金 子 み す ゞ 詩集 POEM MISUZU BEST (現代かな使い)
お魚 海の魚はかわいそう。 お米は人につくられる、 牛は牧場でかわれてる、 鯉もお池で麩(ふ)を貰う。 けれども海のお魚は なんにも世話にならないし いたずら一つしないのに こうして私に食べられる。 ほんとに魚はかわいそう。
お魚
T-2
芝居小屋 むしろで拵(こさ)えた 芝居小屋、 芝居はきのう 終えました。 のぼりのたってた あたりでは、 仔牛(こうし)が草を たべている。 むしろで拵えた 芝居小屋、 夕日は海へ 沈みます。 むしろの小屋の 屋根の上、 かもめが赤く そまってる。 T-4
T-4
打出の小槌 打出の小槌を貰ったら 私は何を出しましょう。 羊羹、カステラ、甘納豆 姉さんとおんなじ腕時計、 まだまだそれより眞白な 唄の上手な鸚鵡(オウム)を出して、 赤い帽子(しゃっぽ)の小人を出して 毎日踊りを見ましょうか。 いいえ、それよりお話の 一寸法師がしたように 背丈を出して一ぺんに 大人になれたらうれしいな。
T-8
TO HOME
夕顔 お空の星が 夕顔に、 さびしかないの、と ききました。 お乳のいろの 夕顔は、 さびしかないわ、と いいました。 お空の星は それっきり、 すましてキラキラ ひかります。 さびしくなった 夕顔は、 だんだん下を むきました。 T-22
T-22
もくせい もくせいのにほいが 庭いっぱい。 表の風が、 御門のとこで、 はいろか、やめよか、 相談してた。 T-32
もくせい もくせいのにほいが 庭いっぱい。 表の風が、 御門のとこで、 はいろか、やめよか、 相談してた。
T-32
砂の王国 私はいま 砂のお国の王様です。 お山と、谷と、野原と、川を 思う通りに変えてゆきます。 お伽噺の王様だって 自分のお国のお山や川を、 こんなに変えはしないでしょう。 私はいま ほんとにえらい王様です。
紋附き しづかな、秋のくれがたが きれいな紋つき、着てました。 白い御紋は、お月さま 藍をぼかした、水いろの 裾の模様は、紺の山 海はきらきら、銀砂子(ぎんまなご)。 紺のお山にちらちらと 散った灯りは、刺繍(ぬい)でしょう。 どこへお嫁にいくのやら しづかな秋のくれがたが きれいな紋つき着てました。 T-46
紋附き しづかな、秋のくれがたが きれいな紋つき、着てました。 白い御紋は、お月さま 藍をぼかした、水いろの 裾の模様は、紺の山 海はきらきら、銀砂子(ぎんまなご)。 紺のお山にちらちらと 散った灯りは、刺繍(ぬい)でしょう。 どこへお嫁にいくのやら しづかな秋のくれがたが きれいな紋つき着てました。
T-46
郵便局の椿 あかい椿がさいていた、 郵便局がなつかしい。 いつもすがって雲を見た、 黒い御門がなつかしい。 ちいさな白い前かけに、 赤い椿をひろっては、 郵便さんに笑われた、 いつかのあの日がなつかしい。 あかい椿は伐られたし、 黒い御門もこわされて、 ペンキの匂うあたらしい、 郵便局がたちました。 T-57
郵便局の椿 あかい椿がさいていた、 郵便局がなつかしい。 いつもすがって雲を見た、 黒い御門がなつかしい。 ちいさな白い前かけに、 赤い椿をひろっては、 郵便さんに笑われた、 いつかのあの日がなつかしい。 あかい椿は伐られたし、 黒い御門もこわされて、 ペンキの匂うあたらしい、 郵便局がたちました。
T-57
色紙 きょうはさびしい曇り空 あんまり淋しいくもり空。 暗いはとばにあそんでる 白いお鳩の小さな足に 赤やみどりの色紙を 長くつないでやりましょう そして一しょに飛ばせたら どんなにお空がきれいでしょう。 T-61
色紙 きょうはさびしい曇り空 あんまり淋しいくもり空。 暗いはとばにあそんでる 白いお鳩の小さな足に 赤やみどりの色紙を 長くつないでやりましょう そして一しょに飛ばせたら どんなにお空がきれいでしょう。
T-61
木 お花が散って 實(み)が熟(う)れて、 その實が落ちて、 葉が落ちて、 それから芽が出て 花が咲く。 そうして何べん まわったら、 この木は御用が すむか知ら。 T-66
木 お花が散って 實(み)が熟(う)れて、 その實が落ちて、 葉が落ちて、 それから芽が出て 花が咲く。 そうして何べん まわったら、 この木は御用が すむか知ら。
T-66
おとむらいの日 お花や旗でかざられた よそのとむらい見るたびに うちにもあればいいのにと こないだまでは思ってた。 だけども、きょうはつまらない 人は多ぜいいるけれど たれも相手にならないし 都(みやこ)から来た叔母さまは だまって涙をためてるし たれも叱りはしないけど なんだか私は怖かった。 お店で小さくなってたら 家(うち)から雲が湧くように 長い行列出て行った。 あとは、なおさらさびしいな。 ほんとにきょうは、つまらない。 T-71
おとむらいの日 お花や旗でかざられた よそのとむらい見るたびに うちにもあればいいのにと こないだまでは思ってた。 だけども、きょうはつまらない 人は多ぜいいるけれど たれも相手にならないし 都(みやこ)から来た叔母さまは だまって涙をためてるし たれも叱りはしないけど なんだか私は怖かった。 お店で小さくなってたら 家(うち)から雲が湧くように 長い行列出て行った。 あとは、なおさらさびしいな。 ほんとにきょうは、つまらない。
T-71
大漁 朝焼小焼だ 大漁だ 大羽鰮(おおばいわし)の 大漁だ。 濱は祭りの ようだけど 海のなかでは 何萬の 鰮のとむらい するだろう。 T-72
大漁 朝焼小焼だ 大漁だ 大羽鰮(おおばいわし)の 大漁だ。 濱は祭りの ようだけど 海のなかでは 何萬の 鰮のとむらい するだろう。
T-72
くれがた 兄さん 口笛 ふき出した。 わたしは 袂(たもと)を かんでいた。 兄さん 口笛 すぐやめた。 表に こっそり 夜が来た。 T-116
くれがた 兄さん 口笛 ふき出した。 わたしは 袂(たもと)を かんでいた。 兄さん 口笛 すぐやめた。 表に こっそり 夜が来た。
T-116
日の光 おてんと様のお使いが 揃って空をたちました。 みちで出逢ったみなみ風、 (何しに、どこえ。)とききました。 一人は答えていいました。 (この「明るさ」を地に撒くの、 みんながお仕事できるよう。) 一人はさもさも嬉しそう (私はお花を咲かせるの、 世界をたのしくするために。) 一人はやさしく、おとなしく。 (私は清いたましいの、 のぼる反り橋かけるのよ。) 残った一人はさみしそう。 (私は「影」をつくるため、 やっぱり一しょにまいります。) T-121
日の光 おてんと様のお使いが 揃って空をたちました。 みちで出逢ったみなみ風、 (何しに、どこえ。)とききました。 一人は答えていいました。 (この「明るさ」を地に撒くの、 みんながお仕事できるよう。) 一人はさもさも嬉しそう (私はお花を咲かせるの、 世界をたのしくするために。) 一人はやさしく、おとなしく。 (私は清いたましいの、 のぼる反り橋かけるのよ。) 残った一人はさみしそう。 (私は「影」をつくるため、 やっぱり一しょにまいります。)
T-121
帆 港に着いた舟の帆は、 みんな古びて黒いのに、 はるかの沖をゆく舟は、 光りかがやく白い帆ばかり。 はるかの沖の、あの舟は、 いつも、港へつかないで、 海とお空のさかいめばかり、 はるかに遠く行くんだよ。 かがやきながら、行くんだよ。 T-157
帆 港に着いた舟の帆は、 みんな古びて黒いのに、 はるかの沖をゆく舟は、 光りかがやく白い帆ばかり。 はるかの沖の、あの舟は、 いつも、港へつかないで、 海とお空のさかいめばかり、 はるかに遠く行くんだよ。 かがやきながら、行くんだよ。
T-157
繭と墓 蚕(かいこ)は繭(まゆ)に はいります、 きうくつそうな あの繭に。 けれど蚕は うれしかろ、 蝶々になって 飛べるのよ。 人はお墓へ はいります、 暗いさみしい あの墓へ。 そしていい子は 翅(はね)が生(は)え、 天使になって 飛べるのよ。 U-1
繭と墓 蚕(かいこ)は繭(まゆ)に はいります、 きうくつそうな あの繭に。 けれど蚕は うれしかろ、 蝶々になって 飛べるのよ。 人はお墓へ はいります、 暗いさみしい あの墓へ。 そしていい子は 翅(はね)が生(は)え、 天使になって 飛べるのよ。
U-1
蜂と神さま 蜂はお花のなかに、 お花はお庭のなかに、 お庭は土塀のなかに、 土塀は町の中に、 町は日本の中に、 日本は世界の中に、 世界は神さまの中に。 そうして、そうして、神さまは、 小ちゃな蜂の中に。 U-5
蜂と神さま 蜂はお花のなかに、 お花はお庭のなかに、 お庭は土塀のなかに、 土塀は町の中に、 町は日本の中に、 日本は世界の中に、 世界は神さまの中に。 そうして、そうして、神さまは、 小ちゃな蜂の中に。
U-5
土と草 母さん知らぬ 草の子を、 なん千萬の 草の子を、 土はひとりで 育てます。 草があおあお 茂ったら、 土はかくれて しまうのに。 U-48
土と草 母さん知らぬ 草の子を、 なん千萬の 草の子を、 土はひとりで 育てます。 草があおあお 茂ったら、 土はかくれて しまうのに。
U-48
星とたんぽぽ 青いお空の底ふかく、 海の小石のそのように、 夜がくるまで沈んでる、 畫(ひる)のお星は目にみえぬ。 見えぬけれどもあるんだよ、 見えぬものでもあるんだよ。 散ってすがれたたんぽぽの、 瓦のすきに、だァまって、 春のくるまでかくれてる、 つよいその根は眼に見えぬ。 見えぬけれどもあるんだよ、 見えぬものでもあるんだよ。 U-68
星とたんぽぽ 青いお空の底ふかく、 海の小石のそのように、 夜がくるまで沈んでる、 畫(ひる)のお星は目にみえぬ。 見えぬけれどもあるんだよ、 見えぬものでもあるんだよ。 散ってすがれたたんぽぽの、 瓦のすきに、だァまって、 春のくるまでかくれてる、 つよいその根は眼に見えぬ。 見えぬけれどもあるんだよ、 見えぬものでもあるんだよ。
學校へゆくみち 學校へゆくみち、ながいから、 いつもお話、かんがえる。 みちで誰かに逢わなけりゃ、 學校へつくまでかんがえる。 だけど誰かと出逢ったら、 朝の挨拶せにゃならぬ。 すると私はおもい出す。 お天気のこと、霜のこと、 田圃(たんぼ)がさびしくなったこと。 だから、私はゆくみちで、 ほかのの誰にも逢わないで、 そのおはなしのすまぬうち、 御門をくぐる方がいい。 U-78
學校へゆくみち 學校へゆくみち、ながいから、 いつもお話、かんがえる。 みちで誰かに逢わなけりゃ、 學校へつくまでかんがえる。 だけど誰かと出逢ったら、 朝の挨拶せにゃならぬ。 すると私はおもい出す。 お天気のこと、霜のこと、 田圃(たんぼ)がさびしくなったこと。 だから、私はゆくみちで、 ほかのの誰にも逢わないで、 そのおはなしのすまぬうち、 御門をくぐる方がいい。
U-78
露 (つゆ) 誰にもいわずにおきましょう。 朝のお庭のすみっこで、 花がほろりと泣いたこと。 もしも噂がひろがって 蜂のお耳へはいったら、 わるいことでもしたように、 蜜をかえしに行くでしょう。 U-81
露 (つゆ) 誰にもいわずにおきましょう。 朝のお庭のすみっこで、 花がほろりと泣いたこと。 もしも噂がひろがって 蜂のお耳へはいったら、 わるいことでもしたように、 蜜をかえしに行くでしょう。
U-81
失くなったもの 夏の渚でなくなった、 おもちゃの舟は、あの舟は、 おもちゃの島へかえったの。 月のひかりのふるなかを、 なんきん玉の渚まで。 いつか、ゆびきりしたけれど、 あれきり逢わぬ豊ちゃんは、 そらのおくにへかえったの。 蓮華のはなのふるなかを、 天童たちにまもられて。 そして、ゆうべの、トランプの、 おひげのこわい王さまは、 トランプのお国へかえったの。 ちらちら雪のふるなかを、 おくにの兵士にまもられて。 失くなったものはみんなみんな、 もとのお家へかえるのよ。 U-91
失くなったもの 夏の渚でなくなった、 おもちゃの舟は、あの舟は、 おもちゃの島へかえったの。 月のひかりのふるなかを、 なんきん玉の渚まで。 いつか、ゆびきりしたけれど、 あれきり逢わぬ豊ちゃんは、 そらのおくにへかえったの。 蓮華のはなのふるなかを、 天童たちにまもられて。 そして、ゆうべの、トランプの、 おひげのこわい王さまは、 トランプのお国へかえったの。 ちらちら雪のふるなかを、 おくにの兵士にまもられて。 失くなったものはみんなみんな、 もとのお家へかえるのよ。
U-91
つばめ つういと燕がとんだので、 つられてみたよ、夕空を。 そしてお空にみつけたよ、 くちべにほどの、夕やけを。 そしてそれから思ったよ、 町へつばめが来たことを。 U-149
つばめ つういと燕がとんだので、 つられてみたよ、夕空を。 そしてお空にみつけたよ、 くちべにほどの、夕やけを。 そしてそれから思ったよ、 町へつばめが来たことを。
U-149
積もった雪 上の雪 さむかろな。 つめたい月がさしていて。 下の雪 重かろな。 何百人ものせていて。 中の雪 さみしかろな。 空も地面(ぢべた)もみえないで。 U-154
積もった雪 上の雪 さむかろな。 つめたい月がさしていて。 下の雪 重かろな。 何百人ものせていて。 中の雪 さみしかろな。 空も地面(ぢべた)もみえないで。
U-154
聲 (こえ) 空のあかるい 日のくれは、 いつも遠くで 聲がする。 かごめかなんか してるよな。 それとも 波の音のよな。 やっぱり 子供の聲のよな。 なにかひもじい 日のくれは、 いつもとおくで 聲がする。 U-164
聲 (こえ) 空のあかるい 日のくれは、 いつも遠くで 聲がする。 かごめかなんか してるよな。 それとも 波の音のよな。 やっぱり 子供の聲のよな。 なにかひもじい 日のくれは、 いつもとおくで 聲がする。
U-164
みえない星 空のおくには何がある。 空のおくには星がある。 星のおくには何がある。 星のおくにも星がある。 眼には見えない星がある。 みえない星は何の星。 お供の多い王様の、 ひとりの好きなたましいと、 みんなに見られた踊り子の、 かくれていたいたましいと。 V-9
みえない星 空のおくには何がある。 空のおくには星がある。 星のおくには何がある。 星のおくにも星がある。 眼には見えない星がある。 みえない星は何の星。 お供の多い王様の、 ひとりの好きなたましいと、 みんなに見られた踊り子の、 かくれていたいたましいと。
V-9
さみしい王女 つよい王子にすくわれて、 城へかえった、おひめさま 城はむかしの城だけど、 薔薇もかわらず咲くけれど、 なぜかさみしいおひめさま、 きょうもお空を眺めてた。 (魔法つかいはこわいけど、 あのはてしないあお空を、 白くかがやく翅(はね)のべて、 はるかに遠く旅してた、 小鳥のころがなつかしい。) 街の上には花が飛び、 城に宴はまだつづく。 それもさみしいおひめさま、 ひとり日暮(ひぐれ)の花園で、 眞紅(まっか)な薔薇は見も向かず、 お空ばかりを眺めてた。 V-26
さみしい王女 つよい王子にすくわれて、 城へかえった、おひめさま 城はむかしの城だけど、 薔薇もかわらず咲くけれど、 なぜかさみしいおひめさま、 きょうもお空を眺めてた。 (魔法つかいはこわいけど、 あのはてしないあお空を、 白くかがやく翅(はね)のべて、 はるかに遠く旅してた、 小鳥のころがなつかしい。) 街の上には花が飛び、 城に宴はまだつづく。 それもさみしいおひめさま、 ひとり日暮(ひぐれ)の花園で、 眞紅(まっか)な薔薇は見も向かず、 お空ばかりを眺めてた。
V-26
林檎畑 七つの星のそのしたの、 誰も知らない雪国に、 林檎ばたけがありました。 垣もむすばず、人もいず、 なかの古樹(ふるき)の大枝に、 鐘がかかっているばかり。 ひとつ林檎をもいだ子は、 ひとつお鐘をならします。 ひとつお鐘がひびくとき、 ひとつお花がひらきます。 七つの星のしたを行く 馬橇(ばそり)の上の旅びとは、 とおいお鐘をききました。 とおいその音きくときに、 凍ったこころはとけました、 みんな泪になりました。 V-27
林檎畑 七つの星のそのしたの、 誰も知らない雪国に、 林檎ばたけがありました。 垣もむすばず、人もいず、 なかの古樹(ふるき)の大枝に、 鐘がかかっているばかり。 ひとつ林檎をもいだ子は、 ひとつお鐘をならします。 ひとつお鐘がひびくとき、 ひとつお花がひらきます。 七つの星のしたを行く 馬橇(ばそり)の上の旅びとは、 とおいお鐘をききました。 とおいその音きくときに、 凍ったこころはとけました、 みんな泪になりました。
V-27
秋は一夜に 秋は一夜にやってくる。 二百十日に風が吹き、 二百二十日に雨が降り、 あけの夜あけにあがったら、 その夜にこっそりやって来る。 舟で港へあがるのか、 翅でお空を翔けるのか、 地からむくむく湧き出すか、 それは誰にもわからない、 けれども今朝はもう来てる。 どこにいるのか、わからない、 けれど、どこかに、もう来てる。 V-32
秋は一夜に 秋は一夜にやってくる。 二百十日に風が吹き、 二百二十日に雨が降り、 あけの夜あけにあがったら、 その夜にこっそりやって来る。 舟で港へあがるのか、 翅でお空を翔けるのか、 地からむくむく湧き出すか、 それは誰にもわからない、 けれども今朝はもう来てる。 どこにいるのか、わからない、 けれど、どこかに、もう来てる。
秋は一夜にやってくる。
二百十日に風が吹き、 二百二十日に雨が降り、 あけの夜あけにあがったら、 その夜にこっそりやって来る。 舟で港へあがるのか、 翅でお空を翔けるのか、 地からむくむく湧き出すか、 それは誰にもわからない、 けれども今朝はもう来てる。
どこにいるのか、わからない、 けれど、どこかに、もう来てる。
V-32
芒とお日さま ―― もうすこし、 ―― もうすこし、 芒はせい伸びしています。 あまり照られてしおれそな、 白いやさしいひるがおを、 どうにか、陰にしてやろと。 ―― もうすこし、 ―― もうすこし。 お日はぐずぐずしています。 まだまだ籠は大きいに、 あれっぽちしかよう刈らぬ、 草刈むすめがかあいそで。 V-44
芒とお日さま ―― もうすこし、 ―― もうすこし、 芒はせい伸びしています。 あまり照られてしおれそな、 白いやさしいひるがおを、 どうにか、陰にしてやろと。 ―― もうすこし、 ―― もうすこし。 お日はぐずぐずしています。 まだまだ籠は大きいに、 あれっぽちしかよう刈らぬ、 草刈むすめがかあいそで。
V-44
みんなを好きに 私は好きになりたいな、 何でもかんでもみいんな。 葱も、トマトも、おさかなも、 残らず好きになりたいな。 うちのおかずは、みいんな、 母さまがおつくりなったもの。 私は好きになりたいな、 誰でもかれでもみいんな。 お医者さんでも、鳥でも、 残らず好きになりたいな。 世界のものはみィんな、 神さまがおつくりになったもの。 V-45
みんなを好きに 私は好きになりたいな、 何でもかんでもみいんな。 葱も、トマトも、おさかなも、 残らず好きになりたいな。 うちのおかずは、みいんな、 母さまがおつくりなったもの。 私は好きになりたいな、 誰でもかれでもみいんな。 お医者さんでも、鳥でも、 残らず好きになりたいな。 世界のものはみィんな、 神さまがおつくりになったもの。
水と影 お空のかげは、 水のなかにいっぱい。 お空のふちに、 木立もうつる、 野茨(のばら)もうつる。 水はすなお、 なんの影も映す。 みずのかげは、 木立のしげみにちらちら。 明るい影よ、 すずしい影よ、 ゆれてる影よ。 水はつつましい、 自分の影は小さい。 V-46
水と影 お空のかげは、 水のなかにいっぱい。 お空のふちに、 木立もうつる、 野茨(のばら)もうつる。 水はすなお、 なんの影も映す。 みずのかげは、 木立のしげみにちらちら。 明るい影よ、 すずしい影よ、 ゆれてる影よ。 水はつつましい、 自分の影は小さい。
V-46
硝子のなか おもての雪が見えるので、 ひらひらお花のようなので、 明(あか)り障子の繪硝子を、 お炬燵にあたって見ていたら、 うらの木小屋へ木をとりに、 雪ふるなかを歩いてく、 お祖母さまのうしろかげ、 ちらちら映って、消えました。 V-62
硝子のなか おもての雪が見えるので、 ひらひらお花のようなので、 明(あか)り障子の繪硝子を、 お炬燵にあたって見ていたら、 うらの木小屋へ木をとりに、 雪ふるなかを歩いてく、 お祖母さまのうしろかげ、 ちらちら映って、消えました。
こ こ ろ お母さまは 大人で大きいけれど。 お母さまの おこころはちいさい。 だって、お母さまはいいました、 ちいさい私でいっぱいだって。 私は子供で ちいさいけれど、 ちいさい私の こころは大きい。 だって、大きいお母さまで、 まだいっぱいにならないで、 いろんな事をおもうから。 V-77
こ こ ろ お母さまは 大人で大きいけれど。 お母さまの おこころはちいさい。 だって、お母さまはいいました、 ちいさい私でいっぱいだって。 私は子供で ちいさいけれど、 ちいさい私の こころは大きい。 だって、大きいお母さまで、 まだいっぱいにならないで、 いろんな事をおもうから。
V-77
私と小鳥と鈴と 私が両手をひろげても、 お空はちっとも飛べないが、 飛べる小鳥は私のように、 地面(ぢべた)を速くは走れない。 私がからだをゆすっても、 きれいな音は出ないけど、 あの鳴る鈴は私のように たくさんな唄は知らないよ。 鈴と、小鳥と、それから私、 みんなちがって、みんないい。 V-81
私と小鳥と鈴と 私が両手をひろげても、 お空はちっとも飛べないが、 飛べる小鳥は私のように、 地面(ぢべた)を速くは走れない。 私がからだをゆすっても、 きれいな音は出ないけど、 あの鳴る鈴は私のように たくさんな唄は知らないよ。 鈴と、小鳥と、それから私、 みんなちがって、みんないい。
V-81
不思議 私は不思議でたまらない、 黒い雲からふる雨が、 銀にひかっていることが。 私は不思議でたまらない、 青い桑の葉たべている、 蚕(かいこ)が白くなることが。 私は不思議でたまらない、 たれもいじらぬ夕顔が、 ひとりでぱらりと開くのが。 私は不思議でたまらない、 誰にきいても笑ってて、 あたりまえだ、ということが。 V-96
不思議 私は不思議でたまらない、 黒い雲からふる雨が、 銀にひかっていることが。 私は不思議でたまらない、 青い桑の葉たべている、 蚕(かいこ)が白くなることが。 私は不思議でたまらない、 たれもいじらぬ夕顔が、 ひとりでぱらりと開くのが。 私は不思議でたまらない、 誰にきいても笑ってて、 あたりまえだ、ということが。
雪 誰も知らない野の果(はて)で 青い小鳥が死にました さむいさむいくれ方に そのなきがらを埋(う)めよとて お空は雪を撒きました ふかくふかく音もなく 人は知らねど人里の 家もおともにたちました しろい しろい被衣(かつぎ)着て やがてほのぼのあくる朝 空はみごとに晴れました あおくあおくうつくしく 小(ち)さいきれいなたましいの 神さまのお国へゆくみちを ひろくひろくあけようと V-110
雪 誰も知らない野の果(はて)で 青い小鳥が死にました さむいさむいくれ方に そのなきがらを埋(う)めよとて お空は雪を撒きました ふかくふかく音もなく 人は知らねど人里の 家もおともにたちました しろい しろい被衣(かつぎ)着て やがてほのぼのあくる朝 空はみごとに晴れました あおくあおくうつくしく 小(ち)さいきれいなたましいの 神さまのお国へゆくみちを ひろくひろくあけようと
V-110
十三夜 今朝がた通った とおり雨、 霰がまじって居りました。 きのうから 急につめたい風吹いて、 母さま障子を貼りました。 今は雲さえ 見えないで、 つめたく冴えた十三夜。 このくさむらで なく蟲が、 きゅうにすくなくなりました。 V-113
十三夜 今朝がた通った とおり雨、 霰がまじって居りました。 きのうから 急につめたい風吹いて、 母さま障子を貼りました。 今は雲さえ 見えないで、 つめたく冴えた十三夜。 このくさむらで なく蟲が、 きゅうにすくなくなりました。
V-113
お祖母様の病気 お祖母さまが御病気で、 庭には草がのびました。 花咲くころは朝ごとに、 佛さまに、と剪(き)っていた、 薔薇の葉っぱは穴だらけ、 松葉ぼたんも枯れました。 となりから来る鶏(にわとり)も、 なにか小くびをかしげます。 昼もひろうて、しんとして、 秋の風が吹いていて、 空家みたいになりました。 V-114
お祖母様の病気 お祖母さまが御病気で、 庭には草がのびました。 花咲くころは朝ごとに、 佛さまに、と剪(き)っていた、 薔薇の葉っぱは穴だらけ、 松葉ぼたんも枯れました。 となりから来る鶏(にわとり)も、 なにか小くびをかしげます。 昼もひろうて、しんとして、 秋の風が吹いていて、 空家みたいになりました。
V-114
くれがた 暗いお山に紅い窓、 窓のなかにはなにがある。 空っぽになったゆりかごと、 涙をためた母さまと。 明るい空に金の月、 月の上にはなにがある。 あれはこがねのゆりかごよ、 その赤ちゃんがねんねしてる。 V-130
くれがた 暗いお山に紅い窓、 窓のなかにはなにがある。 空っぽになったゆりかごと、 涙をためた母さまと。 明るい空に金の月、 月の上にはなにがある。 あれはこがねのゆりかごよ、 その赤ちゃんがねんねしてる。
V-130
こだまでしょうか 「遊(あす)ぼう」っていうと 「遊ぼう」っていう。 「馬鹿」っていうと 「馬鹿」っていう。 「もう遊ばない」っていうと 「遊ばない」っていう。 そうして、あとで さみしくなって、 「ごめんね」っていうと 「ごめんね」っていう。 こだまでしょうか、 いいえ、誰でも。 V-136
こだまでしょうか 「遊(あす)ぼう」っていうと 「遊ぼう」っていう。 「馬鹿」っていうと 「馬鹿」っていう。 「もう遊ばない」っていうと 「遊ばない」っていう。 そうして、あとで さみしくなって、 「ごめんね」っていうと 「ごめんね」っていう。 こだまでしょうか、 いいえ、誰でも。
玩具のない子が 玩具のない子が さみしけりゃ、 玩具をやったらなおるでしょう。 母さんのない子が かなしけりゃ 母さんをあげたら嬉しいでしょう。 母さんはやさしく 髪を撫で、 玩具は箱から こぼれてて、 それで私の さみしさは、 何を貰うたらなおるでしょう。 V-141
玩具のない子が 玩具のない子が さみしけりゃ、 玩具をやったらなおるでしょう。 母さんのない子が かなしけりゃ 母さんをあげたら嬉しいでしょう。 母さんはやさしく 髪を撫で、 玩具は箱から こぼれてて、 それで私の さみしさは、 何を貰うたらなおるでしょう。
V-141