『錬金術師とわがままなお姫様』



 昔々、ある小さな国がありました。その小さな国には美しいお姫様がいました。お姫様の名前はレナ姫といいます。レナ姫はとてもわがままで王様や国の人々を困らせていました。それでも王様は可愛い娘の為に全てのわがままを聞いていました。
 ある日、レナ姫は言ったのです。
 「夜空に輝くあの月が欲しい」
 これには王様も困りました。王様の権力を持っていたって月を手に入れることができないからです。それでもレナ姫は諦めようとはしませんでした。
 王様は国中に御触れを出しました。
 『月を捕まえられるものは褒美を取らせよう』
 それを聞いた国の者たちは色々な月をお城にもって来ました。絵描きは大きな月を描き、銀細工職人は見事な月を銀で作り上げました。しかし、どれもこれもレナ姫は首を横に振り
 「わたくしは、そんなものが欲しい訳じゃないわ」
 というばかり。
 とうとう、誰もお城には来なくなりました。王様は悩みました。そして一つだけですが考えが浮かんだのです。それは町外れに住んでいるという錬金術師に頼むということでした。
 さっそく王様は錬金術師をお城に呼ばせました。
 「おまえはどんなものでも金に変えられる技術を持っているそうだな。それなら、何かを月に変えることもできるんじゃないのか?」
 その言葉に錬金術師はこう答えました。
 「それはできません」
 「褒美をたんまり取らせるぞ」
 「それでもできません」
 王様は困りました。でも、ここで引き下がるわけにはいきません。
 「お前に何でも与えてやろう。何が欲しい? そうだ、土地をやろう。土地だけじゃなくて立派な家も建ててやるぞ」
 「それでもできません」
 「そ、それじゃあ何がほしい?」
 「欲しい物をいって頂けるとは思いませんので」
 「……レナを嫁にしてもいいぞ。そうすれば、お前の欲しい物だって手に入れられるだろう」
 錬金術師はその言葉を聞いて少し黙りました。そして、にこりと笑ってこう言ったのです。
 「わかりました。月を捕まえて見せましょう」
 それを聞いて王様は安心しましたが、不安にもなりました。もし、本当に錬金術師が月を捕まえてしまったらと。
 しかし、約束してしまったものは仕方ないと王様は思いました。そして、錬金術師が失敗すればいい、とも思いました。
 そんな王様を余所に錬金術師はさっそく月を捕まえる準備に取り掛かりました。準備といっても国中の人々と王様とお妃様、そしてレナ姫を国の真ん中にある大きな広場に集めただけですが。
 「本当に月を捕まえることができるの? だって、今は昼間じゃない」
 レナ姫は少し不満そうに空を見上げていました。空は見事に快晴で、雲ひとつ無かったからです。
 「それに、何で月を捕まえるのかしら? 大きな網でも使うのかしら?」
  国中の人々は不思議そうに錬金術師を見ますが、彼の手には大きな網などありませんでした。
 「じゃあ、今から月を捕まえて見せましょう」
 一気に錬金術師のほうへ視線が集まります。どんなことが始まるのかと皆わくわくしていましたが、錬金術師がやったことは指をぱちんと鳴らすだけでした。
 「それだけ?」
 「まあ、空を見てください」
 皆は空を見上げました。すると、空の端っこから黒い影がだんだんだんだん空を包み込みました。暫らくすると明々と燃えていた太陽までもが隠れてしまい満月が出現したのです。
 「すごいわ! 本当に月が現れたわ!!」
 お姫様はとても喜びました。しかし、国中のものたちは不安そうに空を見上げたままでした。
 「もうずっと、この月は太陽と交代することはなくなります。ずっと、貴女の上で輝き続けますよ」
 「ステキ…じゃあ、今度はあなたが欲しいわ! その不思議な力は、あたしだけのために使って欲しいの」
 その言葉に錬金術師はにこりと笑いました。

 レナ姫は今日のうちに結婚をすると決めたので、お城では婚礼の儀式が行われることになりました。
 結婚式場ではレナ姫と錬金術師が牧師の前で祝福を受けていました。錬金術師はさっき着ていたのとは比べらものにならないほどの高価な服を着ていました。その頭の上には宝石がたくさん付いた王冠が乗っています。
 「貴女は彼との愛を誓いますか?」
 「はい」
 「それでは、貴方は彼女との愛を誓いますか?」
 「………」
 錬金術師は長いこと黙っていました。これにはレナ姫も不安を隠すことはできません。
 「……できません」
 一瞬、教会内はざわめきました。
 「どうして!? 何を言ってるの?」
 「僕は貴女のことを愛すことはできません」
 「な…なんで?!」
 「貴女は太陽を奪ってしまったから。僕の愛するものを奪ってしまったから」
 「でも、あれは貴方がやったことじゃない!」
 「そうです。僕が捕まえました。でも、貴女が望んだことです。だから、僕は貴女を愛すことはできない」
 そう言うと、頭に載っていた王冠を手に取り床に落としたのです。ばらばらと宝石が飛び散りました。
 「…わかったわ! 月はもういらない。今、欲しいのは貴方なの」
 それを聞いて錬金術師はにっこりと笑いました。


わがままなお姫様と錬金術師の物語はここでお終い。
ですが、本当に彼は錬金術師だったのでしょうか? 
いいえ、違います。
彼は本物の魔法使いだったのです。彼は本物の魔法使いだったから太陽を月に変えることができたのです。
本当に彼は太陽を消してしまったという理由で愛を誓わなかったのでしょうか? 
いいえ、違います。真実はこうです。あまりにも大量の魔力を使うために月を捕まえておくのは、たったの一日しかできないからなのです。


こうして、この国には太陽が戻ってきました。レナ姫が次に何が欲しいと言ったのかというと、……それは秘密です。


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紅足が大スキ☆お姫様シリーズです(笑)
しかも大抵のお姫様の名前がレイナ…
てゆーか、レイナしか使ったことないんです。(汗)
レイナって、なんとなぁくお姫様☆って感じがするので・・・
良かった本名レイナじゃなくて・・・!!
名前負け決定です。
「余談ですが…」というくだりが唐突過ぎるというご感想を頂いたので、
短編小説同盟様に置いてあるのとは少し違う最後になっています。
読んでもらうっていい事だなーってシミジミ思います。
(2004/12.17修正)