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三月の初めに会長たちの代の卒業式があった。卒業式の間、生徒会役員の席、俺の隣で、乃亜さんはずっと泣いていた。まだ会長を好きなんだと、忘れられないんだと、思い知った。
三学期の終業式を迎え、俺は生徒会を引退した。後輩たちが開催してくれた慰労会を楽しんで、乃亜さんと一緒に地下鉄の駅まで帰る。
「乃亜さん、あのね、生徒会終わったでしょう。もう、俺たち一般生徒だよね」
「はい」
乃亜さんが俺の隣をのんびり歩く。
「終わりましたね。黒石くん、おつかれさま、でした」
のほほんとした笑顔。俺は乃亜さんが、本当に、本当に、大好き、なのだけど。
「ありがと。乃亜さんも、ほんとによくがんばったよ。おつかれさま。それで、生徒会、終わったから。だから」
だから。
「お付き合いは今日で終了しよう」
引き留めてくれたら、なんてそんな希望も、持ったけど。
乃亜さんは立ち止まって、俺に深々と頭を下げた。
「はい。黒石くん、今までお付き合いしてくださって、ほんとうに、ありがとうございました」
俺は笑う。もうほんと、笑うしかない。
会長すみません。内心謝って、一度だけ乃亜さんの頭をなでた。
「乃亜さん、志望校決めた?」
高校三年生の一月。同じクラスの乃亜さんに声を掛ける。
「あ、はい、こちらの大学へ行こうかと」
乃亜さんが、担任に提出する受験希望校のプリントを指さす。会長の大学と遠く離れた大学。
「どうして、そこなの?」
「はい、あの、心理学を、学びたいのです。人の心を、もっと知りたいのです」
心理学なら会長の大学がトップクラスだ。乃亜さんの志望校は、会長の通う大学よりレベルの低い大学だった。乃亜さんの成績なら会長と同じ大学に行ける。合格安全圏だ。それなのに。
命令の一番。俺のことは忘れる。それにどうにか従おうとしているのだと、わかった。
「あの、さ。俺の志望校、ここなんだけど」
自分のプリントを見せた。会長と同じ大学。その大学名に乃亜さんが息を呑み、慌ててプリントから目をそらした。
「乃亜さんも、ここにしない?」
「は……、いえ、しかし、ですね、私は」
乃亜さんがうろたえる。俺はさりげなく説得にかかる。
「うん。あのね、心理学ならここが一番でしょう。それに、この大学、広いから。知り合いにうっかり会ってしまうなんてことも、ないよ」
「そう、ですか。広いのでしたら、お会いしないかも、しれないです。しかし、ですね」
「絶対、会ったりしない。もう一年も経ってるんだから、去年の卒業生なんて、万が一すれ違っても、お互いわからないよ」
「わからない、でしょう、か」
これならいける。俺は手持ちのカードを切る。
「乃亜さんもここに行こうよ。お付き合いのお礼として、ここ第一志望にして」
「お礼、ですか。お礼はもちろん、しなくてはと、思うのですが、しかし、ですね」
「お願い。一生のお願い。俺からの最後のお願いだと思って聞いて」
手を合わせて頼んだ。乃亜さんの目が不安そうに揺れる。
「あの、黒石くん、ほんとうに、ほんとうに、大丈夫でしょうか。お会いしない、でしょうか」
「うん。絶対大丈夫。保証する。だからお願い。ここにしよう。これで俺にお礼して」
乃亜さんはためらって、長い時間考えて、それから頷いた。
「わかりました。こちらの大学へ、参ります。黒石くんに、お礼を、いたします」
人の気持ちを見抜けるはずの乃亜さんが、俺の嘘に気づかない。会長のことに動揺しすぎて気づかない。乃亜さんの返事に、俺は安堵した。
次回、いよいよ完結です!(> <)
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