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慌ててメールをひらくと、そこには、 『大谷さやかの友達です。あなたは誰?』 というメッセージが書かれていた。ボクはそのまま『返信』を押すと、 「最上海斗といいます。さやかさんに渡したいものがあるので、探しています」 と、メールした。外はまだ暗い。しかし、メールが気になったボクは眠らず朝まで返信を待ったが、結局その朝メールは返ってこなかった。 その日の午後、ボクは幼馴染の青島かずはと会った。できることなら、大谷さやかについては誰にも話したくなかったが、唯一相談できるとしたら、彼女しかいない。 ボクが待ち合わせのコーヒーショップに入ると、彼女ははすでにアイスティーを飲みながらボクを待っていた。彼女は笑いながらボクをにらみつけている。 「相変わらず遅刻ね」 そう言った彼女に、ボクは、 「相変わらず早いな」 と笑って答えた。もう20年も友達付き合いをしているせいか、彼女に対しては何隠すことなく全てを話せる。が、その話をすると、彼女は決まってこう言う。 「あたし、1つだけ海に隠していることがあるのよ」 と。彼女は小学生の頃からボクを「海」と呼ぶようになった。国語の時間、「海」という漢字を習ってからである。あれから何年が経ったであろう。彼女はもう大学4年生で、就職活動を始めている。 ボクがイスに座ってアイスコーヒーを注文すると、彼女は、 「ねえ、海? 相談したいことって何?」 と、少し不安そうに聞いた。 「実は……」 ボクは大谷さやかのことを全て話した。たった1つ、ボクが大谷さやかを個人的に気になっているという事実を隠して。と、その瞬間、ボクは彼女の言う「1つだけ隠していること」がわかったような気がした。彼女にも好きな人ができたのかもしれない。 彼女は意外にも、 「で、海はそのさやかさんとやらに会いたいとか思っているわけ?」 と、不安そうな目付きで言った。 ボクは気まずそうに否定し、ただ生徒手帳を渡したいだけだと言ったが、彼女はボクの嘘を見抜いているのだろう、 「ふーん……」 と言うと、ウィンドーの外の景色に目を移した。 その後は何を話しても彼女は生返事をするだけで、話らしい話はできなかった。帰り際に彼女が言った「ゴメンね」の一言が、ボクの胸にとても重く感じられた。 次の朝、ボクはやはり着メロの音で目を覚ました。送信者はもちろん『???』である。 『渡したい物とは何ですか?』 メッセージはそう書かれており、ボクはすぐに、 『大谷さやかさんの生徒手帳です』 と書いたが、すぐにそのメッセージを消した。なぜなら、ボクが彼女の手帳を拾ったのは去年のことであり、当時彼女は高3だったので、今彼女が高校へ通っているとは考えにくい。何より、アパートの管理人の話では、彼女はいまだ行方不明だというのだから、事故の後すぐに学校を辞めてしまった可能性が高いのである。とすれば、今ボクが「生徒手帳」と書いたところで、彼女の友達と名乗る相手は、「もう不要です」と言うに決まっている。 ボクはしばらく考えると、 『今は言えませんが、とても大切なものです』 と曖昧に書いて返信した。 (続く) |
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2001年06月23日 10時59分39秒
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2001年06月23日 10時30分35秒
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アパートを去ったボクは、迷わず図書館に直行した。あの日の日付けは覚えている。5月23日。そう、専門学校の実習があった日だ。 その日の夕刊に、その記事はあった。 今日午前7時30ごろ、通勤途中の車が崖から転落。道路にブレーキの跡はなく、居眠りか脇見運転の可能性が高いと思われる。転落した車からは夫婦と思われる遺体が発見され、警察では身元の確認を急いでいる。 またその翌日の朝刊には、 昨日、通勤途中の車が崖から転落。警察のその後の調べにより、見つかった遺体は、市内に住む大谷夫婦のものと判明。車のブレーキが故障していたことから、警察では転落の原因と断定した。また、車内からはその他に某高校のカバンが発見され、大谷夫妻の娘、大谷さやかさんのであると確認されたが、その消息は未だ不明である。 そう言えば、あの日彼女はカバンを持っていなかったような気がする。時刻は確か、8時を少し回ったくらいである。時刻的にも、ちょうど一致する。 その他には、大谷さやかに関する記事はなかった。が、ボクは新聞の欄外にボールペンで書かれた小さな文字に目を止めた。 メールアドレスのようだ。 ボクはポケットから携帯を取り出し、早速そのアドレスにメールを打ち込んだ。 『大谷さやかさんについて、何か知っておりませんか?』 しばらく待ったが返事はない。ボクはそのアドレスを携帯に登録すると、その名前の欄に『???』と記した。 図書館を出た時は、外はすでに暗かった。 うちへ帰ると、父が玄関でボクの帰りを待っていた。 「海斗、今日は学校へ行ってないそうだな? 学校から電話があったそうだ」 「父さん、ゴメンなさい。実は今、気になることがあって、それを調べているんです」 父は怒っている様子はなかった。それどころか、むしろ心配そうな目でボクを見ている。 「父さんは、今までおまえのやってきたことに一言も口を出した事はない。それは、父さんがおまえを信じているからだ。今回も口を出すつもりはない。けど、信じていいことだな?」 ボクは思わず泣き出しそうになった。そう、確かに父さんは今までボクを自由にしてくれた。友達からは「親がうるさい」という話をよく聞くが、ボクはそのたぐいのグチを一言も言ったことがない。しかし、間違ったことをしていると思わなかったボクは、 「はい!」 とはっきり返事をした。 ボクの言葉に、父さんの心配そうな顔は笑顔に変わり、やがていつもの夕食が始まった。 翌朝、ボクは音楽で目が覚めた。目覚ましでもステレオでもない。寝ぼけ眼で音のする方に手を伸ばした瞬間、ボクはハっと目を覚ました。 手につかんだものは携帯である。 ボタンを押すと、送信者の蘭には『???』と表示されていた。 (続く) |
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2001年06月18日 01時46分59秒
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2001年06月16日 12時30分02秒
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彼女の家は平凡なアパートの2階だった。壊れかかったドアの横には、古びた白い洗濯機が置かれており、その周りには洗濯用品がちらばっていた。 その光景には、生活のにおいというものが全く感じられなかった。が、表札には、 『大谷』 と、生徒手帳と同じ苗字が書かれている。手帳によれば、彼女の名前は、 『大谷さやか』 というらしい。 ボクはその壊れかかったドアを軽くたたいた。 返事はない。 今度は強くドアをたたいてみた。 が、やはり返事はない。 見慣れないボクの姿が不審に見えたのだろうか、やがて階段を上る足音が聞こえ、一人の初老の男がボクに声をかけた。 「大谷さんの知り合いかね?」 「知り合いというほどの者ではありませんが、あなたは?」 初老の男はこのアパートの大家だと名乗ると、 「大谷さん一家は事故に遭われて亡くなったよ」 と、憐れむかのように目を細めて言った。 ボクは驚きと突然込み上げてきた悲しみに身体を震わせ、それでも自分を落ち着かせようとしながら大家に詳しい事情を聞いた。 「あれは、ちょうど去年の今頃だったと思うが、大谷さん一家は、朝の通勤途中で、車であそこの崖から転落してしまったんだ。ブレーキの故障が原因らしい……」 そう言って、大家は遠くの山道を指差した。その山道は、街へ出る唯一の道であり、ボクもここへ来る時にバスで通ってきた道である。 「遺体はすぐに見つかり、大谷さんご夫婦であることが確認されたよ」 ボクは言葉もなくその場に立ち尽くしていたが、やがて気を取り直して、 「あの高校生の子も一緒に亡くなったのですか?」 と聞くと、大家は、 「それが……、見つからなかったらしい……」 と、首を傾げながら答えた。大家の話によれば、大谷さん一家は、毎朝親子3人が車で一緒に出掛け、両親は娘を例のバス停付近で降ろしてから、職場へ向かっていたらしい。夫婦して同じ工場で働いていたようである。 「あの朝も、間違いなくあの子は車に乗ったはずだが……、あの土砂降りだったし……」 土砂降り、と聞いて、ボクの胸は高鳴った。 「正確にはいつだったか覚えていませんか?」 「さあのぅ……、でも新聞には大きく事故の記事が載っていたから、調べればわかるかもしれん」 ボクが泣いていた彼女を見た日は確かに土砂降りだった。胸ポケットのボコボコになった生徒手帳が何よりの証拠である。ますます高鳴る胸の鼓動に、ボクは全てを大家に話そうとしたが、それを必死に押し止めると、大家に軽くお辞儀をして、急いでアパートを去った。 (続く) |
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2001年06月15日 23時09分37秒
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激しく降りしきる雨を見ると、いつも彼女のことを思い出す。 彼女は当時まだ16歳だった。少し寝癖のついたセミロングの髪が印象的で、制服姿で歩くその姿には、どことなく陰が潜んでいた。 そんな彼女の姿に魅かれたのか、ボクはいつしか毎朝の通学で、彼女を無意識に探すようになっていた。 彼女に異変が起こったのは、それから間もなくしてからである。 その日、激しい雨の中、彼女は傘もささずに泣きながら歩いていた。 「どうしたの?」 居たたまれない気持ちになったボクは、人目をかまわずに彼女に声をかけた。 彼女は何も言わずに立ち止まった。そして、ボクの顔を見ることもなく、かすかに首を振ると、ボクを避けるようにして駆け出したのだ。 ボクは走る彼女の姿を目で追い、見えなくなるまでその場に立ち尽くした。 振り向いたボクは、多くの視線の的となっていた。思わず視線を下ろしたその先には、彼女の生徒手帳が無造作に落ちている。歩道には雨水が流れ、紺の手帳は何事もないかのように雨にうたれていた。 翌朝、ボクは彼女の生徒手帳を片手に、いつものバス停で彼女を待った。この日も雨は激しく、黒やグレーの傘がボクの視界を邪魔したが、ボクは体を左右に動かしながら彼女の姿を懸命に探した。が、いつもの時間になっても彼女は現れない。やがてバスが到着し、急いでバスに乗ろうとする人混みに、ボクは背中を押されながらバスに乗り込んだ。 翌朝も、またその翌朝も彼女は現れなかった。 風邪をひいた、そう考えるのが普通だろうが、ボクにはそうは思えなかった。あの雨の中の涙が、何かを物語っているかのように思えたのだ。 彼女はその後もボクの前に姿を現すことなく、気付けばあれから一年が経とうとしていた。 ボクは今になってやっと、彼女の家を訪れようと決心した。専門学校とバイトで忙しい毎日ではあるが、彼女の存在はいつもボクの胸に大きく、この不思議な想いはいつになっても忘れられそうになかったからである。それにしても……、傘もささずに濡れていた少女。あの涙は一体何だったのか。そしてあの生徒手帳、あれは本当に偶然に落としたものなのだろうか。 あの日の雨水でボコボコになった生徒手帳は、学校に届けられることもなく、ボクの胸ポケットにしっかりと入っていた。 続く |
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2001年06月14日 19時50分36秒
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2001年06月13日 14時09分25秒
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かたちのない風を追いかけて どこまでも走り続けたい 見えないものが好きだから この生き方が好きだから 怖いものは何もない 夢、憧れ、愛、そして自分の気持ち どんなに辛くても逃げないのは 決して強いからじゃない ただ、好きだから 愛しい風に背中を押され 迷う心に色をぬる 最初の一歩を踏み出せば 見えないものが見えてくる 道は決して一つじゃない キャンバスはいつも真っ白だから 自分で描こう 心の色で 未来につながる 自分だけの道を |
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2001年06月13日 00時09分47秒
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2001年06月12日 20時32分35秒
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2001年06月12日 18時47分23秒
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