第壱話
「旅立ちの時」
 むかしむかし、そのまたむかしのことある。
「くぉら〜〜〜〜〜〜。」
 村全体に響く青年の声。
『ドドドドドドドドドドドドドドドド』
 血を揺るがし、山のように舞い上がる土ぼこり。
追っているのは田子作どん。この村きっての働き者で、とってもけちな21才。
追われているのはと言うと、、、うん?
どこかで見たような『日本一』の旗印、モモの描かれたハチマキと、
これまた背中に大きくモモの描かれた陣羽織。所々に継ぎ接ぎが目立つが
紛れもなく彼こそがニッポン昔話の花形「桃太郎」に間違いなさそうだ。
「こら桃太郎。何度おらんところの畑から物を取れば気が済むだか?」
 田子作どんが真っ二つに折れた大根を両手にひっつかみながら、桃太郎目がけて
ぶん投げる。
 アウトコースギリギリをシュート気味にえぐってくる大根を、すんでの所で
よけた桃太郎は後ろを向くと
「へへ〜ん、何のことだかさっぱりわっかりまセーン。ってぬぉぉぉぉぉぉ。」
どこから取り出したのだろうか、田子作の手には迷彩色にカラーリングされた
バズーカ砲が、頭にもしっかりと同じデザインのヘルメットがすっぽりと被せられていた。
少しちょんまげのところが浮いている。
「あほ〜れ、ポチッとな。」
 巫山戯つつもしっかりと桃太郎をターゲッティングした田子作バズーカが一閃。
『ドオオォォォォォォォォン』
田子作はその砲撃による土煙を見て、
(これで、にっくき桃太郎のヤツとも永遠にララバイだべ。)

〜作者の心の声〜
ちょっと違うかもしれないゾ。田子作。

「うぅわちゃあぁぁぁぁ。」
土煙の中から桃太郎が姿を現した。
「なぬ!今度こそ完璧に葬ったと思っただが。・・・。こうしちゃ居られね〜だ。
待て〜桃太郎。お前の命を絶たぬうちは世界平和の実現は不可能だべぇ〜。
おとなしく撃たれて、おっちんじまえ。」
田子作はいつの間にやら、世界平和をになう使命を心の中に抱いてしまった様
である。
 と、その時、
「こら田子作。悪党はおめぇでねぇか。コラ。」
桃太郎を再びターゲッティングしようと跪いた田子作の後ろで、この村の長老
でん助どんが叫んだ。
「へ?」
 田子作は何のことだかさっぱりだ。
「よく見ろ。ほれ。」
 でん助の指さす方につられて田子作の首が回る。そこには先ほどの砲撃によって
出来たクレーターがあった。
「田子作。あれはおらの所の畑だ。おめぇおらに何か恨みでもあるだか。」
 田子作の顔からサァ〜〜ッと血の気が引いてゆく。
 そんな二人に目もくれず桃太郎が走ってゆくのを再び田子作の目が捉えた。
「こぉらぁ〜〜〜。桃太郎、逃げるだかぁ。」
 田子作が追おうとする。
「こら田子作。話は終わっちょらん。」
 でん助が田子作を引き留めようとする。
「すまねぇだ、長老。おらには世界の平和がかかっとるだ。」
『カチッ』
 再びバズーカが村全体にその咆吼を轟かせた。しかしその目標は
桃太郎ではなくでん助どんだった。
「おらは桃太郎を追うだ。おっかぁ、暫くは会えないだ。んだども待っとって
くんろ。」
 田子作は一通りのお別れを心の中でささやくと、先ほど走り去った桃太郎を
追った。
 後に残されたのは大きなクレーターが二つと、その片方のそこに残された
長老。そしてその『トホホ』と言う空しい響きだけだった。

ここに桃太郎異聞録は華々しく幕開けるのであった。