プロローグ
「言わなくちゃいけないことがあるんだよね」
受話器の向こうの静寂の中で、低く乾いた声が響く。
「なに?」
いつもと変わらずに、すっとんきょうでおちゃらけた声が聞き返す。
ふぶきは、どーせまた「出張が入って週末は会えない」と、その程度の報告だろうと高を括っていた。
ふぶきとときおは電車で1時間以上離れた場所で暮らしている為、互いの時を共有できるのは唯一週末と決まっていた。最近はときおの不定期の出張が多く、その週末でさえ仕事によって潰される事も少なくなかった。
週末が近づくと大抵はふぶきの方から連絡を入れていた。それでも、急な出張の時などは、ごくまれにときおから申し訳なさげな声の連絡が入ったものだった。
些細な出来事をさも重大な事のように話し出す、普段ずぼらなくせに時折几帳面なときおのその性格をふぶきは愛おしく感じていた。
「どうしたの?」
「・・・」
子供をあやすような問いかけと、一瞬の沈黙
「転勤が決まった」
「そぉなんだ・・・」
ふぶきは、一瞬ですべてを理解した。
「私はどぉしたらいいのかな?」
瞳からビー玉のような水滴が2.3滴沸き起こると、それらは頬も伝わずに青いジーンズの布の折り目へと浸透して消えていった。
「俺もまだ考えがまとまらないんだよね」
03.03.21更新
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