金 子 み す ゞ 詩集

POEM MISUZU BEST

  お魚

海の魚はかはいさう。

お米は人につくられる、
牛は牧場でかわれてる、
鯉もお池で麩
(ふ)を貰(もら)ふ。

けれども海のお魚は
なんにも世話にならないし 
いたづら一つしないのに 
かうして私に食べられる。

ほんとに魚はかはいさう。 

T-2

 

 芝居小屋

むしろで拵
(こさ)へた
芝居小屋、
芝居はきのふ
終へました。

のぼりのたつてた
あたりでは、
仔牛
(こうし)が草を
たべてゐる。
 
むしろで拵へた
芝居小屋、
夕日は海へ
沈みます。
 
むしろの小屋の
屋根の上、
かもめが赤く
そまつてる。

T-4

 

  打出(うちで)の小槌(こづち)

打出の小槌を貰
(もら)つたら
私は何を出しませう。

羊羹
(やうかん)、カステラ、甘納豆
姉さんとおんなじ腕時計、
まだまだそれより眞白
(まつしろ)
唄の上手な鸚鵡
(あうむ)を出して、
赤い帽子
(しやつぽ)の小人(こびと)を出して
毎日踊
(をどり)を見ませうか。

いいえ、それよりお話の
一寸法師がしたやうに
背丈
(せたけ)を出して一ぺんに
大人になれたらうれしいな。

T-8

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  夕顔

お空の星が
夕顔に、
さびしかないの、と
ききました。

お乳のいろの
夕顔は、
さびしかないわ、と
いひました。

お空の星は
それつきり、
すましてキラキラ
ひかります。

さびしくなつた
夕顔は、
だんだん下を
むきました。

T-22

 

 もくせい

もくせいのにほひが
庭いつぱい。

表の風が、
御門のとこで、
はいろか、やめよか、
相談してた。
   

T-32

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   砂の王國

私はいま
砂のお國
(くに)の王様です。

お山と、谷と、野原と、川を
思ふ通りに變
(か)へてゆきます。

お伽噺の王様だつて
自分のお國のお山や川を、
こんなに變へはしないでせう。

私はいま
ほんとにえらい王様です。

T-39

 

  紋附(もんつ)

しづかな、秋のくれがたが
きれいな紋つき、着てました。

白い御紋は、お月さま
(あゐ)をぼかした、水いろの
(すそ)の模様は、紺の山
海はきらきら、銀砂子
(ぎんまなご)

紺のお山にちらちらと
散つた灯りは、刺繍
(ぬひ)でせう。

どこへお嫁にいくのやら
しづかな秋のくれがたが
きれいな紋つき着てました。 
  

T-46

 

  郵便局の椿

あかい椿がさいてゐた、
郵便局がなつかしい。

いつもすがつて雲を見た、
黒い御門がなつかしい。

ちひさな白い前かけに、
赤い椿をひろつては、
郵便さんに笑はれた、
いつかのあの日がなつかしい。

あかい椿は伐られたし、
黒い御門もこはされて、

ペンキの匂ふあたらしい、
郵便局がたちました。   

T-57

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  色紙(いろがみ)

けふはさびしい曇り空
あんまり淋しいくもり空。

暗いはとばにあそんでる
白いお鳩の小さな足に
赤やみどりの色紙を
長くつないでやりませう

そして一しよに飛ばせたら
どんなにお空がきれいでせう。

T-61

 

  木

お花が散つて
(み)が熟(う)れて、

その實が落ちて、
葉が落ちて、

それから芽が出て
花が咲く。

さうして何べん
まはつたら、
この木は御用が
すむか知ら。

T-66

 

  おとむらひの日

お花や旗でかざられた
よそのとむらひ見るたびに
うちにもあればいいのにと
こなひだまでは思つてた。
だけども、けふはつまらない
人は多ぜいゐるけれど
たれも對手
(あひて)にならないし
(みやこ)から來た叔母さまは
だまつて涙をためてるし
たれも叱りはしないけど
なんだか私は怖かつた。
お店で小さくなつてたら
(うち)から雲が湧くやうに
長い行列出て行つた。
あとは、なほさらさびしいな。
ほんとにけふは、つまらない。

T-71

 

  大漁

朝焼小焼だ
大漁だ
大羽鰮
(おほばいわし)
大漁だ。

濱は祭りの
やうだけど
海のなかでは
何萬の
(いわし)のとむらひ
するだらう。

T-72

 

 くれがた

兄さん
口笛
ふき出した。

わたしは
(たもと)
かんでゐた。

兄さん
口笛
すぐやめた。

表に
こつそり
夜が來た。

T-116

 

   日の光

おてんと様のお使ひが
揃つて空をたちました。

みちで出逢つたみなみ風、
(何しに、どこへ。)とききました。

一人は答へていひました。
(この「明るさ」を地に撒くの、
みんながお仕事できるやう。)

一人はさもさも嬉しさう
(私はお花を咲かせるの、
世界をたのしくするために。)

一人はやさしく、おとなしく。
(私は清いたましひの、
のぼる反り橋かけるのよ。)

残つた一人はさみしさう。
(私は「影」をつくるため、
やつぱり一しよにまゐります。)

T-121

 

  帆

港に着いた舟の帆は、
みんな古びて黒いのに、
はるかの沖をゆく舟は、
光りかがやく白い帆ばかり。

はるかの沖の、あの舟は、
いつも、港へつかないで、
海とお空のさかひめばかり、
はるかに遠く行くんだよ。

かがやきながら、行くんだよ。

T-157

 

 繭(まゆ)と墓

(かひこ)は繭に
はいります、
きうくつそうな
あの繭に。

けれど蠶は
うれしかろ、
蝶々になつて
飛べるのよ。

人はお墓へ
はいります、
暗いさみしい
あの墓へ。

そしていい子は
(はね)が生(は)え、
天使になつて
飛べるのよ

U-1

 

  蜂と神さま

蜂はお花のなかに、
お花はお庭のなかに、
お庭は土塀のなかに、
土塀は町の中に、
町は日本の中に、
日本は世界の中に、
世界は神さまの中に。

さうして、さうして、神さまは、
小ちやな蜂の中に。

U-5

 

 土と草

母さん知らぬ
草の子を、
なん千萬の
草の子を、
土はひとりで
育てます。

草があをあを
茂つたら、
土はかくれて
しまふのに。

U-48

 

  星とたんぽぽ

青いお空の底ふかく、
海の小石のそのやうに、
夜がくるまで沈んでる、
(ひる)のお星は目にみえぬ。
  見えぬけれどもあるんだよ、
  見えぬものでもあるんだよ。

散つてすがれたたんぽぽの、
瓦のすきに、だァまつて、
春のくるまでかくれてる、
つよいその根は眼に見えぬ。
  見えぬけれどもあるんだよ、
  見えぬものでもあるんだよ。   

U-68

 

  學校へゆくみち

學校へゆくみち、ながいから、
いつもお話、かんがへる。

みちで誰かに逢わなけりや、
學校へつくまでかんがへる。

だけど誰かと出逢つたら、
朝の挨拶せにやならぬ。

すると私はおもひ出す。
お天気のこと、霜のこと、
田圃
(たんぼ)がさびしくなつたこと。

だから、私はゆくみちで、
ほかのの誰にも逢はないで、
そのおはなしのすまぬうち、
御門をくぐる方がいい。

U-78

 

   (つゆ)

誰にもいはずにおきませう。

朝のお庭のすみつこで、
花がほろりと泣いたこと。

もしも噂がひろがつて
蜂のお耳へはいつたら、

わるいことでもしたやうに、
蜜をかへしに行
(ゆ)くでせう。

U-81

 

  失くなつたもの

夏の渚でなくなつた、
おもちやの舟は、あの舟は、
おもちやの島へかへつたの。
  月のひかりのふるなかを、
  なんきん玉の渚まで。

いつか、ゆびきりしたけれど、
あれきり逢はぬ豊ちやんは、
そらのおくにへかへつたの。
  蓮華のはなのふるなかを、
  天童たちにまもられて。

そして、ゆふべの、トランプの、
おひげのこはい王さまは、
トランプのお國へかへつたの。
  ちらちら雪のふるなかを、
  おくにの兵士にまもられて。

失くなつたものはみんなみんな、
もとのお家へかへるのよ。

U-91

 

  つばめ

つういと燕がとんだので、
つられてみたよ、夕空を。

そしてお空にみつけたよ、
くちべにほどの、夕やけを。

そしてそれから思つたよ、
町へつばめが來たことを。

U-149

 

  積もった雪

上の雪
さむかろな。
つめたい月がさしてゐて。

下の雪
重かろな。
何百人ものせてゐて。

中の雪
さみしかろな。
空も地面
(ぢべた)もみえないで。

U-154

 

 聲(こゑ)

空のあかるい
日のくれは、
いつも遠くで
聲がする。

かごめかなんか
してるよな。
それとも
波の音のよな。
やつぱり
子供の聲のよな。

なにかひもじい
日のくれは、
いつもとほくで
聲がする。 
  

U-164

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  みえない星

空のおくには何がある。

  空のおくには星がある。

星のおくには何がある。

  星のおくにも星がある。
  眼には見えない星がある。

みえない星は何の星。

  お供の多い王様の、
  ひとりの好きなたましひと、
  みんなに見られた踊り子の、
  かくれてゐたい來たことをたましひと。

V-9

 

  さみしい王女

つよい王子にすくわれて、
城へかへつた、おひめさま

城はむかしの城だけど、
薔薇もかはらず咲くけれど、

なぜかさみしいおひめさま、
けふもお空を眺めてた。

  (魔法つかひはこはいけど、
  あのはてしないあを空を、
  白くかがやく翅
(はね)のべて、
  はるかに遠く旅してた、
  小鳥のころがなつかしい。)

街の上には花が飛び、
城に宴はまだつづく。
それもさみしいおひめさま、
ひとり日暮
(ひぐれ)の花園で、
眞紅
(まつか)な薔薇は見も向かず、
お空ばかりを眺めてた。

V-26

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  林檎畑

七つの星のそのしたの、
誰も知らない雪國に、
林檎ばたけがありました。

枝もむすばず、人もゐず、
なかの古樹
(ふるき)の大枝に、
鐘がかかつているばかり。

  ひとつ林檎をもいだ子は、
  ひとつお鐘をならします。
  ひとつお鐘がひびくとき、
  ひとつお花がひらきます。
 
七つの星のしたを行く、
馬橇(ばそり)の上の旅びとは、
とほいお鐘をききました。

とほいその音きくときに、
凍ったこころはとけました、
みんな泪(なみだ)になりました。

V-27

 


秋は一夜に

秋は一夜にやつてくる。

二百十日に風が吹き、
二百二十日に雨が降り、
あけの夜あけにあがつたら、
その夜にこつそりやつて來る。

舟で港へあがるのか、
(はね)でお空を翔(か)けるのか、
地からむくむく湧き出すか、
それは誰にもわからない、
けれども今朝はもう來てる。

どこにゐるのか、わからない、
けれど、どこかに、もう來てる。

V-32

 

  芒(すゝき)とお日さま

――もうすこし、
――もうすこし、
芒はせい伸びしてゐます。

あまり照られてしほれそな、
白いやさしいひるがほを、
どうにか、陰にしてやろと。

――もうすこし、
――もうすこし、
お日はぐづぐづしてゐます。

まだまだ籠
(かご)は大きいに、
あれつぽちしかよう刈らぬ、
草刈むすめがかあいそで。

V-44

 

  みんなを好きに

私は好きになりたいな、
何でもかんでもみいんな。

葱も、トマトも、おさかなも、
殘らず好きになりたいな。

うちのおかずは、みいんな、
母さまがおつくりなつたもの。

私は好きになりたいな、
誰でもかれでもみいんな。

お醫者
(いしや)さんでも、鳥(からす)でも、
殘らず好きになりたいな。

世界のものはみィんな、
神さまがおつくりになつたもの。
V-45

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  水と影

お空のかげは、
水のなかにいつぱい。

お空のふちに、
木立もうつる、
野茨
(のばら)もうつる。
   水はすなほ、
   なんの影も映す。

みずのかげは、
木立のしげみにちらちら。

明るい影よ、
すずしい影よ、
ゆれてる影よ。
   水はつつましい、
   自分の影は小さい。

V-46

 

  硝子のなか

おもての雪が見えるので、
ひらひらお花のやうなので、
(あか)り障子の繪硝子を、
お炬燵
(こた)にあたつて見てゐたら、

うらの木小屋へ木をとりに、
雪ふるなかを歩いてく、
お祖母
(ばあ)さまのうしろかげ、
ちらちら映つて、消えました。
V-62

 

 
   こ こ ろ  

お母さまは
大人で大きいけれど。
お母さまの
おこころはちひさい。

だつて、お母さまはいひました、
ちひさい私でいつぱいだつて。

私は子供で
ちいさいけれど、
ちいさい私の
こころは大きい。

だつて、大きいお母さまで、
まだいつぱいにならないで、
いろんな事をおもふから。

V-77

 

  私と小鳥と鈴と

私が兩手をひろげても、
お空はちつとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のやうに、
地面
(ぢべた)を速くは走れない。

私がからだをゆすつても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のやうに
たくさんな唄は知らないよ。

鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがつて、みんないい。

V-81

 

  不思議

私は不思議でたまらない、
黒い雲からふる雨が、
銀にひかつてゐることが。

私は不思議でたまらない、
青い桑の葉たべてゐる、
(かひこ)が白くなることが。

私は不思議でたまらない、
たれもいぢらぬ夕顔が、
ひとりでぱらりと開くのが。

私は不思議でたまらない、
誰にきいても笑つてて、
あたりまへだ、といふことが。
V-96

 

     

誰も知らない野の果
(はて)
青い小鳥が死にました
  さむいさむいくれ方に

そのなきがらを埋
(う)めよとて
お空は雪を撒きました
  ふかくふかく音もなく

人は知らねど人里の
家もおともにたちました
  しろいしろい被衣
(かつぎ)着て

やがてほのぼのあくる朝
空はみごとに晴れました
  あをくあをくうつくしく

(ち)さいきれいなたましひの
神さまのお國へゆくみちを
  ひろくひろくあけようと

V-110

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  十三夜

今朝
(けさ)がた通つた
とほり雨、
(あられ)がまじつて居りました。

きのふから
急につめたい風吹いて、
母さま障子
(しやうじ)を貼りました。

今は雲さへ
見えないで、
つめたく冴えた十三夜。

このくさむらで
なく蟲
(むし)が、
きふにすくなくなりました。

V-113

 

 お祖母様(ばあさま)の病氣

お祖母さまが御病氣で、
庭には草がのびました。

花咲くころは朝ごとに、
佛さまに、と剪
(き)つてゐた、
薔薇の葉つぱは穴だらけ、
松葉ぼたんも枯れました。

となりから來る鷄
(にはとり)も、
なにか小くびをかしげます。

畫もひろうて、しんとして、
秋の風が吹いてゐて、
空家みたいになりました。

V-114

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  くれがた

暗いお山に紅い窓、
窓のなかにはなにがある。

空つぽになつたゆりかごと、
涙をためた母さまと。

明るい空に金の月、
月の上にはなにがある。

あれはこがねのゆりかごよ、
その赤ちやんがねんねしてる。

V-130

 

 こだまでせうか

「遊
(あす)ぼう」つていふと
「遊ぼう」つていふ。

「馬鹿」つていふと
「馬鹿」つていふ。

「もう遊ばない」つていふと
「遊ばない」つていふ。

さうして、あとで
さみしくなつて、

「ごめんね」つていふと
「ごめんね」つていふ。

こだまでせうか、
いいえ、誰でも。
V-136

 

 玩具(おもちや)のない子が

玩具のない子が
さみしけりや、
玩具をやつたらなほるでせう。

母さんのない子が
かなしけりや
母さんをあげたら嬉しいでせう。

母さんはやさしく
髪を撫で、
玩具は箱から
こぼれてて、

それで私の
さみしいは、
何を貰うたらなほるでせう。

V-141

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