1) サッカーのアジアカップ大会が現在、中国各地で行なわれているが、大変気になることは、日本の選手やサポーターに対する激しいブーイングである。 本来、友好親善のための国際スポーツの大会で、どうしてこのような忌まわしいブーイングを受けなければならないのか。
重慶や済南で行なわれた試合で、日本は中東の各国と対戦したが、観客のほとんどは日本チームの敗北を願っていたようだ。 ブーイングはプレーに対して行なわれただけでなく、日本国歌の斉唱の時にも起き、数少ない日本人のサポーターは、警察の厳重な警備に守られて応援をする始末であった。
最近の中国情勢に詳しくない私は、この凄まじい“反日感情”に驚いたが、同様に受け止めた人も多いと思う。 中国の一部の観客は、日本のことを「侵略者」「鬼」と呼び、日本の選手団を「小日本人」と罵倒していた。 中国の対日感情は、一体どうなっているのか。
2) かつて、日本が中国を侵略したことは歴史的事実である。 従って、日中間に平和友好関係が確立した今でも、中国に反日感情が残っていても不思議ではないかもしれない。 特に重慶は、日中戦争のさなか、中国国民政府(蒋介石政権)の臨時首都になっていたから、日本軍の無差別猛爆撃を受け多数の死傷者を出したことで有名である。反日感情があって当然かもしれない。
しかし、これは今から60年以上も前のことである。 日本チームの若い選手はもとより、年寄りの私(62歳)でさえ生まれていない時代のことだった。もし、その時代の不幸な出来事を持ち出してくるとしたら、今どうして、友好親善の国際スポーツ大会を開くことができるだろうか。初めから、重慶でアジアカップ大会などやらなければ良かったのである。
日中双方の大きな努力によって、両国の国交正常化は32年前(1972年)に実現した。 当時、中国は毛沢東主席、周恩来首相が健在であり、日本からは田中角栄首相らが北京に入って正常化が成ったのである。
その後も両国間の努力が続き、正常化から6年後の1978年に、日中平和友好条約が調印された(当時、日本は福田赳夫内閣)。 この時、私は一記者として園田直外相に同行し北京に入ったが、その時のことは一生忘れられない。 尖閣諸島やソ連の「覇権主義」の問題で、両国は一時鋭く対立したが、結局「小異を捨てて大同につく」という形で双方が歩み寄ったのである。
以来、日中両国の関係は順調に推移してきたはずである。 あれから20有余年が過ぎたのに、何故ここにきて“反日感情”が表面化するのか。しかも、スポーツの世界は本来、政治の世界とは別次元のものではないのか。
3) 江沢民時代に「反日教育」が進んだという。愛国主義の裏返しで、かつての日本が“槍玉”に挙がったのだろうか。 しかし、国交正常化を契機にして、日本は過去の国家犯罪(侵略)を真摯に謝罪・反省し、中国側もこれに理解を示して両国は友好親善の道を歩んできたはずである。
昨今の尖閣諸島、靖国問題、日本企業による集団買春事件、日本人留学生による破廉恥な寸劇事件等々、いろいろなことが指摘されている。 しかし、日中両国の関係は、それらのことでは“びくともしない”絆で結ばれているはずだ。
日本のことだけが問題なのではない。中国側にも問題がある。 在日中国人留学生による一家4人惨殺事件、同じく在日中国人による凶悪犯罪の多発、尖閣諸島への示威的上陸、日中中間線を越える海底資源探査等々、日本としても黙視できないことが起きている。
こうなると、毎年2000億円を超える中国へのODA(政府開発援助)など止めてしまえ、という意見が出てくるのも不思議ではない。 宇宙への有人飛行を成功させ、他国に援助をしている中国に、なぜ日本がODAの供与をするのかという議論になってくるのだ。
4) 歴史的にも、地理的にも最も近い関係にある中国では、日本チームが最も温かい応援を受けるものだとばかりに、私は思っていた。 そう思っていた私は“浅はか”だったのだが、中国の反日感情がここまで高まっているとは、やはり驚きである。
さすがに中国政府系のマスメディアは、偏狭な愛国心、反日行為を戒めているようだ。 これは当然のことだと思うが、民衆の激情や盲動というのは、どういう方向に進むか分かったものではない。インターネットで煽りまくる連中もいるのだ。
もとより、一部の過激な言動で、日中友好関係を損なってはならないし、またその程度のことで両国関係が壊れるものではないと信じる。 しかし、予想外(?)の反日感情には、私はなにか“裏切られた”ような感じがしてならない。この四半世紀の日中双方の友好努力はどうなったのだろうか。 日本の選手団やサポーターに悪態をつく中国の若者を見ていると、かつての野卑な紅衛兵の姿を思い起こしてしまう。
あさって7日には、アジアカップの決勝戦が北京で行なわれる。 日本の決勝の相手は中国だから、観客席はほぼ全員、地元・中国チームを応援するだろう。それは当然のことだが、両国チームは正々堂々と戦った後に握手をし、お互いの健闘を称えあうことこそスポーツマンシップである。
4年後には、北京でオリンピックが開かれる。 国際的に躍進を続ける中国で、かつての侵略や無差別爆撃に何ら関係のない日本の若い選手達に、「侵略者」「鬼」などの暴言やブーイングが吐かれるようでは、日中友好親善関係を台無しにするだけである。 (2004年8月5日)