「三時間目の休み時間」


 あの人は今隣のクラスで。
 私は去年、あの人といっしょのクラスやって。

 あの人はいつもにぎやかに友達と笑ってて。
 私はいつもおとなく本読んだりしてて。

 もう一ヶ月で卒業やのに、まだ二、三回しか話したことがなくて。
 せやのに私は、二年のときからずっと、あの人が好きで。


 ストーブの上のヤカンから、湯気がシュンシュン出てる。
 窓ガラスが、ほわっと白くくもっている。

 三時間目の休み時間、私は机の上に、次の国語の用意をしていた。

 「なあ、数学の教科書持っとう?」

 突然の声に、むっちゃびっくりした。

 見上げると、机の前に、ジャージ姿の彼が立っとった。
 さっきまで体育やったんや。ちょっと汗ばんだ、赤い顔をしている。

 「……持ってるけど……」

 ……でも、なんで? なんで私なん?

 鞄を探りながら、私はすごくドキドキしてた。
 (何で、わざわざ私に借りに来るん?)

 そんな気持ちが顔にもろ出てたみたい。
 彼は言った。

「これ罰ゲームやねん」
「え?」
「体育の時間、伊原と走り高跳びで勝負してん。んで、俺が負けて、罰ゲーム」

 ……なーんや。そっか。

 大したことない。
 目立たない、大人しい、隣のクラスの女子に教科書借りるなんていう罰ゲーム。

 なんや。ちぇ。

 「もしかして」なんて思わなかったって言ったら嘘になる。
   ちょっとショックやった。
 でも、少し嬉しかった。

 ほんと、中二の委員一緒やった時以来やったから。しゃべるの。
 卒業まで、もう話すことないと思とったから。

「はい」

 私は彼に教科書を渡した。

「あんな、この罰ゲームさ」

 彼は教科書を小脇に抱えた。

「『好きな人に教科書借りる』ってのやねん」


―――――― チャイムが鳴った。


「返事はさ、コレ返すときに聞きに来るから」


**************************
■後書き

 ちょっと実話(笑)
 中2んとき、私が蒼琢磨と体育の賭けで負けて、好きな人に 数学の教科書借りに行ったっってエピソードが元です。
 ちなみに、彼は私のことが好きでなかったんやけど(泣

 まあ、ちょっとお気に入りのサクヒン。  (2002.2.5) 初出・日記

■後書き2
私の108式まである拙作の中で割と沢山の人に支持してもらえた類稀な一作です。今は亡き楽園で当時ランクインしたのも良い思い出。
中三のときに書きました。大学三年生になって読むと、まあなんか、すごいこそばいですね。  (2007.10.14)

 >>novel  >>home