第三幕・第六場(10月下旬。 北京・中南海にある中央文革小組の本部。陳伯達、江青と紅衛兵代表)
陳伯達 「中央工作会議で、劉少奇と登小平が自己批判したが認められなかった。これは大変良いことだが、毛主席は、二人が謝れば許してやるべきだと言っている。 主席は、どうしてあんな発言をしたのだろう」
江青 「困ったことですわね。 われわれの闘争の最終目標は、劉少奇と登小平を二度と立ち上がれないほど、叩きのめすことです。それを、主席はこの間際になって、あの二人をかばうような言い方をなさった。 文化大革命を発動しなくてはならない状況をつくったことに、主席も責任を感じておられるのでしょう」
陳伯達 「そうそう、かつて党を第一線と第二線に分け、自分が第二線に退いたことが間違っていたと反省されていた。 劉少奇と登小平をのさばらせたことに、みずから責任を感じておられるのだ。 あの二人を党内序列で八番目と五番目に降格させたことで、もう十分だと思われているのだろうか。私は、それだけでは納得いかないのだが・・・」
江青 「私も納得できません。でも主席は、紅衛兵運動はやらせるだけやらせておけと言っています。 だから、紅衛兵がいずれ劉少奇らを弾劾し、人民裁判にかけるようなことがあっても、それは認めてくれるでしょう」
陳伯達 「私もそう思う。そうなれば主席は直接、自分の手を煩わすことなく、劉一派の実権派を党から締め出すことができるのだ。 だから、われわれは主席の手を汚すことなく、主席の心を心として、実権派の連中を叩きのめしてやれば、主席も内心は必ず喜んでくれると思うのだ」
江青 「そうです。そうしたやり方が、一番良いと思います。 中央文革小組は、毛主席の指示でできたものです。われわれは思う存分、文化大革命を推進していけばいいのです。 たとえ、紅衛兵運動がアナーキーな状態になっても、劉一派を徹底的に撲滅することができるのなら、これ以上の成果はないでしょう。
私は、運動がアナーキーになることを心配していましたが、運動自体が停滞してしまうよりは、ずっとマシだと思うようになりました。 (紅衛兵代表に向って)ねえ、あなた、あなたもそう思いませんか」
紅衛兵代表 「副組長の言われるとおりです。われわれの有り余るエネルギーに、方向を示して下さい。 そうしてもらえば、われわれは何でもします」
江青 「今や文化大革命は、単なる古い文化や思想、習慣などを攻撃するだけでは足りません。 腐り切った実権派を打倒する、一大政治闘争に盛り上げていくべきです。ブルジョア文化人や学者、元地主らをいくら痛めつけたって、問題の解決にはなりません。 劉少奇に結び付いている党の幹部を、根こそぎ葬り去らなくてはならないと思います」
陳伯達 「そのとおりだ。まず手始めに、彭真のブタ野郎や陸定一、羅瑞卿らを血祭りに挙げてやろう。 それから次第に、闘争の目標を上げていって、最後に劉少奇や王光美らを大衆の面前で打倒してやるのだ」
江青 「筋書ができましたわね。 (紅衛兵代表に向って)さあ、あなた方はまず、これから彭真や羅瑞卿達を攻撃しなさい。情け容赦はいりません。 あの連中を街頭に引っ張りだして“三角帽子”をかぶせ、大衆の面前で徹底的に懲らしめてやりなさい。それが人民裁判というものです。
あいつらがこれまで、党内でどんなに我が物顔に振る舞ってきたかは知っているでしょう。 いい気味だわ、二度と立ち上がれないように辱めを味わわせてやるのです。 でも、殺す必要はありません。あいつらが生き地獄の苦しみを味わえば、それでいいのです。自殺したい奴は、勝手にそうすればいいのです」
陳伯達 「いやはや、あなたの闘争心も凄まじいものですな」
江青 「ええ、これまで劉一派には、さんざん痛い目に遭ってきましたからね。復讐です。 面白いわ、あいつらは燃え盛る地獄の業火の中で、ことごとく焼きつくされるでしょう。 さあ、いま私達が言った指示に従って、実権派のブタどもを一人一人、血祭りに挙げていきなさい」
紅衛兵代表 「承知しました。 われわれもエネルギーを持て余して、うずうずしていたところです。早速、他の紅衛兵達と相談して、腐り切った実権派の連中を一人一人叩きのめしてやりましょう。 それでは、失礼します」(紅衛兵代表、退場)
陳伯達 「これでよしと。彭真達の哀れな姿が目に浮かぶようだな。 これも自業自得というものだ」
江青 「革命とは、こういうものでしょう。今のうちに、あいつらを根こそぎ葬り去ってやらなければ、後に悔いが残るというものです。 紅衛兵達がやったとなれば、毛主席だって黙認してくれるはずです。あの人は、大衆のエネルギーを信じ、愛しているのですから」
第七場(11月中旬。北京・胡同にある馬思聰の家。 馬思聰と友人の陳東元、馬瑞雪の3人)
陳東元 「さっきから、私が口を酸っぱくして言っているのに、君は決断の遅い人間だな。いざ亡命しようとなると、恐ろしくなるのか」
馬思聰 「正直言って怖い。 だって、もし万一捕まってみろ。私は“逃亡兵”ということで、どんな重い罰を受けるか分からない。こうして北京に残っていても、殺されることはないだろう。 それなら、長い間じっと我慢していれば、いずれ自由な世の中になることだってあり得るのだ」
陳東元 「それは甘い夢だ。 勿論、先のことはどうなるか分からない。しかし、これから数年の間に、情勢はもっと悪くなるだろう。 君だって、いつまでも北京におれるという保証はないのだ。どこかの僻地に飛ばされて、強制労働をさせられても良いのか。
そんなことにでもなれば、ますます亡命は難しくなる。こうして瑞雪さんも、わざわざ危険を冒して戻って来てくれたのだ。 さあ、早く決心したまえ」
馬瑞雪 「お父さん、陳おじさんのおっしゃるとおりです。 いま決断しなければ、二度と亡命するチャンスを失うかもしれません。亡命が次第に増えてきているだけに、これから当局の監視も一層厳しくなるでしょう。
いま逃げるのが一番いいのです。お母さんも兄さんも、お父さんが来るのを一日千秋の思いで待っています。 さあ、早く行きましょう」
馬思聰 「しかし、もし捕まった時のことを考えると・・・私は優柔不断なのかもしれないが」
陳東元 「そうだ、君は本当に優柔不断な男だ。そんなに思い悩むなら、君は亡命なんか考えるな! 瑞雪さんら三人だけで、亡命すればいいんだ。 もう、君にはあれこれ言うのは止めよう。アメリカやヨーロッパに行ければ、君は好きなバイオリンを心ゆくまで弾けるというのに。
瑞雪さん、もうお父さんを連れていくことは諦めて、三人で亡命しなさい。“のろま”な男にいくら言っても無駄というものだ」
馬瑞雪 「いいえ、お父さんがいやと言うなら、私達だけで亡命することなんかできません。 お父さん。お父さんが行かないなら、私達は亡命を諦めます。 だから、いま決心して下さい。お願いです。きっと、上手くいくはずです」
陳東元 「君、娘さんの言うとおりにしろ。 あまりに長い間、紅衛兵に迫害されていたので、君は頭までおかしくなってしまったのか。 もう、これ以上は何も言いたくない。最後だ。私の勧めも聞いて、いますぐ、娘さんと一緒に行きたまえ!」
馬思聰(暫くの間、無言)「分かった、私は行く」(馬瑞雪、父の両手を握る)
陳東元 「よく決心したな、遅すぎるくらいだ。それなら早く、労働者みたいな格好をして行きたまえ。 瑞雪さん、良かったね」
馬瑞雪 「おじさん、有難うございます」
第八場(12月4日未明。 北京・中南海にある彭真の家。数人の紅衛兵が、奥の寝室から彭真を引きずり出してくる)
彭真 「何をする! 誰の命令と許可があって、こんなことをするのだ!」
紅衛兵一 「黙れ! ブタ野郎! お前は資本主義の道を歩む反動分子、裏切者だ。われわれ紅衛兵の手によって逮捕する!」
彭真 「党中央も北京市委員会も、法律や党規を無視して勝手に逮捕、拘禁してはならないと、先日、通達を出したばかりではないか」
紅衛兵二 「うるさい! 貴様はウジ虫だ! 中央文革小組の名において、お前を逮捕する!」
彭真 「中央文革小組に、そんな権限があるというのか」
紅衛兵三 「まだ、ほざくのか、このイヌめ!(彭真を殴りつける) お前は反革命の頭目の一人ではないか。 毛主席と文化大革命に反逆する“黒い一味”の虫けらだ!」
紅衛兵四 「さあ、立て!(彭真を蹴り上げる) お前を牢獄にぶち込んで、これから、たっぷりと教育してやるんだ!」
紅衛兵五 「文化大革命の名において、貴様を人民裁判にかけ、徹底的に洗脳してやるぞ!」(紅衛兵達、もがく彭真を拉致して退場)
第九場(12月上旬。北京・中南海にある中央文革小組の本部。 陳伯達、江青、張春橋、王力)
江青 「紅衛兵のお陰で、彭真も陸定一も、羅瑞卿も楊尚昆も次々と逮捕されました。 気の弱い羅瑞卿などは、飛び下り自殺を図りましたが、失敗して脚の骨を折るという不様な格好で逮捕されましたよ。人民解放軍の元総参謀長にしては、惨めな末路としか言いようがありませんわね」
王力 「まったく哀れな奴らだ。 紅衛兵の襲撃に遭うと、あいつらは猫に襲われたネズミのように、悲鳴を上げて叩きのめされるだけだからな」
張春橋 「近いうちに、連中を公開の場で闘争しなければならない。 そうしてやれば、連中の政治生命は完全に息の根を止められるわけだ」
陳伯達 「それはいい考えだ。すぐにでもそうしよう。 江青同志、紅衛兵達に“公開闘争”を指示したらどうだ」
江青 「そうしましょう。きっと面白い見せ場になるでしょうね。 彭真達が脂汗を流して闘争されるなんて、考えてみただけでも痛快の極みですよ」
王力 「紅衛兵の激烈な闘争で、冬の寒さもどこかへ吹っ飛ぶというものだ。 あいつらだって冷や汗のかきっぱなしで、寒さも忘れてしまうぞ。ウワッハッハッハ」
張春橋 「闘争はできるだけねちっこく、執拗にやってやるのがいい。 頭に三角帽子をかぶせ、首にプラカードを懸けさせて、街の中を引きずり回してやるのだ」
江青 「大丈夫です。そういうことは、紅衛兵達が一番良く心得ています。 それより、私が早くやりたいのは、全ての悪の根源である劉少奇と王光美を、なんとかすることです。あの二人に手を付けないでいては、文化大革命も“尻切れトンボ”になってしまうでしょう」
王力 「江青同志、その点は順調にいっていますよ。 もうすぐ『劉少奇は中国のフルシチョフだ。徹底的に打倒せよ』という壁新聞も出しますし、登小平だって息の根を止めてやります」
江青 「いいえ、登小平の方は適当にやっておけばいいのです。あの人は、十一中全会の開会延期に一役買ってくれたのですから。 問題は劉少奇と王光美です。あの二人に地獄の苦しみを味わわせてやらなければ、なんにもなりません」
陳伯達 「劉少奇と登小平を、分けて考えるということだな」
江青 「そうです。 登小平も確かに実権派のリーダーであり、数多くの過ちを犯してきました。ついこの間までは、毛主席のことをまったく無視して、党務を采配してきたことも事実です。 しかし、それは全て、劉少奇の指示に従ってやってきたことで、最も悪いのは中国の“フルシチョフ”と、その奥方です。
あの二人の息の根を止めないで、どうして、文化大革命が達成されると言うのでしょう。 その点は、皆さんにも十分に分かって頂けるはずです」
張春橋 「いやはや、劉少奇夫妻のことになると、江青同志の目の色は変わり、一段と舌鋒が鋭くなりますな」
王力 「われわれは、劉少奇個人の攻撃も勿論やりますが、実権派の連中を全て血祭りに挙げてやりたいのですよ」
江青 「でも、実権派の連中を二度と立ち上がれないようにしてやるには、その大親分である劉少奇に、致命的な打撃を与えてやるのが一番効果があるでしょう。 そうは思いませんか」
陳伯達 「それはそうだが、落ちぶれたとはいえ、劉少奇はまだまだ形だけは“国家主席”だ。 そう簡単に手を出すことができるだろうか」
江青 「いい方法があるんですよ。 劉少奇の娘の劉濤は、前夫人の王前との間の子で、王光美に対しては常日頃、反感を持っているのです。“出しゃばり”の王光美が、いつも劉濤をないがしろにするものですから、彼女は継母の王光美を嫌っており、そんな王光美の尻に敷かれている父親に対しても、彼女は嫌気がさしているのです。
劉濤は、文化大革命が燃え盛っている清華大学の学生ですから、私がこれからすぐ会いに行って、父母のスキャンダルを暴露するよう、彼女を説得しましょう」
陳伯達 「それはいい考えだが、上手くいくかな」
江青 「大丈夫です。 清華大学では、紅衛兵運動が非常に勢いづいていますので、劉濤も劉少奇の娘ということで、肩身の狭い思いをしているのです。 だから、彼女が父母のスキャンダルを暴露すれば、劉濤自身も身辺が安全になるし、劉少奇夫妻の面目を失墜させることにも大いに役立つのです。 きっと、劉濤を説得してみせますよ」
張春橋 「さすが江青女史だ。その計画はきっと上手くいく。 自分の娘にまでソッポを向かれたんでは、劉少奇の権威も丸つぶれだな。それを突破口にして、劉少奇夫妻を追い詰めていこう」
王力 「ますます面白くなってきた。 江青同志、あなたはやり手だから必ず成功する。頑張って下さい」
第十場(12月20日、北京市内。 多数の紅衛兵が彭真、陸定一、羅瑞卿、楊尚昆の頭に三角帽子をかぶせ、首にプラカードを懸けさせて連行してくる)
紅衛兵代表 「紅衛兵諸君、革命的な北京市民の皆さん。 ここにいる薄汚い連中をよく見て下さい。こいつらはこれまで、中国共産党と中国国民を食いものにしてきたウジ虫どもです。 よく顔を見てやって下さい。こいつらの顔は、わが国の昔話に出てくる醜い妖怪変化とよく似ているでしょう。
そうです。こいつらこそ、現代中国の牛鬼蛇神、妖怪変化そのものです。 こいつらは何十年にもわたって、われわれの輝ける太陽・毛沢東主席に敵対してきただけでなく、党の中央にもぐり込み、数々の悪事を犯してきたブルジョア反動分子の“化け物”です。
われわれが寒い冬空の下、身を削るような思いをして働いていた間に、こいつらは、西洋の高級ウィスキーなどを飲みながら、贅沢三昧な生活を楽しんでいたのです。 しかし、こいつらの優雅なブルジョア的な生活も、もうお終いです。
今や全ての悪事が暴露され、こいつらはこうして、われわれの手によって捕えられたのです。 諸君、中国共産党と革命大衆を裏切ったこのウジ虫どもを、今こそ、ここで徹底的に闘争してやろうではありませんか!」
紅衛兵達 「異議なーしっ! 妖怪変化どもをやっつけろーっ! ウジ虫どもをぶっ殺せーっ! ブルジョア反動分子を叩きのめせーっ!」
紅衛兵一 「やい、ブタども、お前達は頭(ず)が高い。こうしてやる」(紅衛兵達、四人の両腕を後ろにねじ上げ、頭を上から押さえ付ける)
紅衛兵二 「これが“ジェット式”の仕置きと言うんだ。お前達には、これが一番似合うぞ!」(紅衛兵達、喚声を上げたり拍手をする)
紅衛兵三 「さあ、貴様達を一人一人尋問してやる。 やい、彭真。お前は長い間、北京市長の職にありながら、毛主席に背いた上に党をあざむき、現代修正主義の道を歩んできたことを認めるか」
彭真 「認めます」
紅衛兵四 「陸定一よ、お前は中央宣伝部長をしていながら、毛主席の指示をないがしろにして、誤ったブルジョア反動の文化路線を、党員に押し付けてきたことを認めるか」
陸定一 「はい、認めます」
紅衛兵五 「羅瑞卿、お前はこの中で最も醜悪だ。 お前は人民解放軍の総参謀長という要職にありながら、絶えず林彪国防部長に敵対し、毛沢東思想による軍の統一と団結を乱してきたことを認めるか」
羅瑞卿 「認めます」
紅衛兵六 「楊尚昆、お前はこの中で最も陰険で悪辣だ。 お前は毛主席の執務室に盗聴器を仕掛け、情報を盗んではソ連大使館に通報し、毛主席を陥れようとしたことを認めるか」
楊尚昆 (苦しそうな声で)「祖国を裏切るようなことだけはしていない」
紅衛兵六 「なにっ、貴様は、俺がいま言ったことをしていたかどうか、認めないのか!」(数人の紅衛兵が、楊尚昆の頭を更に強く押さえ付ける)
楊尚昆 「認めます!」
紅衛兵代表 「諸君、聞いたか。 この四人はいま、これまで一片の良心もなく、恥知らずにも毛主席と中国共産党、中国人民をあざむき裏切ってきたことを認めたのだ。 こいつらをいくら罰しても、罰し足りないくらいだ。
本来なら、死刑に処しても当然の連中だが、われわれ革命派はむやみに人を殺さない。 こいつらに、徹底的な自己批判を要求すると共に、腐敗堕落した実権派への“見せしめ”のために、これから北京市内を引きずり回すことにしよう!」
紅衛兵一 「よしっ、さあ立て、イヌども!」
紅衛兵二 「命だけは助けてやろう。その代わり、お前達は強制収容所で、頭のてっぺんから爪先まで思想改造をしなければならんぞ!」(紅衛兵達、四人を立たせて歩かせる)
紅衛兵達 「思い知ったか、悪党! ふらふらしないで、しっかり歩け! 裏切者! ブタ野郎! ソ連の回し者! 頭を叩き割ってやるぞ!」(紅衛兵達、罵声を浴びせたり、小突いたりしながら四人を引っ張っていく)
第十一場(12月下旬。 北京・清華大学内の教室。江青と劉濤、他に数人の紅衛兵)
江青 「先程から言っているように、私はあなたに、劉少奇批判を強制しているのではないわ。 あなたも、もう立派な大学生です。自分の良心と判断に従ってお決めなさい。 嫌ならいいんですよ、無理にとは言いません。
でも、私達はいま、文化大革命の真っただ中にいるのです。家庭の問題を、革命の上に置いてはいけません。 あなたも、革命の大義のために生きるべきなんですよ」
劉濤 「その点は、よく分かっています。先生に言われるまでもなく、私は毛沢東思想に忠実な学生です。 それに、私は昨日、生みの母の王前に会ってきました。その結果、私は決心したのです」
江青 「それはどういうことなの?」
劉濤 「母は、国共内戦当時の父のいろいろな恥ずべき行動や、生活ぶりを教えてくれました」
江青 「まあ、それはどういうこと? 教えてちょうだい」
劉濤 「私は近いうちに、父の恥ずべき過去を暴露します。 父は、白区での工作費を自分のために使ってしまったのです。人民のお金で、金の皮ベルトや金の靴べらを作ったのです」
江青 「なんということでしょう。それは本当なの?」
劉濤 「本当です」
紅衛兵一 「恥知らずだ、劉少奇は。悪質な汚職ではないか!」
劉濤 「しかも、父は王前と離婚した時に、金の皮ベルトを母にくれたのですが、登頴超先生らには後で、あれは母に盗まれたのだと言って、裏で陰口をたたいていたのです」
江青 「まあ、なんて卑怯なんでしょう」
劉濤 「私はその話しを母から聞いた時は、恥ずかしくて悲しくなりました。 私はその金の皮ベルトを、父の汚職の証拠品として、後で中央文革小組にお渡しします」
紅衛兵二 「よく言ってくれた、劉濤。君はえらいぞ、それでこそ紅衛兵の一員だ」
劉濤 「それに、父は大ウソつきです。 後で分かったことですが、母と結婚する時に、父は自分の年齢を十一歳も若くごまかして、母の歓心を買ったのです」
江青 「まあ、汚い。毛主席は、そんなウソは言いませんでしたよ」
劉濤 「また、父は母と離婚して王光美と再婚すると、私や弟に、母と会わせないようにしました。 母から手紙が来ても、私や弟に見せないばかりか、母を罵倒するような返事を書くよう私達に強制しました。 私も辛かったのですが、もっと可哀想だったのは別れた母でした」
江青 「なんて薄情な人なんでしょう」
紅衛兵三 「劉少奇は、それでも人の子の親か!」
紅衛兵四 「そんな冷酷な奴は、叩きのめしてやれ!」
劉濤 「それに、父はまったく王光美の言いなりでした。 私や弟には、ごく粗末な衣服しか買ってくれませんでしたが、王光美のためには、最高級のドレスや着物を買って与えていました。 それもこれも、王光美の歓心を買うためで、彼女はわが家では“女王”のように振る舞っていました」
紅衛兵一 「あの女は、自分をいったい何様だと思っているんだ!」
紅衛兵二 「わが革命中国には、女王様なんていないはずだ」
江青 「いえ、王光美は今まで、自分が中国の女王だと思っていたのです。劉濤さんの話しを聞いていると、それもうなずけるじゃありませんか」
紅衛兵三 「許せない、絶対に許せない! 汚職にまみれた人非人の劉少奇も、ブルジョア貴婦人のように振るまい女王面をしている王光美も、どちらも絶対に許せない!」
紅衛兵四 「二人とも、臭いもの同士の似合いの夫婦だ。 人民の貴重な金を横取りし、離別した妻や子供達を虐待する奴と、美人気取りの鼻持ちならない女狐だ。こんな奴らは生かしておかないぞ」
劉濤 「ですから、私も決心したのです。あの二人の悪行の数々を暴露します」
江青 「よく言ってくれました。 親に孝行などと、孔子が言うような古臭い道徳は、文化大革命を進めている今の中国には、百害あって一利なしです。あなたの勇気に敬意を表します。 幸い、この清華大学には、『井崗山報』という紅衛兵の機関紙があるでしょう。
あなたは、いま言ったことを『井崗山報』に載せて、劉少奇夫妻の悪行を天下に明らかにするのです。 そうすれば、あなたは紅衛兵から認められ、称賛されますよ」
劉濤 「分かりました。 それでは図書館へ行って、早速、あの二人を打倒する文章を書きます。失礼します」(劉濤、退場する)
江青 「皆さん、劉少奇夫妻を完全に打ちのめすチャンスが、ついにやって来ましたね。 でも、劉濤の暴露だけではまだ足りません。他にもっといい方法はないかしら」
紅衛兵一 「諸君、他に何かいい方法があるかな」
紅衛兵二 「上手くいくかどうか分からないが、あの二人には、萍萍という中学生の娘がいる。王光美はその娘を大変可愛がっているから、萍萍を拉致して劉少奇夫妻をおびき出し、闘争にかけてやるというのはどうだろうか」
紅衛兵三 「それはいい考えだ。時機を見て萍萍を誘拐してやろう。 そして、娘が交通事故にあったとニセ電話をかけてやれば、あの二人は心配して外に出てくるだろう。そこで二人を捕まえて、吊るし上げてやればいいのだ」
江青 「まあ、名案ですこと。あなた達も革命に情熱を燃やしていると、次から次にいい考えが浮かんでくるんですね。 そう、愛娘(まなむすめ)が交通事故にあったと聞いたら、あの気位の高い王光美も真っ青になって飛んでくるわ。
ホッホッホッホ、なんて素晴らしい策略でしょう。あの二人を公開闘争にかけてやれば、毛主席だって内心は喜ぶはずです。 私が責任を持ちますから、皆さん、是非そうやって下さい」
紅衛兵達 「承知しました。 必ず上手くやってみせます。 面白くなってきたぞ」
第十二場(1967年1月6日。 北京・中南海にある劉少奇の家。劉少奇と王光美)
王光美 「あなた、清華大学の『井崗山報』に載った、濤の文章のことを聞きましたか」
劉少奇 「いや、まだ聞いていない」
王光美 「ああ、あなたがその文章のことを聞いたら、絶望のあまり気を失うかもしれませんわ。 一体、あの子はなんて子なんでしょう。これまで、私達に大切に育てられてきたというのに、あの子はあなたや私のことを、有ること無いこと出たら目なことばかり書いて、中傷の限りを尽くしているのです」
劉少奇 「そんな酷いことを書いているのか」
王光美 「いくら周りが紅衛兵だらけといっても、親を誹謗しつくすなんて、あんまりですわ。 私はもう、目の前が暗んで何も手に付きません」
劉少奇 「濤はなんと言っているのだ」
王光美 「あなたのことを、破廉恥きわまりない汚職人間だとか、王前や子供達には氷のように冷たい人非人などと言っているのですよ」
劉少奇 「まさか・・・」
王光美 「それに私のことも、昔、神父さん達とアツアツの仲だったとか、野心満々のブルジョア女だとか、無茶苦茶なことを言っているのです。 私はそれを聞いた時、もう気が遠くなりそうで・・・あなた、あの子が、どうしてそんなことを書くのでしょう。なんと考えたらいいのか・・・」(王光美、泣き崩れる)
劉少奇 「馬鹿な、信じられん。あいつは気でも狂ったのか。 それとも、誰か娘の名を騙って書いたとしか思えん」
王光美 「でも、あの子の署名がしてあるのです」
劉少奇 (沈黙)
王光美 「狂っているのです。ああ、何もかも狂っているのです! こんな馬鹿なことが起きるなんて・・・」
劉少奇 「酷すぎる。何もかも紅衛兵達の仕業だ。 あいつらは革命の名において、人殺しや暴行、破壊、脅迫しかしないのだ。娘のせいではない。 全て、紅衛兵が悪いのだ。そう思わなければ、救われん」(その時、電話が鳴る。王光美が受話器を取る)
王光美 「もしもし、はい、そうです。 えっ・・・本当ですか?・・・・・・でも、私が行かなくてはならないのかしら・・・・・・病院の先生を出してちょうだい・・・それなら、また後で。(王光美、受話器を置く)
あなた、萍萍が学校から帰る途中、和平門付近で交通事故にあい、重傷を負って病院に入れられたんですって。本当かしら・・・いま、病院の事務員からの電話ですが」
劉少奇 「おかしい。あの子は用心深い子だから、交通事故にあうなんて考えられん。 それとも、紅衛兵の誰かが、わざと萍萍をはねたのだろうか」
王光美 「それも考えられますわ。紅衛兵は何をするか分かりませんからね」
劉少奇 「それで、お前はなんと言ったのだ」
王光美 「すぐ信じるわけにもいかないので、病院の先生を出して欲しいと言ったら、できるだけ早く、後で先生から電話をかけてくれるというのです。 医師が重傷だと言えば、私も信用して病院へ行くことにしますわ」
劉少奇 「そうだ。病院の事務員の電話では信用できん。 われわれをおびき出そうとして、ウソを言っているかもしれんからな。もう少し待とう」
王光美 「でも、萍萍のケガは相当重いというんですよ。 もしかしたら、手術も必要だと事務員が言っていました。大丈夫かしら」
劉少奇 「まったく気をもませることばかりだ。 それにしても、何もなければ、萍萍はもうとっくに家に帰ってきてもいい時間だが・・・町の中は、紅衛兵が無茶苦茶に車を乗り回しているそうじゃないか。 萍萍は、あいつらにわざとはねられたのかもしれん」
王光美 「じっと待っているのも辛いわ。あの子が本当に大ケガをしたというのなら・・・ああ、矢も楯もたまらないわ。(その時、電話が鳴る。王光美が受話器を取る) もしもし、ああ、先生ですか・・・まあ、本当ですか・・・そんなに大ケガなんですか・・・分かりました、すぐに行きます。それでは後で」(王光美、受話器を置く)
劉少奇 「やっぱり本当か」
王光美 「そうです。いま、外科の医師がはっきりそう言いました。 それも左脚を複雑骨折しているので手術をする必要があるが、それには保護者のサインが要るので、すぐに来ていただきたいというのです。 私はこれからすぐ、病院へ行きます」
劉少奇 「こうしてはおれん。私も一緒に行こう」
王光美 「いえ、あなたは家にいて下さい。あなたに、もしものことがあったら大変です」
劉少奇 「何を言う。お前独りで行かせたら、なおさら危険だ。 それに、萍萍が可哀想じゃないか!」
王光美 「・・・分かりました。それでは一緒に参りましょう」(二人とも、急ぎ足で退場)
第十三場(同じく1月6日。 北京・清華大学の構内。多数の紅衛兵が、王光美を拉致してくる)
紅衛兵代表 「清華大学の学友諸君。 われわれ井崗山兵団の紅衛兵は、つい先ほど、党内実権派の最大の親分である劉少奇夫妻を逮捕することに成功した!(喚声がどっと上がる) ただし、劉少奇は直接、わが清華大学に手を出したことはないので、今回は“寛容の精神”をもって釈放してやった」
紅衛兵達 「手ぬるいぞ! 中国のフルシチョフを逃してやるとはなんだ! 劉少奇も引っ張ってこい!」
紅衛兵代表 「だが、諸君。今日は、清華大学に最も大きな害毒を流してきた王光美を、これから徹底的に公開闘争にかけようと思う。 この女こそ、わが清華大学に黒い工作組を派遣した張本人なのだ!」(数人の紅衛兵が、王光美を舞台の真ん中に連れて来て座らせる)
紅衛兵達 「王光美を打倒せよ! 女狐を徹底的に尋問しろ! ブルジョア反動分子を叩きのめせ! 王光美を許すな!」
紅衛兵代表 「この女は先ほど、娘が交通事故にあったという、われわれのニセ情報にまんまと騙されて、病院に駆けつけたところを逮捕されたのだ」
紅衛兵達 「間抜け! ブルジョア母性愛の権化! それでも、国家主席の女房か!」
紅衛兵代表 「王光美よ、なんとか言ったらどうだ。われわれの策略に引っかかったお前は、なんて哀れな奴なんだ」
王光美 「あなた方は卑怯だわ。さあ、好きなように私を闘争しなさい」
紅衛兵達 「クソ婆(ばばあ)、開き直るのか! もっと謙虚になれ! お前は大罪人なんだぞ!」
紅衛兵一 「さて、始めるぞ。 王光美よ、お前はこの前、インドネシアに行った時に着ていた、このきらびやかな服を着てみろ!」(紅衛兵一、白い薄手の洋服を王光美に渡そうとする)
王光美 「いやです。その服は薄絹の夏物だから、着られません」
紅衛兵二 「何を言うか、お前はわれわれの言うとおりにするのだ。さあ、着ろ!」
王光美 「いやです。着られないものは着られません」
紅衛兵三 「なんだと、お前は“三反分子”の女房なんだぞ。 寒いなら、これを着た上にコートを羽織ればいいじゃないか」
王光美 「だめです。あなた達に、そんなことを強制する権利はないでしょう」
紅衛兵四 「バカ言え、お前には自由はないんだ。さあ、着ろ。『凍え死ぬハエありとも、取り上げるに足りない』と、毛主席はおっしゃっているんだ」(紅衛兵達、王光美に詰め寄る)
王光美 「あなた達は暴力を振るうのですか。 毛主席は、武闘を用いてはならないと言っているではありませんか!」(紅衛兵達、抵抗する王光美に無理やり洋服を着させる)
紅衛兵代表 「それ見ろ、着られたではないか。お前はその格好をして、スカルノといちゃいちゃしていたんだぞ。 そして、中国人民の顔に泥を塗り、中国人民を侮辱したんだ!」
王光美 「私がいつ、中国人民を侮辱したというのですか。 私は国家主席夫人として、外交上の務めを果たしただけです」
紅衛兵一 「ウソつけ! お前はスカルノのような悪党と遊びほうけて、中国人民を馬鹿にしたんだ。反省しろ!」
紅衛兵二 「それにお前は、工作組を清華大学に派遣して、われわれの革命的な行動を弾圧しようとしたではないか」
王光美 「工作組の派遣は、党中央が決定したものです。私が勝手にやったものではありません」
紅衛兵三 「違う。 お前は自分勝手に大勢の者に打撃を加え、一握りの者を保護したんだ。その責任はお前にあるんだぞ」
王光美 「私はそんなことはしていません。何もかも濡れ衣です」
紅衛兵四 「まだ“しら”を切るのか! クソ婆、少しは真面目に答えろ!」
王光美 「本当のことしか言っていないわ」
紅衛兵一 「強情な女だ。 それじゃ聞くが、お前はどうやって、共産党に紛れ込んできたんだ」
王光美 「紛れ込んだりしていません。 何度も申請して、正規の手続きをきちんと踏んでから入党したのです」
紅衛兵二 「お前は共産党に入ってくる前に、カトリックの神父やブルジョア旦那どもと、“熱い”関係にあったというじゃないか」
王光美 「何を言うのです! そんな恥知らずなことは、まったく身に覚えのないことです。馬鹿なことを言わないで下さい!」
紅衛兵三 「ヒステリーを起こすな! それなら、どうして劉少奇のような男と一緒になったのだ。臭いもの同士で“馬が合った”ということか」(紅衛兵達、どっと笑う)
王光美 「劉少奇は、とても誠実で素晴らしい人です。 あなた達が悪く言うような人ではありません」
紅衛兵四 「牝犬め、のろけやがって。 おい、こいつに首輪をかけてやろうじゃないか。さあ、牝犬らしくしろ!」(紅衛兵達、喚声を上げながら、王光美の首に無理やり荒縄の輪をかける)
紅衛兵達 「いいぞ、いいぞ! 牝犬らしく這ってみろ! ワンワンと吠えてみろ! それでも国家主席の夫人か!」
王光美 「なんですか、あなた達は・・・私をこんな目にあわせて、そんなに嬉しいんですか!」(王光美、泣き崩れる。笑い声や喚声がどっと沸き上がる)
紅衛兵一 「そんなに嫌か。お前には、そういう格好が一番似合うぞ」
紅衛兵二 「死にたいと思うなら死んでみろ。お前の命なんか、ちっとも惜しくはないんだ」
紅衛兵三 「犬みたいに引きずり回してやるか。さあ、這ってみろ!」(王光美の腰の辺りを蹴る)
王光美 「私をこんなに辱めるなんて・・・あなた達は人間なの! いや、人間じゃない、獣(けだもの)だ。人の顔をした獣だ。 獣に“なぶりもの”にされるくらいなら、死んだ方がずっとましだ。私をこんな目にあわせて、気持がいいのでしょう。 さあ、私を殺しなさい! 一思いに殺しなさい!」
紅衛兵四 「そう簡単に、お前を殺すわけにはいかないんだ。 お前がこれまで積み重ねてきた罪業の数々を償うためには、もっと地獄の苦しみを味わってもらわなければ困るのだ」
紅衛兵一 「われわれの怨念の炎に焼かれて、お前はのたうち回れ!」
王光美 「いいわ、呪いたいだけ呪うがいい。あざけるだけあざくがいい。 それが、品性下劣なあんた達には似合いの仕業よ」
紅衛兵二 「まだほざくか、この女郎め」
紅衛兵三 「殺さないだけでも有難いと思え!」
紅衛兵四 「悪女め、さあ這ってみろ!」(紅衛兵達、王光美を蹴ったり小突き回す)
王光美 「無礼な。今にあんた達も酷い目にあう時が来るわ。 なにが文化大革命なの。こんな中国なら、呪われて滅びるがいい・・・」(王光美、うつ伏して動かなくなる)
第十四場(1月上旬。 北京・中南海にある毛沢東の家。毛沢東、林彪、陳伯達、江青)
江青 「ホッホッホッホッホ、皆さん、お聞きになりまして。 あの王光美が紅衛兵に吊るし上げられて、気も狂わんばかりだったそうですよ。本当にいい気味だわ。 これからも大いに公開闘争をするよう、紅衛兵の代表に言っておきましたわ」
陳伯達 「いや、江青同志のやり方はまったく凄まじいものだ。紅衛兵達も喜び勇んで、あの女狐を痛めつけていた。 この次は、いよいよ劉少奇を吊るし上げる番ですな」
林彪 「もうこれで、劉少奇夫妻も二度と立ち上がれない打撃を受けたわけだ。主席もほっとされたでしょう」
毛沢東 「諸君のお陰だ。 思えば一昨年(おととし)の十一月、上海で文化大革命の狼煙を揚げた時、わが人生における最後の闘いとはいえ、正直言って勝てるかどうか自信はなかった。それほど、私は追い詰められていたのだ。
しかし、今や劉少奇一派はゴミ箱に捨てられた屑ものも同然だ。奴らは異臭を放ちながら朽ち果てる運命となってしまった。 そして、中国は文化大革命の嵐の中で、新しい社会主義国家として蘇ろうとしているのだ」
江青 「われわれの勝利の陰には、なんと言っても、林彪閣下の大きなご尽力があったことを忘れるわけにはいきません」
林彪 「いやいや、私の力などは大したものではない。 それより、陳伯達同志や江青同志が中央文革小組を率いて、文化大革命を推進してきた功績は素晴らしいものだ。 これこそ、毛主席を最もよく支えた黄金の砦であり、私の人民解放軍などは、単に文化大革命に協力してきたにすぎない」
毛沢東 「麗しいエールの交換だな。人民解放軍と中央文革小組、それに革命的な大衆の三つが結合する時、文化大革命は初めて成功するのだ。 わしは革命を推し進め、上海を始め各地にコミューンを創っていきたい。 その際にも、君達の相互の協力が必要となる。十分に連絡を取り合って、闘いを進めていこうじゃないか」
陳伯達 「林彪閣下が毛主席の後継者だということは、党内外に徐々に浸透してきています。 国務院の連中は、それに批判的ではありますが、文化大革命に誰が最も尽力したかは、口に出さなくても衆目の一致するところです」
江青 「そうですとも。林彪閣下こそは、毛沢東思想を最もよく理解され、解放軍の中でそれを徹底させてこられました。 文化大革命が完遂できるかどうかは、あげて林彪閣下の双肩に掛かっていると言っても、過言ではないでしょう。
解放軍の“後ろ盾”がなければ、どうして、われわれ中央文革小組の運動が成功するでしょうか。その点、これからも宜しくお願い致します」
林彪 「いやいや、身に余る評価を頂いて光栄に思います。 私はただ、毛主席と文化大革命に命を捧げるつもりで頑張ってきたに過ぎない。それ以上のことをしようと思っても、私にはできないのだ。 私は、毛主席に身も心も預けているに過ぎないのです」
毛沢東 「その言葉こそ、今の私にとって心強いものは他にない。林総、ありがとう。 いずれ正式に、君を私の後継者にするよう党中央で決めてもらうつもりだ。 私も七十歳をいくつも超えて、この先、いつあの世へ行くかもしれない。林総のような優れた後継者がいてくれることは、なによりも安心だ。
毛林体制は文化大革命を契機に、今や揺るぎないものになったと言える。 陳伯達同志も江青も、林総に惜しみない協力態勢を取って欲しい。そうすればもう二度と、腐敗した実権派の連中に党の権力を奪われることはないだろう。 諸君、よくやってくれた。文化大革命の成功と、偉大な中国の将来を祈って乾杯しようではないか」
江青 「素晴らしいことですわ。毛主席と林彪閣下、お二人の末長いご多幸とご健康、それに文化大革命の勝利を祈って乾杯しましょう。 とびきり上等で古い老酒があります。それを出しましょう」(江青、奥の戸棚から老酒とグラスを持ってきて、乾杯の準備をする)
陳伯達 「それでは、不肖私が、乾杯の音頭を取りましょう。 毛主席、林彪閣下、中華人民共和国、それに文化大革命を祝って乾杯!」
一同 「乾杯!」(四人、老酒をあおる)
第一場(約3年半後の1970年7月下旬。 北京・中南海にある陳伯達の家。陳伯達のモノローグ)
陳伯達 「なにもかも面白くない。 文化大革命で俺はあれほど活躍し、劉少奇や登小平ら実権派の連中を根こそぎ葬り去ってやった。おかげで俺は、去年の九全大会で、毛沢東、林彪、周恩来に次いで、党内でナンバー4(フォー)の地位に就くことができた。
ところがどうだ。その後、党内で大きな顔をしてのさばり出したのは、江青を中心とする張春橋らの上海グループだ。 あいつらは毛主席の信頼と厚い庇護のもとで、すっかり主流中の主流におさまってしまった。
その結果、毛主席の側近として、長い間実権を振ってきた俺の立場は、しだいに影の薄いものとなってしまったのだ。 張春橋や姚文元など大して実績のない青臭い連中が、文化大革命の果実を独り占めにして、毛主席に可愛がられている。
俺は文化大革命で中央文革小組を率いて、最も功績を上げたというのに、どうして江青達の風下に置かれなければならんのだ。実に不愉快だ。 毛主席だって、先行きそう長くは生きられないだろう。こうなったら、俺は自分の将来のことを考えて、林彪副主席に付くことにしよう。
林彪将軍こそは、九全大会で憲法の前文の中に、毛主席の後継者と正式にうたわれた人だ。いずれ近い内に、林彪時代が必ずやって来る。 そうなったら、いま毛主席に最も可愛がられている江青グループも、それに周恩来グループだって実権を失っていくだろう。
一ついい考えがある。林彪将軍を国家主席に就かせるのだ。 林彪だって、九全大会でナンバー2(ツー)の副主席になりながら、実際の役職では、周恩来総理の下で国防部長にとどまっている。あれでは、林彪だって面白くないだろう。
それに、文化大革命が一段落した結果、毛主席の後継者に決まった林彪に対して、周恩来や江青達の風当たりが、最近特に強まってきている。 だから、林彪だって内心はイライラしているに違いない。
そこで、憲法改正草案では、国家主席を置かないことになっているが、俺はこれに真正面から反対してやる。 そして、毛沢東を“天才”と持ち上げて、天才・毛沢東が国家主席に就くべきだと主張してやろう。
ところが毛沢東は、かつて劉少奇が国家主席になって痛い目にあっているので、自分が国家主席になることも、国家主席を置くことも嫌がるだろう。 しかし、中国に国家元首がいないというのは、おかしなことだ。国家主席を存続させろという、俺の主張は正しいはずだ。
毛沢東が国家主席にならなければ、あとは林彪がなるしかない。俺はこれに賭ける。 林彪を国家主席に押し上げて、俺は彼を支援するのだ。そうすれば、いずれ毛沢東が亡くなった時に、林彪と俺が中国の実権を握ることができるのだ。
そうなれば、老いぼれの周恩来だって、女狐の江青だって落ちぶれていくしかない。 よし、来月の九期二中全会で、俺は国家主席存続論をぶち上げてやろう。林彪だって、必ず俺の意見に賛同してくれるに違いない」
第二場(8月下旬。 廬山での第九期第二回中央委員会全体会議場の一室。毛沢東、林彪、周恩来、江青)
毛沢東(激しい怒り声で)「一体、陳伯達の今日の演説はなんだ! 憲法改正草案に国家主席を設けないようにしようと、われわれは長い間、意思統一を図ってきたではないか。 わしは何度も、国家主席を置くべきでないと言ってきたが、陳伯達はこれまでなんの反対もしてこなかった。
ところが、今日になって突然、あいつは国家主席を存続させろとぶち上げた。わしは自分の耳を疑ったほどだ。けしからんにも程がある。 あいつの発言で、会議は滅茶苦茶になってしまった。あの裏切者めが!」
江青 「そうカッカとすると、血圧が上がりますよ。 でも、このところ陳同志はおかしいと思っていましたわ。私と顔を合わせても、ちょっと会釈するだけで、そそくさと逃げるように立ち去っていましたものね」
周恩来 「困ったものだ。 国家に元首がいないのはおかしいという、彼の主張にも一理はある。中央委員の中には、国家主席存続論に同調する者がわりにいるかもしれない」
毛沢東 「卑怯な裏切者だ! あいつは自分の言いたいことを言ってしまうと、さっさと立ち去ってしまったが、どうせこれから裏工作をしようというのだろう。 わしを天才、天才と持ち上げておいて、国家主席に就任しろと言う。
わしは、天才などはこの世におらんと繰り返し言ってきたのに、あいつがあんなにわしを持ち上げるものだから、中央委員の中には、わしの国家主席再任を当然と見る者が出てくるだろう。 馬鹿な話しだ! わしが死んで、党主席と国家主席の二人のトップが出来たらどうなるのだ。
又、わしと劉少奇の争いのような混乱が生じるだろう。劉少奇を国家主席にしたことを、最大の痛恨事だと思っているわしに対して、あいつは平然として挑戦してきた。許せん! 副主席、君はどう思う?」
林彪 「あまり突然のことなので、私も戸惑っています。 毛主席が国家主席にならないのなら、誰がなるというのでしょう」
毛沢東 「わしがならないのなら、党副主席の君がなるしかないだろう」
林彪 「とんでもない! 私はそんなことは考えたこともありません」
毛沢東 「それなら君も、陳伯達の主張には反対だというのだな」
林彪 「私は主席の考えに賛成です。 ただ、彼の天才論は間違っていないと思います。私は、毛主席を天才だと思っていますから」
毛沢東 「そういう考え方がおかしいのだ。 マルクス主義の唯物論からいけば、天才などというものは存在しないはずだ。それは、主観的唯心論から出てくる概念だ」
江青 「そうですわ。陳伯達は、毛主席を天才に仕立て上げて、国家主席に無理やり就けようと考えているのです。 そして、毛主席がそれを断ることが分かっているので、その場合、自分か他の第三者が国家主席に就くべきだと思っているのです。 そういう政治的な野心こそ、危険な考え方ではないでしょうか」
周恩来 「毛主席以外に、国家主席になる人がいるとすれば、林総、党副主席である貴方しかいないはずだ」
林彪 「とんでもない! 私は党副主席、国防部長で十分過ぎるくらいだ。陳伯達の主張がそういう風に憶測されるなら、私も陳の言うことには賛成できない」
毛沢東 「副主席、それでは君も陳伯達の意見に反対してくれるのだね」
林彪 「天才論はともかく、国家主席存続論には反対します」
毛沢東 「よし、それではこれから、陳伯達批判を党内で徹底的に広げていこう! あいつは三十年以上もわしの秘書をやりながら、“虎の威を借りる狐”のようにのし上がってきた男だ。わしがあいつの批判を始めれば、あんな奴は立ち所に失脚するまでだ。 許してはおかん。わしの信頼と庇護を無にする奴など、絶対に許すもんか!」
第三場(10月初旬。 北京・中南海にある林彪の家。林彪、妻の葉群、息子の林立果のいるところへ、陳伯達が入ってくる)
陳伯達 「どうもご無理を言って、お邪魔します」(陳が来客用の椅子に座る)
林彪 「君が来ることは、誰にも秘密にしてある。知っているのは、この三人だけだ」
陳伯達 「有難うございます。 副主席、もうご存知のように、毛沢東は私に対する批判キャンペーンを党内で始めています。私はいずれ失脚するでしょう。 それは、それでいいのです。私は長年仕えてきた主席に歯向かったのですから。
それより、気をつけて頂きたいのは、周恩来や江青の動きです。彼らは、文化大革命によって、人民解放軍がこれまでになく大きな勢力を持ってきたことに反発しています。 彼らは陰に陽に、毛主席に対し解放軍の力を弱めるよう進言しています。
すでに、文革で一度失脚した国務院の高級官僚どもが、周恩来の差し金で徐々に復活してきているほか、江青グループの張春橋達が頭角を現わしてきたのはご存知でしょう。 この二つの勢力は互いに牽制し合いながら、狙いを副主席のグループに絞ってきているのです。彼らにとって、共通の敵はあなたのグループです。副主席は、その点を十分にご承知ですか」
林彪 「周総理や江青が、われわれを心良く思っていないことは知っている。 しかし、毛主席は文革を発動する前から、われわれを本当の味方だと思い、厚い信頼を寄せてきたではないか。 毛主席が健在である限り、われわれが不利な立場に追い込まれることはないはずだ。君の心配は杞憂だよ」
陳伯達 「いや、毛沢東は、副主席が私に対する批判を十分に行なっていないことに、疑問を抱いているようです。 年を取ると、人は一層疑い深くなるもの。まして毛沢東は、江青や周恩来の言うことばかりを聞いて、他の連中の言うことには、だんだん耳を傾けなくなっているようです」
林彪 「そうかなあ。私は唯一の副主席であり、毛主席の後継者だと天下に明らかにされているじゃないか」
陳伯達 「それが油断です。 副主席は人が良いから、毛沢東の怖さや底の深さがお分かりにならないかもしれない。あの男は自分の絶対的な権力を守るために、これまでナンバー2(ツー)と見られてきた人物を、次々に粛清してきたではありませんか。
王明も彭徳懐も、劉少奇も皆しかりです。 まして副主席は、文革によってこれまでになく強大な勢力を党内外に持つようになった。だから、毛沢東は警戒しているのです。 それに、先ほど申し上げたように、毛沢東の警戒心を江青や周恩来が煽っているのです」
林彪 「うむ、江青や周総理には気を付けている。彼らは何を考えているか分からないからな」
陳伯達 「それに率直に言いますと、毛沢東は、文革によって人民解放軍の影響力が強くなり過ぎたと思っているのです。 チャンスがあれば解放軍の勢力を叩こうと、最近では考えるようになっています」
林彪 「そんなことがありえるだろうか。 われわれの協力がなかったら、毛主席は劉少奇らを倒すことができなかったはずだ」
陳伯達 「それこそ油断です。 毛沢東は、勝つためにはどんな勢力とも手を結ぶが、一旦勝利した後は、今度は刃(やいば)を味方の中に向けてくるのです。あの男は四十年来、そういうことを繰り返してきたのです。 それで毛沢東は、絶えず党の第一人者として君臨してきたではありませんか」
葉群 「陳同志の言われることは、胸にズシリとこたえます。(林彪に向って)あなた、気を付けなければなりませんわ。 私があなたの手引きで政治局員になったことに、江青などは非常に反感を持っています。
女の嫉妬というものは、女同士の間だと電気のように伝わってくるもの。江青の忌まわしい視線を受けると、私には痛いほど敵意を感じるのです」
林彪 「そういうものかね。私ほど毛主席に忠勤を励んできた者は、他にいないと思っているのだが・・・」
葉群 「あなたは文化大革命の勝利に、少し気が緩んでおられるのですわ。 こうして、陳同志がわざわざ忠告に来られたのは、大変ありがたいことです。 一時、陳同志が不幸な目に遭うことがあっても、毛主席亡き後、私達が最高権力を握った暁には、陳同志の復権を“いの一番”にしようではありませんか」
林彪 「おいおい、陳同志はまだ失脚したのでもなんでもないぞ」
陳伯達 「いや、私はもうすぐ失脚するでしょう。毛沢東の憎しみに満ちたギラギラ光る眼が、私の背後に迫ってくるのを感じるのです。 二中全会で、国家主席を存続させるように主張したのは、私の大きなミスだったのでしょう。
しかし、それもこれも皆、失礼ですが副主席の身の上を思えばのこと。その点、十分に分かって頂ければ幸いです。 それでは、私はこれで失礼します。また、内密に伺うつもりです。ご機嫌よう」(陳伯達、退場)
林彪 「かわいそうに、あの男も毛主席に捨てられ、頼る所もなくここへやって来たんだな。 陳伯達はあんなことを言っているが、あわよくば、自分が国家主席になりたかったのではないか・・・人の心なんて分からん。
陳伯達には気の毒だが、私はあの男を批判することで、すでに毛主席と約束している。だから、毛主席が私を疑うようなことはないはずだ。 私が国家主席になろうと思っていないことは、毛主席も知っているはずだ」
葉群 「それならいいんですけど。 でも、陳同志が言うように、毛主席は自分を脅かすような力を持ってきた人間には、非常に猜疑心を抱く人です。しかも、江青や周総理があなたへの敵意から、毛主席に何を吹き込むか分かったものではありません。 その点、十分に気を付けないと・・・」
林彪 「分かった分かった。 しかし、あまり取越し苦労をするのは身体に良くない。今日はぐっすり眠るぞ。 それでは」(林彪、部屋の奥へと退場)
第四場(11月上旬。 北京・中南海にある毛沢東の家。毛沢東、康生、江青)
康生 「主席、あなたはご存知ないでしょうが、このところ二度三度と、陳伯達が密かに林彪副主席の家を訪れているのですぞ。これは、私の密偵が調べ上げたものです。 あの裏切者の禿頭めが副主席に泣きついているのです」
毛沢東 「本当にそうか」
康生 「間違いありません」
江青 「あなた、なんということでしょう。いくら陳伯達が卑怯な裏切者でも、こともあろうに林彪副主席の所へ行くなんて・・・副主席も副主席です。 陳伯達批判をすると私達に約束したというのに、なにもその当人と会わなくてもいいでしょう。なにか企んでいると疑われても仕方のないことですわ」
毛沢東 「林彪は陳伯達を批判することに同意したが、全面的に賛成したわけではない。なにか、いやいや同意したという感じだったな」
江青 「そうです。副主席は国家主席の存続論には反対しましたが、天才論は弁護するような言い方をしていました。 あの人は、自分が毛主席に次いで、第二の天才だと思っているのじゃないかしら。たしかに、軍事的才能はあるのでしょうけど」
毛沢東 「それにしても、陳伯達に会うというのはおかしい。 林彪はわしに絶対的な忠誠を誓っているのだぞ。誰かがそそのかして、陳伯達と会わせたのだろうか」
康生 「その点は分かりません。しかし、副主席はともかく、副主席を取り巻く解放軍の連中が文革のあと、党中央に対して不満を持つようになっているのは確かです。 総参謀長の黄永勝や、空軍司令の呉法憲達は、身分不相応なまでに取り立てられたというのに、増長して党中央に不満を持つようになったのです」
毛沢東 「けしからん奴らだ。 たかが軍人の分際で、なにが不満だというのだ。黄永勝などは政治局員にまでしてやったというのに・・・」
江青 「彼らは林彪副主席のまわりに集まって、独立王国を創ろうとしているのでしょう。 このまま放っておけば将来、党内に取り返しのつかない禍根を残すことになります。“毒草”は早いうちに刈り取らなければなりませんわ」
康生 「しかも、陳伯達は副主席の家で、黄永勝や呉法憲達とも会っているようですし、彼らがどんな企みをしているか、まったく見当も付きません」
毛沢東 「分かった。わしも決心がついたぞ。 近いうちにまず、林彪系の北京軍区第二政治委員の李雪峰や、北京衛戍区司令の鄭維山を更迭してやろう。そして、陳伯達批判に名をかりて、黄永勝達の不審な態度を究明してやる。 そうすれば、あいつらが腹の底で何を考えているか、おぼろげに分かってくるはずだ。
わしはどうやら、解放軍を甘やかしてきたようだな。文化大革命に功績があったというので、あの連中を優遇し過ぎていたようだ。 あいつらは軍人だ。軍人を国家の行政面でのさばらせておくのは良くない。そんなことを許しておいたら、連中はますます増長して、何をしでかすか分かったものではない。
このところ、周恩来総理からも随分苦情を聞かされてきた。今の康生の報告で、わしも決心がついたぞ。 林彪自身はわしに対して忠実なはずだが、取り巻きが良くない。林彪は単純な男だから、わしに従うだろうが、いつ取り巻きどもに担ぎ上げられんとも限らない。 解放軍は文革で十分に役目を果たしたのだ。これからは、お前達と周総理が手を取り合って活躍する番だ」
江青 「あなたは、副主席に“下心”がないように言われますが、本当にそうでしょうか。 四年前、文革の真っ最中に、あなたが私にくれた手紙では、林彪らに同意しないとやっていけないと書いてあったではありませんか。そして、林彪将軍のある種の考え方に、深く不安を感じると書いてありましたね。
あの時は、文革で劉少奇らに勝てるかどうかの瀬戸際でしたから、林彪将軍の力を喉から手が出るほど欲しかったので、あの人の考え方などには目をつぶってやってきました。 でも今こそ、副主席がどんな人物なのかを再検討する必要がありますわ。劉少奇なきあと、最大の問題はあの人にあるのではないですか。
あなたの後継者に決まってから、あの人のやったことといえば、腹心や取り巻き連中を次から次に、党の要職に就けたことぐらいですわ。 だから私には、先ほど言ったように、あの人が自分の“独立王国”を党内に創ろうとしているとしか思えないのです」
康生 「江青同志の言われるとおりだ。 主席、もうこの辺で、林彪包囲作戦を進めていかないと、将来とんでもないことになりますぞ」
毛沢東 「うむ、わしには考えがある。 北京にいる林彪系の軍人をまず片づけてから、その後の対応策を練るとしよう。それでいいじゃないか」
第五場(12月下旬。 北京・中南海にある林彪の居宅。林彪、葉群、黄永勝、呉法憲、林立果)
黄永勝 「いや、ひどい目にあったものだ。 衆人環視の中で、私や葉群同志ら五人の陳伯達批判が足りないと、名指しで追及されたんだからな」
呉法憲 「毛主席が、林彪副主席も陳伯達批判に同意しているのだ、君達もやらなくちゃいかんと凄い目付きで迫ってくるので、やることにしますと答えてしまった。 それにしても、あれはわれわれ五人を吊るし上げるようなやり方だな」
葉群 「大勢の幹部がいる中で、恥をかきましたわ。 まるで、われわれだけが党中央の方針に従ってこなかったような言い方をするんですからね」
林立果 「解放軍を目の敵(かたき)にしている連中が、最近、結束してわれわれに圧力をかけてきたのではないでしょうか」
林彪 「いや、そんなことは考えられない。 ただ、われわれの陳伯達批判が手ぬるいことを追及しているのだろう」
呉法憲 「それだけなら良いのですが、私には、もっと根深い動きがあるような気がしてならない。 総参謀長はどう思いますか」
黄永勝 「うむ、私も心配だな。毛主席の副主席に対する信頼は厚いと思うが、主席のまわりにいる連中が結託して、われわれに挑んできたような気がする。 もう少し様子を見なければならんだろうが、こちらも、いつでも反撃に出られるような態勢を取っておくべきじゃないのかな」
葉群 「総参謀長の言われるとおりです。 周総理や江青らのグループは、何を考えているか分かりませんわ。今こそ、解放軍の団結を固めておく必要があると思います」(そこへ、林彪の秘書が入ってくる)
秘書 「李雪峰閣下が緊急の要件で、ただ今お見えになりました」(李雪峰が入ってくる)
李雪峰 「林総、大変なことになりました」
林彪 「どうしたというのだ」
李雪峰 「つい先ほど、毛主席から電話がありまして、私と鄭維山同志が、近く北京の軍務を解任されることになるというのです」
林彪 「なんだと、そんな話しはまだ聞いていない」
李雪峰 「主席は、林総にはもうすぐ伝えるから、了承してもらいたいと言うのです」
林彪 「どういう理由で、主席はそんなことを言ってきたのだ」
李雪峰 「理由は何も言っていません。 ただ、二人の解任は、党中央の大多数の了解を取っているので問題はない、あとは副主席の了承を取り付けるだけなので、まだ正式には発表していないが、突然、解任を公表すると差し障りがあるから、前もって伝えておくと言っていました」
林彪 「それは重大な問題だ。 重要な人事は、主席といえども、これまで事前に私に相談があったというのに、これでは抜き打ち人事ということになるじゃないか。私を出し抜いて、事を運んでいるみたいだ。
しかも、解放軍の人事に関わる問題ではないか。こんなことは、今までになかったことだ。 いくら毛主席といえども、許せない! 早速、私から事情を問い質してみる」
葉群 「こんな人を馬鹿にした話しがあるでしょうか。李雪峰同志らが解任される理由なんか、何もありませんよ。 毛主席は、いったい何を考えているのでしょう。私達の信頼する解放軍の幹部が、北京にいることが邪魔だとでもいうのでしょうか。
どうして、前もって副主席と相談しないのでしょう。反対されることが分かりきっているから、相談しないというなら、私達を完全に無視していることになります。 主席の独断専行です。解放軍への挑戦ですわ」
黄永勝 「許せない問題だ。 陳伯達批判を渋っていたわれわれに対する、見せしめの処置なのだろうか」
呉法憲 「いや、これは明らかに解放軍に対する攻撃です。 李雪峰同志は、たしかに陳伯達批判に最も消極的だったが、だからといって、解任される理由にはならないはずだ。われわれだって、政治局拡大会議で、陳伯達批判をやることを了承したのだ。
そんな問題で、李同志や鄭同志が解任されるなんて筋違いではないか。解放軍に対する直接攻撃としか考えられない」
林立果 「そうです、そうに違いありません。 皆さん、毛主席はいざという時に備えて、われわれ解放軍の仲間が北京にいることを嫌ったのです。これは解放軍解体への第一歩です。 主席は、本気でわれわれの粛清を考えているのです!」
林彪 「立果、そう極端に結論を急ぐな。 毛主席の腹の中は、まだはっきりと分からないのだ。 しかし、これは重大な問題なので、早速私が主席に問い質してみる。それまで軽挙盲動は慎んでくれ。 主席の胸の内がつかめれば、それからこちらの対応策を考えることにしよう」
第六場(12月下旬。北京・中南海にある毛沢東の執務室。 毛沢東、林彪)
林彪 「主席、今日は二人きりで話し合いたいと思ってやって来ました」
毛沢東 「意外に元気そうだね。君は最近病気がちで、ほとんど自宅に籠っていると聞いていたが、顔つやもいいし安心したよ」
林彪 「いや、このところどうも体調が思わしくなくて、先日は政治局拡大会議に出られず、失礼しました」
毛沢東 「いいんだ、いいんだ。あの会議のことは、奥さんや黄永勝から聞いて知っているだろうが、大したものではない。 陳伯達批判を全党あげてやっていこうと、意思統一しただけだよ。他になにもない」
林彪 「どうも私の部下達が、陳伯達批判を渋ってきたようで、その点は申し訳ありませんでした」
毛沢東 「いやいや、黄永勝も呉法憲も皆、陳批判に賛同してくれた。これで、やりやすくなってすっきりしたよ」
林彪 「黄永勝らの問題はいいのですが、李雪峰や鄭維山を北京の軍務から解任するというのは本当ですか。 私は昨日、その話しを聞いてびっくりしました」
毛沢東 「もう聞いたのかね。いや、これは君に対して大変失礼なことをしてしまった。 実はもっと早く君に直接会って話したかったのだが、病気だというので、電話で伝えるのも失礼だし、ついつい遅くなって申し訳なかった。
つまり、一言でいうと、北京軍区の“人心一新”ということなのだ。李雪峰も鄭維山も文革以来、ずっと長く北京にいたわけだが、実を言うと、彼らに対する党内の反発が相当強まってきているのだ」
林彪 「彼らに何か問題があるのですか」
毛沢東 「いや、それほど問題はないが、陳伯達批判に最も消極的だったのは彼らだし、二人のやり方はどうも官僚的で、高圧的だという批判が下部から相当強く出ているのだ。 それに、さっき言ったように、二人とも北京での勤務が長すぎることもあり、まあ、人心一新ということもあって、この際、新たな場所で活躍してもらいたいと思い、更迭を考えたわけなのだ。 二人とも、私の考えを了承してくれたよ」
林彪 「なるほど、そういうことですか。 私は、なにも目くじらを立てて、二人の異動に反対しているわけではありませんが、ただ、そういう人事の話しは事前に私に言ってもらわないと、私の立場というものもありますので・・・」
毛沢東 「いや、それは私が悪かった。 なにしろ、君が病気がちで自宅に閉じこもってばかりいるので、ついうっかりしたのは申し訳なかった。君の立場を害してしまったことは許してほしい。 私にはもちろん、そんな気持はなかったのだから」
林彪 「いえ、それなら良いのです。 私も病気がちで、このところ随分、党の公式会議を欠席してきましたから、私にも多少の責任はあります」
毛沢東 「そう思ってくれるのなら、安心した。私もこのことが気になっていたのでね。 それでは、二人の異動については了承してくれるということで宜しいか」
林彪 「分かりました。結構でしょう」
毛沢東 「ありがとう、これでほっとした。実はこの人事は、私が一番気にしていたことだったのだ。君にも失礼をしてしまったしね。 ところでこの際、君に一言いっておきたいのは、解放軍に対する党内の批判や反感が、これまでになく高まってきていることを忘れないでほしいということだ。この点は忠告しておきたい。
李雪峰らの問題も、もし君達が更迭に反対して頑張ったとしたら、国務院や他の連中は、ますます解放軍に対して敵意を持つようになっただろう。 そうした党内情勢を忘れないでほしいということだ」
林彪 「解放軍は文化大革命に全面的に協力してきたし、やましい気持などは少しも持っていません」
毛沢東 「それは分かる。しかし、九全大会で、君達の勢力や権限は、これまでになく大きなものになってしまった。 それはそれで良いのだろうが、他のグループの反発も、これまでになく大きくなっていることに気を付けてほしいのだ。党の上に“鉄砲”が来てはならんと、ほとんどの人が思っているのだよ」
林彪 「われわれ解放軍が党の上に立とうなどとは、毛頭考えていません。 もし、そのように疑われているのなら、われわれの不徳のいたすところです」
毛沢東 「解放軍への反発をかわすためにも、暫くの間、党中央が君達に厳しい姿勢を取ったとしても我慢してほしい。 君達が辛抱さえしてくれれば、いずれまた解放軍への気持も和らいでくるだろう」
林彪 「分かりました。そのように努力しましょう」
毛沢東 「そこで、李雪峰らの更迭については、君に大変迷惑をかけたので、誰よりも先に、君に重大な考えを明かすことにしよう。 これは、まだ極秘にしておいてほしいのだが・・・」
林彪 「なんでしょうか」
毛沢東 「アメリカとの関係を改善したい。そのために一、二年のうちに、ニクソン大統領を北京に招こうと思っている」
林彪 「えっ、それは本気ですか!」
毛沢東 「本気だとも。これは重大な問題だから、まず君に打ち明けたのだ。十分に検討してくれないか」
林彪 「検討してくれと言われても、今の私には驚き以外の何ものでもないですよ」
毛沢東 「それはそうだろう。 中国建国以来、アメリカ帝国主義打倒のために、われわれは長い間闘ってきたのだからな」
林彪 「そうです。主席は、アメリカ帝国主義を“張り子の虎”と呼んできたではないですか。 アメリカとの核戦争で、中国は七億の民を失おうとも、まだ一億は残るのだと言ったのも主席ではないですか。
ベトナム戦争で、アメリカの残虐非道な侵略を非難し続け、北ベトナムや解放勢力を支援してきたのは、わが中国ではないですか。 それがどうして、アメリカ帝国主義と関係を改善する必要があるというのですか」
毛沢東 「君の言うことも分かる。しかし、われわれの本当の敵はアメリカよりも、むしろソ連ではないのか。 ソ連とは長い国境線をはさんで、緊張が絶えない。国境紛争も随分起きた。 これからも、中ソ関係はさらに悪化する可能性がある。そうした事態に備えて、アメリカとの関係を改善しておく必要があるのだ」
林彪 「しかし、アメリカとの関係改善は、ソ連を一層刺激して、中ソ関係をいたずらに悪くするだけではないですか。 これ以上、ソ連を刺激するのは得策ではないと思いますが・・・」
毛沢東 「いや、いずれにしろ、中国はもっと強くならなければならない。 来年には、国連に加盟することになるだろう。そうなれば、中国は国際社会で、アメリカやソ連に引けを取らない“大国”になっていくだろう。外交も革命的な転換期を迎えているのだ。
これからの国際政治は、米中ソの三国時代に突入していくのだ。そうした時代には、これまでの外交路線を踏襲しているだけでは駄目だ。革命的な外交が必要なのだ。 アメリカとの関係改善は、その一環だと考えてほしい」
林彪 「私にはよく分かりませんな。 アメリカとの関係が良くなって、ソ連との関係がさらに悪くなる。それが、中国にとってプラスになるというのでしょうか」
毛沢東 「アメリカとの関係改善は、まだ決まったことではない。さっきも言ったように、十分検討してほしいと言っているのだ。 副主席である君に、まず、そのことを明かしたまでよ。これから、じっくりと考えていこうじゃないか」
林彪 「そうですね。こんな重大な問題は、慎重に検討する必要があります。 ただ世界をアッと言わせるだけが能ではないですからね」
毛沢東 「しかし、君に言っておきたいのは、中国がアメリカとの関係を改善すれば、それは、国際社会での中国の立場を、一段と強くすることができるということだ。 この点だけは忘れないでほしい」
林彪 「分かりました。じっくりと検討しましょう。それでは、私はこれで失礼します」
毛沢東 「ああ、身体に気を付けてな。 副主席、健康がなによりも大切だ。自重自愛が肝心だよ」
林彪 「それでは」(林彪、会釈して退場)
毛沢東 「ハッハッハッハッハ、林彪は大分びっくりしていたようだな。 アメリカとの関係改善など、思いも寄らないことだろう。あいつの度胆を抜いてやったようだ。 もう、あの連中がのさばるような時代ではない。
文化大革命の際には随分助けてもらったが、これからは、あんなに頭の固い連中は役に立たない。 よし、解放軍の勢力を抑えていってやろう。単細胞の軍人どもがのし上がってきては、やりにくくてしょうがないからな」
第七場(12月下旬。 北京・中南海にある林彪の居宅。林彪、黄永勝、葉群、呉法憲、林立果)
林彪 「どうやら、毛沢東の腹の内が読めたようだ。李雪峰らの更迭問題では、私に申し訳なかったと謝っていたが、更迭を取り消すことはしなかった。 それよりも、党内に解放軍への反感や批判が高まっているから、気を付けろと言っていたが、暗に解放軍を抑えようという気持がにじみ出ていた。
党内の大勢に逆らおうとすれば、ただでは済まないぞという、脅しにも受け取れる発言だった。 毛沢東は明らかに解放軍、取り分けわれわれのグループに的を絞ってきている。このままでは、われわれはますます窮地に立たされることになりそうだ」
呉法憲 「許せない! 文革で、われわれをさんざん利用するだけ利用しておいて、今になって切ろうとしているのだ。 われわれは、毛沢東の権力維持の道具ではない」
葉群 「毛主席、いえ、毛沢東は冷血漢です。 何十年もの間、二人三脚のように一緒に働いてきた陳伯達を、少しでも邪魔に感じると、情け容赦なく切り捨てようとする。自分の権力維持のためには、たとえ肉親でも親友でも、口実を設けて抹殺しようとするのです。
余命幾ばくもないとはいえ、あの老人のやることは、ますます陰険で独裁的になっています。 もうこの辺で、こちらから打って出ないと、取り返しのつかない事態になってしまいますよ」
黄永勝 「そうだ。副主席のことを“無二の戦友”、後継者とまで持ち上げながら、このざまだ。 無二の朋友(ポンユー)・陳伯達を切ったあとは、無二の戦友を抹殺しようとしているのだ。 あんなに独裁的な“専制君主”はいない。まるで秦の始皇帝と同じだ。 いや、始皇帝よりも、もっと悪辣で陰険で残忍な男ではないか」
林立果 「年を取って老人になると、あんなにも自分の権力にこだわるものですかね。 スターリンもそうだったと聞いていますが、自分の側近や腹心しか信用しようとしない。江青や張春橋らの言うことだけを聞いて、他には耳を貸そうとしないのです。
しかし、もっと悪辣なのは周恩来でしょう。彼こそ、最もわれわれを憎んでいます。 国務院の勢力を挽回しようと、陰に陽に毛沢東に働きかけ、李先念達を復権させたかと思うと、最近は、文革で完全に失脚した登小平までも引き上げようとしている。
あんな反革命の“黒猫”までが復活してくるようだったら、もはや、われわれは存在のしようもなくなるというものです。 毛沢東、周恩来、それに江青グループを一網打尽にする以外に、われわれが勝つ道はないと思いますよ」
林彪 「お前は少し激し過ぎると思っていたが、こういう状態になってみると、それもかえって頼もしく思えるほどだ。 しかも、諸君、驚いてはいけない。毛沢東は、アメリカとの関係を改善するため、来年か再来年中に、ニクソンを北京に招くと言っていたぞ」
黄永勝 「本当ですか!」
呉法憲 「そんな馬鹿な!」
葉群 「なんと恥知らずな!」
林立果 「気でも狂ったのか!」
林彪 「本当だ。毛沢東は本気で考えている。 副主席である私に、誰よりも先に打ち明けるのだと言っていた。しかし、これは間違いなく、周恩来の考えに乗ったものだと言わざるをえない」
黄永勝 「周恩来がそそのかしたのだ。あいつは昔から“親米的”だったからな」
呉法憲 「ベトナム戦争で、あれほどアメリカ帝国主義を非難し弾劾してきたというのに、中国人民に対する重大な裏切り行為だ!」
林立果 「滅茶苦茶だ。気違い老人の妄想としか言いようがありません」
林彪 「私も、ソ連との関係をこれ以上悪化させないために、反対しておいた。 しかし、あの“もうろく爺い”は本気で考えているのだ」
葉群 「危険極まりないことですね」
林彪 「それが“革命的”外交だと言っていたよ」
黄永勝 「なにが革命的だ! 社会主義も資本主義も分からなくなったのか!」
呉法憲 「毛沢東思想とは、そういうものですかね」
林彪 「毛沢東の世界戦略からいくと、米中ソの“三国時代”にしようということらしい」
林立果 「『三国志』の読み過ぎで、頭がおかしくなってしまったんじゃないですか」
葉群 「アメリカの力を借りて、ソ連に対抗しようとでもいうのかしら。 それにしても、ソ連を敵にまわした上に、ベトナムを手放すようなものですわ」
黄永勝 「危険だ、まったく危険だ。 アメリカに中国を売り渡すような考えだ。私は真っ向から反対する!」
林彪 「もちろん、私も反対する。しかし、われわれにとって、これは願ってもない論争の良い口実になるというものだ。 これから党中央の会議で、対米接近に反対する論陣を張ることができるからな」
呉法憲 「徹底的に反対していきましょう。 そうすれば、毛沢東、周恩来を追い詰めてやることができます」
林立果 「専制君主、暴君、危険極まりない独裁者を追い落としてやるには、絶好のチャンスですよ」
林彪 「しかし、政治局や中央委員会では、われわれは必ずしも多数を掌握していない。 いざという時に備えて、こちらも最後の手段を考えておかなければならない」
呉法憲 「そうです。最後は軍事力が物を言う。 絶対極秘のうちに、準備を始めましょう」
葉群 「敵も最後の手段をきっと考えているでしょう。 李雪峰同志らを北京から追放したのも、われわれの軍事力を恐れているからです。来年が勝負ですわ」
林彪 「うむ、来年が勝負になるだろう。 ただ今のうちは、外面はあくまでも大人しく振る舞っていることだ。可哀想だが、陳伯達追放にも手を貸してやって、敵を安心させ油断させることだ。
あいつらを一網打尽にしたあとは、いつでも陳伯達を復権させてやることができる。 こちらの準備は、呉法憲同志と葉群が中心となって進めてほしい。絶対に敵に感づかれないようにな」
林立果 「私にも参加させて下さい。 私は、空軍の工作には自信があります。呉法憲将軍と一緒にやらせて頂ければ光栄です」
林彪 「呉将軍、それでよろしいか」
呉法憲 「結構です。 御子息は空軍の若手の将校には信望があります」
林彪 (林立果に向って)「よし、それではお前も呉将軍と一緒にやってくれ。 ただし、くどいようだが、あくまでも慎重に、絶対に敵に悟られないように気を付けてやれよ」
林立果 「もちろん、手抜かりなくやります。お任せ下さい。 われら空軍の力で“B-52”を撃墜するようなものですよ」
黄永勝 「B-52か、うまいことを言うなあ・・・アメリカに媚びへつらう毛沢東を撃ち落とすには、打ってつけの表現だ」
林彪 「うむ、十分に情勢分析をした上で、完璧なB-52撃墜計画を立ててくれ」
《第四幕、終了。 この後は、第104項目に続きます》