方がない。

 H2さんとその後話をする機会があったため、Oさんの移動についてどう思ったか聞いたところ、本当に救われたと話していた。表面上は仲良くしていたH2さんだが、合わない人とはとことん合わないらしい。その後Oさんに向いていた拒否感がFさんに集中するようになっていくのである。

 Oさん移動に伴って、SOさんが月出にやってきた。俺はSOさんの初日はちょうど休みだったのだが、一応顔を出してみた。H2さんやTさんがうまくやっているか心配だったのだ。だが、その心配はとりあえず杞憂で、まだまだわからないが、今のところ大丈夫、と二人は話していた。俺はその日、時間を見つけてSOさんと二人でじっくり話し合った。

 「君は結局どうしたいの?」

 俺が営業日報に色んなことを書いていたことをOさんから聞いていたらしく、そう聞かれた。正直に悩んでいると答えた。

 「OくんはN君のことクビにしたかったと思うよ」

 はっきりそう言われた。普段、人にはっきりとものを言わないSOさんだが、こっちが胸襟を開いていたためか、色々と情報を提供してくれた。Oさんとは仲良くしていたつもりだったので、正直クビにしたかったなどと言われるとショックだったが、まあそれもそうかと納得した。わからない話ではない。

 会社についての不満を、俺はとりあえずSOさんにぶちまけた。別に隠すことでもない。SOさんは考えていたよりも相談相手になると判断したためでもあった。

 「正直俺も辞めたいよ、こんな会社。N君が辞めるというなら止めない。店長でなく俺個人の考えを言わせてもらうなら辞めたほうがいいと思う。俺はもう三十過ぎてるから辞めたくてもなかなか簡単にはいかないけど、N君はまだ若いからね」

 SOさんが大津にいる時、突然辞めるといい出した話は聞いていたため、この言葉には説得力があった。さらに、新人がようやく入ってくるということもこの時に聞かされた。今までまったく人が足りていなかったため、本当に救われる話だと思ったわけだが、新人の数が、今度は多すぎた。これを俺は、俺が辞める気でいるらしいということを察知した上の人間の保険だと判断したのである。

 なるほど、俺はもうあまり必要とされていないわけか、ならばSOさんの言うようにこれ以上ここで仕事を続ける意味はない。売上管理や原価計算、メニュー、システム作成からマーケティング、アルバイト管理他、店長業務は既にほとんど出来るようになっていたし、自分でこの店を経営していく自信もあった。同業他社はもちろん、他業種に移ってもこのノウハウは活かせるだろうし、役に立つに違いない。俺は一言SOさんに言い放った。

「人が多くなるならシフトを組むのも大変でしょう? 俺辞めますね」

(続く)

 

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Last updated: 2003/6/23