金 子 み す ゞ 詩集
POEM U−3 KANEKO
MISUZU
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いろはかるた
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空いろの花
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輪まはし
あの町ぬけて
この町ぬけて
輪まはし がァらがら。
一つ人力
二つ荷車
おひこして がァらがら。
三つ目をぬけば
もう町はづれ、
町の外へ がァらがら。
田圃のみちは
お空へつづく、
空の上まで がァらがら。
日が暮れかかりや
夕やけのなかへ
はうり出して、かァへろ。
海から出た星が、
その輪をかぶつて、
天文臺(てんもんだい)の博士、
びつくり、しやつくり、目をまはす。
「大發見ぢや、たいへんぢや、
土星が二つにふえちやつた。」U-167
- 空と海
春の空はひかる、
絹のよにひかる、
なんでなんでひかる。
なかのお星が
透くからよ。
春の海はひかる、
貝のよにひかる、
なんでなんでひかる。
なかに眞珠が
あるからよ。U-168
- いいこと
古い土塀が
くづれてて、
墓のあたまの
みえるとこ。
道の右には
山かげに、
はじめて海の
みえるとこ。
いつかいいこと
したところ、
通るたんびに
うれしいよ。U-169
- 晝と夜
晝のあとは
夜よ、
夜のあとは
晝よ。
どこに居たら
見えよ。
長い長い
縄が、
その端と
端が。U-170
- 葉つぱの赤ちやん
「ねんねなさい」は
月の役。
そつと光りを着せかけて、
だまつてうたふねんね唄。
「起つきなさい」は
風の役。
東の空のしらむころ、
ゆすつておめめさまさせる。
晝のお守りは
小鳥たち。
みんなで唄をうたつたり、
枝にかくれて、また出たり。
ちひさな
葉つぱの赤ちやんは、
おつぱいのんでねんねして、
ねんねした間にふとります。U-171
- 一番星
ひばりが空で
一番星みィつけた。
船頭の子が海で
一番星みィつけた。
支那の子が支那で
一番星みィつけた。
たァれが長者に
なァる。
知つてゐるものは
一番星ばかり。U-172
- あの子
── あの子を誰が奪りました。
── あの子は私が呼びました。
── あの子はどこへゆきました。
── 私のくにへゆきました。
── あの子はいけない子でしたに。
── あの子はいけない子だけれど、
あの子のかあさま、そこにゐて、
あまり待つから、おもふから。U-173
- 佛さまのお國
おなじところへゆくのなら、
み佛さまはたれよりか、
わたくしたちがお好きなの。
あんないい子の花たちや、
みんなにいい歌きかせてて、
鐵砲で射たれる鳥たちと、
おなじところへゆくのなら。
ちがふところへゆくのなら、
わたくしたちの行くとこは、
一ばんひくいとこなのよ。
一ばんひくいとこだつて、
私たちには行けないの。
それは支那より遠いから、
それは、星より高いから。U-174
ガラスふき
お窓にのぼつてガラスふき。
ふきふき見れば、教室の、
机の上に草が生え、
誰かはだしで取つてゐる。
草取る上の黒板に、
誰か墨汁ぬつてゐる。
ぬつたばかりの黒板にや、
花のさかりの山ざくら。
土手のむかうを守つ子が、
花をみいみい行きすぎる。
うつつた影を知らないで、
みてゐる私を知らないで。
U-175
- 桃
一、二ィ、三、- 飛びついた。
ゆつさゆつさゆれる
桃の枝。
枝は下つて來は來たが、
右もひだりも手があかぬ。
一、二ィ、三、
飛び下りた。
ぴんとかへつた
桃の枝。
あの桃、あの桃、たァかいな、
あの桃、あの桃、大きいな。U-176
御本
さびしいときは、父さんの、
お留守の部屋で、本棚の、
御本の背(せな)の金文字を、
ぢつと眺めて立つてるの。
ときにや、こつそり背のびして、
重たい御本をぬき出して、
人形のやうに、抱つこして、
明るいお縁へ出てゆくの。
なかは横文字ばかしなの、
カナはひとつもないけれど、
もやうみたいで、きれいなの。
それに、ふしぎな香がするの。
お指なめなめ、つぎつぎに、
しろい、頁(ペイジ)をくりながら、
そこにかかれたお噺を、
つぎからつぎへとこさへるの。
若葉のかげの文字にさす、
五月のお縁(えん)で父さんの、
大きな御本よむことが、
私ほんとに好きなのよ。
U-177
- まり
まりを尋ねて町の子は
知らぬ町までゆきました。
塀の上からふと飛んだ、
それはしやぼん玉、消えました。
まりを尋ねて町の子は
田舍の一軒屋へゆきました。
一軒屋のお背戸でみつけたが、
それはあぢさゐ、散りました。
まりを尋ねて町の子は
青い空までゆきました。
白いやなぎの雲かげに、
まりはかくれてをりました。U-178