家並みの間を縫うようにはしる坂道 僕はただ落ちてゆくように駆け下る 誰よりも速く先頭を走る 振り返ると皆僕を追いかけているよう 駆け下りた先には廃校がある 崩れたコンクリートの壁からは 子供たちの声が聞こえる 教室の天井は空だった プールの更衣室の跡に住みついた老人がいる 彼は何処からか拾ってきた竹を細工して 竹細工を作っている プールの中には山積のガラクタがいっぱい 老人は僕に竹でできたベンチをくれた 大きさのわりに軽い 僕は礼を言って受け取った 担ぎ上げるとここから立ち去りたくなった 僕は建物から離れたことを確認して そのベンチをおろして眺めてみた それは竹を紐でくくりあわせているのだった 僕は紐を解いてみた ばらばらになったベンチは もうただのゴミだった 僕は持っていたライターで火をつけた そして見る間に火柱が上がる いつのまにか坂道で引き離したはずの 友達が白い息を吐きながら集まってきた 嬉しそうな顔に罪悪感を感じたかもしれない それでも僕はただうれしかった (2000,12,10)
草原の中に丸いドーム型の建物がある。
その中に入るとエレベーターホールになっていて二階下まで続いている。その空間に興味を持った僕は下に降りてみた。エレベーターの中に乗り込むと数人の人間が乗り込んでいた。エレベーターが動き出すと不意にいやな予感がした。とっさに僕はそばにいた女の人の腕を掴んで開いたドアから飛び出した。すると後ろからドンという音と共に真っ白な煙が噴き出していた。どうやらドアが開くと共に何か発煙弾のようなものが投げ込まれたようだった。一斉に特殊部隊と見られる数人の男が銃を構えてエレベーターの中に入っていった。たち込める煙を避けるように姿勢を低くして僕は女の人と共に建物から這い出た。
そこは、二階下のフロアにもかかわらず、だだっ広い公園のようになっていた。しかも真夏の青空が広がっているのである。不思議なことに僕は何の違和感も持たずに少し駆け出した後、芝生の上に身を投げ出してそこで初めて彼女の顔を覗きこんだ。彼女は親しげに感謝の言葉を述べた。彼女は以前からの知り合いであるかのように僕に話し掛けているものの、僕には彼女の顔に覚えがなかった。それでも、彼女は語りかけつづけている。僕はうわの空で空をぼぅっと眺めていた。そのうちとても気持ち良くなって僕は自分が雲なんじゃないかと思い始めた。太陽しかなくてとても静かで、果てしなく広い世界。自分が何も持ってないこと、そして自分が何物でもないことをずっと考えていた。
なぜか空が僕の中に流れ込んできたような気がしてとても満ち足りた気持ちになっていた。空の青さはどれだけ僕の中に流れ込んできてもちっとも変わらないのであった。
青のグラデーションは限りなく続いている。
(2000,10,18)
どこか懐かしい住宅街に迷い込んだ 僕は車を走らせている 隣には君が座っている 疲れたなら眠るといいよと僕 大丈夫だよと君 何処へいこうともなく 違う風景を見たくて ただ車を走らせている とある一軒のうちの前に 僕は車を止めた 僕は車の中から降りたくなかった 君も降りようとはしない ただただそのうちの玄関をみつめていた やがてドアから現れたのは 友人の不思議そうな顔だった 窓をたたいて彼は言った 俺を街までのせてってくれと 僕はそれはできないといった なぜならここは僕の知らない土地だから かまわないから俺をどこかへ連れてゆけと 彼と運転を代わった 彼は僕の生まれた懐かしい街へと 車を走らせている もうすでになくなったあの森 今はなくなった砂利道 取り壊された公民館 建てかえられたボロ家 幼なじみのぼうず頭 窓の景色は次々変わる いつのまにか車を運転しているのは父親だった 車を停めたところは海辺だった 父親は釣りの準備をしている 僕は木陰で昼寝をしようとしていた 父親が僕を呼んだ 煙草を買って来てくれという 僕は車に乗ってエンジンをかけた 僕は父親の吸う煙草の銘柄がわからなかった 適当に選んで買った煙草を父に渡そうと 車で戻ると父親はいなかった 空を見たら夜空になっていた 僕の買った煙草は良くみると 自分がいつも吸っているものだと気がついた 煙草を吸おうとしたのだがライターがつかない 僕はライターを海に投げ捨てた 月がとてもきれいな夜だった (2000,10,11)
一本道を歩いていた。 そしたらうずくまる君を見つけた。 そばによってみたら君は泣いていた。 横に座ってじっとしていたら ぼくも悲しくなって涙がこぼれた。 いつのまにか泣き止んで ふたりあおむけにそらを眺めていた。 君はみょうなことを言う 「流れ星だね」 そんなのおかしいと思った。 そらは真っ青で雲さえなかったから。 「そろそろいこうか」 君はすっとたちあがって歩き出した。 あとを追いかけて歩いていたら ちいさなバス停があった。 ぼくらはそこですこしだけ眠ることにした。 やがてバスがきてぼくらは目を覚ました。 その古ぼけたバスに乗ろうとしたら君は 「もうすこしここにいることにしたよ」 やがてうしろの窓からもバス停は見えなくなった。 名も知らぬ友人よ、君はいま何処でなにをしている? (2000,10,10)
僕の右腕はしびれて動かない 眠る僕の枕元に不気味な男が立っている 男は何かを僕の上に倒した それは死体だった それは僕の上に重くのしかかった 苦しくなってどかそうともがいてみても 僕の右腕はしびれて動かない かろうじて動く左の手首で 死体の袖を引っ張ってはみるものの びくともしないのだった 身体をそらそうにも びくともしない 僕は叫ぼうとしたけれど 胸の上にのしかかる死体はそれを許さなかった 僕は押しつぶされそうになりながら必死に考えた この状況から逃れるとしたらどうすればいいのだろう 僕は必死に周りを見渡した 僕は僕の下に闇が広がっていることに気がついた そしてこの苦しみから開放される方法に気がついた 僕は闇の中へと限りなく落ちつづけた 僕の部屋が天井が遠ざかってゆく それがほんのちっぽけなちいさな点になったとき 僕は不思議な浮遊感に気分が良くなった 僕の上に乗っていた死体は ばらばらに砕けてやがて灰になってしまった それは広がって雨雲になった それでも僕は落ちつづけている 僕はたまらなくて何かを掴んだ それは僕の上にのしかかった死体の袖だった 気がつくと僕は部屋の中にいた そして僕は僕だった (2000,10,9)