“老夫婦”の表現に傷つく

1) 先日の夜、私は妻と一緒にテレビを見ていた。 我が家は地元のケーブルテレビに加入しているので、たまたまCS放送を見ていたら、「JNNニュースバード」というチャンネルに出会った。 この放送はニュース専門チャンネルである。

 私はもともとニュース番組が好きなので、気持良く発泡酒を飲みながら見ていた。 このチャンネルは、TBSが4月からスタートさせたもので、地上波でも放送したニュースを克明に繰り返し放送している。 ニュースには目が無い私には有難いチャンネルである。「ニュースを伝える」という姿勢が良く出ていて好感が持てた。

 ところが暫くして、「新潟で60歳と58歳の老夫婦が殺された」というニュースを放送した。“老夫婦”が殺されるという字幕スーパーも出た。その瞬間カチンときた。60歳と58歳が、どうして老夫婦なんだと。 ほろ酔い気分が冷めてしまった。というのも、私はちょうど60歳で、妻ももうすぐ55歳になろうとしている。 ということは、いま我々二人が殺されたら、やはり“老夫婦”ということで放送されるのだろうか。

 冗談じゃない! 老夫婦なんて言われるのなら、死んでも死にきれない。 そういう気持を妻に言ったら、「そおねえ、おかしいわね」と答える。 私はムカムカしてきて発泡酒をぐいっと飲んだ。 電話をしてやろうかと思ったが、それも大人気ないかもしれないので暫くニュースを見ていた。 しかし、どうしても納得いかない。そこで、やはりTBSに電話をすることにした。

2) 夜8時半を過ぎていたと思うが、TBSに電話をすると交換手が出てきて、すぐに担当者につないでくれた。 そこは「視聴者センター」か現場の担当席か分からないが、落ち着いた声の男性が出てきた。とても丁寧で誠実な感じがする。 私の方も丁寧に「“老夫婦”というのはおかしいですよ」と言うと、彼の方も「そうですね、分かりました」と素直に答えてくれた。

 電話を切ると私の気持も治まって、やはり電話して良かったと思った。 さて、その後考えていると、あのニュース原稿は若い人が書いたのだろうか、と思ってしまう。 若い人から見ると、60歳でも58歳でも老人ということになるのだろうか。 しかし、これはおかしいし間違っている。統計を取る場合でも、「老年」というのは65歳以上のことを指すのである。

 従って、夫婦とも65歳以上の場合、初めて“老夫婦”と言うべきである。 片方が65歳未満であれば、単に夫婦でもよいし“熟年夫婦”とか他に言い方があると思う。 60歳の私よりも、まだ55歳になっていない妻の方がプリプリと怒っていた。

3) しかし、こういうミスはよくあるものだ。 私もフジテレビで「視聴者センター」の仕事を3年やっていたが、ニュースその他で「60歳のお年寄り」とか「62歳の老人」という言い方をすると、すぐに年配の人達から多くのクレームの電話が入った。 もっともなことなので、こちらも「以後気をつけます」と謝ったものだ。 そして、できるだけ早く正確に、放送現場の担当者に、そういうクレームが入ったことを連絡していたのである。

 定年になった私は、今ではテレビを見る側に移ったので実に気楽である。 テレビを見る時間も増えたが、事実や表現の間違い、ミスはけっこうあるものだ。勿論いちいち放送局に電話をすることはない。 文字の間違いはよくあるが、そんなものは番組担当者がすぐに気がつくだろう。そんなことでは電話はしない。

 しかし、事実の間違いについてはできるだけ指摘しようと思う。 意外に担当者が知らないことが多いのだ。視聴者も間違って理解してしまう恐れがある。こういう場合は早く指摘してあげた方がいい。 番組放送中に訂正も早くできるからだ。

4) 余談になるけれども、テレビ局には実にさまざまの電話が入ってくる。 嫌がらせやどうしようもない電話も多いが、中には番組や放送局にとって大いに参考となる意見、指摘等も少なくない。 視聴者に助けられるようなものだ。

 私の3年間の「視聴者センター」時代、本当に感謝したくなるような素晴らしい電話が10数本(厳しく数えて)はあったと思う。 ある番組の内容等についてのご意見、ご指摘だが、専門筋の話なので実に教えられ参考になった。

 我々センターの人間は滅多に本名は言わないが、こうした素晴らしい内容の電話があった時、私などは自分の方から名乗って「何かありましたら、是非またお電話を下さい」と言ったものだ。 それほど見識の豊かな視聴者も大勢いる。

 大体、テレビ局や新聞、雑誌等のマスメディアで、視聴者や読者からの反応や意見がなくなったら、もうおしまいだ。 テレビ局に一本も電話がこなくなったら、そのテレビ局は終わりだ。 どうしようもない、下らない電話も数多くあるが、中には宝石のようにキラリと光る電話もあるのだ。

「テレビ局の常識は、社会の非常識」といった面が、なきにしもあらずである。 テレビ局を卒業した私としては、今や“ゆとり”を持って世の中を見ているので、何かあったら、できるだけ積極的にテレビ局に電話をしていきたいと思う。 (2002年4月16日)

 トップページに戻る