痛憤の涙のあとで・・・北朝鮮問題を考える

1) 北朝鮮による日本人拉致犯罪で、今のところ、8人の方の死亡が発表されてから3日がたった。 この忌まわしい出来事に流した涙も、今ようやく涸れ果てようとしている。 少し冷静な気持に帰って、北朝鮮問題を考えていきたい。

 在日朝鮮人の中には、北朝鮮による拉致や工作船などに、協力した人達が大勢いるといわれる。 実際、そういう人達がいなければ、いろいろな工作を成功させることはできない。 祖国・北朝鮮のために積極的に協力した人もいれば、本国にいる親族の安全を守るために、不承不承協力させられた人もいるだろう。 また、覚せい剤などの取り引きで、利益をあげるために動いた人もいるだろう。

 いずれの場合も、日本側から見れば明らかに犯罪行為であり、断じて許すことはできない。 しかし、問題は、どうしてこのような犯罪行為が繰り返されてきたかということだ。 一つには、人間の感情として、過去の日本による朝鮮の植民地支配に対する、拭いがたい怨念、憎悪などがあることは間違いない。 言うなれば、日本への復讐である。

 もう一つは、こちらの方が重要な点だが、金日成・金正日体制への盲目的な追従である。 愛国心は大切だが、北朝鮮の建国者・金日成と、その息子である金正日に対する、徹底した崇敬、崇拝である。

 そうした感情が間違っているとは言わないが、悪辣な犯罪行為の背景に、そうした感情がねじ曲げられて、確信犯的な行動を取らせたと言えるのではないか。

2) 話がやや理屈っぽくなってしまったが、拉致にしろ不審船にしろ、断じて許すことはできない。 今回の日朝首脳会談で、金正日は「拉致」の事実を初めて認め謝罪した。 また「不審船」についても再発の防止を約束した。 他にミサイル発射の無期限凍結など、首脳会談の成果は確かにあったと言える。

 しかし、勿論問題がなくなったわけではない。「拉致」については、死亡者、生存者等について余りに不明な点が多く残っており、当然、今後の真相解明が待たれる。 幾人も殺されたという見方が有力であり、犯罪責任者の日本への身柄引き渡しや補償など、重要な懸案が残っている。

 こうした問題はさておき、今後の最も重大な課題について触れたい。 それは、「金正日体制」を認めるかどうか、ということである。 私の結論を先に言えば、この体制は絶対に認められないということである。

 金正日は、20数年前の拉致犯罪について「私は知らなかった」と言ったそうだが、こんなことは笑止千万である。 当時、彼が工作の最高責任者であったことは、明々白々たる事実である。 彼に責任がないなどとは、小学生でも騙されないだろう!

 新聞報道によれば(9月20日付け読売新聞朝刊)、北朝鮮ではその当時、自分の名前が付いた「金正日政治軍事大学」で、世界各国から拉致してきた被害者を教官にして、“現地人化教育”のスパイ養成が行なわれていたという。

 金正日こそ、拉致犯罪の最高責任者であったことは疑いのない事実である。 それなのに「私は知らなかった」と、よくもヌケヌケと“真っ赤なウソ”がつけるものだと唖然としてしまう。 厚顔無恥とはこのことだ。

 こうした男が、国家の最高指導者であることに、北朝鮮の不幸、悲劇があるのではないか。 在日朝鮮人の皆さんはどのように思われるのか。

3) 小泉首相が訪朝する前に、ほとんどの識者は、金正日が「拉致」の事実を認めることはないだろうと述べていた。 これは当然のことで、これまで北朝鮮は「拉致などはでっち上げだ」と、日本に抗議していたほどである。

 従って、今回の首脳会談で金正日が「拉致」の事実を認めたことに、驚きの声が上がっている。「不審船」も北朝鮮がやったことを認めた。 わが外務省は「勝った、勝った」という気分だろう。 要するに、犯罪の最高責任者が、犯行を自供したのである。

 問題はこれからだ。 犯罪を自供し証拠も次々にあがってくれば、その犯罪者は当然罰せられなければならない。それが法治社会、法治世界のルールである。 金正日は「拉致」の責任者を処罰したと言ったが、先程も述べたように、拉致犯罪などの最高責任者は金正日その人である。 また彼は、国家の最高指導者でもある。 当然、金正日の責任も追及されなければならない。 私の言っていることが、間違っているだろうか。 日本人は勿論、在日朝鮮人の皆さんはどのように思われるか。

4) 金正日は徹底した“力の信奉者”で、「軍隊さえあれば、この世にできないことはない」と言ったそうだ。 だから「日朝平壌宣言」も、彼は国防委員長の肩書で署名したのだろうか。 軍事優先の姿勢がはっきりと読み取れる。

 北朝鮮がミサイル発射を次々に行ない、核開発を推進してきたことは誰でも知っている。 こうした姿勢が「悪の枢軸」と言われる由縁だが、金正日が国家の最高指導者でいる限り、そうした姿勢は変わらないのではないか。 要するに、北朝鮮は近隣諸国の“脅威”なのである。

 こうした軍事優先の姿勢はともかく、北朝鮮が内政面で食糧不足、饑餓に苦しんでいることは衆知の事実だ。 日本など各国の食糧支援にもかかわらず、事態は深刻のようである。 何故このような事態に追い込まれているのか、私のような素人には分からないが、端的に言って、政治体制に問題があるのではないか。

 また、社会主義独裁国家ということで、自由や人権が抑圧されていることも、報道その他で我々は知らされている。 ここで詳しく述べる時間はないが、北朝鮮からの亡命者、難民らの声をマスメディアで聞いていると、それは相当に苛酷なものである。 だから亡命者、難民が跡を絶たないのだろう。

 こうした事態は、北朝鮮の国民にとって不幸である。なんとかしなければならない。 しかし、現在の政治体制、即ち朝鮮労働党の一党支配の下で、不幸な事態は改善されていくのだろうか。改善されていくのであれば、それで良いだろう。 しかし、私から見れば、改善されることはほとんど困難だと言わざるをえない。

 北朝鮮の国民が、社会主義独裁や軍事優先国家が良いと考えるなら、それは仕方がない。 しかし、少しでも生活の豊かさや自由、人権のことを考えるなら、現在の政治体制を変えない限り、それは無理である。

 ここではっきりと言いたい。 北朝鮮国民が生活を少しでも豊かにさせ、自由と人権を享受したいなら、自由な民主主義国家に生まれ変わるべきである! 現在の政治体制を放棄し、民主主義国家として再生すべきである。 東ヨーロッパの諸国や旧ソ連邦などは、皆そうしてきたではないか!

5) もし北朝鮮が生まれ変わるとか、南北統一を果たしたいと思うなら、それの最大のネックになっているのは何なのか。 それは正しく、現在の北朝鮮の政治体制である。 金正日をトップとする社会主義独裁体制である。この体制が崩壊しない限り、それは実現不可能である。

 今回の日朝首脳会談で、北朝鮮は「犯罪国家」であることを立証した。ほとんどの日本国民は怒っている。 拉致や不審船はもう二度とないだろうが、国交正常化へ向けて拭いがたい不信、疑心を生じさせた。このことは重大である。 北朝鮮が生まれ変わらない限り、国交正常化をすべきではないと考える日本人が増えているのだ。 私もそう思う。

 北朝鮮が平和を愛好する民主主義国家になれば、日本人は誰もが国交正常化を歓迎し、それを祝福するだろう。 しかし、今の政治体制下の北朝鮮に対しては、疑心、不信が渦巻いており、とても安心して正常化を望める状態ではない。

 それでも正常化を果たしたいのであれば、正常化の過程で北朝鮮の政治体制が変化していかなければならない。 何故なら、いちいち具体的に述べる必要もないが、北朝鮮はこれまでに余りに多くの不信行為を繰り返してきたからだ。 日本人や在日朝鮮人の皆さんは、どのように思われるか。

「悪の枢軸」だとか「犯罪国家」などと呼ばれて、北朝鮮は面白くないだろう。 しかし、ここ20年来の事件や出来事は、それを明白に立証している。 今の金正日体制がなくならない限り、真に友好的な国交正常化は実現不可能である。 (2002年9月20日)

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