金 子 み す ゞ 詩集

POEM T-U KANEKO MISUZU


  
色紙(いろがみ)

けふはさびしい曇り空
あんまり淋しいくもり空。

暗いはとばにあそんでる
白いお鳩の小さな足に
赤やみどりの色紙を
長くつないでやりませう

そして一しよに飛ばせたら
どんなにお空がきれいでせう。

T-61

 


  夜なかの風

夜なかの風はいたづら風よ
ひとり通ればさびしいな。

ねむの葉つぱをゆすぶろか、
ねむの葉つぱはゆすぶられ、
お舟に乘つた夢をみる。

草の葉つぱをゆすぶろか、
草の葉つぱはゆすぶられ、
ぶらんこしてる夢をみる。

夜なかの風はつまらなさうに
ひとりで空をすぎてゆく。

T-62

 


 晝の電燈
(でんき)

子供のゐない
子供部屋、
ぽつつり電燈
(でんき)
さびしかろ。

外には冴
(さ)えた
(たま)のおと、
お窓に明るい
日のひかり。

しづかに蝿が
とまつてる、
晝の電燈
(でんき)
さびしかろ。

T-63

 


 
忘れた唄

野茨
(のばら)のはなの咲いてゐる、
この草山にけふも來て、
忘れた唄をおもひます。
夢より遠い、なつかしい、
ねんねの唄をおもひます。

ああ、あの唄をうたうたら、
この草山の扉
(と)があいて、
とほいあの日のかあさまを、
うつつに、ここに、みられましよ。

けふも、さみしく草にゐて、
けふも海みておもひます。
「舟はしろがね、櫓
(ろ)は黄金(こがね)
ああ、そのあとの、そのさきの、
おもひ出せないねんね唄。

T-64

 


  
空の色

海は、海は、なぜ青い。
それはお空が映るから。

空のくもつてゐるときは、
海もくもつてみえるもの。

夕焼、夕焼、なぜあかい。
それは夕日があかいから。

だけどお晝
(ひる)のお日さまは、
青かないのに、なぜ青い。

空は、空は、なぜ青い。

T-65

 


  


お花が散つて
(み)が熟(う)れて、

その實が落ちて
葉が落ちて、

それから芽が出て
花が咲く。

さうして何べん
まはつたら、
この木は御用が
すむか知ら。

T-66

 


  
樂隊

とうからここですねてるに
(だあれ)もさがしてくれないの。

なぜだか知らない、すねてるに
(だあれ)も見つけてくれないの。

活動寫眞の樂隊の
とほくなるのを聽いてたら
なんだか泣きたくなつちやつた。

T-67

 


  海の鳥

きのふもけふもこの岸へ、
かはるがはるにくる波よ。

いま來た波は、あの波は、
どこの國から來たのだろ。

いま退く波は、あの波は、
どんな岸までゆくのだろ。

波に浮んだ海の鳥、
おまへはきつと知つてゐよ。

もしも教へてくれるなら、
こんどの祭に招
(よ)んであぎよ

T-68

 


 トランプの女王

お祭すぎの
夜あそびに、
ふいとなくした
女王さま。

いつか忘れて
日がたつて、
秋の日和の
お掃除に、
(ゆか)の下から
出は出たが、

泥にまみれて、
おちぶれて、
髪さへ白い、
おばあさま。

T-69

 


 
漁夫の小父さん

漁夫の小父さん、その舟に、
私をのせて下さいな。

ほらほら、向うにみえてゐる、
きれいな雲がむくむくと、
海から湧いてるところまで、
私と行つて下さいな。

ひとつきりしきやないけれど、
私のお人形あげませう、
それから、金魚もあげませう。

漁夫の小父さん、その舟に、
私をのせて下さいな。

 

T-70

 


  
おとむらひの日

お花や旗でかざられた
よそのとむらひ見るたびに
うちにもあればいいのにと
こなひだまでは思つてた。
だけども、けふはつまらない
人は多ぜいゐるけれど
たれも對手
(あひて)にならないし
(みやこ)から來た叔母さまは
だまつて涙をためてるし
たれも叱りはしないけど
なんだか私は怖かつた。
お店で小さくなつてたら
(うち)から雲が湧くやうに
長い行列出て行つた。
あとは、なほさらさびしいな。
ほんとにけふは、つまらない。

T-71

大漁


 大漁

朝焼小焼だ
大漁だ
大羽鰮
(おほばいわし)
大漁だ。

濱は祭りの
やうだけど
海のなかでは
何萬の
(いわし)のとむらひ
するだらう。

T-72

 


お正月と月
 
お月さん、
なぜやせる。

かど松の
松の葉のよに
なぜ細る、

お正月くるに。

T-73

 


 
秋のおたより

山から町へのお便りは、
「柿の實、栗の實、熟れ候、
ひよどり、鶫
(つぐみ)、啼き候、
お山はまつりになり候。」

町から山へのおたよりは、
「燕がみんな去に候、
柳の葉つぱが散り候、
さむく、さみしく、なり候。」

T-74

 


 
かくれんぼ

かくれりやすぐに
みつかつて、

鬼になつたら
城取られ、

いついつまでも
城取られ、

いつまで
鬼の
かくれんぼ。

日ぐれはお家が
なつかしい。

T-75

 


 


夕風
さらさら
高きび畑、

白い
お月さん
峠を越える。


とぼとぼ
疲れたお馬、

のぼり
のぼれど
高きびばかり。

T-76

 


 
晝の月

しやぼん玉みたいな
お月さま、
風吹きや、消えそな
お月さま。

いまごろ
どつかのお國では、
砂漠をわたる
旅びとが、
暗い、暗いと
いつてましよ。

白いおひるの
お月さま、
なぜなぜ
行つてあげないの。

 

T-77

 


 
私のお里

母さまお里は
山こえて、
桃の花さく
桃の村。

ねえやのお里は
海越えて、
かもめの群れる
はなれ島。

私のお里は
知らないの、
どこかにあるよな
氣がするの。

T-78

 


 
かるた 

お炬燵
(こた)の上に、
お蜜柑積んで、
お祖母様
(ばあさま)、眼鏡(めがね)
キラ、キラ、キラリよ。

疊のうへにや、
かるたが散つて、
ちひちやいお頭
(つむ)
ひい、ふう、みいつよ。

硝子のそとは、
しづかな暗夜、
ときどき霰
(あられ)が、
パラ、パラ、パラリよ。

T-79

 


 
町の馬 

山のお馬は
酒屋のかどに、
町のお馬は
魚屋のまへに。

山のお馬は
いそいそかへる、
積荷おろして
山へとかへる。

町のお馬は
かなしい馬よ、
おさかな積んで
遠い遠い町へ
叱られ、叱られ、
曳いてく馬よ。

T-80

 


  
月のお舟

空いつぱいのうろこ雲
お空の海は大波だ。

佐渡から戻る千松の
銀のお舟がみえがくれ。

黄金
(こがね)の櫓さへ流されて
いつ、ふるさとへ着かうやら。

みえて、かくれて、荒海の
果から果へ、舟はゆく。

T-81

 


  
おはなし

ひろいきれいな草野原
銀にひかるは、湖水です。
湖水の岸の御殿には
小さな小さな女王さま。
(それは魔法のみづうみで
小さくなつた私です。)
うしろに並ぶお侍女
(こしもと)
(それはやつぱり湖で
小さくなつたお友達。)
まへの御家來ひげ男
(それは私の先生よ。)
黄金
(きん)の時計がいま鳴つて
小さな女王は花びらで
お花の蜜をめしあがる。
こんなお話したけれど
大人は笑つてしまひます。
なんだか私はさびしいな。

T-82

 


 
ころんだ所 

いつか使ひのかへりみち
ここでころんで泣きました。

あの日みてゐた小母さんが
いまもお店にゐるやうす。

桃太郎さん、桃太郎さん、
ちよいとお貸しな、かくれみの。

T-83

 


 
夢賣り

年のはじめに
夢賣りは
よい初夢を
賣りにくる。

たからの舟に
山のやう、
よい初夢を
積んでくる。

そしてやさしい
夢賣りは、
夢の買へない
うら町の、
さびしい子等の
ところへも、
だまつて夢を
おいてゆく。

T-84

 


  
浮き島

私は島が欲しいのよ。

波のまにまにゆれ動く
それは小さな浮き島よ。

島はいつでも花ざかり
小さなお家
(うち)も花の屋根。
みどりの海に影さして
ゆらゆらゆれて流れるの。

海のけしきも見飽きたら
海へざんぶり飛びこんで
私の島をくぐつては
かくれんぼして遊ばれる。

そんな小島が欲しいの。

T-85

 


 大きな文字

お寺のいてふの
大筆で
誰か、大文字
かかないか。

東のお空
いつぱいに、
「コドモノクニ」と
書かないか。

いまに出てくる
お月さん、
びつくり、しやつくり
させないか。

T-86

 


 
おはじき

空いつぱいのお星さま、
きれいな、きれいな、おはじきよ。

ぱらり、とおはじき、撒きました、
どれから、取つてゆきましよか。

あの星
はじいて
かう當てて、
あれから
あの星
かう取つて。

取つても取つても、なくならぬ、
星のおはじき、お星さま。

T-87

 


 木の葉のボート

木の葉のボートに乘つてゆく、
黒い小蟻は
探検家

青いボートではるばると、
海のあなたへ出かけます。

海のあなたのはなれ島、
砂糖のお山、蜜の川、

さうして怖い鳥もゐず
蟻の地獄もないとこを。

青いボートでただひとり、
これから尋ねに出かけます。

T-88

 


 
松かさ 

磯の小松の
松かさは、
海のあなたの
こひしさに、
落ちて小舟に
のりました。

乘りは乘つたが
その舟は、
沖で一夜
(ひとよ)
さかな採り、
もとの濱へと
つきました。

T-89

 


 
天人 

ひとり日暮れの草山で、
夕やけ雲をみてゐれば、
いつか参つた寺のなか、
暗い欄間
(らんま)の彩雲(あやぐも)に、
笛を吹いてた天人の、
やさしい眉をおもひだす。

きつと、私の母さんも
あんなきれいな雲のうへ、
うすい衣
(べゞ)着て舞ひながら、
いま、笛吹いてゐるのだろ。

夕やけ雲をみてゐれば、
なんだか笛の音がする、
かすかに遠い音がする。

T-90

 


 
喧嘩のあと

ひとりになつた
一人になつた。
むしろの上はさみしいな。

私は知らない
あの子が先よ。
だけどもだけども、さみしいな。

お人形さんも
ひとりになつた。
お人形抱いても、さみしいな。

あんずの花が
ほろほろほろり。
むしろの上はさみしいな。

T-91

 


 子供の時計

こんな時計はないか知ら

三里さきから字がよめる
お城のやうな大時計

時計のなかのお部屋では
みんなで針
(はり)をまはしたり

大きな振子にのつかつて
遠くの遠くを眺めたり

そして、みんながうたふとき
朝はお日さま眼をさまし

日ぐれは星が出るならば
どんなに私はうれしかろ

T-92

 


 
話のお國 

話のお國の
王様は、
お供にはぐれて
日がくれて、
話のおくにの
森のなか。

お炬燵
(こた)にあたつて
きいてても、
なんだかつめたい
雪の夜。

お供のゐない
王さまは、
どんなに寒かろ、
さみしかろ。

T-93

 


 
つつじ

小山
(をやま)のうへに
ひとりゐて
赤いつつじの
蜜を吸ふ

どこまで青い
春の空
私は小さな
蟻かしら

甘いつつじの
蜜を吸ふ
私は黒い
蟻か知ら

T-94

 


 親なし鴨

お月さん
凍る、
枯れ葉にや
あられ、

あられ
降つては
雲間の
月よ。

お月さん
凍る、
お池も
こほるに、

親なし
子鴨、
どうして
ねるぞ。

T-95

 


 
硝子

思ひ出すのは雪の日に
落ちて砕けた窓硝子

あとで、あとでと思つてて
ひろはなかつた窓がらす

びつこの犬をみるたびに
もしやあの日の窓下を
とほりやせぬかと思つては

忘れられない、雪の日の
雪にひかつた窓がらす

T-96

 


 石ころ 

きのふは子供を
ころばせて
けふはお馬を
つまづかす。
あしたは誰が
とほるやら。

田舎のみちの
石ころは
赤い夕日に
けろりかん。

T-97

 


 とんび

とんびとろとろ
輪を描
(か)いた。
あの輪のまん中
さがしたか。

海なら鰮
(いわし)が十萬よ、
(おか)ならねずみが一ぴきよ。

とんびとろとろ
輪を描いた。
その輪のまん中
みあげたら、

ぽつかり、まひるの
お月さま。

T-98

 


 
月の出

だまつて
だまつて
ほうら、出ますよ。

お山の
ふちが
ぼうつと明るよ。

お空の
底と
海の底とに、

なにか
光りが
(と)けてゐますよ。

T-99

 


 
桑の實

青い桑の葉
たべてゐて、

かひこは白く
なりました。

赤い桑の實
たべながら、

私はくろく
日にやける。

T-100



 王様のお馬

王様のお馬は木のお馬
お供の馬は、土の馬。

だけど、おもちやのお國では、
王様のお馬は金の馬、
お供の馬は、銀の馬。

雨のふる日のふる疊
(たたみ)
それもおもちやのお國では、
空も青空、あを草の、
なかをお鈴がちりしやらと、
金のお鈴がちりしやらと。

T-101



 お乳の川

なくな、仔犬よ、
日がくれる。

暮れりや
母さんゐなくとも、

紺の夜ぞらに
ほんのりと
お乳の川が
みえよもの。

T-101

 


  
幻燈

あれはいつかの
夢か知ら。

夜ふけてうつす
幻燈の、
淡く、ふしぎな、
なつかしい、
うす青いろの
繪のなかに、
ふとみえて、
ふと消えた、
誰かによく似た、
やさしい瞳
(め)
あれは、あの夜の
夢か知ら。

T-103

 


 
お堀のそば

お堀のそばで逢うたけど、
知らぬかほして水みてた。

きのふ、けんくわはしたけれど、
けふはなんだかなつかしい。

につと笑つてみたけれど、
知らぬ顔して水みてた。

笑つた顔はやめられず、
つッと、なみだも、止められず、

私はたつたとかけ出した、
小石が縞になるほどに。
 

T-104

 


 
赤いお舟 

一本松
一本立つて
海みてる、
私もひとりで
海みてる。

海はまつ青、
雲は白、
赤いお舟は
まだみえぬ。

赤いお舟の
父さまは、
いつかの夢の
父さまは、
一本松
一本松
いつだろか。

T-105

 

 お葬ひごつこ

お葬ひごつこ、
お葬ひごつこ。

堅ちやん、あんたはお旗持ち、
まあちやん、あんたはお坊さま、
あたしはきれいな花もつて、
ほら、チンチンの、なあも、なも。

そしてみんなで叱られた。
ずゐぶん、ずゐぶん、、叱られた。

お葬ひごつこ、
お葬ひごつこ、
それでしまひになつちやつた。

T-106

大人のおもちや


 
神輿(みこし)

赤い提灯まだ灯がつかぬ、
秋のまつりの日ぐれがた。

遊びつかれてお家へ戻りや、
お父さんはお客さま、
お母さんはいそがしい。

ふつとさびしい日ぐれがた、
うらの通りを嵐のやうに、
神輿のゆくのをききました。

T-107

 


 
電報くばり 

赤い自轉車、ゆくみちは、
右もひだりも麥ばたけ。

赤い自轉車、乘つてるは、
電報くばりの黒い服。

しづかな村のどの家へ、
どんな知らせがゆくのやら、

麥のあひだの街道を
赤い自轉車いそぎます。

T-108

 


 
 

みんなのお瞳
(めゝ)
魔法の壷よ。

からたち垣根も
街道も、
お馬車も、馬も
馬方も、
蕎麥の畠も
桐の木も、
とほい、みどりの
あの山も、
まだも、お空の
雲さえも、
小さくなつて
なはいる。

黒いお瞳は
魔法の壷よ。

T-109

 



 花びらの波

お家の軒にも花が散る。
丘のうへでも花が散る。
日本中に花が散る。

日本中に散る花を
あつめて海へ浮かべましよ。

そして靜かなくれ方に、
赤いお船でぎいちらこ
色とりどりの花びらの
お花の波にゆすられて
とほい沖までまゐりましよ。

T-110

 


 
野燒きとわらび

お山のお山のわらびの子、
とろりとろりと夢みてた。

赤い翼の大鳥の、
お空を翔ける夢みてた。

お山のお山のわらびの子、
夢からさめて伸びしてた。

かはいいこぶし、ちよいと出して、
春のあけがた、伸びしてた。

T-111

 


 
轉校生(てんこうせい)

よそから來た子は
かはいい子、
どうすりや、おつれに
なれよかな。

おひるやすみに
みてゐたら、
その子は櫻に
もたれてた。

よそから來た子は
よそ言葉、
どんな言葉で
はなそかな。

かえりの路で
ふと見たら、
その子はお連れが
出來てゐた。

T-112

 


 不思議な港

ふるい港の大時計、
六時をうへにかかつてた。
ふたつの針はやすみなく、
なぜか左へまはつてた。

朽ちてこはれたさんばしに、
まつ紅
(か)な花がただひとつ、
ひるの光にゆらいでた。

黒い、しづかな水のうへ、
お山のやうに、だァまつて、
むかしの船がかかつてた。

そんな港のあるとこは、
どこのお國か、いつごろか。
誰にきいても知りやしない、
それは私の夢だもの。

T-113

 


 
粉雪

こんこん
こん粉雪
あんまり白い、

こんこ松に
たまつて、
みどりに染まれ。

T-114

 


 私のかひこ

小さい箱の家にゐる、
これは私のかひこです。

かはいいけれど、人形は、
ものも言はない、うごかない。

かひこはかはいい音立てて、
青い桑の葉たべてます。

やがて七つの繭
(まゆ)になり、
七すぢ絲
(いと)がとれたなら、

小人の姫の着るやうな、
虹色おべべも織れませう。

仲よく桑をたべてゐる、
これは私のかひこです。

T-115

 


 
くれがた

兄さん
口笛
ふき出した。

わたしは
(たもと)
かんでゐた。

兄さん
口笛
すぐやめた。

表に
こつそり
夜が來た。

T-116


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