「月姫 〜彼我の零距離、キミとボク〜」
第13夜 SAKURA color of dream
「人は、いくら自分で変わりたいと思っていても、
変えたい願い、変えようとしたその全てを変えることなど出来はしない。
それは、人の現在(いま)を形作る過去を捨てるのと同義であるから」
ウェイシャンの主治医の先生
「初恋、そして失恋。
それは結構多くの人が体験することです。
初恋が実りにくいのは恋に関して経験が薄い、
心に対する認識が甘いというのがあるのだろう。
だけど、失恋を恐れて恋に臆病になってはいけない。
失恋は、その人をよりよく磨き上げてくれるのだから」
ウェイシャンの先輩より
「今までこの世界で過ごしてきた時間。長くも有り短くもあります。
そのなかで人は何かを求め、そして答えを探しつづけているのかもしれません。
案外、人が生きて行く理由は、答えを探すことなのかも知れない。
そして、その答えとは、まさに花が咲くようなものなのでは?
本当は、いつもすぐ側にあって花を咲かせる日を夢見ている。
もしかしたらそんなものなのかもしれません」
「この文章。断定系の言葉を多用しています。だってわたしは答えをまだ見つけていないから。
そして、すべてのことに意味があっていらないものはないのならば、
君がいない世界にも意味があるのでしょうね。
だから。私は生きていきます。わたしが探していた答え、そして探していく答えを求めて。
ねぇ。わたしは大人になりましたか?
わたしは貴方の側にいられる人になりましたか?
いつか、私は貴方を抱きしめることの出来る日が来るのでしょうか?
答えを探します。そしていつかわたしが還る日が来たら、そのときには…」
誰かに捧げたわたしの言葉
−SAKURA color of dream− 桜色の夢
ある春の夜のことだった。
白い牢獄にほど近いところでそれは咲き誇っていた。
夜中に近い時間。ボクと彼女はそれを見に行った。そして彼女は言う。
「桜の花はたった少しの命で、すぐに儚く散ってしまうかも知れないけれど、
けどね。みんなしっかり憶えているよね。
だってこんなに美しい風景なんだから…。
わたしね。この桜のみたいに、人に忘れられない生き方をしたいと思うんだよ」
それはそれは立派な桜だった。
桜から舞い散る、そのあえかな花びらたちを飽きもせずにずっと見つめていた。
それは幻想的で綺麗な光景であると同時に、儚い光景でもあった。
さくらの花は散っていく。桜色は吹雪となって月下の風に唄う。
せっかく咲いたのにまだ春は続くというのに、可憐に散り急ぎ、その命を散らしてしまう。
桜の花を憐れだと思う、だけど同時に美しいとも思う。
なぜなら、桜は、桜の花は、自らの命を全うしたのだから。
木花咲耶姫(このはなさくやひめ)の化身とも、花の精とも言われるその姿。
生きている人間から見れば、ほんの僅かの間しか咲くことができない。
そんな、儚い花でも花たちにとっては自分の生を精一杯に生きたといえるのだ。
ただひたむきに生に対して一生懸命だから、散りゆく桜は人々の心に深く根付いて、人々の心を掴んで離さない。銀の月の光と桜の花吹雪と魅了されそうな光景。
そんな、美しい生き方をしたい。ボクの心に確かに咲いた緋色をした『真の花』は夜に包まれるように寂しく微笑んだ。
はっきり言ってこの願いは嫌いだ。
だったら、その桜の花びらを自らに宿る桜色を分け与えて作り出した、桜の樹は一体どうなるのだろうと。
覚えていてもらいたいのは事実。救ってもらいたいのは本能。
そうしないと誰が桜を、誰が桜の樹を、誰がわたしたちを、誰がこの記憶を…。
憶えていてくれるだろう。救ってくれるのだろう。報われるのだろう。
胸がどうしようもなく苦しくなって「馬鹿なこと言うな」って怒鳴った。
「そんな縁起でもない事言って、本当になったらどうするの」って叱り飛ばした。
目頭がすごく熱くなって「残される人のこと考えてよ」と彼女を抱きしめた。
銀月の夜、春の夜風に桜の花びらは天へと飛翔し、舞うように空へと向かう。
風の軌道が見える。そんなあまりに美しく可憐な光景だから、彼女が飛んでいかないように、
彼女が痛いというくらいまできつくぎゅっと抱きしめた。
それは舞い散る桜のように、儚く霞む思いなのかも知れない。
『さくら さくら さくらの花が咲く
さくら さくら さくらの花が散る
一夜の夢枕 春偲ぶせせらぎ はかなく無常に舞う花吹雪
風に誘われ 揺れる 花吹雪
月に照らされ 見守りし時を 闇に 秘める 思いの果て
幾千の夜 越えて 煌く 浮世の果て』
何時の間にか咲いてる。
そして何時の間にか散っている。
ボクも時々彼女が言ったあの言葉をそのまま心に浮かべることがある。
きっとそう思ってしまうのは、桜の舞い散る風景があまりにも綺麗すぎるから、
綺麗すぎて、心が震え、涙が出るほどだからなのだと真剣に思う。
「桜の様に生きたい」それは春の夜の夢。
たった少しの人生、それは儚く散ってしまうかも知れないけれど、
だけど人の心にその色は切なくそして鮮やかに刻み込まれる。
悲しいくらいに雅やかで美しい風景、そんな桜の様に生きてみたい。
銀の月に彩られた桜色の夢。それを見るときにそう思ってしまう。
桜の歌を、そして桜を見るとふと思うことのひとつに過ぎない。
けれどこれはとても大切な「ONE」だったりする。
ささやかな標を頼りに共に行きましょう。
あの銀の月の光の先へ。
遠い彼の地へ。
青空の下は彼女のいない世界。浮かぶのは白い月。
空の青さは美しくて、孤高の空、永遠なる千年の空と海。
空の青さに泣きたくなる。
『月姫 〜彼我の零距離、キミとボク』 了
「ONE」=唯一のもの ですよ。
初出 2004年01月31日(土)
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