金 子 み す ゞ 詩集
POEM U KANEKO
MISUZU
空のかあさま
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闇夜の星
闇夜に迷子の
星ひとつ。
あの子は
女の子でせうか。
私のやうに
ひとりぼつちの、
あの子は
女の子でせうか。U-28
おてんとさんの唄
日本の旗は、
おてんとさんの旗よ。
日本のこども、
おてんとさんのこども。
こどもはうたほ、
おてんとさんの唄を。
さくらの下で、
かすみの底で。
日本のくにに、
こぼれる唄は、
お舟に積んで、
世界中へくばろ。
こぼれるほどうたほ、
おてんとさんの唄を。
さくらのかげで、
おてんとさんの下で。U-29
海の色
朝はぎんぎら銀の海、
銀はみんなを黒くする。
ランチの色も、帆の色も、
銀の破(や)れめもみな黒い。
晝はゆらゆら青い海、
青はみんなをあるままに。
うかぶ藁(わら)くづ、竹のきれ、
バナナの皮も、あるままに。
夜はしづかな黒い海、
黒はみんなをおひかくす。
船はゐるやら、ゐないやら、
赤い灯(ともし)のかげばかり。U-30
ひろいお空
私はいつか出てみたい、
ひろいひろいお空の下へ。
町でみるのは長い空、
天の川さへ屋根から屋根へ。
いつか一度は出てみたい、
その川下(かはしも)の川下の、
海へ出てゆくところまで、
みんな一目(ひとめ)にみえる所(とこ)へ。
U-31
七夕のころ
風が吹き吹き笹藪の
笹のささやきききました。
伸びても伸びてもまだ遠い、
夜の星ぞら、天の川、
いつになつたら、届かうか。
風がふきふき大海の
波のなげきをききました。
もう七夕もすんだのか、
お空の川もうすれるか。
さつき通つた旅びとは、
五色のきれいな短冊(たんざく)の
さめてさみしい、笹の枝。
U-32
港の夜
雲つた晩だ。
ちひさい星がふるへふるへ
ひとつ。
さァむい晩だ。
船の灯りが映(うつ)つてゆれて
ふたつ。
さみしい晩だ。
海のお瞳(めゝ)があをく光つて
みつつ。U-33
ビラまき自動車
ビラ撒(ま)き自動車やつて來た、
ちやかちやか樂隊のせて來た。
ビラを拾はう、赤いビラ、
もつと拾はう、黄(きい)のビラ、
ビラ撒き自動車やつて來た。
ビラ撒き自動車、ついてゆこ。
町をはなれりや、降るビラは、
野原へ散つてげんげ草、
畠へおちて、菜の花に。
春のくるまだ、ついてゆこ。U-34
- 水すまし
一つ水の輪、一つ消え、
三つまはれどみな消える。
水にななつの輪を描けば、
魔法は泡と消えよもの。
お池のぬしに囚はれの
いまの姿は、水すまし。
きのふもけふも、青い水、
雲は消えずに映るけど、
一つ、二つ、と水の輪は、
一つあとから消えてゆく。U-35
杉と杉菜
一本杉はうたふ。
あの山のむかうの
大きな海のなかに、
蝶々のやうな、
白帆を三つ、みたよ。
一本杉はうたふ。
あの山のむかうの
大きな町のなかで、
青銅(からかね)の豚が、
水を噴くのをみたよ。
一本杉の下で
杉菜がうたふ。
私もいつか、
あんなに伸びて、
遠くの遠くをみようよ。
U-36
- 駒鳥の都
林のなかの駒鳥さん、
林は葉づれの音ばかり。
都けんぶついかがです、
夜は灯(あか)りが花のやう、
活動寫眞もみられます。
都から來たお嬢さん、
私の都はいかがです。
數(かぞ)へきれない木のお家、
夜はお星が花のやう、
落葉のダンスもみられます。U-37
- 夜
夜は、お山や森の木や、
巣にゐる鳥や、草の葉や、
赤いかはいい花にまで、
黒いおねまき着せるけど、
私にだけは、できないの。
私のおねまき白いのよ、
そして母さんが着せるのよ。U-38
- 風
空の山羊追ひ
眼にみえぬ。
山羊は追はれて
ゆふぐれの、
曠野(ひろの)のはてを
群れてゆく。
空の山羊追ひ
眼にみえぬ。
山羊が夕日に
染まるころ、
とほくで笛を
ならしてる。U-39
土のばあや
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- 畠の雨
大根(だいこ)ばたけの春の雨、
青い葉つぱの上にきて、
小さなこゑで笑ふ雨。
大根畠の晝の雨、
あかい砂地の土にきて、
だまつてさみしくもぐる雨。U-41
- 海の果
雲の湧(わ)くのはあすこいら、
虹の根もともあすこいら。
いつかお舟でゆきたいな、
海の果(はて)までゆきたいな。
あまり遠くて、日が暮れて、
なにも見えなくなつたつて、
あかいなつめをもぐやうに、
きれいな星が手で採(と)れる、
海の果までゆきたいな。U-42
- 電燈(でんき)のかげ
遠足の日の汽車のなか、
誰かうたつて居りました。
先生は笑つて居りました。
硝子(がらす)のそとの夕空に、
ふつとみたのは、ちろちろと、
花火のやうな、消えさうな、
電燈(でんき)のかげでありました。
みつめてゐれば、その下に、
母さんのお顔がありました。
山からかへりの汽車のなか、
誰かはうたつて居りました。
U-43
- 明るい家
さくら草咲く丘のうへ、
それは、明るいお家です。
朝から晩までお部屋には、
はいりきれない、日のひかり。
ピンクの壁にかかつたは、
虹と天使の繪がひとつ。
おもちや屋ほどの、おもちや棚、
おもちやの數(かず)も知つてます。
いつごろからか、どうしてか、
私はみんな知つてます。
それは私の家だから、
それは私の家だから。
U-44
- 時計の顔
旅あきうどのかうもりが、
みじかい影をつれてゆく、
白いまぶしいひるの路。
ふつとみかへりや誰か知ら、
ぢつとみてます、
白い顔。
お目々つぶつてまた開いて、
よく見りや
時計の顔でした。
おるす番ゆゑ、さみしくて、
ぢつとみつめてゐたけれど、
それきり時計の顔でした。
U-45
- ゆびきり
牧場の果にしづしづと、
赤いお日さま沈みます。
柵にもたれて影ふたつ、
ひとりは町の子、紅いリポン、
ひとりは貧しい牧場の子。
「あしたはきつと、みつけてね、
七つ葉のあるクローバを。」
「そしたら、ぼくに持つて來て、
そんなきれいな噴水(ふきあげ)を。」
「えええ、きつとよ、ゆびきりよ。」
ふたりは指をくみました。
牧場のはての草がくれ、
あかいお日さま、ひとりごと。
「草にかくれて、このままで、
あすは出ないでおきたいな。」U-46
- はだし
土がくろくて、濡れてゐて、
はだしの足がきれいだな。
名まへも知らぬねえさんが、
鼻緒はすげてくれたけど。U-47
- 土と草
母さん知らぬ
草の子を、
なん千萬の
草の子を、
土はひとりで
育てます。
草があをあを
茂つたら、
土はかくれて
しまふのに。U-48
- 薔薇の町
みどりの小徑(こみち)、露のみち、
小みちの果は、薔薇の家。
風吹きやゆれる薔薇の家、
ゆれてはかをる薔薇の家。
薔薇の小人はお窓から、
ちひさな、金の翅みせて、
おとなりさんと話してた。
とんとと扉(どあ)をたたいたら、
窓も小人もみな消えて、
風にゆれてる花ばかり。
薔薇いろのあけがたに、
たづねていつた薔薇の町。
その日
わたしは蟻でした。U-49
- もくせいの灯
お部屋にあかい灯(ひ)がつくと、
硝子(がらす)のそとの、もくせいの、
しげみのなかにも灯がつくの、
ここのとおんなじ灯がつくの。
夜更けてみんながねねしたら、
葉つぱはあの灯をなかにして、
みんなで笑つて話すのよ、
みんなでお唄もうたふのよ。
ちやうど、かうしてわたしらが、
ごはんのあとでするやうに。
窓かけしめよ、やすみましよ、
みんなが起きてゐるうちは、- 葉つぱはお話できぬから。
U-50
- 夕顔
蝉もなかない
くれがたに、
ひとつ、ひとつ、
ただひとつ、
キリリ、キリリと
ねぢをとく、
みどりのつぼみ
ただひとつ。
おお、神さまはいま
このなかに。U-51
- 襖(ふすま)の繪
ここはねむりの森なのよ、
わるい仙女に呪(のろ)はれて、
みんなねむつた森なのよ。
赤い帽子のきつつきは、
檜(ひのき)にとまつて、目をあいて、
つつつきかけて、ねむつてる。
咲いた櫻の木のそばにや、
羽をひろげて、とびかけて、
二羽のめじろがねむつてる。
花もねむつて散りもせず、
風もねむつてゆれもせぬ、
ここはねむりの森なのよ、
ながいねむりの森なのよ。U-52
- お日さん、雨さん
ほこりのついた
芝草を
雨さん洗つて
くれました。
洗つてぬれた
芝草を
お日さんほして
くれました。
かうして私が
ねころんで
空をみるのに
よいやうに。U-53
- 雀と芥子(けし)
小ちやい雀が
死んだのに、
芥子(けし)は眞紅(まつか)に咲いてゐる。
知らないのです
知らせずに、
こつそりそばを通りましよ。
もしもお花が
きいたなら、
すぐにしぼんでしまふから。U-54
- 雲
お山に誰を
みつけたろ、
雲はお山へ
はいつたよ。
お山にや誰も
ゐなかつた、
雲は山から
でてきたよ。
つまらなさうに
夕ぞらを、
雲はひとりで
飛んでたよ。
U-55
お坊さま
小さい波が來てかへる、
入江の岸のみちでした。
私のお手々ひいてたは、
知らない旅のお坊さま。
なぜか、このごろおもふこと、
「お父さまではないか知ら。」
けれども遠いむかしです。
とてもかへらぬむかしです。
ざわざわ、蟹(かに)が這つてゐた、
入江の岸のみちでした。
私のおかほみてゐたは、
たんぽぽ色のお月さま。U-56
浦の神輿
荒れるよ、波、波、人の波、
お神輿(みこし)小舟は覆(かや)れそぢや。
やつさァやつさ、やつさァやつさ。
みるまに波、波、人の波、
となり町までさつと退(ひ)く。
やつさァやつさ、やつさァやつさ。
あとには波、波、磯の波、
いつものやうに、すぐそこに。
じやんぶり、じやんぶり、じやんぶりこ。
U-57
- 暦と時計
暦があるから
暦を忘れて
暦をながめちや、
四月だといふよ。
暦がなくても
暦を知つてて
りこうな花は
四月にさくよ。
時計があるから
時間をわすれて
時計をながめちや、
四時だといふよ。
時計はなくても
時間を知つてて
りこうな鷄(とり)は
四時には啼くよ。
U-58
- 折紙あそび
あかい、四角な、色紙よ、
これで手品(てづま)をつかひましよ。
私の十(とを)のゆびさきで、
まづ生れます、虚無僧(こむそう)が。
みるまに化(な)ります、鯛の尾に、
ほらほら、ぴちぴちはねてます。
鯛もうかべば帆かけ舟、
舟は帆かけてどこへゆく。
その帆おろせば二艘舟、
世界のはてまで二艘づれ。
またもかはれば風ぐるま、
ふつと吹きましよ、まはしましよ。
まだも變はつてお狐さん、
コンコン、こんどはなんに化きよ。
そこで化けます、紙きれに、
もとの四角な色紙に。
なんてふしぎな紙でせう、
なんて上手な手品(てづま)でせう。
U-59
- 空屋敷の石
空屋敷(あきやしき)の石が
なくなつたよ。
とりもち搗(つ)くのに
よかつたに、なあ。
石はお馬車に
乘つてつたよ。
空屋敷の草は
そびしさうだ、なあ。
U-60