紅の牡丹 おの覚悟

 

事態は最悪の方向へと流れはじめていた。

町の利権を二分する組同士、全面抗争に突入すればどちらかが滅びるまで争うのは必定の様相。

「代貸堕つ」 ・・・その知らせに町は異様な緊張に包まれていた。

そんななか、お竜は単身敵地にのり込んだのだった。

 

 

 

「親分さん。行き掛かりとはいえそちら様の代貸さんのお命、頂きましたお詫びに参りました。」

「指一本で済む話じゃない。残念だが戦争も仕方あるまい。」

「ならば、この柔肌に賭けて・・・。」

お竜は立ち上がると、着物を脱いだ。
見事な体に、褌一つの姿は見事。

「お前、俺を色仕掛けで落とすつもりか。そんな事で落とし前をつけようというのか。」

「このお竜をそんな女とお思いですかい。お庭を拝借、落とし前は・・・この命で。」

お竜は庭に下りると庭石に腰をおろし、匕首(あいくち)を左の脇腹に突き立てた。

「ウンッ・・ウムッ・・・ムムムゥゥゥッーーー。」
「親分さん、この通り・・・、落とし前にこの命を受け取って・・・おくんなさいまし。」

「お竜、見事な覚悟だが、俺がお前に惚れている事を知っている奴は多い。
女の色気とハッタリに引っ掛けられたといわれては、俺もしめしがつかねえ。
そのまま右まで一文字に、見事に切り終えたなら、お前の望みどうりにしてやろう。
どうだ、切れるか。」

「ありがたいお言葉でございます。お約束、確かに聞きましたよ。見事に切ってご覧に入れます。
お見届けの上は、・・・必ず・・・必ず・・・これまでどうりに・・・。」

「どうぞ、このお竜の腹の内まで、・・・ウウッ・・お見届けを・・・。」

(俺も修羅場をくぐった男だが、女の切腹とは畏れ入った。艶かしくも見事な眺めだ。
あの苦しそうな顔、悶える肩、震える腰つき、たまらねぇぜ。)

「私の・・覚悟が・・ハッタリか・・見届けて・・頂きましょう。ウウウウーーッ。」

「本当に腹を切るというのか、お竜。男でもなかなかにできることじゃねえ。
もう止めたらどうだい。もったいない、いい体じゃねえか。俺の女になるなら許してやる。
わっぱを納めな。」

「親分さん。・・見損なわないで・・おくんなさい。筋を通させて・・おくんなさいまし。
決して・・色気で・・ごまかすつもりは・・ござんせん。ウウウッ・・。女でも死に花咲かせて・・お見せいたします。
見届けてやって・・下さいませ。」

「ううむ・・・・。分った、オメエの覚悟、見せてもらうぜ。存分にするがいい。」

「ありがとうござんす・・。この渡世に入ったときから・・女ながらも・・死に花咲かせたいと・・。
本望で・・ございます。それでは・・うううっ・・・・・・。」

(なんとも見事なもんだ。あの胸、あの腰。震えるほどのいい女だが・・・。それにも増してあの度胸。
どうだ、あの内股のしまり具合は。しかし、こんな助平根性も、お竜の覚悟の前では恥ずかしいと思ってしまう。
女の切腹とは、話に聞いた事はあるが、これほどまでに美しいものか。
肩を震わせ、女の細腕震わせて、乳も小刻みに震えていやがる。
引き締まった臍の辺り、あのむっちりと張った尻、膝を大きく開いて力を込めた太もも。
いつもの俺なら押し倒しても犯さずにはおかねえだろうが・・・。
どうしたわけだ、俺の息子はいきり立っているというのに、どうにも体が動かねえ。)

庭石に腰掛けたお竜は、顔をあげて男をまっすぐに見た。

ニッコリと微笑んだ目は嬉しそうでもあった。

自分の腹に突き入れた匕首を目で確かめ、両足に力を込め股を開く。

両手で白布を巻いた匕首を握りなおす。

身に着けているのは、大きく広げた股間を隠す白い布一枚のみ。

背筋を伸ばし肩を張り、引き締まった腹を前に押し出す。

その時、痛みに少し顔を歪めた。

「ううむっ、見届けて・・頂きましょう。フーッ、フーッ。」

伸びた首、豊かな乳房を抱えた胸、臍を中心に絞られた腹、厚みのある腰。

付け根から伸びた太腿はほどよい肉付き。膝から下は細く締まった足首まで続く。

体中が小刻みに震えて固く強張り、一呼吸、二呼吸、肩で息をして止める。

肘を張り、腕に力を込める。

「ウムッ、ウムゥゥゥッ、ウオゥゥゥッ、ウウウウウゥゥゥゥ。」

「切るのか、本当に・・・。お竜。」

歯を食いしばり眉根を寄せ、苦悶の表情。頭を振リ髪振り乱す。

体中の筋が浮き出し、汗が噴き出す。

腰を振る。足を踏ん張り膝が震える。

右に切り進めれば、血が噴き出し内腿を伝う。

「ウムッ、ウムッ、ウムゥゥゥゥ−ーー。」

女の秘部を隠した白布が、端から赤く染まり始める。

「ウムムゥゥゥッ!!! ムムゥ〜〜〜。」

小刻みに震えつづける肩、腕。揺れる乳房の間を汗が珠となって流れ落ちる。

「クウォッ、ククククッ クゥゥ・・・・・・・・・・・。」

苦悶の表情。苦悶。苦悶・・・。

「ググググゥゥゥゥッ、ウムゥゥゥゥゥ、ウウウゥゥ。」

「ウウウッッッ。ムゥゥゥッッ。」

「一文字に切れといわれますか。女には切れぬとお思いのご様子。
ココに参るときから命は捨てております。この腹切って纏まる話なら、切ってご覧に入れましょう。
・・・女とはいえ、この渡世に入った時から惜しむ命ではござんせん。
切腹して死に花咲かせられるとは本望。見事、仕遂げて見せましょう。」

「なんのこれしきの痛み。」

「フーフーフー、いざ。」

両の腕に力を込めて、己の腹を切り裂こうとするお竜。

一寸ほども入った刃先は、内からおし戻されてくる。

肩をいからせ、押し込みながら右に引き切ろうとするお竜。

押し込もうと力を込めるたびに、激しい痛みが襲う。

「ムムムゥゥゥゥッ。ムゥゥゥゥゥッ。」

全身の筋肉が強張り震えて、痛みに耐える。

痛みは腰から背を走り、脳髄に止めろと訴える。

押し込みながら右に引く、激痛、右に引く、激痛。

「ウムッ、ウムッ、ウムゥゥゥゥ−ッッ。」

お腹の中ほどまで切り裂いた頃には、極度の緊張と襲ってくる激痛で、頭の中は真っ白になっていた。

切らねばならない、その思いだけが体を支える。

「ウムッ、ウムゥゥゥッ、ウオゥゥゥッ、」

全身の力を刃先に込めて、思い切って右に引く。

押し戻されながらも、一気に右脇まで引き切ったお竜。

「ググググゥゥゥゥッ、ウムゥゥゥゥゥ、ウウウゥゥゥゥゥ。」

傷口が開いて流れ出す全身の血。

もう痺れて痛みは無く、青く憔悴した顔には恍惚ともいえる表情。

そのままゆっくりと横に倒れるお竜。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

男は縛り付けられたように動けなかった。
「お竜、切りやがった。見事に切りやがった。お前の勝ちだ。」

 

 

男はゆっくりと立ち上がると、その場を立ち去った。