偏頭痛もちは、いつものことだから。
 テレビの前陣取ってプレステしてる相方にそのことを告げて、アスピリンを取り出した。いかにも優しい色合いの白い錠剤を2粒、ペットのミネラルウォーターで流し込む。

 こんな日は、何にも出来ない。
 やりたいこととか、それ以上にやんなきゃなんないこととかいっぱいあるのに。片側だけガンガンに痛む頭を抑えて、ただひたすら時間が通過するのを待つのは辛すぎる。

 薄目を開けて、相方の背中を見た。
 初めの頃はオロオロして始終、

「ダイジョブなんか?」

 を繰り返してたくせに。
 何のゲームやってんのか、画面からはラプソディ・イン・ブルーが延々と流れてる。

 そんな面白いんか?それ。
 さっきからこっちとかぜんぜん見ないし。
 つーか、よく見りゃそのTシャツ、オレのだろ。
 ワンライドのやつ。ロゴカッコイイからちょっと無理して買ったのに。
 今じゃヤリタイ放題かよ。

「あったまいてぇ・・・ガンガンする。」
 次第に激しくなる痛みに、抑えきれず声をあげたら。
「ダイジョブなんか?」
 お愛想程度に振り向いた。
「いい、もう。ほっといて。」
「あー。」
 それだけ言って、またプレステ画面に戻る。
 そーゆーヤツだよ。

 あー、もう、誰か脳味噌とっかえてくれ。
 『早く解けて胃に優しい』はずのアスピリンは、一度も効いたためしはねぇし。吐き気はどんどん襲ってきやがるし。

 こんなとき、人間て、一人だと思うよ。

  永遠を誓い合う夫婦でも、痛みを分かち合うことは到底無理だし。『死が2人を分かつまで』って、よく言ったもんだよな。
 生まれてくる時も死ぬ時も、所詮、人間て一人なんだ。

 画面に向かって動かないその後姿に、さっき飲んだペット、中身半分残ったまま投げつけてやろうかと思った。

「うっ。」
 上体を起こしたら、急に吐き気が襲ってきて。
「なに?吐くんか!?」
 こういう時だけ、相方は対応が早い。
「んー。」
 なにがしんどいって、息してること自体、しんどくて。とりあえずベットに吐くのだけは避けようと横を向いたら、しっかりビニール袋被せてあるゴミバコを両手で抱えた相方がいた。
 いつものことだから。まあ、そうなんだけどね。

 すっかり吐いたら、なんかもう疲れて。ベットに横になると同時に睡魔が襲ってきた。薄れゆく記憶の中で、相方が外出しようとするのが見えて。
 なんだか少し・・・なんだか。
 俺たちって、そんなもんなんか?

 目を、閉じた。

***

 目が覚めると相方の姿は無く、画面では相変わらずラプソディ・イン・ブルーが流れていて、黒いスーツを着た男が浜辺でコッチを見て睨んでた。
「腹減った。」
 なんとなく、そう呟いてみたら。
「起きたんか?」
 キッチンから相方の声がした。
 とりあえずむしゃくしゃしてたから、オレのTシャツ勝手に着るなとか文句言ってやろうとか思ったら。

「これ。」
 目の前に差し出されたのは、レモネード。
 自分でレモン絞ったのか、種とかそのまま入ったままで。

「オマエ、吐いた後さっぱりしたの欲しいって言ってたから。」
「さっき・・・、レモン、買いに行ってんか?」
「ん?ああ・・・起きてたんか。」

 グラスいっぱいに注がれたレモネードを、一口、飲む。
 甘酸っぱいそれは、空きっ腹に優しくて。
 アスピリンなんかよりずっと、優しくて。

 こんな時、人間て、一人じゃないと思うよ。

「オレっていいかげん・・・」
「ん?なんかゆった?」
「んーん。」
「よう、がんばったな・・・」

 さらさら撫でてくる手は、もっと優しくて。
 オレのこんな体質、本当は面倒くさいだろうに。
 なんでオマエ、オレなんかと一緒に居るんだろう。

「オマエ、一人で苦しんでるの、ツライわ・・・」

 そう言って、オレの髪に、相方が顔を埋めて来て。
 苦しかったのは、オレ一人じゃ無かったことを知った。

 生まれてくる時も死ぬ時も、所詮、人間って一人だから。

 それまでは・・・だからそれまでは。
 きまぐれに、永遠を誓い合ってみたりするんかな?
 ちょっと酸っぱいレモネードに、一人じゃないこと感じてみたりして。

 相方の首に腕をまわしながら、
 とりあえずTシャツの件は、後回しにしてやろうと思った。

fin.(02'0915)


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