『SWEET BETTER』
恋をしてみたいと願ったときがありました
――でも
最初に経験した恋はビターチョコレートの味に似ていました
今日の天気は曇り。雲が真っ青な空を隠している。晴れていれば、山々がお目見えしているのだが残念ながら拝むことが出来ない。夏の初めということもあって、湿気があたりを覆っている。
「あ――――――っ」
出る限りの声を出す。そして、しかめっ面をして髪の毛をボサボサになるまで掻き乱した。
ここは屋上。創立30年以上経つ学校の屋上。ここの鍵はアタシたちよりも先輩が壊してくれたみたいでかからない。よく、先生方も気づかないものだ、と常々思う。もしかしたら、先生も不倫の場として使っているのかもしれない。そんなことあるわけないだろうけど。なぜか、誰一人として今はいない。だって…授業中なんだから。
今日は・・・今日だけはサボってもいいんじゃない? それぐらい許してくれるよ。とか思ってみるが週に三度は昼寝目当てに授業をサボってここに来る。
――――ピリリリリ
あたしの横に置かれているケータイが歌い始める。シンプルな着信音。今のアタシには心染み渡るようなLove songはいらない。だからといって元気の出るようなロックもいらない。シンプルな機会音がアタシにはピッタリお似合い。こうシンプルだと、段々と愛着も沸いてくるくるものだ。
「……はい、こちらアイ」
『早くでろ、ばかアイ』
電話の奥からは聞きなれた友人の声が聞こえてくる。その言葉の持ち主は舞子、あたしの親友で悪友。とか言ってみる。どちらかというと悪友の方が奴にはしっくりくる。
「で、何? 簡潔に言え」
『誰かさんのためにパシられちゃってるんだけどさー、まったく。ひどいね、当の本人は独りで哀愁に浸っちゃってるみたいだし! で、何が食いたいんだっけ?』
「一回で覚えろよ。マジ頭悪いな、おまえ。チョッコレート! あ、ビターね。ミルクとか買ってきたら殺すから。え? おごり? やだー悪いわねぇ、舞子ちゃーん」
『誰がっ! ちゃんと払えよ。じゃね』
ツーツーと響く受話器に向かって歯をむき出して威嚇してみる。相手には見えることもないのだが、気分的に。
彼女は、大好きな数学の授業を抜け出して、サボリを付き合ってくれた。でも、数学が好きだというのではなく、教育実習に来ている大学生が舞子好みの好青年だからなのだが。彼女が付き合ってくれたということがアタシとしては嬉しかった。しかも、買い物にまで行ってくれているのだ(学校から十分の付近にある廃れたコンビニエンスストアだ)。そんなに優しくしてくれるのは今後一切ないだろうし、あたしからお断りだ。なんせ、失恋記念パーティーなんて。
「苦しいこともあるだろなっ」
急に、
「悲しいこともあるだろなっ だけど僕らはくじけないっ 泣くのは嫌だっ笑っちゃお」
「「すすめ――!!!」」
突然、ドアが開くかと思うと大声を張り上げた舞子が入ってきた。
「よーこそ、アタシの花園へ」
「そりゃどーも」
重そうに持っていた荷物をアタシの目の前に置くと、日陰のある場所に舞子は腰を下ろした。
「あちーっ。夏の屋上はマジ暑い。」
「おつかれさーん」
「泣いてもいいぞ」
「誰が」
「ま、いいけど。チョコ買ってきてあげたよ。感謝して。あたしに!」
「ありがとう、コンビニのおねえさん」
「……」
しらけながらも、舞子は買い物袋に手を入れ、アイスを取り出した。
「あ、コレ、アイの奢りだから」
「はあ? 嫌だね。しかも、ハーゲンダッツなんて食いやがって。おまえにはガリガリ君がお似合いだっつーの」
「んじゃ、財布から取るから」
少し笑いあった。いつものように、会話を交わして。でも、ふいに二人は沈黙した。
「……なんで失恋したの?」
きた…。この話題はあまり触れてもらいたくなかった。
「あー…。彼女ができたんだって…」
「誰?」
チョコレートに手をかけた。チョコレートは袋いっぱいにこれでもか、というくらい入っていて、どれも黒い包装で”ビター”と印字されている。
「元カノ」
「げっ、マジで? 魔性じゃん。てか、元サヤじゃんかよ」
彼の元彼女だった子は、同じ学年だが違うクラスの女の子。背は小さく大きな瞳が特徴的で、可愛らしく笑うアタシとはまったく正反対の女の子だ。可愛いと評判だが、悪い噂も彼女の跡をついて回っている。本当はどうなのか、誰も知らないのだが。
チョコレートの銀紙を景気よく破って齧り付いた。さすがビター、あたし好みの味がする。甘くて苦いチョコレートの香りがあたりに充満する。
「まー、七月中には別れるんじゃない? あと一ヶ月の辛抱だ」
少し、ひんやりとするその固体はアタシの口の中で程よく溶けていく。にがい。
「だってさ、あいつだよ? 魔性だよ? 別れるのなんてスグスグ」
「……」
「前、別れた理由知ってる? ”振られるぐらいなら自分から振りたいから”だってさ。なんじゃそりゃ」
「……でもさぁ、二人で花火見に行くかもしれないじゃん。…キスするかもしれないじゃん」
涙が出てきそうだ。それを抑えるためにアタシはひたすら食べた。口が汚れようが、手が汚れようが関係ない。
去年は中止になった地元の花火を見にに行きたいと彼は言っていた。もしかしたら、一緒に行く相手は自分なのかもしれない、と密かに思いを巡らせ夢を見ていた。勇気を出して、誘ってみようと決心した矢先の出来事だった。
「そうかもしんないけど。………くよくよすんな! ユウキ アイ! お前には勇気と愛がついてるぞ!」
「あんぱんまんかよ……しかも、有る木と書いて有木。藍色の藍ッ!」
「じゃーアタシがいる」
「あーハイハイ。つまんないよー」
彼らはメールをしていたら”なんとなく”付き合うことになったらしい。なんとなく、で付き合えるものなのだろうか。
「だけど僕らはくじけないーー!!」
チョコレートを一枚手に取り、掲げて見せた。
「あ、それちょっとま――」
舞子のあわてた声が耳に届いていたが、気にせず銀紙を破り、噛み付いた。
「!?」
「……それ、あたしの――」
舞子が小声でボソリといった言葉もあたしの耳には届いてなかった
あたしの手の中には真っ白なチョコレートが握られていた。
「…にが」
あたしの目から涙がとめどなく流れていることがわかった。
ミルクチョコレート。
彼が好きだと言っていた。ホワイトチョコレートを食べた瞬間から、彼の笑顔が離れない。
『おれ、ミルクチョコレート大好きなんだよね』
そういって、彼は一欠けのホワイトチョコレートをアタシにくれた。そのミルクチョコレートは今まで食べた、どんなチョコレートよりも甘くて美味しかった。
甘いはずのホワイトチョコレートは、ビターよりも苦い味がした。
「…すき。まだ、すきだよ。けれど何も出来ない自分が悔しいよ…」
―――恋はビターチョコレートの味がしました。
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古い作品を引っ張り出してきてしまいました(汗)
よく、わからない話でスイマセン orz
この話は、中学のときに詩にはまってたんですけど
そのとき書いた詩のひとつから連想されたものです。
その詩は一番最初の三行です。
久しぶりにHPを改装するので
ついでに推敲も・・・ということで大幅に直しました。
もっと直したいのですが、HPの改装が終わらなくな・・る・・orz
恋は甘いんじゃなくてビターなもの
という話。(2005/9.20修正)