|
■ |
|
雨降りの 帰り道 〜青春16編〜 page1 |
16歳のあっくんにとって・・・ では、改めて・・・16歳で“あっくん”ってのちょっと幼すぎるね。その頃“あっくん”が友達に呼ばれていたニックネーム「タクロウ」にしようか。 16歳のタクロウ少年にとって、 天気予報は株の値動きと同じくらい不必要なモノだった。 10円上がったとか下がったとか、そんな事はどうだっていい。 そういう事だ。 いくら降水確率が80%を越えていようが、 朝、ウチを出る時に降っていなければ傘なんて持っていかない。 それどころか、 少々の雨なら、タクロウ少年(16)は濡れる方を選ぶ。 タクロウ少年(16)にとって、“傘をさす”という事は、 開襟シャツの下に肌着をつけるぐらい カッコ悪い事とされていた。 だから、 「今日は降るわよ。傘持っていきなさい」母親のやさしい忠告も、 “ヒノエウマ年”生れのタクロウ少年(16)のミミには届かない。 ウマのミミにネンブツなのである。 ある秋の日の、放課後と呼べる時刻が過ぎた頃 タクロウ少年(16)はレコード屋さんにいた。 タクロウ少年(16)には、 前日貰ったアルバイト(新聞配達)代があって、 懐は少々あったかだったのだ。 余談2 どのくらいの時間が経ったのだろう? やっとレジスターがガシャリと音をたて 勢いよくキャッシャーが突き出た。 タクロウ少年(16)の合成皮の財布から 3枚の伊藤博文がそこに入り、 五つのコインと共に、 黒いビニールのパッケージに入れられた LPレコードがタクロウ少年(16)に手渡された。 余談4 御満悦のタクロウ少年(16) 大事そうにレコードを抱え、さて帰ろうと表に目をやると、 夜の帳につつまれはじめた秋の空から、 結構な量の雨粒が降り注ぎ、レコード屋の窓を叩いていた。 「傘持ってないの?」表を見て立ち尽くしているタクロウ少年(16)の背中に、 レコード屋のお姉さんの声が届いた。 タクロウ少年(16)は、この日も 丈を短く切った学生服の下は、白い開襟シャツ一枚だけ。 肌着なんてつけていない。 ど、なると、当然、傘なんて持っているはずがない。 「今日降るって言っちょったのに」お姉さんは、 まるで自分が予報をだしたかのようにガッカリと言った。 「そこの傘立てに・・」レジスターを置いたカウンター越しから身を乗り出し、 出入りドアの脇に置いてある傘立てを覗きながら言った。 傘立てには1本も傘は入っていなかった。 「・・・ないわね」タクロウ少年(16)は何かを察知してとっさに言った。 「あっ、いいですよ。どうせ駅までだから」お姉さんは店内の壁掛け時計を見上げて言った。 「まだ“キシャ”の時間は大丈夫なの?」 お姉さんは店内に流れていた有線放送を切って、 ターンテーブルにレコードを乗せ針を慎重に降ろした。 プチ、、、スピーカーからクラシックのピアノの旋律が流れて来た。 タクロウ少年(16)には、 それが誰のモノなのかまったくわからなかったけど、 聞き覚えのある曲だった。 「このレコードがこの店の“ホタルのヒカリ”のかわり。『もうすぐ閉店よ』って合図。聴いた事あるでしょ?」タクロウ少年(16)は合点した。 「はい。でも、閉店の合図だとは思わなかった」お姉さんは笑った。 「閉店に相応しい曲とは言えんかも。でも、これは私の好きな曲なんよ。一日中ベストテンに入っちょるような曲ばかりを聴いちょると、頭が痛(いと)うなるんよ。一日の最後ぐらい好きなのを聴きたいわ」 「ねぇ、頼んでもええ?」ギターの教本を所在なげに捲っていた タクロウ少年(16)にお姉さんが言った。 お姉さんはレジスターの中のお金を数えはじめていた。余談6 「これで、表のシャッターを半分ぐらいまで降ろしちょってくれる?この雨だし、もうお客さんなんかこないわ」タクロウ少年(16)は、 お姉さんから鉄の引っかけ棒を受け取り、 内開きのドアを引いた。 雨はその激しさを増していた。 僅かな軒からの雨だれは、 “軒の糸水”と呼べる頃をとうに過ぎていた。 その“軒の糸水”と呼べる頃をとうに過ぎてしまった “軒の糸水”のおかげで、 タクロウ少年はシャッターの引っかけ穴に、 引っかけ棒を引っかけるのに少々戸惑った。 店内に戻った時には、 丈を短く切った学生服の肩から背中にかけて、 “軒の糸水”と呼べる頃をとうに過ぎてしまった“軒の糸水”に しっかりやられていた。 「もう少し屋根が出ちょったらね」そう言ってお姉さんはタクロウ少年(16)を迎えた。 その表情は笑いを堪えている。 そんなお姉さんを見て、 タクロウ少年(16)は確固たるモノを察知した。 「ちょっと待って下さいよ。自分が濡れるのがイヤで僕にやらせたでしょう」お姉さんはきっぱりと言った。 「ええじゃんそんぐらい。びしょ濡れで帰る事を思えば」お姉さんはまたお金を数える作業に戻った。
|
|
■
|