8.礼法を知る
忠孝の二道は,あながち武士のみが守ると限ったことではない。 農・工・商にたずさわる者においても,親子,主従の交わりも忠孝を尽くしてこそ成り立つのである。
武士の場合は,いかに心のなかで忠孝をわきまえていようとも,表面に表して礼儀を尽くさぬかぎりは,忠孝の道をまっとうしているとはいえないのである。
主君に対してはいうまでもなく,親の面前においても慮外の振る舞いは,真の武士にとって許される行為ではない。 主君や両親の目の届かないところにおいても,いささかも疎略な態度をとることなく,つねに陰ひなたのないのが武士の忠孝というものである。
それは,どこに宿泊して寝ようとも,主君のおられる方向へは間違っても,わが足を差しむけず,槍や長刀を掛け置くにも,主君に切っ先の向かぬよう留意する。 主君のお噂を聞くときや主君について話をする場合も,寝ころんでいれば起きあがり,座っておれば居ずまいをただすといった行儀作法を厳守してこそ,本来の武士の態度といえよう。
それにもかかわらず,主君の御座の方向と知りつつも足を向け,横になったままで主君のお噂をし,あるいは親から届いた自筆の書状を受け取っても,拝見するのに押し戴きもせず開封する。 なかでもひどいのは,書状を読むのにも大あぐらを組んだり,寝ころんだまま。 挙げ句はかたわらに投げすて,ついには行燈の掃除に使用するなどは,すべて悪の所業であって武士の忠孝の本道では断じてない。
また,他所の人に出合えば,己の主人の家の悪口を言い,他人であろうとも親しげに近づく者には,親兄弟を侮り誹謗するのも上のごとき者である。 このような者は,いつかは主君や親の罰を蒙り,大きな災いに遭遇して,武士にあるまじき不名誉な死にいたるか,よしんば生きていようとも,甲斐なき有様となろう。 いずれにせよ,けっして平穏無事に生涯を終えることはあるまい。
以上は,初心の武士の心得のため,申しおくのである。
我が愛読書:大道寺友山原著『武道初心集』(教育社新書,1989)より
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