味見をしましょう。 宍戸にガムを貰った。お菓子は大好きだけれど、ガムはあまり食べることがなくて見たことのないものだった。 まっくろな、ガム。 どんな味だか知らない。宍戸がお前にぴったりだぜ、と言ってくれたガムを芝生に寝転がってじっと見つめる。もう少ししたら教室に戻らなければならない。休み時間もじきに終わる。ガムをじっと観察していたが何がぴったりなのか分からない。まっくろっていうのは、なんだかオレに全然似合わない。イメージとして。 まっくろで、小さな粒。 口に入れる。 ひと噛み。 ―――――!! すごい勢いで飛び起きて、口を押さえて本気で走った。本気。で。 まっすぐに教室へ向かい、ドアを勢いよく開け、(大きな音がした。それすら聞こえないほどに一心不乱だった。)座って何か書いていた跡部の前にずんずん進む。跡部が怪訝な顔で俺を見上げた。それが俺には都合良く、クチビルを押し当てた。 周りの空気が止まった、様な気がした。俺はそれどころではない。 宍戸も傍で驚いているけれど、お前のおかげだよ、お・ま・え・の。 多分、5、いや3秒くらい。本当はそのままクチビルを奪ってあげたかったけれど、とりあえずの俺の目的はそれではなかった。 こんなことをやらかした原因は、当然あのまっくろなガムで。全く信じられないようなガムだった。 跡部とのキスだっていうのに、・・・甘くない。 口の中からあの忌々しいガムはいなくなり、跡部とのキスの余韻で上機嫌な俺はえへ、と周囲に最上級の笑みを見せた。だいたいはこれで許されるんだ、と知っている。噂を立てられたりすると跡部が怒るから。俺はにっこりと笑う。多分みんなは、まぁ、ジローだし・・・ってくらいに納まるはずだ。跡部は怒りで震えて俯いている。俺のこの笑顔も見てもらえなかったわけだ。 「こんっのばか!何考えてんだ!ガムが辛かったからってわざわざ俺のところにくるんじゃねえ!捨てりゃ良いだろうが!」 烈火のごとく怒る跡部を、俺はにこにこと見ていた。怒る視点がかなりずれていて可愛いなぁ、なんて思う。まぁオレがそのくらい跡部に許されているってことなんだ。それを思うとますます頬が緩む。 それが余計に跡部を怒らせたようで、その後延々と怒られた。(しゅんとして見せたらちょっと怯んだみたいだった。) まっくろのガムは跡部にお似合い、だと何となく考える。 すっげぇ辛くて、なによりも俺の目を覚ます。宍戸はこのガムが俺にぴったりだと言ったけれど、そんなものは必要なくて。 俺には跡部が居るから、こんなものはいらない。 まぁ、跡部は俺には甘いけど。 back |