金 子 み す ゞ 詩集
POEM V-T KANEKO
MISUZU
さみしい王女
世界中の王様
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- みえない星
空のおくには何がある。
空のおくには星がある。
星のおくには何がある。
星のおくにも星がある。
眼には見えない星がある。
みえない星は何の星。
お供の多い王様の、
ひとりの好きなたましひと、
みんなに見られた踊り子の、
かくれてゐたいたましひと。- V-9
- トランプのお家
トランプの札でお家(うち)を
つくりませう。
お室(へや)はみんな裏むきで、
床のもやうがうつくしく、
ダイヤの一が電燈(でんき)です。
お庭にやスペード、クラブの木、
ハートの花もちらちらと。
トランプの札のお家にや
誰が棲む。
四人の王と四人の女王のそのなかで、
きらはれもののスペードの、
王と女王を棲ませませう。
トランプの札のお家を
こはしませう。
ボンボン時計が五つ鳴り、
ねえやが箒(ほうき)を持つて來た。- V-10
- 夏
「夏」は夜更(よふか)し
朝寢ばう。
夜は私がねたあとも、
ねないでゐるが、朝早く、
私が朝顔起こすときや、
まだまだ「夏」は起きて來ぬ。
すずしい、すずしい、
そよ風だ。- V-11
- 夏越(なごし)まつり
ぽつかりと
ふうせん、
瓦斯の灯が映るよ。
影燈籠(かげどうろう)の
人どほり、
氷屋の聲が泌(し)みるよ。
しらじらと
天の川、
夏越祭の夜更けよ。
辻を曲れば
ふうせん、
星ぞらに暗いよ。- V-12
- 雨の五穀祭(ごこくまつり)
ざんざの雨に流された、
五穀まつりの夜更けて、
いまはちらほら星がでた。
誰もとほらぬ、ぬかるみに、
消えた提灯映つてる。
遠い通りを自動車で、
わつと囃して通るのが、
空ゆくやうに、きィこえた。
ひとつ、ふたつ、みィつ、
お空に星がふゥえた。
どこかの軒の提灯が、
またひとつ、消えた。- V-13
- 夏の宵
暮れても明るい
空のいろ、
星がハモニカ
吹いてゐる。
暮れても街には
立つ埃(ほこり)、
空馬車からから
踊つてる。
暮れても明るい
土のいろ、
線香花火が
もえ盡(つ)きて、
あかい火だまが
ほろと散る。- V-14
- ひよどり越
ひよどり越(ごえ)の
さかおとし、
蟻の大軍
攻めくだる。
めざす平家は
梨の芯、
わたしの捨てた
梨の芯。
峠の茶屋の
ひるさがり、
ふるは松葉と
蝉しぐれ。
蟻の大軍
いさましく、
梨のお城を
とりまいた。- V-15
- 唖 蝉 (おふし ぜみ)
おしやべり蝉は歌うたふ、
朝から晩まで歌うたふ、
誰が見てても歌うたふ、
いつもおんなじ歌うたふ。
唖の蝉は歌を書く、
だまつて葉つぱに歌を書く、
誰も見ぬとき歌を書く、
誰もうたはぬ歌を書く。
(秋が來たなら地に落ちて、
朽ちる葉つぱと知らぬやら。)- V-16
長門湯本温泉
山の子の夢
山のおくの
湯の町の、
宿のむすめの
見る夢は、
うつくしい
海の夢。
まろく
かさなる
朱の波に、
金と
銀との
むら千鳥。
さめておもへば
さみしいな、
それは手筥(てばこ)の
舞扇。
V-17
長門湯本温泉 恩湯 2017.5にて営業終了
- ちひさなお里
芥子(けし)人形、
芥子人形。
おまへのお里へ行きたいな。
おまへのお里の藁屋根は、- わたしの掌にでものるのだろ。
それでもげんげも咲くのだろ、
おまへも摘んでゐたのだろ。
げんげつみつみ日がくれりや、
ちひさな月も出るのだろ。
芥子人形、芥子人形。
おまへのお里の春の日は、
わたしでさへも、なつかしい。
巨きな室(へや)がさむいとき、
巨きな猫がこはいとき、
どんなにおまへにや戀しかろ。V-18
- 象の鼻
むうく、むうく
山の上、
巨きな象が白い。
むうく、むうく
空に、
象の鼻が伸びる。
―― 水いろ空に、
失くした牙が
しィろくほそく。
むうく、むうく
鼻が、
伸びても伸びても遠い。
とどかぬ
ままに、
灰いろに暮れて、
―― しづかな空に、
とれない牙は、
いよいよしろく。- V-19
- 文字焼き
文字焼きの焼けるにほひよ、
雨がふる、
こんこんこまかな雨がふる。- 駄菓子屋の奥の暗さよ、
- ぽつちりと、
- あかい煙草の火がみえる。
- 五六人そこらの辻で、
- くちぐちに、
- さよならしてる聲がする。
- 文字焼きの焼けるにほひよ、
- 雨がふる、
- こんこんこまかな雨がふる。
- V-20
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芒とお日さま
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橙の花
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