Trash
日記で書き散らしてたものもの。季節ものとか。 |
12月12日 dozen rose day
「やる」
「・・・へ?」
ほんの少し赤く染まった仏頂面とともに差し出されたのは深紅のバラ。
花束というほどではない。一本っていうわけでもない。
っていうか、何。なんなわけ。跡部くんがオレに花って。
そりゃあ、彼はものすごく、花が似合う。
こんなに花が似合う人って、ちょっといない、とオレは思う。
ましてバラが似合う男なんてきっとほんの少し。
ちなみにオレは跡部くんがくれるものは何だって嬉しい。
と、いうよりなんか貰えるなんてことは、そうそうないし。
いやいや、愛は受け取ってるよ?
うん、そうそう、ちょっと痛い蹴りとかね、暴言とかね、愛だよ、愛。マジで。
ま、つまり何だって喜んで受け取る。 しかもこんなロマンチックなバラ。
嬉しい。嬉しいけど。
ナンデ?
「ありがとう」
しかも全然視線合わせないんだけど。照れてるんだろうけど。
もしかして誰かからうっかり受け取っちゃったもんなんだろうか、とか邪推してみたりして。
受け取った後もオレは跡部くんのことを凝視していたらしい。
「んだよ」
不機嫌な声で言った。
「これ、何?」
「・・・バラ」
埒が明かないっていうか、身も蓋もない返答。
どうしたの?って、単純に不思議だから尋ねる。
「別に」
「・・・買ったの?」
「知らねぇと思った」
「は?」
なんだか全然分からない。
今までの会話を思い出してみても、説明のつく解答なし。
「じゃなきゃやんねぇけど」
「なになに?なんなの、跡部くーん」
「意味なんてねぇよ!バカ千石!」
「はぁ〜??」
なんか、結局よく分からないままだったけれど、
後でこっそり調べてみて顔を一人真っ赤にしたのは俺の秘密だ。
why do you love me more
もうきみいがいはどうでもいいよ
どうしてそんなことが言えるのだろう。お前の顔が笑っているのに泣いていたから陳腐にも聞こえるその科白が俺には心底不思議だった。黙っている俺に、焦れたようにキスを迫る。日がとっくに沈んで暗い街灯の下は、いつもきらきら光る髪の色が違って見えた。
不思議だ。こんな顔をするんだっけ。 こんな声をしていたっけ。
知らない。俺は、知らない。誰?お前は。・・・誰?
目を閉じない俺にお前は言葉を繰り返す。
テニスも、学校も、お菓子も、眠りすら。
きみいがいはどうでもいいから。
おねがい。
7月7日その1
「願い事は、ある?」
千石がふっと思いついたように言った。俺は読んでいた本に飽きが来ていたので聞き取った。
「ねぇよ」
「言うと思った」
「じゃあ聞くな」
「いや、でもコイビトたちにはロマンチックな行事でしょ」
「俺は嫌い」 「なんでー?」 「努力がねぇから」
「俺たち、努力してるもんね」 「さぁな」
「俺はさぁ、もし君との間に天の川があったら、一年なんて待ってないで泳いで行くよ」
「は?」 「また引き離されても、泳いで会いに行く」 「どんくらい距離があると思ってんだ」
「関係ないよ」 「俺が思うに、出会う地点は6:4くらいの割合だと思う」 「え?」
「お前は他の星に見惚れて、遅れンだろ」 「・・・」 「なに、伏せてんだ?」 「・・・殺し文句?」
君は真っ直ぐ俺のところに、しかも泳いで来てくれるらしい。 多分、俺の顔は今めちゃくちゃ赤い。
そんなこと言われたら、寄り道なんてできるわけないじゃないか。
7月7日その2
あとべんちの笹は、いつも大きい。ひとりじゃかざりつけができないくらい大きい。だから、おれはたなばたの日はいつもあとべのいえに行って、かざりをつけて、ねがいごとをかく。ひとりじゃ、おれもさみしいから。「ひこぼし」と「おりひめ」が会えるその日なんだから、おれもあとべもさみしいのは、よくない。
「おい、ジローは、なにかいた?」 「んー、いっぱい」 「たとえば?」 「えとな、あとべにかてますように、とか」 「ふぅん」 「じゃあ、あとべは?」 「おれはねがうことなんかないぞ」 「あ、ずりー!さっきなんかかいてたしー」 「みまちがいだろ」
おれはほかにも、あとべとずっとあそべますように、とか七夕もできますようにとか。そんなんばっかり。あとべのねがいごとは、なんだったんだろう。けっきょく、おしえてもらえなかった。
○○○○○
「こんばんはー」 「ジローか。勝手に入っていいぜ」
今日は、七夕だ。昔はよくジローと笹に飾りを付けたりしていた。今ではそんなこと、しないけど。あのときの俺はジローよりも背が低くて、それをすごく悔しく思っていたものだった。まぁ、ガキだったからな。
「結局さー、跡部のお願い事はなんだった?」
ジローが俺の考えていたことを見透かしたように質問するから、少し驚く。
「あーん?忘れちまったな」 「うそだ。じゃあ、叶った?」 「は、もちろん。ジロー、お前のは叶ってねぇな」 「なんで?」 「俺に、勝ってない」 「俺の願いは、今も叶ってるし、それにベッドの上では俺が勝っ・・いてー!!」 「バカ」 「跡部、ひどいC」
「自業自得」
5月23日はキスの日。
おでこからはじまってこめかみに。 まぶたの上に蝶々のように軽やかにふれてはなのあたま。
「じろう、くすぐったい」
あそびつかれて、ふたりでソファでねむっていたら、いつのまにかじろうが起きてオレの髪をひっぱってた。いんりょく、ってやつ(たぶん)を感じてうっすらと目をひらくとじろうがオレの顔をのぞきこむ。 ふにゃ、とわらっておでこからじゅんばんに、くちびるをおとしてきた。
くすぐったい。つぎはほっぺにふれる。
「じろう!」 「あのな、きょうは、ちゅうの日、なんだって」 「・・・きすの日?なんで?」 「しらねー。でもせっかくだから、あとべにいっぱいちゅうする」 「ふぅん・・・じゃあおれも」
じろうがしたみたいに、する。 おでこからはじまって、こめかみ、まぶた、おはな、ほっぺ。 かるくかるく、はねみたいなキス。
そこまでして目をあわせる。 どちらからともなくちかづいて、くちびるに、ふれた。
そのままふたりはもう一度ソファにしずんで、おやすみなさい。
姫と海賊。
「へぇ・・これはこれは」
彼は海賊。この辺り一体ではかなり名を轟かせてる賞金首。
「噂に違わず上玉じゃん。オヒメサマ?」
「テメェ・・・」
彼は王子。大陸の7割を占める大国の王の一人息子。 いつもは冷たい色で人を見据える青い眸が今は激しいそれに変わっている。
ギリ、と噛んだ唇が痛々しい。 ここは海賊船上。海賊を示す黒い旗が風に靡いている。 見える城は炎上し、黒い煙が立ち上っていた。
「手、縛った?ならもう離して良いよ。 別に俺は君を殺す気はないから安心していーよ。」
にっこりと。そう言って笑う顔はこの場面にはそぐわないぐらい、邪気がない。
「こんな人間のクズのなかで生きるぐらいなら、殺された方がましだな」
声は侮蔑に彩られている。海賊はくすくすと笑う。
「いいねぇ、俺はこういうヤツ嫌いじゃない。」
風邪じろ。5さい。
「あとべー、あーとーべー!」
「なんだよ、じろう。うるさい。」
「あのね、のどがね、いてぇの。」
「のどが?」
「うん。ズキってすんの。」
「それ、カゼってやつだよ。たぶん。いつかおいしゃさんがいってた。」
「かぜ?」 「そう。」
「・・・おれね、あとべが、ちゅってしてくれたら、なおるきがする。」
「そんなことで、なおるのか?」 「うん、きっとなおるよ。ね、はい、やって!」
ちゅ
「なおったか?」
「・・・えへへ、うん!」
「ほんとか?じろうのかお、あかいよ。やっぱりおいしゃさんいけって。」
「えへへへへ。」
荒みじろー。助けるのはだれ?
壊れかけた傘を見て思う。 叩きつけてやりたい。
俺はすぐに実行しようとしたのだけれど周りの人を傷つけるつもりはなかったので少し思いとどまって手を強く握りしめた。 少し狭い路地に入って思い切り叩きつける。 一瞬でぐにゃりと曲がった銀色の柄。 それを見つめているのか、水たまりに映った自分を見つめているのか、もっと遠くを見ているのか分からない。 揺れる視界。
ふいに後ろから肩を掴まれて頬を殴られて倒れる。 複数のヤツらが見下ろして何かを言っているけれど、俺には聞こえない。唇の動きだけがやけにゆっくりと見えた。
無理矢理引き起こされて飛んでくる拳を、今度はちゃんと避ける。 何も考えずに相手を殴ると、見ていたヤツらが俺に飛びかかってきた。 今は何もかもがスローモーションに見える。 いつもの俺はどこか遠くで俯瞰しているみたいだった。 何も、考えられない。
気付いたときには周りに何人かが倒れていて、俺の口の中は血の味がして、動こうとすると腹が痛んだ。
やっちまった・・・。 また、キレたのか・・・、俺。
雨は依然降っていて、傷に少し、染みた。
境界線。
「なに、俺に勝てると、思ってんの?」
強烈な視線が俺に突き刺さった。 けど俺は鼻で笑う。 俺の視線はさぞ冷たく色のないものに見えていることだろう。
「本気の喧嘩、したことある?」
噛んだ唇が痛そうだね。 眼光の強さは変わらない。 握りしめた拳は震えている。 でも・・・、そう、君は所詮育ちのいい坊ちゃん、なんだよアトベくん。
「っお前は、」 「跡部くん。」
強い口調で遮った。 君の声を聞けば俺の思いは多分簡単に揺らぐ。 気高く、潔く、でもしなやかで、折れない。 その強さが、俺にどんなに目映かったか。
「俺は、君を殴りたくない。」
そう、これは本心だ。君を殴るなんて、正直考えられない。 こうして対峙している今でさえ、そんなことは想像できない。
「もう、どいてくれない?」
はじめてのよる。序章、みたいな。
寒いから。
それはもちろん、ただの言い訳だ。 どんなに広い部屋だって どんなに心細い部屋だって そんなことは問題ない。 そんなこと。そんなこと言い訳にもならない。 取るに足らない小さな。
寒いから。
でもそれは、とてつもなく甘美な誘惑で。 もうそれに縋りついてもいいだろうか。 何かに後押しされなければとてもじゃない。 それがどんなに小さなことだって縋りつかなくては、とても。
唇を奪いながらシャツの釦に手をかける。 手が震えそうになるのを意識して抑えた。
「ん・・・」
こぼれる吐息が、甘い。
なんども。 俺のこの手は躊躇うように虚空をさまよっては、握りしめてきた。
冷えた手で首筋をなぞると、その身体がびく、と震えた。
「てめぇ、今、笑ったろ。」 「笑ってないよ。」 「ぜってぇ、笑った。」
その不満げな顔についクスクスと、笑ってしまう。
「・・・てめぇ」 「ごめん、」
もう笑わない、と耳元で囁いて耳の後ろを舐め上げる。
「ぅ、わ」
跡部くんの肌が粟立った。 なにもかもが俺の胸に甘く広がる。じんわりと。
首筋から鎖骨、胸へと指先を滑らせた。
「っ・・ちょ、っと」
その声に動きを止めた。
「平気?」
別に大丈夫だ。俺は。 跡部くんが本気で止めろというのなら俺は。 まだ、大丈夫だ。多分。
跡部くんが俺を睨んだ。 正直ちょっとそういうのは止めてほしいなぁ。 止まらなくなったらどうすんの。
「・・下手だったら、分かってンだろうな。」
拒絶ではない言葉。 俺の胸の奥からじわじわと熱くなるのを感じる。
「そーれーはー・・・俺もはじめて、なんだけどさすがに。」 「自信ねぇのかよ?」 「っ、そんな顔で言われるとなにも言えない。」 「バカ、」 「とりあえず気持ちよくはさせてあげられる、んじゃない?」
あばらを辿って脇を撫で、鎖骨のあたりに唇を押し付けた。
「ふ・・」
唇を落としていき、胸の突起を舐める。
「ぁ、」
跡部くんはその腕で目を覆った。 握りしめる手が、白い。声も我慢しているんだろう。 それでも構わなかった。
プライドの高いこの人が俺に抱かれている事実について、俺は考える。
胡蝶の夢。
まどろみから意識だけが浮上した。 目は閉じたまま、ここがどこで、どういう状況だかぼんやりと考えて探るように手を伸ばした。
「なんや、ジロー。」
その声は笑っていて、ひどく優しい空気がおれを取り巻いていることに気付く。 忍足の顎のラインに手が届いた。
そうか、おれ、忍足のひざの上で寝ちゃったんだ。
「おしたりぃ・・・」
「ん」
「夢・・・見た。」
「ん。」 「蝶に、なるユメ。」
忍足のふ、という笑い声に空気が揺れた。
「胡蝶の夢、やな。」
そう言って俺の髪をかきあげ、なでた。気持ちいい。
「ジローはジローやから、蝶になったりせぇへんよ。」
優しい声に他の微妙な色合いが混じったから目を開けると、忍足は笑ってた。
少し悲しい顔で、笑ってた。
ネクタイをぐっと引っ張ると焦った様な声が聞こえたけどそんなの気にしないで顔を近づけて、そのクチビルに軽く触れた。
「おれはどこにもいかないよ。」 忍足のいるところに、いるよ。
忍足はやっぱり悲しい顔のままで。 どうしていいかわからなかった。
寂しくて死んじゃう。
コートでは跡部にジローがまとわりついてはしゃいでいた。 「ほんっとジローって起きるとうるさいよなー。俺には跡部とレトリバーに見える・・・。」 汗を拭きつつ岳人は俺の隣に座った。その言葉につられてコートに目を向ける。 「・・・ジローは、うさぎ、やろ。」 ぽつんと言った言葉に岳人が訝しげな目で俺を見た。 「何言ってんだよ、侑士・・・あんな騒がしいウサギがいてたまるかって。」 「そうそう、あれは犬だろ。」
いつの間にかいたのか、宍戸も岳人に同意する。
まぁ、別に俺にしか分からなくていいのやけどね。
ジローは寂しがりやから、俺はウサギだと思とるよ。
back
|
|
|