『呪いの歌と二人の王子』


 昔々、小さな大陸に豊かな国が存在していました。その国には15と17になる若い王子が二人いました。彼らは誰よりも仲の良い兄弟でした。それは国中の誰もが知っています。兄は勉強をするのがとても好きで、毎日お城にある図書館にこもりっきりでした。中でも世界のことについては、特に大好きで国中の誰よりも知っていたことでしょう。弟のほうは、兄とは違って武術に励み勉強にはまったく 興味を示しませんでしたが、兄が語る広い世界の話は好きでした。
 そんな、ちょっぴり自信家の兄と気の優しい弟の仲が終わる日が近づいてきていました。王位継承の日が近づいてきたのです。この国ではその昔、最悪にして強大で残酷な魔法使いによって、“次期王となるものは自分の兄弟たちを殺さなくてはいけない”という呪いにかけられていたのです。その呪いは歌となって、この国に深く根付いていました。
彼らのどちらかが死ななくてはいけない日まであと、三日…。

 「兄さん。やっぱりここにいた」
 静かだった空間に声が響きました。その声を発したのは弟王子で、図書館にいる兄を探しにやってきたのです。お城の図書館は広すぎて迷路のようなので始めてきた人は迷ってしまいますが、弟王子には兄がどこにいるか予想するのは簡単でした。彼は必ずこの国で一枚しか存在しない世界地図の前にいるからです。
 「やあ、トト。どうしたんだ?そんなに慌てて」
 兄王子はにっこりと微笑みました。
 「王位継承まであと三日しかないというのに…」
 「なんで図書館にいるのか? だろ。理由は一つだけ。この世界地図を写しているのさ」
 彼は壁にかかる大きな地図を指差しました。
 「そんなことしてどうなるんだよ。僕は…僕は兄さんと戦いたくない。皆は僕が武術に優れているって言うけど、本当は兄さんのほうがずっと上で…きっと僕は負けてしまう。もし、僕の方が優れていたとしても兄さんを殺したくない。だから、闘わなくていい方法を相談しようと思っていたのに、兄さんはのん気に地図なんか…」
 “のん気”という言葉に兄王子は首をかしげました。何を言っているんだ? といいたそうな表情です。
 「ちょっと待て。誰がのん気だって? 遊びであんなもの紙に写すものか。俺だってお前と戦いたくないし、どっちかが死ななくちゃいけないなんていう、あんな呪いの歌なんて信じてない。その証拠に王子だけじゃなく時期、妃候補だって、富豪の息子同士だって殺しあって継承者を決めるじゃないか。あんなの、狂った奴らの娯楽だろ。呪いなんて存在するものか。そんな娯楽のために死ぬなんて嫌だと思わないか? だから、いい事を思いついたんだ。トト耳を貸せ」

 王位継承の日がいよいよ、やってきました。国民たちは時期王の決まる、その瞬間見たさに、皆コロシアムに詰め掛けました。二人の王子の決闘が行われるコロシアムは国民がほぼ全員収容できる広さがありますが、王位継承の儀式ほど国民が密集する日はありません。コロシアムは国民たちの熱気で溢れ返っています。いよいよだということで、国民の気持ちが高ぶり大合唱が始まりました。そう、あの呪いの歌を、合唱しだしたのです。
 “この国に王子は一人きり、王子が何人もいては困る。王子が一人きりならば国は安泰するだろう。王子が複数いるのなら国は跡形も無く滅びゆく”
 何度も繰り返し呪いの歌は合唱されました。これから、殺し合いが始まるというのに国民たちは皆、実に楽しそうに歌っています。
 太陽がちょうどコロシアムの真上に上がる時、始まりの鐘が国中に響き渡りました。あれ程、うるさかった国民が静まり返ります。コロシアムに入場する二人の王子の事を瞬きするのも忘れて皆一斉に見つめていました。彼らが土を踏む音が聞こえるほど、誰も音を立てることはしません。
 「只今から、王位継承の儀を執り行う。どちらか一方が息をしなくなるまで戦うことを太陽に誓い、そして時期王となるものは国の安泰を願うと月に誓いたまえ。――私のように」
王様の声が静まり返ったコロシアムに響きました。二人の王子は同時に構えます。
 「さあ、始めよう。そして迎えよう、時期王を」
 王様が言い終わらないうちに、弟王子が剣を抜き兄王子に切りかかりました。刹那の出来事で、皆状況が飲み込めませんでした。それもそのはず、次の瞬間には弟王子の足元に兄王子が倒れていたのです。
 弟王子は王様のほうへ向き直り、こう言いました。
 「私の剣によって兄上は、倒れました。ですが、殺したわけではありません。私は兄上に最後の敬意として明日、自害させることを望みます。時期王の兄として尊厳のある死を遂げさせたいと思うのです」
 それを聞いた王様は声を上げて笑いました。
 「いいだろう。明日、同刻にその場を設けよう。それまで、城の牢に入れておけ。もう王子ではないのだからな」
 「有難きお言葉に感謝いたします」
 そう言った弟王子の目は王様を睨み付けていました。

 「兄さん、起きて」
 鉄格子越しに弟王子は兄に呼びかけました。王位継承の儀式が終り、月が昇るのを待ってから弟王子は城の地下、奥深くにある牢獄へロウソクの火を頼りに降りてきていたのです。
「ああ、トト。起きてるよ。ここまで来るの、大変だったか?」
 ロウソクの微かな光に兄王子が映し出されました。王位継承の時と変わらない格好です。唯一、変わったのは鉄格子の中にいるということだけ。
 「ううん。国中がお祭り騒ぎでそれどころじゃないよ。皆、警戒心が一瞬にしてなくなってしまったみたい。それに、兄さんに言われた通り、ここの見張りには“私が見張りをしよう、彼の命はまだ私の手に委ねられているのだから”って言ったら皆、安心しきった顔で祭りに参加しに言ったよ。それもどうかと思うんだけど、真面目じゃなくてよかったよ。じゃないと、兄さんは本当に死ななくちゃいけなくなるからね」
 弟王子は自分の言った言葉が可笑しかったのか、クスクスと笑いました。それを見て兄王子もにっこりと微笑みます。
 「俺は恵まれているな。こんなに頭のいい弟がいて。賢いトト、ちゃんと持ってきてくれただろう?」
 「もちろんだよ!」
 “賢い”と言われて、弟王子はとても嬉しそうです。
 「ここの鍵と、世界地図、兄さんの剣。あと、これ少しだけど金貨を入れておいたから使ってよ」
 金貨の入った小さな皮袋を兄王子に差し出しました。
 「それにしても、こんなにうまくいくなんて思わなかったよ。三日前、兄さんが“錆びた剣に銀箔を張った剣で俺を切る。まじまじと見られると剣がおかしいことに気づかれるから一振りで気絶させろ。そしてこう言え、『私は兄上に最後の敬意として明日、自害させることを望みます。時期王の兄として尊厳のある死を遂げさせたい』と。月が昇ったらこの世界地図と剣と鍵を持って来い”その案がなかったら、きっと僕が死んでいた。でも、なんで世界地図を紙に写してなんかいたの? 壁にかかっているやつを持って来ればいいじゃないか」
 「ばかだなぁ、トト。それじゃあ、“ここを出て他の大陸に行きます”って宣言したようなものじゃないか。地図と共に俺が消えるのは、どう考えてもおかしいからな。それに王子はどちらかが消えなきゃいけないんだ。いいか、俺と別れたら王に“自分が行ったときには牢屋は誰もいなかった。けれど、何も持たないで遠くに逃げられるはずが無い。追わなくても勝手に死ぬだろう”って言えばあいつは単純なバカだから、追ってこないはずだ」
 「うん。わかった。必ずそうするよ」
 弟王子は牢屋の鍵を開けると、兄王子を外に出しました。
 「それと、トト。お前には狂って欲しくない。必ず、俺はこの国に戻ってくる。ここを出たら他の国に助けを求める。そしたら、この国の馬鹿げた風習を潰すように説得する。それにはきっと、何年もかかるだろう。でも、お前の子どもが王位継承を迎える前に必ず帰ってくると約束する。誰も死なせたくは無いだろう? この国の呪いを俺が解いてやる」
 「うん。兄さん僕ずっと待っているから」
 二人はそこで別れました。兄王子は人通りの少ない裏口から城を出て闇に紛れて行きました。弟王子は、兄に言われたとおりに王様のもとへと向かって行きました。
 
 月明かりが道を照らす中、兄王子は立ち止まり自分が今までにいた城を振り返り、自分でも聞き取れないほど小さな声で呟きました。
 「ばかだなぁ、トト。俺が戻ってくる前に、きっとお前も狂ってしまう。かわいい弟のためだ、戻ってきたら真っ先にこの手で殺してあげよう。苦しくないように、ね…。この国自体を潰さなければ、きっと呪いは解けない」
 
 “この国に王子は一人きり、王子が何人もいては困る。王子が一人きりならば国は安泰するだろう。王子が複数いるのなら国は跡形も無く滅びゆく”



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「呪いの歌と二人の王子」
短編小説同盟様の企画に参加させていただきました!
四回目です!
結構、投稿してるんだなぁとかなり驚いています。
第八弾【歌】。考えるのがとても楽しかったです。
今回はジャンルを”おとぎ話”ではなく、”ブラック”にしてみました。
内容がブラックなので題名にも変化をつけました。
王子に様が付いてません!!(それだけかよ!)
書き終わって間もないままアトガキを書いたの初めてかもしれません。
まだ一週間ぐらい?しか経っていません。
呪いを何故かけられてしまったのか。というハナシが一番初めに来るはずだったのですが
枚数の関係上、削除いたしました(汗
最悪にして強大で残酷な魔法使いを登場させたかった・・!!
コレほどまでに、醜い魔法使いを考えたことが無かったです。
醜い(容姿ではなく)キャラを考えるとどーしても、人間臭くなります。
いつか、書くかも
(2005/1.26 更新)