「おれのおよめさんになってくれる?」

「おれはおむこさんになるんだよ!」

「おむこさんがいいの?じゃあおれ、およめさんでいいや」






〔 いつかの 〕





口を開けて大きな欠伸をひとつ。
月曜日は、しんどい。月曜日から土曜日は学校があって、日曜日は学校はなくてもテニスはする。予定なんか関係なく寝こけている俺にはカンケーないって周りは言うけど、一日中寝て休んでて良いって言う日がないのは絶対におかしい制度だと常々思っている。

今日は跡部にとっては厄日と言っても良い日だ。
自宅にまで迫る女のコから逃げるために早起きして早くに学校に着かなければならない。荷物を部室に移動して非難。空き時間は常に部室。それでも押し寄せるプレゼントの数。

俺にとっても厄日だ。というかテニス部レギュラーは全員、そう思っているだろう。とはいえ俺ほどじゃないだろう、たぶん。

俺が跡部への想いが詰まったプレゼントを押し付けられて、俺が跡部に渡すなんて。




その場で投げ捨ててやりたくなる。




実際、過去に一度やったことがある。
でも跡部に知られて、跡部がココロを痛めたみたいだったからもう止めた。
俺に悪いと思ったんだと思う。迷惑掛けたって。別にプレゼントがどうこうとか女のコがどうこうじゃなくて。もちろんそんなことプライドの固まりのあいつが言うわけはないけれど、俺には分かった。だからもうしない。


「ジロー!」

跡部の声。俺は自分の席に突っ伏していた。だけど寝ていたわけじゃなくて、寝たふりをしていた。そうしていれば、ほとんど話しかける人はいないから。

「ジロー、起きろよ。次は音楽だぜ?」

そうか。移動か。榊せんせーの授業をサボるのはあまりよろしくない。

「ジロー」

跡部の手が頭を撫でたので体温が気持ちよくて目を細めてから伸びをする。

「んん〜あとべー」

大きな欠伸をもう一つ。涙が溜まった目を擦る。

「早くしろよ」

「うん」

隣を歩く跡部にゆっくりとした歩調でついていく。教科書を持つ左手の薬指をこっそりと盗み見る。整った手と指の形。なにもない薬指。











「ジローしらないの?ケッコンって18さいにならないと、できないんだよ」

「そうなの?おれがおよめさんになるまで、まだなんねんもまたなきゃいけないの?」

「そうだよ」

「じゃあ、あとべもずっとおれのことすきでいてね」

「わかんないよ、そんなの」

「なんで?」

「なんでって・・・わかんないだろ」

「おれはずっとあとべがすきだよ」

「・・・しかたないから、かんがえといてやる」

「えー・・・うん、わかった。ちゃんとかんがえるんだぞ、ぜったいだぞ」











別に指輪をあげたいわけじゃない。そんなものなくてもいい。
でも左手の薬指は結婚の印だ。今はあれからもっと大きくなって、世界の決まりも前よりはずっとよく知っている。でもそんなこと俺にとっては些末な問題だ。

もう忘れているんだろうか。
幼い頃に交わした約束は、もう消えてなくなってしまったんだろうか。
確認することは、容易だ。聞けばいい、それだけのこと。
でも、なんとなくそれはしないでいる。どうしてだかはよく分からない。
でも俺は、誕生日がくる度にあの約束を思い出し、約束の日にひとつずつ近づいていることを確認しているんだ。その日が来たときにどうするかは分からないけど。




でも俺は今もあの約束を守りたいくらいに跡部のことを想っている。




「跡部、疲れてんのな」

「まあ、今日は仕方ねぇだろ」

跡部の生まれた日が、跡部を疲労させるっていうのは、良くないと思う。
廊下の窓の外は雨が降っていて、肌寒いくらいに気温が低い。

「今日は跡部のトコ行っていいー?」

だから、今日の終わりは跡部の疲れを取ってあげよう。そうしよう。
何にもしなくても、二人でぬくぬくして、だらだらして、跡部の誕生日が幸せなものであるようにしよう。

「ああ?来なくていい、来なくて」

そう。こういう風に跡部が素直に頷かなくても。










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