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【第二章】 落合さと子の日曜日は遅い。 一週間の疲れがどっと出るのか、目をさますのも遅いし、その後、布団から出るのも遅い。 看護婦という不規則な勤務には、いくら慣れたとはいえ、どうしても疲れは残ってしまう。 さと子は仕事は好きだった。辛い仕事とはいえ、やりがいも楽しみもある。 『さて、今日はどうしようっかな!』 掛け布団を足で蹴ってはねのけて大きく背伸びをした。 取りあえず布団から出て、新聞を玄関まで取りに行った。 台所のテーブルに新聞を広げて、コーヒーをいれた。 コーヒーは砂糖抜き。だって肥るのは嫌よ。 新聞を広げPCをON。 習慣のメールチェック。 沢山メールが来ると返事が面倒。でも、一通も無いと妙に淋しい。 人間って勝手ね。 そう毎日思いながらOutlookを開く。 その時、携帯の方にメールが着信した。 さと子の携帯メール着信音は《メールが届いておるじょぉおお〜〜〜!》だった。 さと子の日曜は、この《メールが届いておるじょおおお〜〜〜!》で始った。 『サト おはよう! 昨晩はどうも!おもしろくて笑ってしまいました。おかげで憂鬱も飛んでっちゃいました。いろいろなメル友がいるけど、サトと知り合えてとってもよかったです。今日は何するの?きっと楽しい週末を彼と過ごすんでしょうね!ハッピーな週末を過ごしてネ!またね。』 届いたメールは、昨晩チャットをしたミッキーからだった。 「彼ねえ、、、いたら、あなたと金曜の夜にチャットなんかしてる訳ないでしょ」 一人つぶやき、返信ボタンを押そうとした。 「ん?」もう一通メールが入っていた。 彼からだった。 「どうして、携帯にメールできるの?アドレス教えて無いわ、、」 うすら寒さを感じながら、メールを開けた。 『サト おはよう、どうして昨晩はブルーラグーンに遊びに来なかったの?みんな待っていたよ。もっともっと楽しい時間を過ごそうよ、今日も待ってます。ブルーラグーンにようこそ!』 ミッキーに誘われて遊びに行ったWebサイトに住んでいる彼からのメールだった。 逢ったことも声を聞いた事も無い沢山のネッ友と、ひたすらキーを叩き合い夜更けまで遊ぶ不思議なネット。 それはそれで楽しみにして暮らしているけど、アタシは別にオタクじゃないわ。 今日の仕事は内視鏡検査室。 カメラ飲んでもらって、午後からope出しにまわらなきゃ。 朝食もそこそこに出勤なのよ。 アタシってさ、オタクじゃないけど絶対睡眠少ないしさ、朝ご飯も食べないし、お酒は呑むし不健康よね〜。 でもいいわ。だってまだまだ若いんだもん。なんて、嘘。一人で何考えてるんだろ(笑) 駐車場で車のエンジンをかけて、はっと気がついた。 アタシ、今日借りていたCD−ROM返さなきゃ。 もう、遅刻しちゃうわ!なんか知らないけど、先週入院した患者さんから、貸してあげるって無理やり突き出されてしまった。 なんなんだろう?なんだか見てもいないけど、適当にお礼を言って戻しておこっと。 婦長さんに見つかったら、個人的に患者さんと親しくなったらなんとかかんとかぶつぶつぶつぶつ・・・文句を長い時間聞かなきゃいけないのよね。 さと子は走って部屋にCD−ROMを取りに戻った。 CD-ROMを取って車に戻ると車内がちょっとガソリン臭かった。 「エンジンを一度かけたからかしら」 さと子はエンジンをかけ直した。 車を発進させて郊外の国道を走っている時だった。携帯が鳴った。 国道はまだすいていた。 さと子はいつもの癖で、車を道路わきに停車し、車外に出て携帯に出た。 「さと子さん、さようなら」 男の声がしてすぐ切れた。 車の中で何かのスイッチが入ったような振動がした。 さと子はもたれていた車から、体を離した。 ビーという音と振動が続いたと思うとボンネットが爆発した。 炎が車内にも走ったかと思うと、車全体が大爆発をし、さと子は国道脇の商店の壁にたたきつけられた。 クラクションと人の悲鳴が聞こえた。 体に暑さと痛みを感じながらさと子は気を失った。 気がついたのは病室だった。 最初に思ったのは、「早く病院に行かなくちゃ」だった。 ベッドから起き上がろうとしたが、体がいう事を聞かなかった。 「全身打撲、全治2週間、、、」 女性の声がした。 「腕に軽度の火傷、足には擦過傷。髪もちょっと焼けてるわね。脳波、心電図異常無し。骨折も無し、、、本当についてたわね。」 声の方を見た、さと子と同じか2,3才年上だろうか、紺のスーツを着た見知らぬ女性が立っていた。 さと子の傍の女性は二人。 だれ? 虚ろなさと子はまだ、ここが何所でどうなったのか解らなかった。 だれ?加納姉妹みたいだな・・・ そして又、気が遠くなっていった。 「城南警察署捜査一課の加納です」 最初に見た女性が名刺を出した。 「あら、本当に加納姉妹だわ、、」 入院してから2日間が経っていた。 「加納姉妹?」 加納刑事が笑った。 「私に兄弟はいないし、あんなにグラマーじゃないわよ」 「あ、ごめんなさい。こないだは、もう一人よく似た感じの方がいらっしゃったような気がして」 さと子の言葉にちょっと嫌な顔をして加納刑事は答えた。 「あら、起きてたの。彼女は本庁の人間で、同じような事件を追っているの。」 「同じような事件?」 「そう、ネットに絡んだ殺人事件、、」 加納刑事の目が鋭くさと子の方に向いた。 「落合さん、あなたはいったいどうして狙われたの?」 「狙われた?、、」 さと子にとって思いがけない言葉であった。 「私が狙われたの?」 「そう、まさか単なる事故だと思ってる訳じゃないわよね。」 入院して治療をうけながら漠然と持っていた疑問がいくつかあった。 ただ余り考えたく無い事であったので、考えないようにしていた。 さと子は、背筋が寒くなってきて、布団をかぶり直した。 「落合さん、お話をお聞きかせ下さい。」 「刑事さんがいらしているって事は、やっぱりこれは事件なのね。」 「はい、あなたは殺されかけた、、」 「車からは、携帯電話と同期する発火装置と、ガソリンがたっぷり入ったペットボトルが見つかっています。おそらく後部座席か、運転席の下あたりにセットされていたと思われます。気が付きませんでしたか? おかしな事は無かったの?」 ガソリン、、、CD−ROMを取りに行って帰ってきた時に微かに感じた臭いだ。 と言う事は、あの数分の間に、、、 『どうして?』 さと子は混乱しつつあった。 布団をかぶり、さと子はチラと頭に浮んだ。 「私が酔って火吹き芸にチャレンジしようとしたのがいけなかったのかな?」 こんな所で実につまらない、昨年の忘年会の騒ぎを思い出してしまった。 「看護婦ってノリ易いからな。こんな事体に何思い出してるんやろ?!」 さと子は自分で呆れたが、その後また思い付く事があった。 「そう、あのCD−ROM。あれを貸してくれた患者さん、私に面白い事がおこるかもよ・・・って言っていたわ。」 「・・・やっぱり私、何思い出してるんだろう?」 混乱と想像は更に不思議を誘うみたいだ。 警察には、忘れ物を取りに行き戻ったら車がガソリン臭かった事、携帯が鳴っていつものように車から降りて出たこと、男の声の会話だった事、爆発に至るまでの様子などを説明した。 大きな疑問があった。 どうしてこんな面倒で不確実な事をしたのだろう、という事だった。 勿論自分が殺人の対象者になった事も大きな疑問と恐怖であったが、それ以上に不思議であった。 車に細工するなら夜中に置いてある駐車場でできる、あんな短時間で際どい時間を選ぶ必要は無い。 また、わざわざ携帯にかけてきて、それが発火装置になるのも手間をかける意味がわからない。 さと子はその疑問を加納刑事にぶつけてみた。 「そこまで考えてるの、冷静ね。」 加納刑事も冷静な目をしていた。 「そこが共通点かしら、、」 「えっ?」 「本庁の追っている事件との共通点。」 さと子は、身をのりだした。 「本庁の追っている事件というのは、知ってるかしら、埼玉のY市で起こった放火殺人事件。 アパートが焼けて、同棲していたカップルが焼死したわ、同じアパートに住む他の2家族も巻き込まれて、、、」 覚えていた、今から3ヶ月程前にあった悲惨な事件だった。 確か、時限発火装置が見つかり犯人はすぐにでも逮捕されるような報道があったが、 未だに進展が無く、警察の初動捜査のミスなどが指摘されている事件だった。 「発火装置は、携帯電話だったわ。ガソリンが入ったポリタンクに仕掛けてあって、電話が入ると発火する簡単な装置だったそうよ。 で、携帯電話を追っていって都内の販売店を探し当てたのだけど契約者の情報は残っていなかった。使い捨てのプリペイドだったのね、規制前の契約。」 「そう、、私の場合以上に不確かな方法ね。だって部屋にいないかも知れないものね」 さと子の声は震えていた。 「被害者の自宅の電話の受信記録をみたら、爆発の数分前に電話があったわ。きっと確認をしたのでしょうね。 でも、もってまわったやり方であるのは確かね。 もっとうまい方法はあるわ、、。」 「なんか、その不確実さを楽しんでいるみたい、、、。」 加納刑事に答えるのでもなく、さと子はつぶやいた。 「埼玉の被害者もネットで遊ぶのが趣味だったらしいわ。落合さん、心当たりは無いの?電話の声はどう?」 「特に今のところ思い当たらないわ、声も聞き覚えがなかったわ。」 「ブルーラグーンはどう?」 加納の言葉にさと子ははっとした。 「ブルーラグーンをご存知なのですか?」 ネットの世界の事を、こういう場面で口に出されると妙な気分。 「埼玉の被害者って、お名前な何ですか?・・・・いえ、名前というか あのHNっていうものの事だけど。」 加納は微笑んだ。 加納刑事は質問に答ず質問してきた。 「ブルーラグーンの常連を探しているんだけれどね。これで一人見つかったかな?」 「私は常連じゃないわ、2、3回行っただけ。ネット上での話し相手はできたけど、それ以上の相手ではないわ。」 さと子は、事実をそのまま話した。 ミッキーに誘われて、出会い系サイトのブルーラグーンに行き、彼と知り合って親しく話をしたが、実際に会ってはいなかった。 「オフ会にも出ていないの?」 加納が聞いてきた。 「ええ。」 「誘われなかったの?」 「横浜にあるブルーラグーンのお店に来ないかって誘われたけど断ったわ。」 「K町のお店ね、有名よ。行かなくてよかったわ。」 加納によるとその店は、相手を見つけたい男女が集まる店で、かなり強引な事があって警察も何度も手入れをおこなっており逮捕者も出ている店との事だった。 「有名な暴力団のお店よ。」 さと子は、ブルーラグーンの彼からその日にメールがあった事を加納に話した。 「彼って名前はなんて言うの?」 加納が聞いてきた。 「八木下って名乗っていたわ。」 「どんな話をしたの?」 「覚えてないわ、たわいない話ね。」 話したといっても、チャットで話しただけだった。メールアドレスも教えていなかった。 「何故メールが着たのか不思議だったわ。携帯のメールアドレスって簡単にわかっちゃうものなの、刑事さん」 さと子の質問に加納が笑って答えた。 「相手は暴力団、何だってできるわ。メールアドレスは、高く売買されているのよ、裏の世界でわね。最近は表の世界でも出回っているわ。」 自分のメールアドレスが売買されている、、、初耳だった。 確かに、同じような勧誘のメールが次々と来た事がある、アドレスを変えても、しばらくしたらまた来始める。 「でも、なぜそんな事で私が殺されなければいけないの?私、恨まれるような事は何もしてないわ。」 さと子は、加納を問いつめるように聞いた。 「あなた、ネットではなんて名乗っているの?」 加納が聞いてきた。 「HNは、ミッキーよ。」 さと子は答えた。 「あなたをブルーラグーンに誘った人は?」 「ミッキーよ、同じ名前を使っていたから親しくなったの。」 「埼玉の彼女もHNはミッキーよ、共通点がまたあったわね。」 加納が微笑むように言った。 『いったい、どういう事?』 さと子は体の痛みも忘れて、加納の方に体を向けてベッドに座りなおした。 「つまり、パスワードなんだ。」 加納刑事は大事な告白をするようにさと子を見た。 「何のですか?」 「つまり同じ名前でもパスワードが違えば相手は違う人間だと判別できるわ。」 加納刑事は続けた。 「あなた達は同じ名前でも相手はちゃんと認識できたって事ね。」 加納刑事の言葉にさと子はあきれた顔をした。 『何、いったいこの人、、全然分かってないじゃん。刑事なんてこんなものかしら。 認証をパスワードでするって言ってるのかしら。』 さと子にとってアメリカで身に付けた知識は、確実に4、5年のアドバンスを持っていた。 横浜駅で私鉄に乗り換えてT町は3つ目の駅だった。 小雨が電車の窓を濡らしていた。 後藤は2日前の一斉手入れを思い出していた。 ブルーラグーンには、看板もディスプレイも何もなかった。 看護婦、落合さと子殺人未遂事件で被害者のネット上での相手が、八木沢と名乗っていた事が後藤にも伝わっていた。 偶然にしては、出来すぎていた。 そのブルーラグーンを捜査しようと思った矢先に、そこで麻薬の売買がされているとの情報が横浜南署にあり、以前から内定を続けていた麻薬捜査官主導で一昨日一斉手入れがおこなわれたのだった。 夜の11時半に踏み込み、麻薬吸引の現場が抑えられ多くの客と店員が検挙された。 その中に八木沢はいなかったが、清水が客として検挙されていた。 T町で電車を降り、駅前を流れる川に沿って後藤は歩いていた。新しい作りの風俗の店が川に沿って何件も並んでいたが、横にまわってみると、その建物の古さは一目瞭然だった。数十年経って壁がふくらみ、今にも崩れそうな小さなビルがその形を変えていた。 そんな町の中にそのビルも建っていた。 地下にあったブルーラグーンは警察が張った立入り禁止のロープで入り口を閉ざされていた。 4階建てのビルだった。 「双竜貿易公司」と書かれたしゃれた看板が一階の入り口にあった。 食品の輸入から始まり、最近はPC関連の電子部品等まで手を広げている中堅商社のビルだった。 「おい、何をしてるんだ、テメー。」 しゃがれた低い声が後藤の背後から響いた。 サングラスをかけたいかつい男だった。 頬はこけていた。 やくざの臭いはしなかった。ごく普通のスーツを着ていた。 「見てちゃいけないのか」 後藤が言葉を返した。 「いけないね。お前はここの関係者か?」 「おたくこそ、誰なんだよ。」 一瞬、二人は睨みあった。 「ここは最近手入れがあったんだよ、うろうろしてるとテメーしょっぴくぞ。」 「しょっぴく、、警察官か?」 どう見ても、相手は警察の人間とは違った感じがした。 「麻薬取締官か。」 後藤は警察手帳を胸からのぞかせて相手に見せた。 「警視庁か。」 相手はにやにやと笑っている、後藤も口元を緩めた。 「警視庁捜査一課の後藤です。」 「薬取りの島田だ。今日は捜査一課はあんたで二人目だよ、ご苦労なこっちゃ。 お姉ちゃんと一緒に来れば手間も省けるのによお。」 どうやら埼玉の爆破事件を追っている江口が来てたらしい。 「お姉ちゃんデカは俺と一緒に歩いてくれないんでね。」 後藤の言葉に、島田は大きく笑った。 「八木下っていう店員はいなかったし、逮捕した奴らに聞いても 知らない、聞いたこと無いの一点張りだ。 奴らに会ってみるかい。みんな10代 か20台前半だ、 むかつく奴らだ、腐ってる。」 「むかつく奴らの言ってることは信用できるのか?」 後藤は島田に聞いた。 「ああ、嘘は言ってないな、八木下の年齢では務まらねえ仕事だ。」 島田は後藤の顔を正面から見て答えた。 「腐った奴らに会いたくはないが、コンピュータには会ってみたい。ログが見たい。」 「はははは、やっぱりお姉ちゃんと同じ警視庁だ、同じ事を聞く。」 島田はおかしそうに笑った。 「お姉ちゃんがチェックしたのか、、」 「システムは店になんか無いよ。まだこのビルの中さ。」 島田はあごでブルーラグーンの入っているビルを指した。 「双竜貿易のサーバーを時間借りしてたらしい、アウトソーシングってやつだ。 で電話したが、昨日ディスクが壊れてシステムは消えてしまった、とよ。」 「なんだって、そんな馬鹿な。」 後藤は双竜貿易の入った白っぽいビルを振り返った。 改めて見ると、威圧的な無機質なビルだった。 「ところで麻薬の方は成果があったのか?」 「店員と客の数人がマリファナとコカインをやっていた。覚醒剤を持っていた 奴もいやがった。」 「そこにいた全員が吸っていたのか?」 「いや、そうじゃない。だが、全員しょっぴいた。」 「清水って男もそうか?」 後藤が聞いた。 「なんだ、知り合いか。顔が広いな。」 「行方不明になっている八木沢の同級生だ、それくらいは知ってるよ。」 「やつは、血液鑑定でもシロだった。一晩泊まってもらったが昨日無罪放免だ。」 「無罪放免か、簡単に釈放したもんだな。何故こんなとこにいたんだ。」 「双竜貿易が、奴の会社の客だったそうだ。一昨日はたまたま双竜商事に来ていて ふらっと入ったそうだ。」 「できすぎてないか。」 「ああ、できすぎてる。」 島田はそう言って煙草に火をつけて深く吸い込んだ。 「気にくわねえ。」 島田が、つぶやくように言った。 「これから双竜商事に行く。付いてくるか。」 島田が言った。 「いいのか、初対面なのに。」 「駄目だと言っても付いてきそうだし、後で付きまとわれるのもやっかいだ。」 後藤は、口元をゆるめ、島田の早い足取りに付いていった。 二人は待合室で待たされる間に、情報の交換をした。 ブルーラグーンで麻薬が吸われている事はさして驚く事でなく、この界隈には 他にも似たような店はいくつかあるようだった。 戦前からこの辺りは犯罪者たちの温床であり、青線や阿片窟として有名な場所であった。 そして、今もやくざが牛耳っている町として全国的に知られていた。 ただ、インターネットを使い、人を集め商売をしていたという点においてブルーラグーンは他の店とは 違っていた。 しかし、犯罪がハイテク化し、ネットワークの世界に蔓延してきているのは程度の差はあるが、時代の趨勢ではあった。 今回逮捕された者の大半は、全くそういった世界とは無縁な人間が大部分であった。 清水についても、今までに犯歴も無く、かつブルーラグーンに入ったのも全く初めてのようであった。 しかし、会員制の店であり、事前にインターネットで店とコンタクトはしていたようだった。 その理由を追求されても双竜商事の地階にあり、なんとなく興味を持ったとしか、答えていないようであった。 麻薬を所持、吸飲していた訳でも無い為、それ以上の取調べはされていないようであった。 「始めまして、責任者をしております植田です。」 名刺には、専務取締役となっていた。 後藤の出した名刺を見ると、わざとらしく驚いた振りをした。 「警視庁の部長さんまで、お越し頂き恐縮です。本来は私の方からお伺いするのが筋ですが、とにかく当惑しておりまして、、 まさか、地階で麻薬などが取引されていたとは、当社としても全く迷惑な話です。 社員に聞きましても、とにかく胡散臭い店で、怪しげな雰囲気がしており、誰一人として行った事は無いようでした。 まあ、会員制だったようですし、普通の会社員が気楽に行ける店では無いですが。」 植田は弁解するように一方的に話を続けた。 「このビルは賃貸でして、当方と致しましても、地下にあのような店がある事も余り知らされておりませんでしたし、全く迷惑な話です。」 よくしゃべる男だった。押しが強くて、強引なタイプだった。背が高く紳士然としているが、ビジネスの裏の裏まで経験をしている世慣れた感じを漂わせていた。 こちらから聞くまでもなく、聞きたい事を話してくれる。 「うちのシステムは、ラピッドシステムさんにお願いしてます。ハードもソフトも、システムの開発も一まとめにして面倒を見てもらってます。もう、10年以上、、長い付き合いです。」 「清水さんが、ずっと担当なんですか。」 後藤が割り込んだ。 「清水さんとは、5年くらいかな。いろいろとお世話になっています。まさか、彼が下の店に行ってたとは、、、びっくりしました。刑事さん、彼は拘束されてるんですか。」 「いや特に罪には問われてはいません。もうお帰り頂いております。」 島田が答えた。 「そうですか、それは良かった。彼は真面目で、優秀な男です。うちのシステムにも精通している、いなくなったら困ってしまいます。」 「ブルーラグーンのシステムもこちらにあると聞きましたが。」 後藤の問いに一瞬顔つきが変わった、が、すぐにもとに戻って話し出した。 「そう、どうしても断りきれなくてサーバーをまるごと預かってました。地下は湿気が多くて、ハードのトラブルが多いって事で、どうしても預かって欲しいと頼まれまして。まあ、水商売ですから、そこに置くってのも心配だったんでしょう。 本当に預かってただけで、システムの中身も全く私どもでは関知していませんでした。本当にサーバーを置かしてあげてただけですな。」 植田は、そのシステムの内容は全く理解せずに預かっていた事を何度も強調した。 そして、そのシステムがトラブルにより、今は双竜商事に無い事を繰り返し説明した。 「システムが入っていた、ディスクはクラッシュを起こし、ラピッドシステムに修復の為に回収されました。だが復帰する事はできなかったと聞いております。」 「絶妙のタイミングですなあ、手入れの前日にトラブルとは、、、」 後藤の皮肉混じりの言葉に、植田は同調した。 「まったくですなあ、いいタイミングというか、なんというか。」 植田の言葉に、後藤と島田は顔を見合わせた。 同じビルに同居していながら、かつシステムを預かっていながら全く交流が無いという説明に、しらけながら二人は双竜商事を後にした。 |
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2001年12月02日 07時28分34秒
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