『Destiny』
――カラカラン
ドアがゆっくりと開かれた。取り付けられた鐘が優しい音を奏でる。
「“いらっしゃいませ”」
数人の声がドアを開けた女性に向けられた。女性はゆっくりと周りを見渡した。大人の背丈ぐらいの鏡台がキレイに並べられ、その前に回転イスが立っていた。そのイスにはまだ誰も腰掛けていない。少しツンとする独特な香りが漂っている。
ここは美容室。開店してまだ数分しか経っていないので、客はその女性ひとり。
女性はカウンターにいる店員に
「カットお願いします」
と言うと案内されるまま鏡台のイスへと腰掛けた。それと同時にビニール製の服を着せられた。
「あの、朝生って方にお願いしたいんですけど」
それを聞いた店員はにっこり笑って「かしこまりました」と奥に下がって行った。
数分後、奥から出てきた短髪の二十歳前後の店員が女性の後ろに立った。鏡の前に座る彼女を一目見ると、彼は微笑んだ。
「“お待たせいたしました。今日は……――”」
美容師は少し黙った後、ふうっとため息をついた。
「“――…今日はどんな風に?”」
「揃えるだけでいいんです。…シャンプーは、いいです」
「“かしこまりました”」
彼は前掛けからカット用のハサミを取り出すと手際よく揃えていく。
彼女は鏡台に置かれた雑誌には眼もくれず、じっと彼の手を眼で追っている。
「“今日はどこか行くんですか?”」
「今日は、ちょっとヒマつぶしに」
女性は少しうつむきながら答えた。でもその顔はとても優しいく嬉しそうでもある。
「“そうなんですか…”」
彼はそういうと、彼女の肩に落ちた髪の毛をやさしく払いのけた。
「はい」
次に彼はワックスを手になじませ髪を下に引っ張るように整えていく。
「“はい、おわりました”」
「…ありがとう」
彼女は鏡に映る自分を一度見てにっこりと笑い美容師に顔を向けた。
「あたしね、明日…結婚するんだ」
「……ふーん、オメデト」
さっきとは裏腹に仏頂面になった美容師を笑い、カウンターのほうへ彼女は足を進ませた。
「……昔ね、すごく好きだったヒトがいたの」
「…へぇ」
会計を済ませるとまた美容師の顔を見つめた。
「でもね、友達で終わっちゃった」
「・・・どーして?」
「ケータイを忘れていったの、学校に。夜に先生を呼び出して取りに行ったなー。そしたら、メールと着信一件、きてた」
「……」
「両方とも好きなヒトからで、メールには一言“聞きたいことあるんだけど、いい?”って」
「…へぇ」
「でも、メールは返さなかった」
「なんで?」
「怖かったから、声を聞いたら言ってしまいそうだったから。…そのひとの夢壊しちゃいそうだったから……謝ったら許してくれるかな?」
「………何年前の話?」
「三年前」
「…もうそれ時効っしょ」
女性はその言葉を聞くとドアを開けて去ってしまった。
「“ありがとうございました”」
彼女は声をしゃくりあげながら元来た道を戻っていった。
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そのまんま『運命』をテーマに書いたものです。。
美容室に行ったとき思いついたものです(たしか)
恋愛モノ書いてると、かなり恥ずかしくなります。
恥ずかしさのあまりキーボード叩いてたり。
たしか、高1の時に書いたので何年前になるのか・・・
ちょっぴり実話。でもどこかは秘密。
結婚するってところは明らかに違いますね。
二人が結ばれなかったのは運命だったのかもしれません。
というお話。(2005/9.24編集)