ボードレールで遊ぶ 井上達也 topに戻る
ボードレールの詩集「悪の華」 next
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目次のタイトルで自作の詩を作る
悪 道
献詩(未)
読者に(未)
1,祝祷
私たちの戦いは平坦ではない
戦いというものは憎悪がかき立てられる
けれど私たちは
敵に愛を注ぐものでなければならない
そうなれば相手はすでに敵ではない
友人である
戦いも相手を倒すことではもはやない
友人との協調
そして自身との戦い
それは
自分の霊性を高め
相手を圧倒することなく
供に高め合う仲になること
友人との協調の実現ために
私たちは生きていきたいと願うのである
どうか神よ
あなたの足下で
汚れ多い世界だが
己の小さな力を頼りに
今日を生き延びようと
必死な私たち
お見捨てなさることなく
お守りくださるように
あなたのご威光は
大地を動かし
人間の歴史など微塵も同然
ひたすらおすがり申し上げます
2,あほうどり
阿呆でないヤツいたら手を挙げてみろ
手を挙げるヤツも阿呆の一人
アルバトロスってどんな意味?
飲み屋のおばさんに尋ねた
あ・ほ・う・ど・りよ
あなたいくつ?
えっ、それじゃあわたしと同い年じゃない
そばで聞いていたお客たちが
口を閉ざしているのが耐えきれなかった
ふざけんな
どう見たってママは10歳は上だよ
どこまでも落ち着いて
いいえ、ほんとなのよ
お客の誰一人信じない
ほんとに同じなら
あんた、これまで
いったい
どんな悪いことしてきたんだよ
阿呆よ
あほなことばかりよ
それであほうどりか
客席が固まってそして笑いに弾ける
誰一人笑わないヤツはいなかったが
誰かが帰ると言い出す
みんなドヤドヤ会計すまして出ていった
あらっ
あなたは一緒に行かなくていいの?
そう、それじゃあ、あらためてカンパイ
タカハシくん
あんたもグラス持ってきなさいよ
看板消して三人で呑みましょ
なにいってんの
終電車には帰すから
さ、さ、お代わりして
結局、みんなでラーメン屋に入って
それぞれ帰ったよ
3,高みへ
より遠きへ
より高きへ
青春の最後の滴を
惜しみなく発火させ
出生地から
より遠い地へ移動し
より遠い思念の場を確保すること
出生から
より高い位置に登り
より高い思念の座に至ること
真実を語る人格と対面し
智情意を感受する
宇宙を解き明かす書物を開き
言語学を磨く
世界に入境し各位相の心と出会い
妙なる心理を察する
身体の奥地を探訪し
神経の火花のきな臭さ
より遠きへ走り
より高きへよじ登る
多層的世界を横断し
偏在する父と母の愛を求め
高みから見守る至高の
瞳の輝きに照らされる
幸福な子を見出す
4,万物照応
幸せがあれば不幸もある
こんな気休めの言葉
おれには真剣だ
いいことがあると
必ず帳消しがある
いやなことがあっても
逆はない
それに気付いてからは
おれは戒めるようになった
幸福の絶頂には立つまいと
努力もしないのに
ご褒美をもらえることがある
その後が恐ろしい
必ず不幸が次にやってくる
彼女とデートした帰り
おれは自動車事故を起こす
幸福の絶頂には立つまい
必ず遭難してしまうだろう
ああ それ以来
おれは彼女とベッドに入っても
途中で醒めてしまうのだ
5,(無題)
もうじき神の子の降誕祭ってものが始まる
もちろんほとんどの人間はそんなことは
知ったこっちゃない
子どもはプレゼントがもらえるから嬉しい
大人たちは外で騒げるから嬉しい
家族は豪華な料理で一家団欒できて嬉しい
教会はこのときばかりはお客が来てくれて嬉しい
商店街や飲み屋街もだから嬉しい
こうしてみるとやっぱり神様サマサマだなあ
昔の人間は空間にはエーテルという物質が
つまっていると考えていた
だから宇宙にも神がいると考えたんだ
何もない分けないと思ったんだ
そうすると虚無が否定される
おかげで数学はだめになった
ゼロがなかったんだから
いまやゼロがあるおかげでみんな金持ちさ
いまやゼロがあるおかげで
みんな神を忘れちゃったんだ
降誕祭がないと思い出せなくなっちゃったんだ
6,かがり火
私の足下を照らしてくれるものはなんだろう
慎ましくも充分な光
私の進む道を指し示してくれるものはなんだろう
朝の崇高な光
私の生活を明るくしてくれるものはなんだろう
晩の豊かな食事
私の立場をあぶり出してくれるものはなんだろう
日々の誠実
闇と対抗するものはなに
それは光
恐ろしい闇には
光り輝く真理
魑魅魍魎の跋扈する人間の迷妄を
かがり火となって退けさせるその力は
神よ 神よ
あなたの言葉と威厳です
7,病めるミューズ
一つの街がすっぽり納まっていた
どこまで行っても迷路
病院とは思われなかった
あちこちに空き部屋があり
一人くらい暮らしても
職員など誰一人気付かないのではと思われた
警備員に尋ねると分厚いノートをめり
彼女を捜し出してくれた
個室に閉じこめられる者は
もはやその存在自体が危うくなり
外界との交信が途絶えてしまう
実際 十年ぶりで訪問しようとしていた
医者や少数の看護婦以外は口を利かず
今日まで成長してきたのだと思う
ドアをノックし
中の存在者に許可を得て
ドアを開いた
いまは力なく
まるで羽の折れた天使のように
片隅に小さくなっていた
無菌室で育った彼女は
傷一つ肌にはなく
太陽光線に脂ぎったことがなく
透明に肌をほの輝かせていた
生まれつきキャシャな四肢は
絶えず折れ曲がり
修復にいとまがなかった
たくさんの硬い補強材や冷たい機材を身に付け
黒い髪の毛を床にまでたれ下げ
チューブやコードに縛られ
かいま見える小さな二つの乳房は
冷たく硬く白かった
まぶたがゆっくり持ち上がると
室内まで暖まり
チューブには液体が走り
コードはヒートした
腹部はたおやかに波打ち
顔に赤く亀裂が走って
言葉を発した
8,身を売るミューズ
なぜそんなことをしているのか
その人とその職業の組み合わせが繋がらないと
神秘な雰囲気さえ漂う
ロシアのソーニャは清貧で純潔な娼婦だったが
目の前のその人は高貴で蠱惑な娼婦だった
気品に満ちた美しい人が身を晒している
男の肉欲に全身をおしみなく捧げ
男のわがままな願いを叶える
肌は白く傷一つなく、乳房と尻は形よく適度に重く
母のように優しく男のすべてを包む
仕草の一つ一つが賢く機知に満ちている
男の気分を察し先取りして刺々しい欲望を慰め
人生の悩みのいっさいを解きほぐす
前向きな志向でアイデアに富み飽きさせない
自分の豊潤さを訪問者に分け与え
生きる勇気を教える
それはいつまでも醒めることがない
9,不出来な牧師
巡回宣教師は畏れている
やがてはこの教会
誰もいなくなるのではないか
次々と信者は去っていく
会衆の一人
代々盛り上げてきた長老も
今日は来ていない
不出来な牧師
こいつのせいだ
こいつがまたしても
教会を潰そうとしている
会衆よ
人に躓いてはならない
口を開けば
神の言葉は下されるのだ
宣教師よ
しかし、彼の口は開けば
身の凍るような言葉が語られるのだ
教会を猜疑し会衆を憎んでいる
彼はサタンを連れてきた
小さいが歴史のあるこの教会の命は
真っ暗闇に分解しようとしている
彼は自分でも気付かない
口から吐き出される言動が
会衆の心意気をくじいていることを
会衆よ
信仰あるのみ
サタンの試みに屈してはならない
ヨブの生き様を思い起こそうではないか
宣教師よ
教会は確かに彼の私物ではない
彼を目覚めさせるのも教会の務め
どうかどうか神のご加護がありますように
10, 敵1
おれはどうせ弱っちい男だ
闘えば負ける
だから面と向かって戦いなどしない
おれの戦い方は
相手の背後で力を蓄え
築いたときはすでに圧倒しているというものだ
敵は作らない
けれどみんなおれの敵だ
おれは勝たないが負けない
敵2
本当の敵は自分自身だ
という嘘を未だに信じているものは
本当の敵だ
自分をいじめてどうする
そんなものが本当の敵をのさばらせておく
のびのびと生きていっていけないの?
あなたはなんにも悪くはない
そのことを嫉妬するものこそ
自分自身の本当の敵と向き合うべきだ
敵3
敵を持つのは持とうとしているからだ
それはあなたの欲望と嫉妬
他人に感心がある事それが敵を作る
嫉妬それによる欲望が他人をじゃまにする
競争相手がいなければ行動できないあなた
勝手に敵とし
勝手に相手を傷つける
相手を選びなさい
相手の了解を得なさい
それよりも一緒に飛びなさい
それよりも一人で飛びなさい
敵4
自分が何一つ落ち度がないにも関わらず
敵はやってくる
あなたはやがて殺されることもある
全力で闘いなさい
大切な大切な持ち物を棄て去ってでも
自分の命を捨て去ってでも
もし、あなたが弱い存在であったなら
もし、あなたが敵を愛する術を知らなかったなら
あなたはむざむざと殺されることだろう
それは悲惨な悲惨な死を迎えることだろう
ひょっとすると
あなたは敵を憎むことも知らないまま
安心して下さい
どうか安心して下さい
わたしがあなたの身代わりになります
わたしたちがあなたの代わりに
敢然と敵と戦います
敵が恐怖におののくように呪います
どうかどうか
あなたが純真無力なまま死んでも
安心してあの夜に行って下さい
わたしがあなたの敵と闘いますから
わたしたちがあなたの敵を
苦痛に悶えさせ後悔いっぱい抱かせて
地獄が本当にあることを教えます
どうかどうか憎しみで相手が殺せますように
11,不遇
なんだか幸せそうですね
家が建ち
子どもたちがいて
妻がいて
いやいや
借金を抱え
いつ切れるか分からない子どもたちに囲まれ
最悪なのが愚妻ですよ
それに引き替え
ぼくの現状と来たら悲惨なものだ
なにをおっしゃいます
悠々自適の毎日ではありませんか
お酒を飲んでとても気分が愉快なんです
あっ、いいですか話が長くなりそうですが
いくらでもいいですよ
今妻とちょっとやり合っていたところです
ぼくはね高校を卒業してすぐに入院したんですよ
肺結核で一年間
病院の食事ってみんなまずいっていいますよね
でも、ぼくは、こんなにおいしいものを三度三度食べられるなんて許されるのかと思ったんです
母は幼いときに亡くしました
父は失業していました
体の弱い妹は施設に入っていました
妻とは別れ
子どもは妻が連れていきました
安定した職業でしたが辞めてしまいました
家には誰もいない
これからの半生をこれまでの半生を舐めながら
酒でも飲んで過ごしていきますよ
大丈夫
それほど長生きはしませんから
ちょっと待って下さいね
ぼくも酒を取ってきます
若い人たちみたいにぼくたちも長電話しましょ
気分よく話をしたいので
しばらくしたらこちらからかけ直させて下さい
あなたもたくさん遊んだ
仕事をきちんとしながらもね
ぼくもやりたい放題してきました
仕事だって嫌いなものじゃないので入れ込みましたよ
あーあ、近頃ね いつ死んだっていいなあって思うんですよ
やりたいことはやったけれど
夢は一つも実現しなかった
今なら何も思い残すことはない
あとは後悔だけが募って行くんじゃないかと
ぼくは健康なら、いや、そうではない
いつか落ち着いたお店でゆっくり呑みませんか
あっ、あなたの文章全部読ませてもらいましたよ
私の名前が出ていたのには驚きました
全部ですか、ちょちょいと拾い読みして下されればそれで良かったんです
お手間取らせて申し訳ありません
文章を読まないとあなたはまるで・・・
そうバカみたいでしょ いやバカなんですが
文章を書くときだけはまじめになれるんです
12,前世の暮らし
おれの境遇はとても納得がいかない
前世で温まりすぎた体を冷ますためか
おれは神になりたかったがなれなかった
しかし人々に畏れられ尊敬されていた
みなおれのいうことに頷くだけ
頼みもしないのに貢ぎ物を携えてはひれ伏した
最高の権力者がおれの座を玉座の隣に置いてくれた
おれはやがて傲慢になった
おれの語ろうとする本当の言葉が
世界を破壊するのだと
人々と同様におれも信じた
おれの身体と同様に顔までも変わり始めた
おれの声調と同様に運命までも動き始めた
おれを訪れる人々に自分の見たこと信じたことを語った
人々と同様におれも聞いた
この世界ではなんということだろう
誰一人おれの言葉を気まぐれ以上のものとは思わない
世界が破壊される本当の言葉をついに発したはずなのに
誰一人気づきもしない
世界から孤立し猫背になり神と髭で顔を隠すようになった