俺を、左右するのは―――





[ G ]







わたしのこと好き?


なんてタイミングが悪い。
俺の視界の端には跡部くんが映っていた。正確に言えば、忍足くんと楽しそうに話しながら歩いてくる跡部くん、だ。なに、そんなに楽しそうに話しているんだろう。 あんなに目がきらきらしてるのは、やっぱりテニスのこと?テニスのことならいい。そうじゃなかったら、俺は勝てないかもしれない。俺の知らない跡部くんを知ってる忍足くん。 忍足も楽しそうで、唐突にどうしようもない焦燥感に襲われて拳をぎゅっと握り締めた。


わたしのこと、好きでしょう?


俺が余所見して返事をしなかった所為で女の声に苛立ちが滲み出た。
軽い笑顔で、好きに決まってるじゃん、なんて嘘くささを交えて言えばいい。いつものことだろ?それくらい。

俺の目の前には媚びるような瞳。
無遠慮に俺の服を掴む手。
少し鼻につく香水。
その全てが俺の癇に障った。


好きじゃないよ。君なんか、好きじゃない。


心の中で言ったつもりだったんだけど。
ああ、・・・ごめんね。
一瞬怯えた目をしたそのコは、きっとキツい目で俺を睨んで思い切り手を振り上げた。いっそ気持ちが良いくらいの音が響く。
俺は遠ざかっていくヒールの音を聞くだけ。
・・・、ごめんね。悪いのは確かに君じゃなかった。
俺は足下に視線を落とし、溜め息を一つ。
それからほんの一瞬だけ跡部くんの方を見る。


目が、合ってしまった。


いつだって君と目が合うときは時が止まる。息が詰まる。
居たたまれなくて、すぐに視線を外して、落とした。
もう一つ、溜め息。
自分の中が苛ついているのが分かる。
こんなことで苛つく自分はあり得ない、と反論する。
それを達観する自分もいてどうしようもない。ばかみたいだ。

気を取り直して歩き出そうとすると、誰かの靴が目に入った。
見覚えのある、その靴はきちんと磨かれているローファー。

「ばーか。」

顔を上げる。
驚いた顔をしたけれど、すぐ隠された。
ああ、そっか、やっぱり俺、余裕のない顔してたんだ。
あまり気を遣われないように、気付かれないように目を閉じて深呼吸する。笑顔をつくる。君の前だから、ちゃんと。

「はは、かっこわるいとこ見られちゃった?もしかして。」
「いつもかっこわりぃから、安心しろよ。」
「ひどいなぁ、跡部くん。」
「ばか。」
「口を開けばバカ、って言うよね。ぐすん・・・って、あれ、忍足くんは?」
「お前がバカそのものだからな、仕方ねぇだろ?あいつは帰った。」
「ふぅん・・・」
「ほら、疲れたから、行くぞ。」
「え?」
「来ないのか?」
「・・・行きます。ぜひ。」
「さっさとしろ。」
「はーい。」


まったく、これだからたまらない。
どうしてこの人はこうなんだろう。
忍足くんがどう思っていて跡部くんが忍足くんのことをどう思っているのか、とか。もしかしたら多少誤解されたのかも知れない、とか。
俺が落ち込んでると思われたかも知れないけど。
まあとりあえずそんなことはどうでもいいや。













今日は付き合ってやる、てその瞳が言っているから。
俺もそれに甘えましょう。









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