覚 醒

 涼しげな風が吹く。季節は夏をとうに過ぎ、涼しさも増す秋の中頃である。
夏の虫が秋のコウロギに変わり涼やかに鳴く。そんなときに異変は起きた。
「な、何が起きたんだ?」男は驚いて一人つぶやく。
男のいでたちは黒のワイシャツのうえに革のベストを羽織り革のズボンといういでたちである。
 男の名は『砕牙 将一』といい、都内のマンションに独りで住んでいた。 
将一がいつも通りバイトから帰り、階段を上ろうとしたやさきに近くの公園から
爆発音が聞こえてきたのである。
 将一は不信に思いながらも公園に行ってみることにした。
普段はけしてそのような危険に自ら首を突っ込むようなことはしないのだが、
このときは何か違和感を覚えていたからである。
 公園に足を運ぶとそこには三人の男がいた。
「ちっ、新手か。まあいい、今のところは引き上げてやる。」
 男の内一人がそう言うとその男は消えた。
「くっ、逃がすか!!」
 三人の中で一番若いであろう男もそう言うと消えた。
 将一は目の前のできごとが理解できなかった。いや、できるはずがなかった。
男達は消えたのである。走り去ったのではなく、消えたのである。
そんなふうに将一が理解に窮していると残った男は一人言う。
「おかしいな、結界が張ってあるのに人が来るとは?」
「結界?」将一は男のつぶやきを聞き逃さなかった。
 「俺は山本 三郎ってんだが、君以外は誰もいないのか?」
うさん臭そうな親父山本三郎がたずねてきた。
「ええ、私以外は誰も来てないみたいですね。
あんなに大きな爆発音がしたのに誰も来ないところを見ると私の空耳だったようですね。」
 結界という言葉が気になったが、まずは三郎の疑問を解消してやることにした将一は答えた。
「そういや君の名は・・・・・・」
「将一、砕牙 将一ですけど?」 「将一君か。君もどうやら素質があるらしい。
困ったことがあったら《シャイン》という名の酒場に来るがいい。」
 それだけ言うと山本三郎は一人闇の中を悠然と歩き去るのだった。
「あっ・・・・・・」
 こうして一方的に会話をやめられた将一は結界という言葉と、
今でも理解はしていないが消えた2人のことを聞くのを諦めるしかなかったのである。

 

                         
* * * * *

 将一と別れた山本は一人考えていた。
(砕牙と言ったかな、あの若者は?
もし、あの砕牙の血縁者なのだとしたらどんな能力者かな。
まあ、今は先に奴を殺すのを優先せねばな・・・・・・)
 そんなことを考えながら山本は裏路地にはいる。
「山本さん遅いですよ。」
「ああ、時坂か。悪かったな、テレポートが使えなくてね。」
 と、路地の奥にいる時坂という人物に言い返す。
「冗談ですよ。どうせあそこでごまかすなり、記憶操作をするなりしてきたんでしょ。
あの人に?」時坂は肩をすくめて言う。
「あっ!忘れてた・・・・・・」
「あ、あんたはねえ・・・・・・」半眼で時坂は呻く。
「まあいいじゃないか、彼も能力者みたいだから。」
 いい訳にしか聞こえない台詞を山本は言ったが時坂は納得したようだった。
「それならいいんですが、なら速く奴を追いましょう。」
 そう言うと時坂は歩き出した。つられて山本も歩きだし、時坂に追いつこうとする
。しばらくして、ふと思い出したように時坂は振り向いて言う。
「あっ、そこに猫が寝てますから気おつけてください。」
「へっ?」
 時はすでに遅し。山本は猫のしっぽを踏んでいた。
こうして夜の街に猫の鳴き声と(その後に引っかかれたのであろう)
山本三郎の悲鳴が鳴り響いたのだった。

   

                            
* * * *

三郎と別れた将一は、とりあえず目の前で起こったことを忘れることにした。
世の中にはかわった出来事も起こるし、科学では解明できないこともたくさんある
ということを理解していたからである。
 結局その日、将一は早々と寝床につくことにした。
(明日の講義は新村だしな、さっさと寝るか)
新村の講義は大学でもそれなりに人気があるので授業の開始時間より早めに行かないと
席が空いてないのである。
それも一時間目にあり、生徒泣かせの講義で将一も何度か席がなかったことがあった。
 次の日授業を終えた将一は缶コーヒーを飲みながら、山本三郎について考えていた。
「そういや何してたんだろなー、あの人?何か私のことを仲間みたいに言ってた奴もいたし・・・・・・」
 最初に消えた男のことである。
「何の仲間にされたのか気になるな・・・・・・」
「・・・・・・知りたいか?」
 何気なくつぶやいた独り言に答えがあったことに後ろを振り返る。
しかし、そこには誰もいなかった。代わりにナイフが2本飛んでくる。
 とっさに1本のナイフはかわしたが2本目は将一の避ける方向を知っていたかのように飛んでくる。
「くっ、やばい!!」
 避けきれないとみて将一は腕で守ろうとして身を固めた。
 しかし、ナイフによって刺される痛みはいつまでたっても感じず、
目を開いてみるとそこにはナイフが宙に浮いていた。
「な、何で宙にナイフが・・・・・・?」
 将一が呆然としていると、どこからともなく声がした。
「やはりな。そういうことか・・・・・・」
 声の主は勝手に納得しているようであった。
「たった今覚醒したようだが死にたくなかったら、これ以上首を突っ込まないことだな。」
 やっと混乱から抜け出した将一は今度は訪ね返す。
「何がどうだかさっぱりわからん。何でナイフを投げられ、おまけに浮いてるのか説明しろ!」
「昨夜のことはこういうことだ。それに、ナイフが浮いているのはお前がやったことだ。」
 返ってきた答えはやれやれといった風に聞こえ、
「いいな、これ以上関わるな!」という声が最後になった。
 将一は何がなんだかわからなくなり、頭の中は混沌としていた。 とりあえず解ったことは無情にも眼前で浮いているナイフは自分がやったということだった。
 砕牙 将一の覚醒はこれによって起こったのであった。

                            
* * * *

 将一は三郎を捜していた。かれこれ2時間である。
あの襲撃者は関わるなと言っていたが将一にはその気は更々ない。
かってに襲ってきて言いたいことを言う、実に気にくわない奴としか思わない。
将一はとりあえず現状を把握しようと考えていた。
 将一がそろそろ諦めて帰ろうとしたとき後ろから声がかかった。
「おや、君は砕牙君かい?」
 しかし、そこにはピエロの恰好をした者しかいなかった。
「あんたは誰だ?私の知り合いにピエロなんて下賤な輩はいないが・・・・・・」
将一は辛辣に言う。
「う゛っ!ま、真顔できついこと言うな君・・・・・・」
ピエロは大げさにうろたえて言う。
「で、あんた誰?」
「三郎・・・・・・」ピエロが答える。
「三郎?」おうむ返しに将一が言う。
「そう、山本三郎。」
「・・・・・・・・・」
 将一が冷たい視線で三郎を見ていると、三郎が便宜がましく言った。
「これはその・・・・バイトだ、バイト。けして趣味でやっているわけじゃないぞ俺は。」
「本当のところは?」
「飲み代のツケのため、広告を・・・・・・・」
 つい本音を言ってしまう山本三郎だった。
「あのとりあえず話があるんですが。」
周囲の視線が気になるが、とりあえずなるべく気にしないように心がけて言う。
「ここじゃ何だから、シャインに行こう。」
 三郎がシリアスに言うが全然しまらない。
もっとも将一もここで話す気はなかったのでそうすることにした。
「じゃあ、こっちだ。ついてきてくれ。」
 というと三郎は歩き出した。
将一も三郎からかなり距離を取ってついていく。
距離が少しではなくかなりなのは道中も宣伝していたからである。
「いらっしゃい・・・・・・って、うわぁっ!」
三郎が入ってくるなり店のマスターが驚く。
「サブさん、あんた一体なんて恰好で歩いてんだい。
まさか、その恰好で宣伝してたんじゃないだろうね?」
 マスターが恐る恐る聞くのに対して三郎は
「あたりまえじゃん。街中の宣伝は昔から道化になってするのがしきたりじゃ。」
「あんた今年でいくつになるんだよ・・・・・・」将一が呻く。
「55歳じゃ。」呻きにしっかり答える三郎。
「ハァ・・・・・・。何しに来たんだい、サブさん?」
 ショックから立ち直ったマスターが聞く。
「ああ、ちょっと奥で話したいんだがいいかい?」
「ああ、組織がらみね。いいよ。」
そお言うとマスターはカウンターに入り、三郎は奥へと進む。
「あんたら一体何者なんだ?」
 将一の質問にマスターは言う。
「さあて、何者だろうね・・・・・・・」
 静かな沈黙があたりを包むのであった。
「何を話しに来たのかな?」
 何かを知っているような顔で三郎が聞いてくる。
「だいたい何が聞きたいか知っているでしょう。これですよ・・・・・・」
 ―――と言って懐からペンを取りだし、それの上に手を掲げる。
するとペンは手に触れていないのにも関わらず持ち上がり、宙で浮いていた。
「ほほう、どうやら覚醒したみたいだな。」
 静かに三郎が言う。
「それで何が聞きたいんだ?」
「この能力に関することについてだ・・・・・・」
 将一が言うと三郎は静かな口調で話し始めた。
 将一が使った能力は念動力というもので俗に言う超能力というものである。
能力には念動力以外に、瞬間移動、発火能力、透視能力などいろいろあり、
それらは集中力でコントロールすることができる。
また、集中力でコントロールできるように能力を高めることもでき、威力は集中力に比例する。
 能力者は一通りの能力を使うことができ、得意とする能力は覚醒時使った能力が普通である。
また、覚醒後は約三種類の勢力にはいることになる。
 一つは、隠匿派である。隠匿派はなるべく能力を使用しないようにし、
普通に生活をする目標とする集団である。実際にはその中にもいくつかのグループが存在する。
 二つ目は、超越派。超越派は、能力者こそが人類の進化形態で
この世を支配すべきだという集団である。
 三つ目はフリースタイル派である。
これは特にどのグループに属さず、フリースタイルでいる。
傭兵や、タレントなどがいて何の保証もないので自分で何とかするしかない。
 三勢力の中で共通することは戦闘時や能力使用時は結界を張り
あまり知られないようにすることである。ちなみに三郎は隠匿派に属していた。
これらを三郎は将一に話した。
「それからそこのマスターだが、暇そーにしているが暇じゃない。
なんせこの店、実は情報屋としても活動しているからな。
・・・・・・裏では<情報屋のマサ>と言い、
ギルティー・アームなどの異名や噂話などは後を絶たないほどだ。」
 三郎は言いながら懐から葉巻を取り出す。
そして、取り出した葉巻の片方の先端を千切りそこに火をつけて吸う。
「まあ、マスターもそれらに否定はしないけど、そもそもマスターの過去なんて
誰も知らないからどれが本当かは誰も知らん。」
 葉巻の煙を吐き出しながら気楽に言う。
「・・・・・・わかっていることは酒場のマスターなのにカクテルを作らすとメチャクチャ下手で、
飲んだ日にゃあ三途の川の向こう岸で祖父母が手招きしているのが見えるときたもんだ。
おまけになぜかコーヒーを煎れるのはプロ並みだ!」 
なぜか不味いということに力を入れる三郎。
まあ、何度か飲まされたんだろうが・・・・・・頭を押さえて呻いている。
  「だいたいわかったが、あの夜公園で何をしていたんだ?」
 とりあえず気になっていたので将一は聞いてみた。
「ああ、あの時か。あの時は、それぞれの志すものが違うため意見の対立が起こり、
お互いが相交えぬものだと再認識していた。」
 なぜか丁寧に説明する三郎に、将一は―――
「つまるとこ何・・・・・・?」
 ―――ときいた。
「まあ、早い話が殺し合い。」
 これまたさわやかに三郎。
「2対1だったしな。」
「じゃあ、もう一人は誰だよ?」
 不信に思ったのか、ここにはいないもう一人のことを聞いた。
「えーと、奴の名は時坂零次。爆発をこよなく愛する男だ。
敵の方は名前はわからない。超越派の人間であるのは確かだ。」
 説明の内容に将一は目を半眼にして見返してやる。
「まあいいや。とりあえず、私に能力の指導をしてくれないか?」
「・・・・・・タダはイヤだ。」即答でいう三郎。
「じゃあ、どおすればいいんだ?」
「・・・・・・一日三食、おやつ付き。」
 将一は選ぶ奴を間違えたと涙した。

 

                           
* * * *

三日後将一はマンションの屋上にいた。
隣には三郎が嬉しそうにスナック菓子を口の中に頬張っている。
 結局あの時の要求が受理されたのである。
しかし、なぜか住込みというのが加わっているのが将一には納得がいかなかったが。
「ふう・・・・・・」
 将一が一呼吸すると床に置かれていた二つの球体が浮く。
球体は金属でできているらしく、金光りを放っている。
意識をさらに集中すると、球はそれぞれ別の動きを始めた。
一つが上下運動をするともう片方は移動速度を速める。
 これは三郎が出した課題で、複数の物を同時に違うように動かして
コントロールや集中力を高める訓練らしい。
 しばらくすると、一つが今度は三郎の近くまで移動を始める。
三郎はそれには気がつかず、新しく封を開けたポテトチップスを食すのに集中している。
「・・・・・・・・・」
 球はそのうちスピードを上げ、コークスクリューなどをかけ始めて三郎に当たる。
「ぬうおぉぉぉぉっ!!」
 血しぶきをあげながら三郎が叫ぶ。
「し、舌をかんだーーー!!」
 どうやら、先ほどの血は舌をかんだ物らしい。
叫ぶ三郎を横目で見ながら将一が言う。
「やかましい!のんきに菓子など食うからそうなる!」
 よく見ると額に青筋を立てている。
「こちとら訓練をしてんだ!横でバリポリと苛立つような音をたてるな!」
「うぅぅ・・・・・・なら向こうで食べるよ・・・・・・」
 三郎が貯水タンクを指さす。
「違うだろうが!もう少し指導らしいことをしろよ。人から飯を取るんだったら。」
 すると三郎が腕時計を指しながら―――

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