金 子 み す ゞ 詩集

POEM  U−2 KANEKO MISUZU
土のばあや

 金魚

月はいきするたびごとに
あのやはらかな、なつかしい
月のひかりを吐くのです。

花はいきするたびごとに
あのきよらかな、かぐはしい
花のにほいをはくのです。

金魚はいきするたびごとに
あのお噺の継子
(まゝこ)のやうに
きれいな寶玉
(たま)をはくのです。

U-61

 

  仔牛(べえこ)

ひい、ふう、みい、よ、踏切で、
みんなして貨車をかずへてた。
いつ、むう、ななつ、八つ目の、
貨車に仔牛が乘つてゐた。
賣られてどこへ行くんだろ、
仔牛ばかしで乘つてゐた。
夕風冷たい踏切で、
みんなして貨車を見おくつた。
晩にやどうして寢るんだろ、
母さん牛はゐなかつた。
どこへ仔牛は行くんだろ、
ほんとにどこへ行くんだろ。

U-62

 

 忘れもの

田舎の驛
(えき)の待合室(まちあひ)に、
しづかに夜は更けました。

いつのお汽車を待つのやら。
ふるい人形は、ただひとり。

しまひの汽車におどろいた、
蟲もひそひそ鳴くころに、

(ほおき)をもつたおぢいさん、
ぢつとみつめてをりました。

ふるい人形のかあさんは、
いく山さきを行くのやら。
とほく、こだまがひびきます。

田舎の驛
(えき)は夜ふけて、
しずかに蟲が、ないてます。

 
U-63

 

 巡禮

菜種の花の咲いたころ、
濱街道で行きあつた、
巡禮の子はなぜ來ない。

私はわるいことしたの、
あのとき、お金持つてたの、
あねさま三つも買へるほど。

そのあねさまも買はないで、
思ひ出しては待つてるに、

秋のひよりの街道
(かいど)には、
やんまとんぼのかげばかり。

 
U-64

花のたましひ

  二つの小箱

紅絹
(もみ)だの、繻子(しゆす)だの、甲斐絹(かひき)だの、
きれいな小裂
(こぎれ)が箱いつぱい。
黒だの、白だの、みどりだの、
なんきん玉が箱一ぱい。
  それはみいんな私のよ。

いつか、ちひさい兄さんが、
船長さんになつたとき、
二つの小箱たのむのよ。
  それはみいんな私のよ。

船は波路をなん千里、
小人の島へ交易
(かうえき)に。
そしてかへりにや甲板に、
島の
(たから)が山のやう。
  それはみいんな私のよ。

私は明るい縁側
(えんがは)に、
ずらりときれを並べるの。
それからさらさら音立てて、
なんきん玉をかずへるの。
  それはみいんな私のよ。

U-65

 

  夢と現(うつゝ)

夢がほんとでほんとが夢なら、
よからうな。
夢ぢやなんにも決まつてないから、
よからうな。

ひるまの次は、夜だつてことも、
私が王女でないつてことも、

お月さんは手では採れないつてことも、
百合の裡
(なか)へははいれないつてことも、

時計の針は右へゆくつてことも、
死んだ人たちやゐないつてことも。

ほんとになんにも決まつてないから、
よからうな。
ときどきほんとを夢にみたなら、
よからうな。

U-66

 

 老楓

年とつた庭の楓に
十一月のお日さまは
ときが來たよ、といひました。

年とつた庭の楓は
うつうつと晝寢してゐて
色づくことを忘れました。

新建ちのお倉の屋根が高いから
十一月のお日さまは
ちらりとのぞいたきりでした。

年とつた庭の楓の
青い葉は青いまんまで
しづかに散つてゆきました。

 
U-67

 

  星とたんぽぽ

青いお空の底ふかく、
海の小石のそのやうに、
夜がくるまで沈んでる、
(ひる)のお星は目にみえぬ。
  見えぬけれどもあるんだよ、
  見えぬものでもあるんだよ。

散つてすがれたたんぽぽの、
瓦のすきに、だァまつて、
春のくるまでかくれてる、
つよいその根は眼に見えぬ。
  見えぬけれどもあるんだよ、
  見えぬものでもあるんだよ。
   

U-68

 

 

  花のたましひ

散つたお花のたましひは、
み佛さまの花ぞのに、
ひとつ殘らずうまれるの。

だつて、お花はやさしくて、
おてんとさまが呼ぶときに、
ぱつとひらいて、ほほゑんで、
蝶々にあまい蜜をやり、
人にや匂ひをみなくれて、

風がおいでとよぶときに、
やはりすなほについてゆき、

なきがらさえも、ままごとの
御飯になつてくれるから。

 
U-69

 

 朝と夜

朝はどこからやつてくる。

東の山からちよいとのぞき、
みるまに空を駈けぬけて、
しづかに町へと降りてくる。

木かげ、床下、そんなとこ、
朝日が出るまでのぞきやせぬ。

夜はどこからやつてくる。

床の下から、木かげから、
むくりむくりと起きて來て、
ぬつと大きく軒に立つ。

夕日は沈んでしまつても、
雲の端
(はし)へはとどきやせぬ。

 
U-70

 

 麥の芽

お百姓、畠に麥まいた。

毎晩、夜霜が降りたけど、
毎朝、朝日が消してつて、
畠はやつぱり黒かつた。

ある夜、夜中に誰か來た、
杖を三べん振つてゐた。
「こどもよ、こども、出ておいで。」

あけの明星と、お百姓と、
一しよに麥の芽みィつけた。
そこにもここにもみィつけた。

U-71

 

 虹と飛行機

町の人ははじめて
虹を見た、
飛行機見に出て
虹をみた。

しぐれの空から
飛行機は、
虹の輪のなかへと
急いでる。

わかつた、
わかつた、
飛行機は、
町の人に
この虹
みせようと、
虹から
つかひに
來たんだよ。

U-72

 

 二つの草

ちひさい種は仲よしで、
いつも約束してました。
「ふたりはきつと一しよだよ、
ひろい世界へ出るときは。」

けれどひとりはのぞいても、
ほかのひとりは影もなく。
あとのひとりが出たときは、
さきのひとりは伸びすぎた。

せいたかのつぽのつばめぐさ、
秋の風ふきやさやさやと、
右に左に、ふりむいて、
もとの友だちさがしてる。
ちひさく咲いた足もとの、
おみこし草を知りもせず。

 
U-78

 

 

小鳥は
小枝のてつぺんに、
子供は
木かげの鞦韆
(ぶらんこ)に、
小ちやな葉つぱは
芽のなかに。

あの木は、
あの木は、
うれしかろ。

 
U-74

 

 次からつぎへ

月夜に影踏みしてゐると、
「もうおやすみ」と呼びにくる。
  (もつとあそぶといいのになあ。)
けれどかへつてねてゐると、
いろんな夢がみられるよ。

そしていい夢みてゐると、
「さあ學校」とおこされる。
  (學校がなければいいのになあ。)
けれど學校へ出てみると、
おつれがあるから、おもしろい。

みなで城取りしてゐると、
お鐘がヘ場へおしこめる。
  (お鐘がなければいいのになあ。)

けれどお話きいてると、
それはやつぱりおもしろい。

ほかの子供もさうか知ら、
私のやうに、さうか知ら。

 
U-75

 

 月と泥棒

十三人の泥棒が、
北の山から降りて來た。
町を荒らしてやらうとて、
黒い行列つゥくつた。

たつた一人のお月さま、
東の山からあァがつた。
町を飾
(かざ)つてやらうとて、
銀のヴェールを投げかけた。

黒い行列ァ銀になる、
銀の行列ァぞろぞろと、
銀のまちなかゆきぬける。

十三人の泥棒は、
お山のみちも忘れたし、
泥棒
(どろぼ)のみちも忘れたし、

南のはてで、氣がつけば、
山はしらじら、どこやらで、
コケッコの、バカッコと鷄
(とり)がなく。

 
U-76

 

 淡雪

雪がふる、
雪がふる。

落ちては消えて
どろどろな、
ぬかるみになりに
雪がふる。

兄から、姉から、
おととにいもと、
あとから、あとから
雪がふる。

おもしろさうに
舞ひながら、
ぬかるみになりに
雪がふる。

U-77

 

  學校へゆくみち

學校へゆくみち、ながいから、
いつもお話、かんがへる。

みちで誰かに逢わなけりや、
學校へつくまでかんがへる。

だけど誰かと出逢つたら、
朝の挨拶せにやならぬ。

すると私はおもひ出す。
お天氣のこと、霜のこと、
田圃
(たんぼ)がさびしくなつたこと。

だから、私はゆくみちで、
ほかのの誰にも逢はないで、
そのおはなしのすまぬうち、
御門をくぐる方がいい。

U-78

 

 茶棚

茶棚の上には
ブリキ鑵
(くわん)
お伽ばなしの
銀の壷。

時計が三つ
打つたなら、
なかから出るもの
ビスケット。

茶棚のなかには
お菓子鉢、
きのふはカステラ
あつたけど、
お菓子が湧
(わ)かない
ものならば、
いまではきつと
からつぽだ。

 
U-79

 

 鳥の巣

小鳥、小鳥、
なんで巣をつくる。

(わら)で、藁で、つくる。

小鳥、小鳥、
そりや、お前にや似合はんぞ。

そんならなんでつくる。

お羽のいろの青いとと、
お瞳
(めゝ)のいろの黒いとと、
お嘴
(くち)のいろの赤いとと、
三つ、三いろの絹糸で、
編んで、編んで、つくれ。

 
U-80

 

   (つゆ)

誰にもいはずにおきませう。

朝のお庭のすみつこで、
花がほろりと泣いたこと。

もしも噂がひろがつて
蜂のお耳へはいつたら、

わるいことでもしたやうに、
蜜をかへしに行
(ゆ)くでせう。

U-81

 

 柱巻き

柱巻きしいしいかへらうよ。

學校の御門をくゥるくる、
木がありやその木をくゥるくる、
としやくのまはりをくゥるくる、
皆手
(みなて)をつないでくゥるくる。

この路や、なんにもないみちだ、
一年生の子がゐるよ、
あの子のまはりをくゥるくる。

「柱巻
(はしらま)きやどうかいな。」
「柱巻
(はしらま)きやどうかいな。」

 
U-82

 

 水と風と子供

天と地を
くゥるくゥる
まはるは誰ぢや。
それは水。

世界中を
くゥるくゥる
まはるは誰ぢや。
それは風。

柿の木を
くゥるくゥる
まはるは誰ぢや。

それはその
實の欲しい子ぢや。

 
U-83

 

 雲のこども

風の子供のゐるとこに、
波の子供はあそびます。

波の大人のゐるとこにや、
風も大人がゐるのです。

だのに、お空を旅してる、
雲の子供はかはいさう。

大人の風につれられて、
いきをきらしてついてゆく

U-84

 

 空つぽ

あかい手箱にいつぱいの、
きれいなきれを着せてみる、
私の人形は、空つぽよ。

からつぽだから、いつまでも、
顔もよごれず、手ももげず、
世界で一ばんきれいなの。

からつぽだからその上に、
はなしも出來りやききもして、
世界で一ばんりこうなの。

(あか)い鹿(か)の子や、友禅や、
飽かずに、飽かずに、着せかへる、
私の人形は、空つぽよ。

 
U-85

 

  蓄音器

大人はきつとおもつてゐるよ、
子供はものをかんがへないと。

だから、私が私の舟で、
やつとみつけたちひさな島の、
お城の門をくぐつたとこで、
大人はいきなり蓄音器をかける。

私はそれを、きかないやうに、
話のあとをつづけるけれど、
唄はこつそりはいつて來ては、
島もお城もぬすんでしまふ。

U-86

 

 山茶花

居ない居ない
ばあ!
誰あやす。

風ふくおせどの
山茶花は。

居ない居ない
ばあ!
いつまでも、

泣き出しさうな
空あやす。

U-87

 

  あるとき

お家のみえる角へ來て、
おもひ出したの、あのことを。

私はもつと、ながいこと、
すねてゐなけりやいけないの。

だつて、かあさんはいつたのよ、
「晩までさうしておいで」つて。

だのに、みんなが呼びにきて、
わすれて飛んで出ちやつたの。

なんだかきまりが悪いけど、
でもいいわ、
ほんとはきげんのいいほうが、
きつと、母さんは好きだから。
 
U-88

 

  お花だつたら

もしも私がお花なら、
とてもいい子になれるだろ。

ものが言へなきや、あるけなきや、
なんでおいたをするものか。

だけど、誰かがやつて來て、
いやな花だといつたなら、
すぐに怒つてしぼむだろ。

もしもお花になつたつて、
やつぱしいい子にやなれまいな、
お花のやうにはなれまいな。
 

U-89

 

  舟乘と星

舟乘は星をみた、
星はいつてた、
「おいでよ、おいで。」
波はずゐぶん高かつた。

舟乘の眼はかがやいた。
風もおそれず、波もみず、
星へへさきをむけてゐた。

舟乘は岸へついてた、
知らぬまに。
「星か、星か。」とおもつてた。
星はやつぱり遠かつた。

舟乘をにがしたと、
波はなほさら怒つてた。

U-90

 

長門市 只の浜にて

  失くなつたもの

夏の渚でなくなつた、
おもちやの舟は、あの舟は、
おもちやの島へかへつたの。
  月のひかりのふるなかを、
  なんきん玉の渚まで。

いつか、ゆびきりしたけれど、
あれきり逢はぬ豊ちやんは、
そらのおくにへかへつたの。
  蓮華のはなのふるなかを、
  天童たちにまもられて。

そして、ゆふべの、トランプの、
おひげのこはい王さまは、
トランプのお國へかへつたの。
  ちらちら雪のふるなかを、
  おくにの兵士にまもられて。

失くなつたものはみんなみんな、
もとのお家へかへるのよ。

U-91

 

 夜散る花

朝のひかりに
散る花は、
雀もとびくら
してくれよ。

日ぐれの風に
散る花は、
鐘がうたつて
くれるだろ。

夜散る花は
誰とあそぶ、
夜散る花は
誰とあそぶ。

U-92

 

    北風の唄


  中ぞらの凩
(こがらし)のおと、

  ふと止んだとき

  おもふこと――

 

  中ぞらで風がいふ。

  きけ、きけ、唄を

  私の唄を、

  氷の原に

  すむ鳥の唄、

  雲のひろ野を

  ゆく橇(そり)の鈴、

  みんな私は

  もつて來た――

  誰も答へず、ききもせず。

  中空で風はふと、

  さびしくなつた――

 
U-93

 

  月のひかり

  一

月のひかりはお屋根から、
明るい街(まち)をのぞきます。
 
なにも知らない人たちは、
ひるまのやうに、たのしげに、
明るい街をあるきます。
 
月のひかりはそれを見て、
そつとためいきついてから、
誰も貰はぬ、たくさんの、
影を瓦にすててます。
 
それを知らない人たちは、
あかりの川のまちすぢを、
魚のやうに、とほります。
  ひと足ごとに、濃く、うすく、
  伸びてはちぢむ、氣まぐれな、
  電燈(でんき)のかげを曳きながら。
 
  二

月のひかりはみつけます、
暗いさみしい裏町を。
 
いそいでさつと飛び込んで、
そこのまづしいみなし兒が、
おどろいて眼をあけたとき、
その眼のなかへもはいります。
  ちつとも痛くないやうに、
  そして、そこらの破(あば゙)ら屋が、
  銀の、御殿にみえるよに。

子供はやがてねむつても、
月のひかりは夜明けまで、
しづかにそこに佇(た)つてます。
  こはれ荷ぐるま、やぶれ傘、
  一本はえた草にまで、
  かはらぬ影をやりながら。
 
U-94

獨樂(こま)の實(み)

  雨の日

色紙を野原いつぱい
(ま)きませう。
枯野を春に
變へませう。

色紙をちよきんちよきんと
(き)りました。
あした日和
(ひより)
なつたら、と。

色紙を日ぐれに誰か
棄てました。
わすれて銀杏
(ぎんなん)
してるまに。

U-95

 

  元日

みんなで双六
(すごろく)しませうと、
みんなの御用のすむときを、
待つてゐるまはさみしいな。
  遠い遠い原つぱで
  男の子たちの聲
(こえ)がする。

大戸卸
(おろ)して屏風(びやうぶ)をたてて、
暗い暗いうちのなか、
お山のやうにさみしいな。
  凍
(い)てた表にからころと
  さむい足駄の音がする。

昨日
(きのふ)は夜を待ちくたびれて、
今朝も跳ね跳ねお着物
(べゞ)を着たが、
お正月とはさみしいものよ。
姉さん學校へいつちやつて
母さん御用がまだすまぬ。

U-96

 

  わらひ
それはきれいな薔薇いろで、
芥子つぶよりかちひさくて、
こぼれて土に落ちたとき、
ぱつと花火がはじけるやうに、
おほきな花がひらくのよ。
 
もしも泪がこぼれるやうに、
こんな笑ひがこぼれたら、
どんなに、どんなに、きれいでせう。 

U-97

 

  春のお機

トン、トン、トンカラリンと
佐保姫さまは
むかしお機を織りました。

麥をみどりに、
菜種を黄
(きい)に、
げんげを紅
(あか)く、
かすみを白く、
五つ色いと
四つまでつかひ、
殘つたものは
青いとばかり。

トン、トン、トンカラリンと
佐保姫さまは
それでお空を織りました。
 

U-98

 

  夢から夢を

一寸法師はどこにゐる。
一寸法師は身がかるい、
夢から夢を飛んで渡る。

そして晝間はどこにゐる。
晝も夢みる子供等の、
夢から夢を飛んで渡る。

夢のないときや、どこにゐる。
夢のないときや、わからない、
夢のないときや、ないゆゑに。

U-99

 

  あらしの夜

吠える風
たける波。
その岸で
燈台守のひとりごと。

このなかに
この底に、
いまも眞珠はあるか知ら。

風の渦
(うづ)
雲の渦。
その上で
青いお星のひとりごと。

このなかに
この底に、
よべのつぼみは咲くか知ら。

U-100

 

 金魚のお墓

暗い、さみしい、土のなか
金魚はなにをみつめてる。
夏のお池の藻の花と、
揺れる光のまぼろしを。

靜かな、靜かな、土のなか、
金魚はなにをきいてゐる。
そつと落葉の上をゆく、
夜のしぐれのあしおとを。

冷たい、冷たい、土のなか、
金魚はなにをおもつてる。
金魚屋の荷のなかにゐた、
むかしの、むかしの、友だちを。

U-101

 

  

花咲爺さん、灰おくれ、
(ざる)にのこつた灰おくれ、
私はいいことするんだよ。

さくら、もくれん、梨、すもも、
そんなものへは撒きやしない、
どうせ春には咲くんだよ。

一度もあかい花咲かぬ、
つまらなそうな、森の木に、
灰のありたけ撒くんだよ。

もしもみごとに咲いたなら、
どんなにその木はうれしかろ、
どんなに私もうれしかろ。

 
U-102

 

  

うちのだりあの咲いた日に
酒屋のクロは死にました。

おもてであそぶわたしらを、
いつでも、おこるをばさんが、
おろおろ泣いて居りました。

その日、學校でそのことを
おもしろさうに、話してて、

ふつとさみしくなりました。

 
U-103

 

  草の名

人の知つてる草の名は、
私はちつとも知らないの。

人の知らない草の名を、
私はいくつも知つてるの。

それは私がつけたのよ、
好きな草には好きな名を。

人の知つてる草の名も、
どうせ誰かがつけたのよ。

ほんとの名まへを知つてるは、
空のお日さまばかりなの。

だから私はよんでるの、
私ばかりでよんでるの。