金 子 み す ゞ 詩集
POEM V-U KANEKO
MISUZU
さみしい王女 U
橙の花
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空いろの帆
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こ こ ろ
お母さまは
大人で大きいけれど。
お母さまの
おこころはちひさい。
だつて、お母さまはいひました、
ちひさい私でいつぱいだつて。
私は子供で
ちいさいけれど、
ちいさい私の
こころは大きい。
だつて、大きいお母さまで、
まだいつぱいにならないで、
いろんな事をおもふから。V-77
お風呂
母さまと一しよにはいるときや、- 私、お風呂がきらひなの。
- 母さまは私をつかまへて
- お釜みたいにみがくから。
- だけど一人ではいるときや、
- 私、お風呂が好きなのよ。
- そこでする事、多いけど、
- なかで一ばん好きなのは、
- ぽかり浮べた木のきれに、
- 石鹸(しやぼん)の凾(はこ)や、おしろいの、
- かけた小瓶(こびん)を並べるの。
- (それはすてきな御馳走の、
- ならんだ黄金(きん)の卓子(テイブル)で、
- 私は印度の王様で、
- 白蓮紅蓮(しらはすべにはす)咲きみちた、
- きれいなお池に浸(つか)つてて、
- 涼しいお夕飯あがるとこ。)
- 玩具を持つてゆくことは、
- いつか母さま、禁(と)めたけど、
- 時にや隣の花びらが、
- 散つてお船になつてくれ、
- 時にや私の指たちが、
- 魔法つかつて長くなる。
- 誰も知つてやしないけど、
- 私、お風呂が好きなのよ。
- V-78
- 汽車の窓から
- お山であかいは
- あれはなに。
- あれは櫨(はじ)の木、櫨紅葉、
- なにか怖いな、黒い赤。
- お里であかいは
- あれはなに。
- あれは熟れてる柿の實よ、
- 見てもうまそな、黄いな赤。
- お空であかいは
- あれはなに。
- あれはお汽車の燈(ひ)のかげよ、
- さみしい赤よ、亡(な)い赤よ。
- V-79
けがした指- 白い繃帶(はうたい)
してゐたら、
見てもいたうて、- 泣きました。
- あねさまの帶(おび)借りて、
- 紅い鹿の子でむすんだら
- 指はかはいい
- お人形。
- 爪にお顔を
- 描いてたら、
- いつか、痛いの
- わすれてた。
- V-80
私と小鳥と鈴と
私が兩手をひろげても、
お空はちつとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のやうに、
地面(ぢべた)を速くは走れない。
私がからだをゆすつても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のやうに
たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがつて、みんないい。- V-81
[POEM Tにも、収録]
黄金(きん)の小鳥
木の葉が黄金に變はつた、
私も黄金に變はろ。
とほいお國の王様の、
使ひが私をおむかへに、
寶玉(たま)でかざつた籠(かご)もつて、
きつと、きつと、やつて來る。
黄金の木の葉は散つた、
散つても黄金のいろだ。
明日(あした)はきつと、變はろ、
くろい私が黄金に。
黄金の木の葉は朽ちた、
黄金になりや、朽ちる、
黒くて光つてゐような。V-82
波
波は子供、- 手つないで、笑つて、
- そろつて來るよ。
- 波は消しゴム、
- 砂の上の文字を、
- みんな消してゆくよ。
- 波は兵士、
- 沖から寄せて、一ぺんに、
- どどんと鐵砲うつよ。
- 波は忘れんぼ、
- きれいなきれいな貝がらを、
- 砂の上においてくよ。
- V-83
- 落 葉
お背戸にや落葉がいつぱいだ、- たあれも知らないそのうちに、
- こつそり掃いておきましよか。
- ひとりでしようと思つたら、
- ひとりで嬉しくなつて來た。
- さらりと一掃(ひとは)き掃いたとき、
- 表に樂隊やつて來た。
- あとで、あとでと駈け出して、
- 通りの角までついてつた。
- そして、歸つてみた時にや、
- 誰か、きれいに掃いてゐた、
- 落葉、のこらずすててゐた。
- V-84
- 海と山
海からくるもの- なあに。
- 海からくるもの
- 夏、風、さかな、
- バナナのお籠。
- それから、新造(しんぞ)のお船にのつて、
海からくるもの- 住吉まつり。
- 山からくるもの
- なあに。
山からくるもの
冬、雪、小鳥、- 炭積んだお馬。
- それから、ゆづゆづゆづり葉にのつて、
- 山からくるもの
- お正月。
- V-85
- 女王さま
あたしが女王さまならば- 國中のお菓子屋呼びあつめ、
お菓子の塔をつくらせて、- そのてつぺんに椅子据ゑて、
- 壁をむしつて喰(た)べながら、
- いろんなお布令(ふれ)を書きませう。
- いちばん先に書くことは、
- 「私の國に棲むものは
- 子供ひとりにお留守居を
- させとくことはなりません。」
- そしたら、今日の私のやうに
- さびしい子供はゐないでせう。
- それから、つぎに書くことは、
- 「私の國に棲むものは
- 私の毬より大きな毬を
- 誰も持つこと出來ません。」
- そしたら私も大きな毬が
- 欲しくなくなることでせう。
V-86
- 柘榴(ざくろ)の葉と蟻
柘榴の葉つぱに蟻がゐた。- 柘榴の葉つぱは廣かつた、
- 青くて、日陰で、その上に、
- 葉つぱは靜かにしてやつた。
- けれども蟻は、うつくしい、
- 花をしたうて旅に出た。
- 花までゆくみち遠かつた、
- 葉つぱはだまつてそれ見てた。
- 花のふちまで來たときに、
- 柘榴の花は散つちやつた、
- しめつた黒い庭土に。
- 葉つぱはだまつてそれ見てた。
- 子供がその花ひィろつて、
- 蟻のゐるのも知らないで、
- 握つて駈けて行つちやつた。
葉つぱはだまつてそれ見てた。- V-87
あと押し- 車のあと押し、
- せつせつせ。
- どつこい、重いぞ
- 上(のぼ)り坂、
- 汗が、ぽつつり、
- 地にしみる。
- 車のあと押し、
- せつせつせ。
- ほらほら速いぞ
- 下り坂、
- みちの小石が、
- 縞になる。
- 車のあと押し、
- せつせつせ。
- 下ばつかりを
みてゆくと、
眞紅な薔薇が、- みつかつた。
- V-88
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仙崎八景
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鯨捕り
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