金 子 み す ゞ 詩集

POEM  U−3 KANEKO MISUZU

  寒のあめ

しぼしぼ雨に
日ぐれの雨に、
まだ灯のつかぬ、
街燈がぬれて。

きのふの凧
(たこ)
きのふのままに、
梢にたかく、
やぶれてぬれて。

重たい傘を
お肩にかけて、
おくすり提げて、
私はかへる。

しぼしぼ雨に
日ぐれの雨に、
蜜柑の皮は、
ふまれて、ぬれて。

U-122

 

  轍(わだち)と子供

(わだち)は轢(ひ)くよ、
すみれの花を、
石を轢
(ひ)くやうに。

田舍のみちで。

子供はひろふ、
ちひさな石を、
花を摘
(つ)むやうに。

都のまちで。

U-123

 

 日永

山から
山を
雲のかげは。

枝から
枝へ
春の鳥は。

空から
空を
その子の瞳
(めゝ)は。

空より
そとを
日なかの夢は。

U-124

いろはかるた

 象

おほきな象にのりたいな、
印度のくにへゆきたいな。

それがあんまり遠いなら、
せめてちひさくなりたいな。
おもちやの象に乘りたいな。

菜の花ばたけ、麥ばたけ、
どんなに深い森だらう。

そこで狩り出すけだものは、
象より大きなむぐらもち。

暮れりや雲雀
(ひばり)に宿借りて、
七日七夜を森のなか。


えものの山を曳きながら、
深い森から出たときに、

げんげ並木の中みちは、
そこから仰ぐ大空は、
どんなにどんなにきれいだろ。

U-125

 

 四つ辻

誰か
知らないお客さま、
おうちのみちをきかないか。

すねてお家をぬけたゆゑ、
秋の夕ぐれ、四つ辻に。

はらりはらりと散る柳、
ちろりちろりとつく灯
(ともし)

たれか
知らない旅のひと、
お家のみちをきかないか。

U-126

 

光の籠

私はいまね、小鳥なの。

夏の木のかげ、光の籠に、
みえない誰かに飼はれてて、
知つてゐるだけ唄うたふ、
私はかはいい小鳥なの。

光の籠はやぶれるの、
ぱつと翅さへひろげたら。

だけど私は、おとなしく、
籠に飼はれて唄つている、
心やさしい小鳥なの。

U-127

 

 草原の夜

ひるまは牛がそこにゐて、
青草食べてゐたところ。

夜ふけて、
月のひかりがあるいてる。

月のひかりのさはるとき、
草はすつすとまた伸びる。
あしたも御馳走してやろと。

ひるま子供がそこにゐて、
お花をつんでゐたところ。

夜ふけて、
天使がひとりあるいてる。

天使の足のふむところ、
かはりの花がまたひらく、
あしたも子供に見せようと。

U-128

 

 山の枇杷(びは)

山の枇杷
(びは)
知らない人が枝にゐて、
峠をのぼるわたしらに
枝ごと投げてくれました。
  黄いろく熟
(う)れた
  枇杷の實を――

山の枇杷、
いまは葉ばかり、誰もゐず、
峠のみちのあき風に
吹かれて私はくだります。
  ひとつの影の
  ながいこと――

U-129

 

 石と種

石ころは
街道
(かいど)の土にうもれてた。

菜の種は
畠の土にうもれてた。

街道
(かいど)
畠に
雨がふり、
街道に
畠に
日が照つた。

畠の土から、芽が出たら、
お百姓
(ひやくしよ)さんがよろこんだ。

街道
(かいど)に石がのぞいたら、
乞食
(こじき)の子供がつまづいた。

U-130

 

 おひる休み

「城取りするもな みな來いよ。」
「ため鬼するもな みな來いよ。」

あの組や、いれてはくれまいし、
あの組や、あの子が大將だし。

知らぬかほして、片かげで、
地面
(ぢべた)に汽車を描(か)いてゐる。

あの組や、わかれてはじめたな、
あそこは、鬼きめしてゐるな。

なにか、びくびくしてゐたが、
みんなはじめてしまつたら、

騒ぎのなかに、裏山の
のなくのがきこえるよ。

U-131

 

 さくらの木

もしも、母さんが叱らなきや、
咲いたさくらのあの枝へ、
ちよいとのぼつてみたいのよ。

一番目の枝までのぼつたら、
町がかすみのなかにみえ、
お噺のくにのやうでせう。

三番目の枝に腰かけて、
お花のなかにつつまれりや、
私がお花の姫さまで、
ふしぎな灰でもふりまいて、
咲かせたやうな、氣がしませう。

もしも誰かがみつけなきや、
ちよいとのぼつてみたいのよ。

U-132

 

 さよなら

母さま、母さま、待つててね、
とても私はいそがしい。

うまやの馬に、鷄小屋
(とりごや)の、
(とり)と小ちやなひよつこに、
みんなさよならしてくるの。

このふの木樵
(きこり)に逢へるなら、
ちよいと山へもゆきたいな。

母さま、母さま、待つててね、
まだ忘れてたことがある。

町へかへればみられない、
みちのつゆくさ、蓼
(たで)のはな、

あの花、この花、顔をみて、
ようくおぼえておきませう。

母さま、母さま、待つててね。 

U-133

 

 學校

舟でくる子もありました、
峠を越
(こ)す子もありました。

うしろは山で
の聲、
まへはつつみで葦の風。

田圃
(たんぼ)を越えて海がみえ、
眞帆も片帆もゆきました。

赤い瓦に、雪が消え、
青いお空に桃が咲き、

新入生のくるころは、
(にほ)も、かへろも啼きました。

黒いつつみを背
(せな)におひ、
あかい苺
(いちご)ももぎました。

赤い瓦の學校よ、
水にうつつた、あの屋根よ、

水にうつつた、影のよに、
いまはこころにあるばかり。

U-134

 

 となりの杏

花はのこらず見えました、
雨も、月夜も、ありました。

散ればちらちら垣越えて
風呂のなかにも浮きました。

葉かげに小
(ち)さい實のころは
みんな忘れて居りました。

(う)れてまつかになるころは
いつかくるかと待ちました。

そして私のもらうたは
あんず二つでありました。

U-135

 

 振子(ふりこ)

時計の窓をのぞいてる
(とま)つたふり子はさびしさう。

窓のそとには、街
(まち)がみえ
子供が縄
(なわ)とびしてゐるに、

だれかみつけてくれないか
鞦韆
(ぶらんこ)押してくれないか。

窓の硝子をのぞいてる
錆びたふり子は、さびしさう。

U-136

 

 みえないお城

野がり山がり日がくれて、
見えない家來を供ににつれ、
みえないお城へかへります。

野ではみえない羊飼
(ひつじかひ)
とほくでみえない笛吹いて、
みえない羊を呼んでます。

森のむかうにや黄金色
(きんいろ)の、
みえないお城の窓あかり、
ちろりちろりと光ります。

私はちひさい王子さま、
みえないお馬にのつてゆきや、
みえないお鈴がひびきます。

U-137

 

 いろはかるた

ふときく聲は、
子供の聲は、
「はなより團子
(だんご)、はの字だよ。」

小雨、ぬか雨、ふるなかを、
兄さんむかへにゆくみちよ。

みかへりや、雨戸がしまつてて、
それでも灯
(あかり)はこぼれてた。

「いいかい、おつぎは・・・・・・。」
あるき出す、
向うのむかうが
暗いこと。

U-138

 

 花と鳥

花と鳥、
あそんでた、
繪本のなかで。

花と鳥、
ならんでた、
おとむらひのまへに。

たあれと
あそぶ。

花屋の花は。

たあれと
あそぶ。

鳥屋の鳥は。

U-139

 


  
山ざくら 

さくら、さくら、山ざくら、
私は髪に挿しました。
  山ひめさまになりました。

さくら、さくら、山ざくら、
その木の下に立ちました。
  山ひめさまは立ちました。

さくら、さくら、山ざくら、
舞つておみせ、といひました。
  山ひめさまがいひました。

さくら、さくら、山ざくら、
ひらりしやらりと舞ひました。
  山ひめさまにみせました。

さくら、さくら、山ざくら、
髪から、みんな散りました。
  駈け駈けかへる山みちで。

U-140

 

 雀の墓

雀の墓をたてようと、
「スズメノハカ」と書いたれば、

風が吹いたと笑はれて、
だまつて袂へいれました。

雨があがつて、でてみたら、
どこへ雀を埋
(う)めたやら、
しろいはこべの花ばかり。

「スズメノハカ」は、建
(た)てもせず、
「スズメノハカ」は、棄
(す)てもせず。

U-141

 

 赤土山

赤土山の赤土は、
賣られて町へゆきました。

赤土山の赤松は、
足のしたから崩
(くづ)れてて、
かたむきながら、泣きながら、
お馬車のあとを見送つた。

ぎらぎら青い空のした、
しづかに白いみちの上。

町へ賣られた赤土の、
お馬車は遠くなりました。

U-142

 


  
仙人

花をたべてた仙人は、
天へのぼつてゆきました。
  そこでお噺すみました。

私は花をたべました。
緋桃の花は苦かつた。
  そこでげんげをたべました。

お花ばかりをたべてたら、
いつかお空へゆけませう。
  そこでも一つたべました。

けれどそろそろ日がくれて、
お家の灯りがついたから、
  そこで御飯をたべました。

U-143

 

 ピンポン

二階の窓のすり硝子
ピンポンしてる
かげ法師

港のまちの春のよひ
月はおかさをさしてゐた。

ほんのりとしやぼんの香
(にほひ)
(かあ)さまとお湯のかへりで
からころと

とほりすぎてもお窓から
ピンポンしてる
音がする。

U-144

 

 仲なほり

げんげのあぜみち、春がすみ、
むかうにあの子が立つてゐた。

あの子はげんげを持つてゐた、
私も、げんげを摘んでゐた。

あの子が笑ふ、と、氣がつけば、
私も知らずに笑つてた。

げんげのあぜみち、春がすみ、
ピイチク雲雀
(ひばり)が啼いてゐた。

U-145

 

 海の花園
  ――澤江の海にて――

入江の底の花園は、
舟のうへから見られます。

とぶは光の白い蝶、
ゆれるはみどりのとけい草。

ぼたんに似てる、むらさきの、
くらげの花はかず知れず、

こんなきれいな花ぞのは、
(おか)のうへにはありません。

だけどもそれは、つまらない、
濱の濱茶
(はまちや)の花なのよ。

はるかの沖のその底の、
丘や、谷間や、川べりや、
それから、海の王さまの、
御城の庭にさく花は、

(おか)の花しきや知らぬ子にや、
おもふことさへできません。

U-146

 

 ぶらんこ

電信柱の鐵
(かね)の枝、
電信工夫ののぼる枝。
  私はぶらんこかけました。

だつて、ここらにや木はないし、
(うち)はせまくて叱られる。
  そこで私はかけました。

一つゆすればぶつかつた、
電信柱にぶつかつた。
  そこでぶらんこときました。

縄を大事に手に巻いて、
私は駆けてゆきました。
  縄とび出來る、裏まちへ。

U-147

 

 にぎやかなお

明るい、明るい、春の日です。
とても見事なおとむらひです。

なん百といふ花輪の花は、
明るい明るい空の下で、
みんなみんな嬉しさうです。

(しゆ)ぬりの車にのせられてゐる、
鳩たちの黒い翅も、
みんなみんな光つてゐます。

あ、小さな男の子がひとり、
花輪のなかをくぐりぬけます、
私もぬけてみたくなります。
  ちやうどあの、祭の晩に、
  神輿
(みこし)の下をくぐるやうに。

たかいたかい旗のそばに、
うすいうすい雲が浮いて、
ほんとにのどかな春の日です。

U-148

 

  つばめ

つういと燕がとんだので、
つられてみたよ、夕空を。

そしてお空にみつけたよ、
くちべにほどの、夕やけを。

そしてそれから思つたよ、
町へつばめが來たことを。

U-149

 


  
お佛壇

お背戸
(せど)でもいだ橙も、
町のみやげの花菓子も、
佛さまのをあげなけりや、
私たちにはとれないの。

だけど、やさしい佛さま、
ぢきにみんなに下さるの。
だから私はていねいに、
兩手かさねていただくの。

家にやお庭はないけれど、
お佛壇にはいつだつて、
きれいな花が咲いてるの。
それでうち中あかるいの。

そしてやさしい佛さま、
それも私にくださるの。
だけどこぼれた花びらを、
蹈んだりしてはいけないの。

朝と晩とにおばあさま、
いつもお燈明
(あかり)あげるのよ。
なかはすっかり黄金
(きん)だから、
御殿のやうに、かがやくの。

朝と晩とに忘れずに、
私もお禮をあげるのよ。
そしてそのとき思ふのよ、
いちんち忘れてゐたことを。

忘れてゐても、佛さま、
いつもみてゐてくださるの。
だから、私はさういふの、
「ありがと、ありがと、佛さま。」

黄金
(きん)の御殿のやうだけど、
これは、ちひさな御門なの。
いつも私がいい子なら、
いつか通つてゆけるのよ。

U-150

 

 このみち

このみちのさきには、
大きな森があらうよ。
ひとりぼつちの榎
(えのき)よ、
このみちをゆかうよ。

このみちのさきには、
大きな海があらうよ。
蓮池のかへろよ、
このみちをゆかうよ。

このみちのさきには、
大きな都があらうよ。
さびしさうな案山子
(かかし)よ、
このみちを行かうよ。

このみちのさきには、
なにかなにかあらうよ。
みんなみんなで行かうよ、
このみちをゆかうよ。

U-151

 

 竹とんぼ

キリリ、キリリ、竹とんぼ、
あがれ、あがれ、竹とんぼ。

二階の屋根よりまだ高く、
一本杉よりまだ高く、
かつらぎ山よりまだ高く。

私のけづつた竹とんぼ、
私のかはりに飛びあがれ。

キリリ、キリリ、竹とんぼ、
あがれ、あがれ、竹とんぼ。

お山の煙
(けむ)よりまだ高く、
ひばりの唄よりまだ高く、
かすんだお空をつき抜けろ。

けれどもきつと忘れずに、
ここの小みちへ下りてこい。

U-152

 

  誰がほんとを

誰がほんとをいふでせう、
私のことを、わたしに。
  よその小母さんはほめたけど、
  なんだかすこうし笑つてた。

誰がほんとをいふでせう、
花にきいたら首ふつた。
  それもそのはず、花たちは、
  みんな、あんなにきれいだもの。

誰がほんとをいふでせう、
小鳥にきいたら逃げちやつた。
  きつといけないことなのよ、
  だから、言はずに飛んだのよ。

誰がほんとをいふでせう、
かあさんにきくのは、をかしいし、
  (私は、かはいい、いい子なの、
  それとも、をかしなおかほなの。)

誰がほんとをいふでせう、
わたしのことをわたしに。

U-153

 



  
積もった雪

上の雪
さむかろな。
つめたい月がさしてゐて。

下の雪
重かろな。
何百人ものせてゐて。

中の雪
さみしかろな。
空も地面
(ぢべた)もみえないで。

U-154

空いろの花

 空色の花

青いお空の色してる、
小さい花よ、よくお聴き。

むかし、ここらに黒い瞳の、
かはいい女の子があつて、
さつき私のしてたよに、
いつもお空をみてゐたの。

一日青ぞら映るので、
お瞳
(めゝ)はいつか、空いろの、
小さな花になつちやつて、
いまもお空をみてゐるの。

花よ、わたしのお噺が、
もしもちがつてゐないなら、
おまへはえらい博士
(はかせ)より、
ほんとの空を知つてゐよ。

いつも私が空をみて、
たくさん、たくさん、考へて、
ひとつもほんとは知らぬこと、
みんなみてゐよ、知つてゐよ。

えらいお花はだァまつて、
ぢつとお空をみつめてる。
空に染まつた青い瞳で、
いまも、飽きずにみつめてる。

U-155

 

 もういいの

── もういいの。
── まあだだよ。
枇杷の木の下と、
牡丹のかげで、
かくれん坊の子供。

── もういいの。
── まあだだよ。
枇杷の木の枝と、
青い實のなかで、
小鳥と、枇杷と。

── もういいの。
── まあだだよ。
お空のそとと、
黒い土のなかで、
夏と、春と。

U-156

 

  げんげ

雲雀
(ひばり)聽き聽き摘んでたら、
にぎり切れなくなりました。

持ってかへればしをれます、
しをれりや、誰かが捨てませう。
きのふのやうに、芥箱
(ごみばこ)へ。

私はかへるみちみちで、
花のないとこみつけては、
はらり、はらりと、撒きました。
――春のつかひのするやうに。

 U-157

 

 ふうせん

ふうせん持つた子が
そばにゐて、
私が持つてるやうでした。

ぴい、とどこぞで
笛がなる、
まつりのあとの裏どほり、

あかいふうせん、
晝の月、
春のお空にありました。

ふうせん持つた子が
行つちやつて、
すこしさみしくなりました。

U-158

 

 ちんがらこ

ちんが、ちんが、ちんがらこ。

切れた草履を手に提げて、
麥の中みちちんがらこ。

飛ぶとき遠くの川瀬がみえた。
あつちのあぜの、豆の花みえた。
麥も飛ぶたび飛ぶやうな。

みちの縁にはげんげ草、
菜種もこぼれて咲いてゐる。

右に花摘み、左に花摘み、
切れた片
(かた)しが邪魔になる。

切れた草履が要るものか、
ぽんとはうつて、ちんがらこ。

ちんが、ちんが、ちんがらこ

U-159

 

 紙ふうせん

一つ、ついては、手をたたく、
紙ふうせんののぼる空。

絹の旗雲、窒フ雲、
柳のやうな、枝の雲。

「さんさん笹山」その唄の
猿もさんさん、笹山で、
お手々たたいて春の日を、
みなでたのしくあすぼうし、

ひとりあそびもお日和は、
ひとりあそびも春の日は。

U-160

 

 金平糖の夢

金平糖は
夢みてた。

春の田舍の
お菓子屋の
硝子のびんで
夢みてた。

硝子の舟で
海越えて
海のあなたの
大ぞらの
お星になつた
夢みてた。
 

U-161

 

 電信柱

耳もとでおしやべり雀の聲がして、
電信柱は眼がさめた。

野菜ぐるまの絶えたころ、
工夫がコツコツやつて來た。

おひるすぎから風がでた、
子供がお耳をおつつけた。

絲を切られたふうせんは、
鼻をかすめて飛んでつた。

夕焼小焼で日がくれた、
あたまの近くへ星が出た。

足もとで救世軍がうたふので、
電信柱はねむなつた。

U-162

 

 いい眼

山のむかうの鳩の眼を、
ねらつて鐵砲が射
(う)てるよな、
いい眼が私にあつたなら、

町のかあさんのそばにゐて、
田舍の、林の、木の枝の、
小鳥の巣かけもみな見える。

沖の、小島の、片かげの、
岩の鮑もみなみえる。

空の、夕焼の、雲のうへ、
天使のすがたもよくみえる。

そんないい眼があつたなら、
いつも、母さんのそばにゐて、
いろんなことをみようもの。

U-163

 

 
  (こゑ)

空のあかるい
日のくれは、
いつも遠くで
聲がする。

かごめなんか
してるよな。
それとも
波の音のよな。
やつぱり
子供の聲のよな。

なにかひもじい
日のくれは、
いつもとほくで
聲がする。

U-164

 

 お嬢さん

みちを
へた旅びとは、
とうにみえなくなつたのに、
私はとぼんとしてゐたよ。

いつも私のかんがへる、
あのおはなしのお國では、
お姫さまともよばれても、
あたしは貧乏な田舍の子。

「お嬢さん、ありがたう。」
そつとあたりをみまはして、
なにかふしぎな氣がするよ。

U-165

 

 みそはぎ

ながれの岸のみそはぎは、
誰も知らない花でした。

ながれの水ははるばると、
とほくの海へゆきました。

大きな、大きな、大海で、
小さな、小さな、一しづく、
誰も、知らないみそはぎを、
いつもおもつて居りました。

それは、さみしいみそはぎの、
花からこぼれた露でした。

U-166

 

 輪まはし

あの町ぬけて
この町ぬけて
輪まはし がァらがら。
一つ人力
二つ荷車
おひこして がァらがら。
三つ目をぬけば
もう町はづれ、
町の外へ がァらがら。

田圃のみちは
お空へつづく、
空の上まで がァらがら。
日が暮れかかりや
夕やけのなかへ
はうり出して、かァへろ。

海から出た星が、
その輪をかぶつて、
天文臺
(てんもんだい)の博士、
びつくり、しやつくり、目をまはす。
「大發見ぢや、たいへんぢや、
土星が二つにふえちやつた。」

  U-167

 

 空と海

春の空はひかる、
絹のよにひかる、
なんでなんでひかる。

なかのお星が
透くからよ。

春の海はひかる、
貝のよにひかる、
なんでなんでひかる。

なかに眞珠が
あるからよ。

U-168

TO HOME

 いいこと

古い土塀が
くづれてて、
墓のあたまの
みえるとこ。

道の右には
山かげに、
はじめて海の
みえるとこ。

いつかいいこと
したところ、
通るたんびに
うれしいよ。

U-169

 

 晝と夜

晝のあとは
夜よ、
夜のあとは
晝よ。

どこに居たら
見えよ。

長い長い
縄が、
その端と
端が。

U-170

 

 葉つぱの赤ちやん

「ねんねなさい」は
月の役。
そつと光りを着せかけて、
だまつてうたふねんね唄。

「起つきなさい」は
風の役。
東の空のしらむころ、
ゆすつておめめさまさせる。

晝のお守りは
小鳥たち。
みんなで唄をうたつたり、
枝にかくれて、また出たり。

ちひさな
葉つぱの赤ちやんは、
おつぱいのんでねんねして、
ねんねした間にふとります。

U-171

 

 一番星

ひばりが空で
一番星みィつけた。

船頭の子が海で
一番星みィつけた。

支那の子が支那で
一番星みィつけた。

たァれが長者に
なァる。

知つてゐるものは
一番星ばかり。

U-172

 

 あの子

── あの子を誰が奪りました。
── あの子は私が呼びました。

── あの子はどこへゆきました。
── 私のくにへゆきました。

── あの子はいけない子でしたに。
── あの子はいけない子だけれど、
   あの子のかあさま、そこにゐて、
   あまり待つから、おもふから。

U-173

 

 佛さまのお國

おなじところへゆくのなら、
み佛さまはたれよりか、
わたくしたちがお好きなの。

あんないい子の花たちや、
みんなにいい歌きかせてて、
鐵砲で射たれる鳥たちと、
おなじところへゆくのなら。

ちがふところへゆくのなら、
わたくしたちの行くとこは、
一ばんひくいとこなのよ。

一ばんひくいとこだつて、
私たちには行けないの。

それは支那より遠いから、
それは、星より高いから。

U-174 

 

 ガラスふき

お窓にのぼつてガラスふき。

ふきふき見れば、教室の、
机の上に草が生え、
誰かはだしで取つてゐる。

草取る上の黒板に、
誰か墨汁ぬつてゐる。

ぬつたばかりの黒板にや、
花のさかりの山ざくら。

土手のむかうを守つ子が、
花をみいみい行きすぎる。

うつつた影を知らないで、
みてゐる私を知らないで。

  U-175

 

 

一、二ィ、三、
飛びついた。

ゆつさゆつさゆれる
桃の枝。

枝は下つて來は來たが、
右もひだりも手があかぬ。

一、二ィ、三、
飛び下りた。

ぴんとかへつた
桃の枝。

あの桃、あの桃、たァかいな、
あの桃、あの桃、大きいな。

U-176

 

  御本

さびしいときは、父さんの、
お留守の部屋で、本棚の、
御本の背
(せな)の金文字を、
ぢつと眺めて立つてるの。

ときにや、こつそり背のびして、
重たい御本をぬき出して、
人形のやうに、抱つこして、
明るいお縁へ出てゆくの。

なかは横文字ばかしなの、
カナはひとつもないけれど、
もやうみたいで、きれいなの。
それに、ふしぎな香がするの。
お指なめなめ、つぎつぎに、
しろい、頁
(ペイジ)をくりながら、
そこにかかれたお噺を、
つぎからつぎへとこさへるの。

若葉のかげの文字にさす、
五月のお縁
(えん)で父さんの、
大きな御本よむことが、
私ほんとに好きなのよ。

U-177

 

 まり

まりを尋ねて町の子は
知らぬ町までゆきました。
塀の上からふと飛んだ、
それはしやぼん玉、消えました。

まりを尋ねて町の子は
田舍の一軒屋へゆきました。
一軒屋のお背戸でみつけたが、
それはあぢさゐ、散りました。

まりを尋ねて町の子は
青い空までゆきました。
白いやなぎの雲かげに、
まりはかくれてをりました。

U-178

 

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