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(2003.11.24)

 出会って4日目に、俺はヨシとセックスした。
 俺は酔って帰った時はきちんとベットに寝るくせに、素面で帰った時は床かソファーにごろ寝するという、他人にしてみれば奇妙な生活癖の持ち主だった。
 その日も、夜中の1時過ぎに仕事から帰ってきた俺は、風呂にも入らずにそのままソファーにダイブした。たいして高額くもないソファーのスプリングは随分と軋んだ音を立てたが、それを子守歌にして眠りについた。疲れていたのだ。
 眠りについてどれくらい経ったのか−あまり時間は経過していなかったように思う−覚醒は突然訪れた。
 俺は眠りは浅い方で、起きた時は身体が重く、気怠いのが常だ。だから覚醒時は、自分が世界のどこにいるのかさえあやふやで、大津波がやってきて東京が海の底に沈んだとしてもきっと気が付かないだろう、というくらい、呆け呆けだった。

***

 身体が、重い。
 いつものような倦怠感を引きずって、瞼を開ける努力をする。ちなみにこの瞼を開けるという作業は恐ろしく時間がかかる。なぜなら本当は開けたくないから。未だ眠気が去らない脳を活性化させようというのだ。人間はなんて無謀な生き物なんだろう。それでも朝日は昇り、締め切りは待ってくれない。今日はN局の担当と打ち合わせだ。その後Y劇場に行って・・・などと一日のスケジュールを反芻しながら、自然と瞼が開くのを待つ。だが、今日の自分はなんだかおかしい。気怠さ、というよりは、重い。下半身もスースーする。
 そこで思い切って、瞼をばりん、と開けてみた。ばりん、というのはもちろん、俺の勝手な想像上の擬音で、本当は音もなく開いたんだろうが。

「あ。ハチくん、起きちゃった?」
 うーん、と瞬きを何度か繰り返す。・・・ヨシ?
「あー、そのままにしてて。キモチヨクしたげるから。」
 キモチヨク?
「ムっ。」
 思わず声を上げた。それというのも、下半身に異常な痺れを感知したからだ。痺れ、というよりは、衝撃か。
 ーーーいや違う、コレは快楽だ。
 俺は仰向けのまま、首だけを不自然に起こして自分の下半身に目を向けた。ソファーがギシギシと音を立てる。視線の先ではヨシが、その綺麗な顔を楽しそうに歪めて、フェラチオをしていた。
 これは一体どういう事だろうか。瞼は開いても脳は未だ覚醒途中だ。頑張って何か考えようとするが、出てきたのはイボイノシシは土中で眠るとかいう、昨日電車で見た中吊り広告のまめ知識だった。
「ッ・・・」
 そんなどうでもいいことを考えている間にも、際限なく押し寄せる快楽の波に、どんどん脳が侵略されていく。ヨシのフェラはめちゃめちゃ良かった。躊躇なんてない、快感のツボを抑えて舌を這わせてくる。裏筋の辺りを執拗に嘗めたり、先端の割れ目に舌を入れてきたり。
 もはや何も考えられなかった。とにかく、今ある状況だけはどうにか確認しようと、必死で目を開いてその一部始終を見ていた。
「ぁ・・・」
 絶頂が近づく。ヨシは俺のモノを加えたまま、目線を上げた。当然、俺と目が合う。
 ニッと嗤って、口を窄めたままゆっくりと、口内のモノを引き抜いた。濡れた唇から唾液の糸が引いていて、あまりの卑猥な光景に、限界が近い俺のモノはさらに大きく膨らんだ。
「ちょっと待ってて、ね?」
 そう言ってヨシは片手をついてソファーに乗ってきた。ぎしり、と軋んだ音がする。
「?」
 訳が分からないままに、俺は身体を起こそうとしたが、ヨシに止められる。
「ハチくんは、そのままにしてていいから。大丈夫、ちゃんとキモチイイよ?」
 妖艶に嗤って、ヨシは俺のモノを掴む。馬乗りになったまま、ゆっくりと腰を落としてきた。
「ああっ」
 声に出したのはどちらだったか。眉間に皺を寄せ、綺麗な顔を歪めて、それでも少しずつ、ヨシは腰を落としてくる。さすがにこちらもキツかったが、いつの間に解したのかヨシのソコは濡れていて、くちゃりと音を立てながら、思ったよりも楽に挿入出来た。
「ほら、ねぇ?ハチくん。全部、入ってるよ・・・?」
 耳元で囁くように言って、俺の両肩に腕を回してくる。ゆっくりと、ヨシは腰を動かし始めた。それに合わせて、ぎしぎしとソファーが鳴る。ヨシのソコは熱くて熔けるようだった。こんな快感を俺は知らなかった。その頃には俺の身体もすっかり覚醒していたらしく、気付いたらヨシの腰を掴み、上半身を起こして下から思いっきり突き上げていた。

「あっ、ちょっ、まって・・・ハチくッ・・・」
 ケダモノのSEXってのは、こういうのを言うんだ。
「あッ・・・あ、はッ・・・」
 くちゃくちゃと分泌物の混じり合う卑猥な音と、ヨシの声。そして俺の荒い息づかい。

 男とするSEXってのは、知識として知っていた。だけど、この感覚。男の引き締まった身体に突き立てた時、想像していた通り固く、想像していたより熱くとろとろなソコは、クセになりそうな快楽を生む。こんな感覚を、俺は知らなかった。しかも思いがけず拾った男の身体で、俺はそれを知ったのだ。

「んっ、ハチくん・・・イイッ・・・」
 数十分前には、男と寝るなんて考えたこともなかった。ゆるゆると締め付けてくる感触がたまらない。もっと深く交わりたくて、ヨシの肩を掴む。
「ああッ・・・」
 仰け反った拍子に、ヨシの肩に引っかかったままのシャツがばさりと落ちた。肩から手首まで、一目で分かるおびただしいリストカットの痕が現れる。
「・・・・・・!?」
「はッ・・・あはは・・・」
 驚いてそれを注視していると、上に乗ったまま、ヨシは嗤った。
「キモチイイ?ねぇ、ハチくん、キモチイイの?」
「クッ・・・」
 キツク締め付けられて、いきなり持って行かれそうになる。俺の、全て。
「はッ・・・あははッ、キ、モチイ・・・んだ?・・・チくんッ!」
 スプリングの音が、空っぽの部屋に狂ったように鳴り響く。
「ふふッ、もっといっぱいしていいよ?もっと・・・酷く突いてよ。」
 真っ赤な口から涎を垂らして、ヨシは恍惚の声を上げた。
「ああッ!!」
 ヨシの絶叫と共に、俺はその体内に溢れるほどの欲望を吐いた。


 どうやら、とんでもないモノを拾ってしまったらしい。
 関わると死ぬかも知れない。甘く痺れる毒を孕んだ生き物。


 気が付くと1人、ソファーの上で朝を迎えていた。どうやら酷い夢を見ていたらしいが、内容が思い出せない。
 カラカラに渇いた喉を潤したくて、上半身を起こす。
 ーーーちくしょう。
 俺は全身、血と精液まみれだった。全ては、現実に起こったことだった。


 結局、その日は打ち合わせを1つ、キャンセルしてしまった。


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