もう40年以上も前の話で恐縮だが、「憲法9条」について、忘れられない思い出がある。 当時、私は大学1年生で、最後の期末試験に臨んでいた時である。ところが私自身は、過激な学生運動から脱落した直後で、心身共に疲労の極に達していた。いわゆる「挫折」、「転向」した直後のことである。
これは体験してみないと、なかなか理解してもらえないだろうが、虚脱感にさいなまれて、もうどうして良いのか、全く分からない状況であった。絶望のどん底に突き落とされたようなものだ。 従って、期末試験の勉強なんか何もしておらず、何も手がつけられない状態だった。
しかし、何もしないでみすみす1年棒にふるのもイヤなので、とにかく試験は受けてみた。結果は惨澹たるものであった。5課目ぐらいは「不可」がはっきりしていた。 そして最後の頃に、「法学概論」の試験があったと思う。
これも試験用紙を見たら、分からない問題ばかりであった。白紙で答案を出そうとしていたら、その中に「憲法9条と自衛隊」についての設問があった。どういう設問趣旨だったか覚えていないが、私は急に答えを書きたくなりペンを走らせた。 答案の一字一句まで覚えていないが、概略以下のとおりである。
「憲法9条の第2項では、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しないとある。ところが、自衛隊は明らかに戦力を保持しており、『その他の戦力』に該当する。従って、自衛隊の存在は憲法に違反する。よって、自衛隊は廃止されなければならない。 しかし、唯物論的見解から言えば、現実に存在する下部構造が、法律などの上部構造を変えていく歴史観を取っている。 従って、逆に自衛隊の存在を確認することにより、理論的に整合性を持たせるため、憲法9条の方を改正しなければならない。」
随分無茶な答案だと思うが、私はそれを提出して、さっさと教室を出ていった。他の設問には全て白紙だったので、結果は、勿論「不可」であった。ただし、「法学概論」の担当教授がマルクス主義的な人だったので、私は内心ほくそ笑んでいた。唯物論から言えば、そういう答案になっても、おかしくないと考えていた。
あれから40年以上たったが、その時の思い出はいまだに鮮烈に残っている。 最近、憲法のことに随分関心を持ってきたが、唯物論はさておき、9条についての私の結論は変わっていない。「自衛権」や国際法、国連憲章等を検証していけば、おのずと憲法9条は改正されなければならない、と確信するようになった。 勿論今では、マルクス主義者でも唯物論者でもないが、結論だけを見れば、40年前とは変わっていないのである。 憲法9条の改正問題を考える時、私は40年前の出来事が、しばしば眼前に浮かんでくる。(2002年2月17日)
(ちなみに、大学2年の夏休みに、私は「法学概論」の補習授業を受け、その時は真面目に講義を聴いたので、追試験でめでたく「優」を取ることができた。)