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「おい、そっちじゃねぇ。」
「それは、こっちだ。」
「部品の数が合わないぞ。」
「俺のスパナはどこやった?」
「そのパーツは旧型用のだ新型の届いてねぇのか。だいたい、旧型の機体なんて一台もないんだぞ」
「なんで、そんなにトロトロしてるんだ。」
「早くしろってんだ。」
「うるせぇ、人のことより自分の心配したらどうなんだ。」
男達の叫び声があちらこちらから飛び出してくる。
ここはオーストラリアにある地球軍の整備ブース。騒がしいのはいつものことだが、ここ数日は更に活気づいている気がするのは決して気のせいではない。
そう、あと二週間後に運命の日がやってくるのである。謎の女性が火星人の襲来を予告した、その日である。現在でも本当に攻めてくるのかなんて、解らない。だが、それでも人類は準備をしてきた。
そこには月の石像が大きく関わっていた。月の石像から取り出した本の解読によって、人類は様々な知識を得た。その知識のおかげで、人類は十八年という短い歳月の中で、驚異的な早さで優れた技術を習得した。
宇宙戦艦の製造技術である。エネルギー変換効率が九十九%を越えるかと思われるほどのエンジンや、戦艦本体を物理的な攻撃から守る防御シールドなどがその例であるが、特筆すべきはビーム砲である。
ハッキリ言ってしまえば、原理の解明は進んでいない。ただ、『本』に書かれたとおりに石像から発見された機械を使ったら出来てしまったのだ。しかし、応用技術があまりにも地球の技術の先を行きすぎているため、七十%の力を引き出すのが精一杯であった。
それらの謎の技術により、アメリカは超大型戦艦「メデューサ」を作った。南米各国も、アメリカなどの資金援助などによって、戦艦「ケツァルコアトル」を作った。イギリスを中信としたヨーロッパ地域では大型戦艦「オーディン」が作られ、ロシアと協力した中国によって大型戦艦「雷帝」中型戦艦「神龍」の二隻が作られた。そして日本は超大型戦艦にして、地球軍の旗艦となる「侍」を作った。
そしてこの「侍」は全てのステータスにおいて他の戦艦を大きく引き離す物になっていた。
まず、主砲「ムラマサ」である。妖刀村正に由来するこの主砲は、『本』の中に書かれたビーム砲の出力を奇跡的にも八十七%まで引き出すことによって実現した物である。その破壊力たるや正に日本刀のごとき鋭さであるためこの名が付けられた。
副砲としてムラマサの両脇に据えられた「マサムネ」「コテツ」も刀の名前に由来する物であり、ケツァルコアトル級の戦艦なら防御シールドを無視して、沈めることが出来る。
そして、侍に載せられる艦載機N‐160もまさしく地球で最強となる戦闘機であろう。
宇宙空間での戦闘の他に、地球などの大気のある場所でのためにしっかりとした翼が付けられている。この戦闘機は高機能のステルス性能を有している。実際サムライ以外の地球軍の戦艦のレーダーには捕捉されない。
そしてもう一つ。この戦闘機には特殊な機能が備わっている。それは、防御シールドを消滅させることが出来るというものだ。防御シールドを展開している物が、一定の距離まで近寄れば、パイロットの操作により防御シールドの発生装置のシステムに無理矢理干渉して、システムをダウンさせてしまうのだ。
整備兵や、パイロット達の間では、その隠密性などからニンジャと呼ばれている。
しかし、火星側のシールドのシステムが地球軍が想定しているものと違えば意味がないことは明白である。では何故、ニンジャにこの様なシステムが搭載されたのだろうか。そこには『本』の最初に書かれていた数行の文章が、深く関わっていた。
『我が知恵の一端を、我が子らである地球、火星、の二つの星の民のために書き記そう(以下略)』
つまり、同じ技術が火星にも伝わっている可能性が高いのだ。しかし、逆に言えば火星にも地球の科学者と同じ事を考える者がいるかも知れない。
だが、そんなことを言っていられるような状況ではないのだ。まず第一にもう運命の日まで日にちがないこと。第二に、最早地球の資源が底をついてしまっていると言うことが挙げられる。地球人には、新たな研究をする時間も、材料も残されていないのだ。
もう、運命の日に来る運命に身を委ねるしかないのである。
サムライを旗艦として結成された地球艦隊の各戦艦、そこには艦長を頂点とする指揮系統が確立されている、はずである。
だが、依然としてそのポストにおさまる者が見つかってはいなかった。なにしろ、人類始まって以来の大仕事である。果たしてどのような人間が適任者であるのかなど、地球軍の幹部達にも皆目見当が付かないと言った感じであった。
ここにいる、谷中マサルという人物も又、そんな艦長候補者の一人である。まず、彼について、簡単な経歴を述べておくとしよう。
谷中マサル、三十二歳。アメリカでうまれるが、両親とも日本人であり、本人もまた日本国籍の所持者。三歳の時から英才教育を受け、十三歳の時に、イギリスケンブリッジ大学へ留学、十六歳の時に同大学を卒業。その後、防衛大学校への留学の名目で一時的に来日、二年間滞在の後再びアメリカへ。家族と四年間暮らした後、家族全員で日本へ。そこで、海上自衛隊に入隊。過去の防衛大学校などの成績から、幹部候補生としての入隊をすすめられるも、それを辞退し、普通の隊員として入隊することとなる。無類のミリタリーマニアで、特に軍艦、戦艦等の海洋系軍備の類に特化した知識を持つ。現在、海上自衛隊の巡視艦にて艦長職にある。
彼は、天才であった。アメリカ軍との合同訓練などでも、その指揮官としての能力を高く買われていた。その頭脳から生み出される、的確な指示と、戦略。日本という、地球上で唯一の戦争を放棄した国に居るのはもったいないと、アメリカ海軍の将軍も行っていた。 アメリカ軍の、軍人にしてメデューサの艦長としての職がほぼ確定している人物である、アルバート・ラインも谷中マサルという人物について、興味深い証言をしている。
「かれは、とても不思議な人だったよ。艦の外でなら一見しても、とても一つの艦を率いている艦長だとは思えないね。ユーモアにも秀でてるし、アメリカンな感性を持ってるね。
でも、いったん艦のなかに入ると、一気に雰囲気が変わるんだ。艦長席に座った瞬間から彼の目は野生の光を帯びていたよ。なんか、トランス状態のようになって、どんどん指示をとばしていくんだ。彼は常に海図から二メートルくらい離れたところで棒立ちになってるんだけど、それは全体を等しく見るためで、けっして何もしていないんじゃない。常に目は要所、要所の状況の変化を見つめてたさ。あんな、才能の持ち主は、僕の知っている軍人には居ないよ。
彼がサムライの艦長候補だって?彼なら心配ないんじゃないかな。」
他の艦の艦長候補も、皆一度は谷中に合ったことのある人物であり、皆一様に谷中マサルを推すのである。
これには人事を司っていた、上層部の者たちも、谷中マサルをサムライ艦長として認めざるを得なくなってきた。 そして運命の日の十日前、ついに谷中マサルは戦艦サムライの艦長として正式に辞令が降りた。
運命の日の一週間前、ここはサムライの内部にある、食堂だ。現在、ここに全てのサムライのスタッフが居る。一般兵の外に、整備兵や食堂の炊事担当の兵士がここに集まっている。みな一様に新しい軍服を着ている。地球軍の正式な軍服だ。ある者は椅子に腰を下ろし、ある者は食卓の上に立ち、ある者はキッチンの中から、同じ方向を見ている。
そこには、特に立派な軍服に身を包んだ、数人の一団がいた。
食堂のスピーカーから男性の声が流れる。
「えー、これより、当艦の中で主だった場所を統括される方々の紹介を始めます。」
さっきまでざわついていた食堂が、その声と共に静寂に包まれる。
「まず、艦長になられました、谷中マサル艦長であります。」
その声で、ちょうど一団の中央にいた人物が前に出ると、軽くお辞儀をして後ろに下がった。彼が、谷中マサルである。
「続きまして、副館長の任につかれます、吉江ミライ副館長。」
身長は、谷中より少し低いくらいだろうか。女性にしては身長が高い。それでも彼女の体のラインは、制服によってピシッと際だたせられている。長い黒髪も魅力的だ。
「みなさんが航行中に体調を崩した場合は、医務室へ行く訳ですが。そこの管理者である、アン・クリストファー軍曹です。」
その紹介で金髪の女性が前に出た瞬間、食堂中の男子隊員が一斉に騒ぎ出した。
「アンちゃ〜ん、こっちむいて〜。」とか、
「おい、今俺と目があったぞ。」とか、
「ばか、俺の方を見てたんだ。」とかである。
アンは二十代前半くらいだろうか、ロングヘアを頭の後ろにまとめ上げ、肌は白く、また眼鏡もいい印象を与える要因になっているようだ。確かに、女性に比べて男性の多いこのサムライの中では天使のような存在なのだろう。
しかし、当のアンはと言えばスタスタと食堂を出ていってしまった。兵の一人がどこへ行くのかと尋ねると、彼女はこめかみ辺りの血管をヒクつかせながら、
「整備主任のケンタがもう既にケガをした上に、ゲリになってるのよ。」
食道内がわらい、笑い、(笑)になった。
「え〜みなさん、静粛に静粛に。」
かすかに静かにはなったが、所々でまだ笑い声が聞こえる。
「え〜続きまして、整備主任のケンタ・フリントソン中尉の紹介をする予定でありましたが、あいにく体調不良のため、とばさせていただきます。」
再び食堂中が笑う。
「次に、この間の主力戦闘部隊である、ニンジャ隊の現地指揮をする正名賀龍中佐です。が、彼はまだこの艦に到着しておりません。ので、早速『艦長その他着任記念!どうせもうすぐ運命の日だ!今のうちに騒げるだけ騒いでおいて当日は火星の奴らをギャフンと言わせてやろうぜの会』を始めます。みなさん飲んで、食って、騒いじゃってください。では艦長、乾杯の音頭を取ってください。」
そう言われてビールの大瓶片手に谷中が
「かんぱ〜い!」
その声で堰を切った様に、食堂中が酒と食い物の匂いで満たされた。その日、彼らは飲んだ。飲んで、飲んで、飲んだ。
運命の日はもうすぐそこである。
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