「小泉自民党」が歴史的大勝利、衆院選を総括する

1)プロローグ・・・開票速報

 9月11日に行なわれた第44回総選挙(衆院選)は、自民党が過半数を大きく上回る296議席を獲得、公明党と合わせると、与党陣営は327議席と、全議席の3分の2を超える“地滑り的大勝利”を収めた。 これに対し、野党第一党の民主党は、改選議席を64も下回る113議席しか取れず惨敗した。自民党と民主党は明暗をはっきりと分けた。 なぜ、このような結果になったのか?

 総選挙の結果を検証する前に、最も衝撃的だったのは、11日夜のテレビ各局の開票速報だろう。 午後8時の投票終了を待ちかねていたように、各局が打ち出した各党の議席獲得予測を見て、私は目が眩むような思いをした。

 投票所の出口調査を元にした予測によれば、自民党は304〜309議席、民主党は101〜105議席となっているのだ。 投票前のマスコミの世論調査などで、自民党が選挙戦を優勢に進めているのに対し、民主党は都市部を中心に大苦戦を強いられていることは承知していた。

 しかし、私の“拙い予測”では、自民党は最大限270議席、民主党は最小限150議席に止まると思っていたから、テレビ各局の予測は驚き以外の何ものでもなかった。 呆然とした思いで各局の開票速報を見ているうちに、自民、民主など各党の獲得議席は、それらの予測にどんどん近づいていった。

 結果として、自民党は300議席の大台には届かず、民主党も110議席を割り込むことはなかったが、私は自分の予測がいかに拙いものであるかを痛感した。 選挙には“勢い”というものがある。“弾み”というものがある。そんなことは百も承知だが、私の予測をはるかに越える事態にただ目を見張るだけだった。

2)高い投票率

 今回の総選挙の特徴は、まず投票率が高かったということだろう。 投票率の高さは20世紀のある時期に比べれば劣っているが、67.51%と前回選挙(2003年)より7.65ポイントも上昇した。 ちなみに前回、全国で最も投票率が低かったわが埼玉県も、今回64.88%と10.90ポイントも伸びて、ワーストワンの汚名を返上した。

 これほど投票率が上がったのは、有権者の関心が今回は相当高かったということだが、これは各マスコミが伝えているように、小泉総理による異例の「郵政解散」、自民党の分裂選挙、“刺客”候補の送り込みなどが国民の間で大きな話題になったからだろう。

 今回は仕事場や昼休みの食事時、居酒屋での話題が「選挙」だったり、親子の会話の中身が「郵政民営化」の話しになったというから驚きである。(そんなことは滅多にないだろう!) これは、よく言われる“小泉劇場”の出し物が全国に蔓延したからである。

 投票率が上がって得をしたのは、もちろん「小泉自民党」である。 投票行動の分析は、すでにマスコミが嫌というほど行なっているから省略するが、どうしても指摘しておきたいのは、今回は自民党が唯一の改革政党というイメージ作りに成功した点にある。

「郵政民営化」は正論であり、これを実現できるのは自民党だけというイメージを国民の心に植え付けた。(もとより、公明党も郵政民営化を訴えていたが) このため、自民党を離れた民営化法案反対組や野党は、改革を妨害する“悪玉”“抵抗勢力”という単純な図式が定着し、自民党に地滑り的な大勝利をもたらしたことは間違いない。

 投票率が上がったのは浮動層(無党派層)が動いたからだが、彼らの多くが民営化法案に賛成というよりも、改革の旗手は小泉さん、改革の担い手は自民党という意識を持ち、「小泉自民党」は日本を良くする唯一の“改革勢力”“善玉”と捉えて投票したのだろう。

3)小選挙区制の怖さ

 次に、これほど小選挙区制の怖さ、凄さを思い知らされた選挙はない。 小選挙区は一人しか当選しないから、ある政党が流れを引き寄せると、まるで「ドミノ倒し」のように次々と当選者を出していく。当選者が全て自民党という県もあれば、兵庫県のように自民党と公明党の選挙協力で、12の小選挙区で与党連合がオール一本勝ち、民主党は全敗というのもあった。

 東京では、25の小選挙区で与党側が24勝1敗(自民党23勝、公明党1勝)、つまり民主党は1勝24敗で、第18区の菅直人氏だけが辛うじて勝つという有様だった。 要するに、地滑り的に当選するか雪崩を打って落選するかという現象が、至る所で見られた。(神奈川県の18小選挙区でも、民主党は全滅した。)

 もともと、二大政党化を目指して小選挙区制を導入した側面があったと思うが、結果は無惨なものとなった。 自民党が巨大政党になったのに対し、民主党の議席は自民党の半分どころか、3分の1近くにまで減少してしまった。民主党は大政党どころか、中政党に転落したのである。

 比例区との重複立候補制など、衆議院の選挙制度にはいろいろ問題点があると思うが、ここはそれを論じる場ではないので控えたい。 ただ小選挙区で、民主党は自民党の76%余りの得票率がありながら、獲得議席は52と、自民党(219議席)の4分の1にも満たないというのには疑問を覚える。 小選挙区制が持つ特徴、その怖さ、凄さを見せつけられた総選挙だったことを記しておきたい。

4)権力の凄さか? 踊らされたマスコミ

 小泉総理の政治手法は、よく「ワンフレーズ・ポリティックス」と呼ばれる。短い言葉で端的に事の本質を言い表わす手法は、分かりやすくて良い。 今回の選挙では、もとより「郵政民営化」である。「郵政、郵政、郵政!」と何百回言っただろうか。

 言葉は悪いが「馬鹿の一つ覚え」のように、同じフレーズを繰り返し繰り返し述べれば、聞いている方だって頭の中に入るというものだ。 いろいろ理屈を並べて、年金や財政改革などの専門的な話しをしたって、庶民の頭の中にはなかなか入らない。

 また、この「ワンフレーズ・ポリティックス」の手法は、簡潔で力強い。人の心に残りやすい。かつて、ヒトラー率いるナチスがよく使った手だ。 戦前の日本でも「鬼畜米英、鬼畜米英、鬼畜米英!」とどれほど言っただろうか。それによって、国民が洗脳され奮い立った例がある。

 もとより、小泉さんはファシストでも軍国主義者でもないが、その“カリスマ性”を生かして有権者をぐいぐいと引っ張っていったのは事実である。 そこに、強いリーダーシップを感じたのは私だけではなかろう。国民の多くが、あたかも「マインドコントロール」を受けたかのように、彼の意志に服していったような気がしてならない。

 また、国民だけでなく既存のマスコミも、批判精神を失ったかのように、極めて理不尽な今回の解散・総選挙に踊らされたのは事実である。 よく言われる“小泉マジック”“魔法の杖”に引っ掛かったと思わざるを得ない。 それが権力の凄さなのだろうか。

 解散そのものへの疑問や批判が、既存のマスコミからどれほど出ていただろうか。「解散権の濫用」という問題をどれほど追及しただろうか。ほとんど皆無に近い。 こんなマスコミではもう信用できない。戦前、戦争に批判的であったはずのマスコミが、ひとたび戦争が起きるともう有頂天になって、戦争を批判するどころか、戦争報道だけに熱中した“過ち”と酷似している。 (踊らされたマスコミについては、先の「“小泉ポチ外交”の破綻、馬鹿の一つ覚えの“郵政”」を参照して頂きたい。)

5)エピローグ・・・民主党よ、くじけるな!

 予想をはるかに越える惨敗を喫して、民主党は“哀れ”そのものだ。中政党に転落して今後、巨大与党に対抗していけるのだろうか。 大敗北の責任を取って岡田代表は辞任し、後継党首選びに入っているが、その前途は極めて厳しいものがある。

 敗因の分析はいろいろ行なわれているが、問題は、寄り合い所帯の民主党がこのまま“ジリ貧”を続けて、かつての社会党のように衰退・弱小化への道をたどるのか、それとも立ち直れるかということである。

 善し悪しは別として、二大政党化への志向が現実のものとなっているから、このまま民主党が消滅していくとは考えられない。 しかし、今回の選挙を見る限り、改革への取り組みや意欲が希薄だという印象を国民に与えたのはまちがいない。野党第一党としては、これは深刻である。

 ふつう、野党第一党は、政権与党に取って代る改革プログラムと斬新な政策を打ち出すものだが、今回はその点が特に失敗したと言ってよい。 マニフェストは出したが、有権者にどれほど伝わっただろうか。都市部での大敗北を見る限り、改革政党どころか、改革を邪魔する“抵抗勢力”のように映ってしまったようだ。

 このため、郵政民営化問題では、関係労組の支持を受けていることもあり、改革を先送りする政党だと自民党に“烙印”を押された形となった。 一部の労組や特定団体に支持される政党というイメージでは、国民全体を相手にする選挙では勝てない。

 そうは言っても、他に強力な野党があるわけではないので、民主党の存在価値はまだ高いはずだ。民主党が弱小政党になってしまえば、自民党が大分裂しない限り、強力な野党は存在しなくなる。 従って、政権交代を可能にする二大政党化を善しとするなら、ここは民主党にもう一度頑張ってもらうしかない。

 民主党の前途は、極めて厳しいものがあるだろうが、党内でも「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」が囁かれている。 捲土重来を期して、民主党が再出発することを祈る。(2005年9月14日)

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