1) どうして、こんなにテレビを見たのだろう。17日間にわたるアテネ五輪が閉幕した。 朝から晩まで晩から朝まで、オリンピックのテレビ放送が続いていた。ブラウン管の前での一喜一憂は終り、睡眠不足も一段落して、ようやく通常の生活に戻ろうとしている。
オリンピックほど、人々を熱中させるものはないようだ。 世界中の優秀なアスリートが結集して栄冠を競う大会だから、関心を集めるのは当然かもしれないが、今回のアテネ五輪は日本選手が大活躍したこともあって、多くの日本人が寝不足になりながらも、テレビにかじり付いていたと思う。
年金生活でヒマを持て余している私は、日本選手が出る放送をほとんど見ていた。4年前のシドニー五輪の時とは比べ物にならない。 4年前は、私も現役の社会人だったから、そんなにテレビに釘付けになるわけにはいかなかったが、今回は心行くまでテレビを見ることができた。こんなにオリンピックを楽しんだことはない。
日本選手の活躍は素晴らしかった。 金メダル16個を含む、過去最多の37個のメダルを獲得した。金メダルの数も東京五輪と同じの最多タイ記録である。 柔道や水泳で続々と金メダルに沸いている最中に、あまり注目されていなかった体操の男子団体総合で、28年ぶりの優勝を飾ったのは非常に印象的だった。「体操ニッポン」の復活である。
柔道は野村忠宏選手の3連覇、谷亮子選手の2連覇など、8個も金メダルを取った。 水泳は北島康介選手が平泳ぎで2冠を達成、さすがだと感動していたら、ほとんど注目されていなかった(?)柴田亜衣選手が、800メートル自由形でまさかの金メダル!! 驚きと同時に歓喜に浸ったのである。
下馬評が高かった女子レスリングでは、出場4選手全員がメダルを獲得(うち金メダルは2個)、期待された女子マラソンも、野口みずき選手が中盤から独走状態でゴールインして優勝、また男子ハンマー投げでは、室伏広治選手が“繰り上げ”金メダルを取った。
その他にも、金メダルは取れなかったが、水泳や陸上の男子リレー、シンクロナイズドスイミング、男子レスリング、野球、ソフトボール、女子サッカー等、よく健闘していたものが多かった。
今さら私が、日本選手の活躍ぶりを記さなくても、誰でも分かっていることなのに、夢中で見ていた者として、どうしても記さずにはおれないのである。 自分のホームページに記すことに意義を感じるので、勘弁していただきたい。
2) しかし、ここで残念なことについても本音を言いたい。それは、特に「野球」だった。 オールプロの史上最強チームは、必ず金メダルを取ると誰もが期待していたが、結果は3位の銅メダルに終った。
「長嶋ジャパン」は予選リーグ(1次リーグ)で強敵キューバを破り、1位で決勝リーグに進んだ。 ところが準決勝で、予選リーグで唯一負けたオーストラリアに、またも敗退したのである。同じ相手にまさか連敗するとは思わなかった。私はがっくりと落ち込んだが、同様にショックを受けた日本のファンも多かっただろう。
オーストラリアは予選リーグを3位で通過するはずだったが、最後は手を抜いて敗れ4位で決勝リーグに進んできたという。 これは2位のキューバと戦うより、1位の日本と当たる方が“与(くみ)し易い”と判断したからだという。
準決勝のオーストラリア戦は、松坂投手が好投したものの日本は0ー1で敗れた。得点のチャンスがしばしばあったのに、結局打てなかったのである。 格下と見られる相手に連敗するとは、ほとんどの人が思っていなかっただろう。
解説をしていた星野仙一氏は「野球は難しいもの」と言ったが、1勝1敗ならともかく、連敗するということは、相手の方が野球をよく研究し、実力が上ということだ。 プロ野球関係者は、身内のことを悪く言わないだろうが、私は“おべんちゃら”が大嫌いだから、ここではっきりと言っておきたい。(年に何億円も稼ぐ選手がゾロゾロそろっているというのに・・・これ以上、言うのは止めよう)
もっとも、愚痴を言わせてもらえば、野球には予選リーグ1位の“メリット”が全くない。1位でも4位でも同じ条件なのだ。 その点、ソフトボールとは大きな違いがあり(1位と2位が優遇されるページシステム。これはなかなか良い方式である)、なんのための予選リーグなのかと恨めしく思ってしまう。
野球が金メダルを取り、東京五輪を超える金17個になって欲しかっただけに、落ち込んで暫く食欲も失った日本のオジサンとして、悔しくてつい愚痴が出てしまう。
3) 野球の話しはともかく、アテネ五輪は開会式も閉会式も素晴らしかった。 特に開会式は、ギリシャの歴史・伝統と現代的な科学技術の粋が見事に調和されていて、平和の祭典にふさわしい雰囲気を醸し出していた。さすが、オリンピックの“聖地”ならではの風格、威厳、誇りを示していたと思う。
ただ残念だったのは、この大会はあまりにドーピング(禁止薬物使用)違反が多かったことである。違反は過去最多の24件に上り、メダルをはく奪された者が7人もいた。ドーピングは極めて計画的に、巧妙に、陰険に行なわれているようだ。
こうなると、オリンピックは今まで「政治」に翻弄されることが多かったが、これからは「ドーピング」によって泥沼にはまり込む危険性が高まってきたと言える。 科学の進歩は、ドーピングという“怪物”を育ててきたようだ。
遺伝子工学の発展で、「遺伝子ドーピング」も可能になってきたという。 科学の進歩が、純粋なオリンピック精神を破壊する時代に突入したのだろうか。これこそ危機である。 政治やテロとは全く異なる次元での危機だ。
将来、そんなことは想像したくもないが、遺伝子ドーピングによる“サイボーグ”のような選手が登場するのだろうか。 そんな選手が、100メートルを6秒で走ったり、走り幅跳びで12メートルも跳ぶようになったら、オリンピックもお終いである。
もちろん、これは現段階では全く“杞憂”であるが、科学技術の恐るべき進歩が可能性を示唆している。 オリンピックでもどんな競技会でも、人間の自然で純粋な肉体が競うから尊いのであって、遺伝子ドーピングによる選手が密かに出るようになったら、これは事実上「人間ロボット」の競技会に成り果ててしまう。
こういうことは絶対にあってはならないが、クローン人間の実現が云々されるような昨今である。 遠い将来、“フランケンシュタイン”のような選手が登場する可能性も、馬鹿な話しと一笑に付すことはできないだろう。 ドーピングの問題は、オリンピックに大きな影を落としている。
4) ドーピングで思い出したが、前回のシドニー大会の時は、中国の「馬(マー)軍団」と呼ばれる陸上選手らが、ドーピング疑惑で大勢参加を取り消したことがある。 4年後の次回オリンピックは、北京で行なわれる。アジアの大国である中国の真価が問われよう。
アテネ五輪の閉会式の時は、音楽演奏や美しい舞踊などを披露して、中国は次回開催国として華やかなアピールを行なっていた。 「WELCOME TO BEIJING」の赤い巨大な横断幕が広がり、オリンピック開催への並々ならぬ熱意が伝わってきた。中国のことだから、きっと見事な大会を実現してみせるだろう。
その点は期待できるが、先のサッカー・アジアカップ大会で起きたように、騒ぎだした群集が外国(日本)の国旗を燃やしたり、外国公使が乗った車を襲撃したり、外国選手団の乗ったバスに投石するなど、野蛮な行為を繰り返せば、世界中の物笑いになるだけだ。 これからの4年間で、中国は自国の“民度”をどの位い高めるかが焦点である。(よもや、そんな馬鹿げた騒動は起きないと思うが)
アスリート達は早くも4年後の北京を目指している。4年後には、日本選手のどんな活躍が見られるだろうか。 私の手元にいま、40年前の東京オリンピックのグラビア写真集(アサヒグラフ増刊号・280円)がある。
女子バレーボールで優勝した日本チーム(“東洋の魔女”)、マラソン2連覇のエチオピアのアベベ、女子体操の花・チャスラフスカ、20世紀最高の泳者と言われたショランダー、世界一速い男・ヘイズ等々・・・東京五輪のスーパースターの英姿が残っている。
この写真集は死ぬまで持っているつもりだ。 40年前、大学を出て私が就職したのがテレビ局、報道の仕事に回されて初めて「企画」を受け持ったのが東京オリンピックだった。 五輪施設を特集せよとの指令を受けて、重いデンスケ(録音機)を肩にかつぎ、カメラマンと共に駆け回ったのが国立競技場、代々木総合体育館、東京体育館、駒沢競技場、選手村etc.
取材のイロハも分からず、原稿の書き方も未熟、「企画」構成の仕方は全くの“素人”・・・上司のデスクに叱られ、指導を受けつつ、なんとか約4分の「企画」にまとめあげて放送した。 あの時の感動は忘れられない。それは東京オリンピックと共にあった。
そして、あの年の10月10日、われわれは秋晴れのもと開会式を迎えた。私の社会人としての原点は東京オリンピックにあったと思う。 あれから40年、アテネ五輪の感動と興奮を終えて今、4年後の北京オリンピックを待つ。
4年後の大会は、ほとんど時差がないから、徹夜しなくてもテレビを見ることができるだろう。 オリンピック・・・4年に一度という祭典が意味を持つ。貴方はこれからの4年間にどうなりますか? 老いも若きも4年間にどう変貌するのだろうか、変貌しないのだろうか・・・ (2004年9月1日)