「月姫 〜彼我の零距離、キミとボク〜」



第11夜 朱の調べ…茜雪想歌

「特別な人にする特別な行為の一つ」と儒教文化の流れを受ける日本人は認識しているキスの話が退院後、看護婦さんにばれたときには、普段は笑顔のボクも流石に冷や汗を流しましたですよ。
 本当に流れるのです冷や汗って、背中にヒヤリ涙がキラリ☆ってね。
 話の内容は普通のキスでしたけれど、そう言えば退院する時にも普通にした記憶が有ります。
 ディープなことをいわれてたらボクはちょっとお天道様に顔向けできません。
 二度と病院にいけず、即転院を希望をしたでしょう。
「約束守ってくれたから許してあげる」と言われた時に感じた気持ちは恐らく一生忘れられません。
 安堵とも喜びともつかない不確かだけれど、感謝と相手に対する想いが詰まった感情。
 ボクにもそのときは気がつかなかったのですが、恋愛感情猪突猛進なところがあったんです。
 せがまれたのも有りますし、また会いましょうねって意味もありました。
 後に「こう言うときは自分から持ちかけるもんだ」と友人に言われましたが…あははーっ。
 今でもそこまでの行動力は無いですよ。

 でも突発的な事象に対して竦まないで前に進む勇気だけなら有ります。
 それにウェイシャンは突撃隊長的な部分があって、何でも目的さえ決まっていれば突撃できる人間なんです。「突貫はじめ」って感じに、ね。
 良きにつけ、悪気につけ、ね。
 だから、私は委員会の危機管理対策などで指揮を揮えるのでしょうか。
 ウェイシャンの学校で起こった留学生騒ぎのときに会長たちと一緒に前線に立って、事態の鎮圧に乗り出したときには久々に興奮しました。久しぶりに戦ったって感じでした。
 ちなみに予算委員会等々で容赦ない権力を発揮する様は殺戮予算マシーンだそうです。
 悪かったな、です。ちなみに委員会では穏健派でして、武闘派や急進派ではありませんよ。
 そういう突撃兵的なところと、ちゃんと考えて計画を立てるのですが、行動の伴わない部分を併せ持ち、二律背反なところが有るのもまたウェイシャンなのですが…いやはやウェイシャンらしいけれど、困ったものです。
 
 閑話休題

 初めて、お見舞いにきたときに思いっきりしゃくりあげられて本当に驚きました。
 抱きつかれて、泣かれるとは思いませんでしたし、ボクも嬉しくて抱きしめ返したのを憶えています。
 まさかそのときに退院直前の話を約束として暴露されるとは思って無かったです。
(ちなみに彼女に前行の文章を読み聞かせると、返事してくれる可能性があります)
 何せ退院後、お見舞いに来てくれたのはボクが初めての人だったみたいです。
 すぐに看護婦さんたちから恋人として公認されました。そのときには、そういうのも悪くないと思っていまして、恐らくボクには恋愛感情は無かったです。
 彼女はどうだったのかなぁ。もし有ってくれたのなら今のウェイシャンは幸せです。
 だから、ヤバイと思ったときには既に遅いです。
 ある看護婦さんはいいました。
「ふふっ、女は経験すると変わるのよねぇ」と。
「ボクは何もしてないですよぅ」と言うと小悪魔的な笑みを浮かべて、
「男はみんなそういうわぁ」と返されました。急に頬が熱くなってしまったのは人生経験の少なさゆえです。そんな狼狽するボクを見て看護婦さんは急に優しい笑顔を浮かべると、「キミが何を考えているのかはお姉さんは突っ込まないけど、明るく前向きになったのは事実よ」って鼻の頭を小突かれながら言われました。
 一本取られました。流石は大人の女性です。
 ありがとうと言われて彼女の役に立てているのかも知れないと、嬉しくなったのです。
 けれど、そんな心の動きはすぐに流されて、すぐに看護婦さんたちに入れ替わり立ち代り囃し立てられました、そのときのボクと彼女の様子はまさにお湯が沸かせそうなくらいだったそうです。
 えっと、色々と初めての男だったんですね。
 まさに、ゴメンナサイです。それからありがとうでした。
 
 純粋にその行為がもたらしてくれる蕩かせてくれそうなくらい熱い気持ちや普段の生活では決して得ることの無いその限界まで求めてしまいそうな心地よい感覚を最大限かつ美味しく味わえた時期でした。
 それが快楽とか悦楽だと知ったのは随分と先のことです。
 キス以上の体験をしたのはそれから随分と先の話ですし…まあ色々有ったんですよ。
 あははーっ。何て言うかキスに恵まれたお年頃でしたねぇ。
 太陽の光がまぶしくて、月の光が美しくて
 そして何より銀の輝きを受けて微笑む君が愛しくて
 幸せだと感じていた日のこと…でした。
 人生の僥倖だった過ぎ去りし日のこと。
 永遠を信じていたそんな日のこと。
 たしかにボクの春はそこにあった。只、気がつかないだけで冬は一時その場を過ぎ去っていたのです。

初出 2004年01月29日(木)
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