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オレンジ色をしたあの頭はすぐに分かる。 その色が目立つから。 真夏の部活は本当に体力を奪う。 そのまま真っ直ぐ家に帰ろうと思っていたのだが、忍足がガットを張り替えたいというので付き合うことにした。ちょうど新しく出たテニスシューズを見たいと思っていたのを思い出したから。 大きなスポーツ専門店で用事を済ませ、部活のメニューだとか近々始まる全米オープンの話だとか、取り留めのない話をしながら帰る途中、目に入ったのはオレンジの髪。 距離は遠いし、道路の反対側だったけれどすぐに分かる。 声を掛けようか迷ったが、そもそもどうして千石に話しかける必要があるのかと思ってやめた。 「なぁなぁ、アレ山吹ンとこの。」 「ああ、千石清純、な。」 「なんや、知り合いなん?」 「別にそんなんじゃねぇけど。」 知り合い、というとニュアンスが違う気がするな。なんとなく。 じゃあなんだ、と言われると少し困る。友達、と言うのも違う。近すぎる気もするし、遠すぎる気もする。はっきり言ってよく、わからない。あいつの曖昧さ加減はいつもはクリアな俺の思考にまで霞をかけるようだ。 「女のコ連れとる。」 「・・・めずらしくねぇんじゃねーの。早く帰ろうぜ。」 「・・なんでここで機嫌悪なんねん。」 「別になってねえだろ?」 俺が不機嫌になる理由が一体どこにあるのか分からない。別に表情を変えたつもりもなければ声のトーンすら変わっていないと思う。こういうところ、忍足はかなり厄介というか面倒くさいというか。探るような視線にいたたまれなくなって、何もない空を見上げた。俯くなんてのはプライドが許さない。 パシンッ! 突然甲高い音が耳に響いた。 「うわー・・・」 「なんだ?」 「見てなかったん?」 分かっているくせに聞くから性質が悪い。視線を向けると忍足は面白そうに笑っていて、仕方なく頷く。こいつも何を考えてるのか、判断が難しいやつだと思う。 「千石がビンタ喰らってたで、今。」 「は?」 もう一度千石の方へ視線を向けると、一緒にいたのはショートカットのスレンダーな女でちょうど走り去っていくのが見えた。 千石は特に追いかける素振りもない。 少し下を向いて、気のせいだろうか。一瞬こっちを見たような。 「なんや、見てはいけないもんを見てしもた気分やな・・・」 面白そうに言っても効果はない、と心の中で思う。忍足は結構冷たいやつだっていうのが俺の認識だ。 「・・・わりぃ、忍足。先帰れ。」 「へ?」 返事を待たずに歩道橋の方へ歩く。 後ろで俺を呼ぶ声とわざとらしい溜め息が聞こえたけれど聞こえないふりをした。 back / next |