恋文 * 1
「泣きやむまで家に入るんじゃないよ!!」
千花と守は寒空の下、外に放り出された。弟の守は
母が恋しいと夜通し泣く。最初の一週間、二週間は
『泣くんじゃない、私をお母ちゃんだと思って甘えなさい』
と言っていた里親は次第に姉弟をやっかむようになっていた。
「ほら守、泣かないで?」
小さくしゃくりあげる守をおぶると、背中で熱が上気した。
(まだ六つにもならない守を親元から離すのは酷なことかもしれないけれど、少しでも
安全な土地にいる方が守のためなのよ。ごめんね、ごめんね・・・・・・・・)
背中の熱さで胸が痛む。
「そうだ、お姉ちゃんと浜辺へ行こうか。カニがいるかもしれないよ?」
「・・・・・ほんと?」
「うん、他にもきっといろいろいるわ。魚だって貝だって・・・。
もしかしたらお化けもいるかもしれないよ?」
「おばけなんていないよ!!もし出てきたらやっつけてやる!」
「そっか、守は強いんだね。守、姉ちゃんのこと守ってくれる?」
「うん!」
「ありがとう。・・・・じゃあ強い子ならもう泣かないで。
泣いてばかりじゃ何もできないから・・・・。」
そんな会話をしながら10分程歩いていると、ふいに人の声がした。
「こんな遅くにどうしたんだ?もう十一時だぞ?」
この通りに住む健治だ。窓をほんの少し開けてこちらをみている。
「守と海を見に行くの。ほら、もうここへきて二ヶ月にもなるのにまだ夜の海ってみたことないから・・・」
弟の小さな自尊心を傷つけないよう、千花は嘘をついた。
母が恋しくて泣いたなんて人に言われたら守だって嫌だろう。
そんな千花の気持ちに全く気づくことなく健治が言い放った。
「お、守泣いてたのか?目の辺りが涙で光ってるぞ。」
この健治という男、年齢こそは千花より一つ上だが
中身の方はまだまだ子供である。どうやら言いたいことは
相手の気持ちおかまいなしに言ってしまうらしい。
「あんたって、図体ばっかり大きくて、てんで子供ね。」
呆れた顔で歩き去ろうとする千花を健治は慌てて追いかけた。
「なんだよ!ったく、こんな夜遅くに女子供外を歩くんじゃねぇよ!
俺が気になって眠れないだろ!?」
こうして結局3人で海へ行くことになった。
守が、少々不満げに健治をにらんだ。
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