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「貴様という奴はああっっっ」
「いひゃい、いひゃいよ舞、いひゃいってばあ〜」
両方のほっぺたを思うさまひっぱりあげ、うにょ―んと
めいいっぱい伸びた所で離したら、ぷるるんと震えて元に戻った。
涙目になって頬を抑え、こちらを上目遣いで見るさまが、
また、かわいらしいのが、憎たらしい。
例えて言うなら、鼻をぴすぴす鳴らして鳴く子犬のような愛らしさ。
ただでさえ、きついといわれる目つきを更に悪くして、
もう一度引っ張ってやろうかと、不穏な考えを胸に抱く。
そんな舞の様子を恨みがましく見つめながら、ようやく痛みの治まった頬から
手を離した速水は、少し大きなため息をついた。
「…なんだ、不満があるなら言うがいい。」
「このまま、君にほっぺを引っ張られつづけてたら、どうなるのかなあ。
ブルドッグみたいな顔になったら…責任とってよね」
文句なのか、挑戦なのか、今ひとつ要領を得ない速水の言葉に、 舞の目は半眼になった。
「回りくどいな。それは遠まわしにやめろといっているのか?」
「…わからないなら、良いけど。」
先程よりも、大げさなため息をついて見せながら、速水は思った。
本当に彼女にほっぺを引っ張られ続けたら、そうなっちゃうような気がした。
ただでさえ、たれ目なのに、ブルドッグじゃあ…かわいいけど、ちょっとねえ。
速水は、再び自分の頬を掴もうとしている舞の両腕を掴んで、顔を近づけた。
瞬時に顔を染め、視線を明後日の方向に泳がせた舞の反応に、 脈があると良いなと思いながら、笑った。
「お腹すいてると怒りっぽくなるんだって。お昼にしようよ」
「貴様は私の質問に答えていないっ。」
そもそもなんで怒られたのか、理由が判らないけど。
1000年ついていけば、わかる気がした。
そうやって、すぐに人を子供扱いする所が嫌なのだと。
思い知らせる為に、 やっているのに。
1000年かけても、こやつには私の気持ちなどわかるまい。
それぞれの想いは、青く澄んだ空だけが知っている。
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