フジテレビ vs ライブドア

1) ライブドア(堀江貴文社長)がニッポン放送の経営支配を目指して、フジテレビと熾烈な株式争奪戦を繰り広げていることが、大きな話題を呼んでいる。 戦いの決着は司法の場に移されるまでになった。どちらが勝つか、予断を許さない状況が続いている。新聞、テレビ、週刊誌等のマスコミは、連日のようにこの話題で持ち切りだ。

 38年間もフジテレビで働いていた私は、極めて複雑な心境である。その心境をどう説明したらいいのか、適切な表現が見当たらない。 ライブドアによる今回の「株式買収騒動」は、闇夜で背後から突然襲われたと言ってよいのか、異星人に突然襲撃されたと言ってよいのか、眼前に巨大な“黒船”が突然現われたと言ってよいのか、なんと表現したらいいのか分からない。 とにかく、びっくりした。

「ホリエモン」の愛称で親しまれている堀江社長は、超有名人だ。 昨年、経営不振だった近鉄バファローズの買収に乗り出し、プロ野球に新規参入の手を挙げたことから、一躍“時の人”になった。結局、プロ野球には参入できなかったものの、32歳という若さと果敢な行動力、パーソナリティが人気を集めている。

 堀江社長はマスコミ界の“寵児”になった感があり、特にテレビやラジオなどでは引っ張りだこであった。各局の番組にしょっちゅう出演し、フジテレビのある番組ではレギュラーゲストにもなっていた。 今回、その「ホリエモン」が突然牙を剥(む)いた形になったので、フジテレビに関係のあった私などは、表現は適切でないが“飼い犬に手を噛まれた”ような感じがするのである。

 ところが、世の中は「M&A」なるものが当然だそうで、堀江社長に好意的な見方も数多く出ている。多分にミーハー的な要素が強いようだが、「ホリエモン」を応援する空気が醸成されつつあるのか、某テレビ局の世論調査では、ライブドア支持がフジテレビ支持を上回っているそうだ。

 私も人間的には「ホリエモン」が好きである。まるで織田信長のようだ。信長は若いエネルギーと行動力で、新時代を切り開いた。 同じように、インターネットのニューヒーローは、マスコミ界に新時代を切り開こうというのか。彼は、フジテレビやフジサンケイグループがいろいろな意味で魅力があり、可能性があって好きだと言っている。

 フジテレビOBの私としては、それは嬉しいし有り難いと思う。しかし、「ホリエモン」ファンからは反発を買うことを承知で言えば、それは“有り難迷惑”ということだ。 人から好かれ愛されるというより、まるで強姦されるように感じてしまうのだ。古いかもしれないが、フジテレビ元社員としての率直な感想である。

2) 一ラジオ局の買収騒動など、天下国家の一大事に比べれば取るに足りないことだ。しかし、それが“裁判沙汰”になるということが関心を呼んでいるのだろう。 しかも、フジテレビも「ホリエモン」のライブドアも、人気者同士だ。人気者同士の戦いは面白い。どちらが勝つか、興味津々だ。

 そんな気軽なことが言えるのも、自分がOBだからである。もし今、自分がフジテレビに在籍していたら、それどころではないはずだ。気が気でないだろう。 そう考えると、フジテレビに未だに多くいる友人、知人、同僚らに「大変だね、ご苦労さん」の一言ぐらいは言っておきたい。

 ところで、ニッポン放送の株式問題というのは、昔からいろいろの“因縁”がる。すでに幾つかのマスコミが報じているから、多言は必要でないかもしれない。 要するに、創業者である鹿内信隆氏の一族=鹿内家の株支配が、因縁の元である。

 この鹿内家の株支配が様々の問題の根底にあったから(説明すると長くなるので省略する)、今回、フジテレビはTOB(株式公開買い付け)を発動して、ニッポン放送の完全子会社化を目指して動いていたのだ。 ところが、そこに思いもよらぬ横槍が入った。ライブドアによるニッポン放送株の大量取得である。事態は急変、フジテレビ対ライブドアの全面戦争に発展した。

 若い人達は知る由もないだろうが、われわれ年配の者には、鹿内家の株支配というのが頭の中にこびりついているので、そこに“因縁”めいたものを感じるのである。 それは今、同じく問題になっている、コクドと西武鉄道をめぐる堤家の株支配を連想させるものだ。

 因縁を断ち切ろうとしたのに、そこに新たな難問が発生するというのはどういうことか。仏教では“因果応報”という言葉があるが、そういうことなのか。 なにか“おどろおどろしい”話しになってしまったが、今回の株式買収戦争に、年寄りの私は「鹿内家の怨霊」のような因縁めいたものを感じるのである。

 怨霊とか祟りとか、非科学的な事に私は興味がない。しかし、鹿内家の株支配をゼロにした途端、「ホリエモン」という“怪物”がニッポン放送に現われるとは、なんと因果なことか。 私の脳裏で、堀江社長の顔があの鹿内信隆氏の幻影に結び付いていく。フジテレビが勝てば、その幻影も消滅するだろうか・・・しかし、勝負はまだ分からないのだ。

 私の家に一枚の版画がある(わが家で唯一のお宝!)。このピカソの版画は、私が34年前に結婚した時、当時フジテレビ社長だった鹿内さんからお祝いに頂いたものだ。(その頃、鹿内社長は社員の結婚祝いに、絵画などの美術品を贈っていた。)

 その版画(裸女と奇妙な子供が描かれている? ピカソなのでよく分からない)を見ていると、時たま鹿内さんのことを思い出す。 ニッポン放送の創業者で、フジサンケイグループに君臨した鹿内さんはいま、草葉の陰で今回の買収戦争をどのように見ているだろうか。「俺のつくった会社は、どうなるんだ?」と呟いているかもしれない。

 世の中も人生も、古い戦いが終ると新しい戦いが始まる。 ニッポン放送をめぐるフジテレビとライブドアの戦いは、諸々の意味合いを含めて興味津々だ。証券取引きの問題だけでなく、将来、電波や放送の「規制」と「自由化」の問題にも波及していくかもしれない。筆者としては、また機会があれば、この戦いの意味合いについて論述していきたい。

 最後に、フジテレビ社員だった私は、ニッポン放送出身の先輩方に大変お世話になったことがある。それを思うと、今とても辛い立場にあるだろうニッポン放送の社員達に、同情と共感の念を抱かざるを得ない。 心から「頑張れ!!」とエールを送りたい。(2005年3月3日)

追記・・・フジテレビとライブドアが4月18日、資本・業務提携することで合意し和解が成立、ニッポン放送はフジの子会社になることが決まった。 結果は双方“痛み分け”という形になったが、結構なことである。(2005年4月19日)

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