『雪と彼と恋敵』
シアワセな恋人たち。
彼らは自転車を二人乗りで帰る。
もちろん二人は高校の制服を着ていて
前には彼が、後ろには彼女が
ゆっくりと学校から帰る。
二人の時間がゆっくり流れるように
…そんな些細なシアワセを願っていた自分がいる。
12月31日。大晦日。
外は雪が降っていた。首都圏にしては珍しく大雪警報が発令されたほどで、全域に雪が降り積もっていた。雪は幻想的できれいなものだと思っていたのだが、この降りようだと雪は厄介なものだとしか思えなくなってしまう自分が憎い。
そんな中、高校時代の友達と近くのファミレスで昼食を一緒に摂る約束をしていたので傘を差さずニット帽の上からコートのフードを被り、自転車で向かう。近くといっても15分はかかるのだが。
ファミレスに着くと、中には入らずに玄関口で彼女の居る場所を聞き出ことにした。携帯電話を取り出すが、手がかじかんで上手くボタンを押すことが出来ない。自分の吐息で少し暖めてからボタンを押すが、すぐに指先から凍っていく様な感覚に襲われた。
やっとのことで『今、どこにいるの?』という九文字を打つ。送信ボタンを押してすぐに手をポケットの中に突っ込んだ。
間も空けずに携帯電話の着信音がなる。
『ごめん、今家出た(>_<)』
返信がすぐに送られてきた。外で待っていようと思ったのだが、この寒さに耐え切れず一足先に中に入る。熱風が全身を襲う。じわりじわりと凍った表情が溶け出しているみたいだ。ファミレス内に客は3組しかいない。まさか、こんな大雪の日に満席であるだろう、なんて想像はしてないのだが、いつも込み合っている店内は静まり返っていた。
そんな状況の中、床掃除をしていたウェイトレスがこちらに気づいた。
「お客様は・・・」
モップを持ったまま今、来た客の顔を少し見つめた後
「・・何名様で」
「二名なんですけど、後で来ます」
彼女が言い終わらないうちに返答する。すぐにでも席に座り、ぬくぬくとした暖かさを堪能したかったからだ。
席についてから数分後、友人は笑顔で現れた。
「ごめんごめん。寒いねー」
「いいよ。別に。寒いから先に中入ってたよ」
「そうだよね、待ってなくて全然良かったし」
じゃあ、早く来い。だなんて言えず、笑顔を返した。
「何食べる? お腹空いたよー朝から何も食べてないんだよねー」
彼女はそういってメニューを開く。
「どうしようかなぁ、瀬理は何にする?」
「あたしスパゲティでいいや。和風ってやつ」
”和風のきのこバタースパゲティ”と書かれた写真を指差す。しめじや、舞茸などのきのこが山盛りになったスパゲティの写真は、とてもおいしそうに見えた。
すいませーん、と彼女はウェイトレスを呼ぶ。
「えっと、和風ハンバーグに洋風セットのライス大盛りと・・・」
そんなに食べるんだ、と思ったがやはり言えず笑顔を返す。
「・・・和風きのこスパゲティに、瀬理ドリンクバー頼む?」
「あ、うん。いるいる」
「じゃあ、ドリンクバー二つで」
かしこまりました、とウェイトレス。
「ドリンクバー持ってきてあげるよ。何がいい?」
オレンジジュースと頼むと彼女はスキップ交じりの足取りでバーカウンタまで取りに行く。
ここに来た理由は、ただ一つ、プレゼントを渡すため。彼女の誕生日は二ヶ月過ぎているのだが、気にしない。学校が違うと生活リズムも違うのでなかなか会えなかったのだ。今日、会わなければ何ヵ月後に会えるかわからない。そう思って雪の中を自転車で走って来たのだが、その判断は間違いだったのかもしれない。と、すこし後悔をしたことは彼女には内緒である。
「ジュース持って来たよー」
「ありがとさん。はい、これ」
ピンクの包装紙で可愛くラッピングしてある小さな包みを手渡す。
「ありがとー! 何これ? 指輪? 結婚? やだー瀬理ったらぁ」
本気で顔を赤らめている。可愛い女って言うのは演技で出来ているものなんだな、と何故か悟った気になった。
「違うし」
えー、と言いながらも彼女は中からビーズで出来たピアスを取り出す。
「わぁかわいー。ビーズがハートだぁ。ありがと瀬理」
満足そうな笑みで今までつけていたピアスを外しプレゼントしたピアスを早速つけていた。
「どお? どお? 鏡鏡」
鏡で自分の装飾された耳を映し出して、笑顔をこちらに向ける。
「大切にするね」
鏡でピアスを堪能した後、「なくすといけないから」と彼女はピアスを外し包装紙で丁寧に包み鞄の中にしまっていた。そうして彼女は思い出したように、ジュースを飲みだした。
「あ、そうそう来るって」
ストローを加えたまま彼女は、そう言った。
「何が?」
「え、だから来るんだよ」
「だから、何が?」
「彼が」
「彼? 誰? あんたの?」
「違うよ! さっきメールで呼んだの」
にやにやした顔から読み取るのは簡単だった。彼が来る。あたしの好きだった人。そして、目の前にいる彼女のことがスキだった男の子。けど、それはもう過去の話。
「へー」
動揺は見せまいと必死にオレンジジュースを飲み込む。空になったガラスのコップに助けを求めるように見つめてみるが、ただのコップが助けてくれるわけもなく心の中で大きなため息をついた。また、幸せが逃げちゃったよ。
「すぐ来るよ。近くにいるらしい」
まだ、にやにやとあたしを見つめている。話題を変えようと思った瞬間、ウェイトレスが和風ハンバーグと洋風セットライス大盛りを運んできた。ナイスタイミング。彼女と握手を交わしたくなった。
「おいしそーいただき」
目の前でガツガツと食べ始めた。そんなにお腹が空いていたのか。
続いて、和風きのこスパゲティが目の前に運び込まれる。相当な量だが、美味しそうだ。醤油とバターの香りに食欲がそそられる。
無言で食べ初めて十数分。店のドアが開く音がした。それと共に静かだった心臓の音も聞こえ始める。
「寒い! マジ寒いんだけど」
が第一声。彼は、真っ赤になった手をこすり合わせていた。にこにこしながら友達の隣に座る。つまり、あたしの目の前の席だ。
「つーかさ、ここまで歩いてきたんだよ? マジ寒い」
ジャケットの前、全開じゃ当たり前。などと言えるはずもなく、目を合わせることが出来るわけでもなく泳ぐ視線はスパゲティを捕らえる。
ひたすら食べることに専念することしか出来なかった。
「うわっ寒そー。スープ飲みなよ」
そういうと、彼女は彼に洋風セットのスープを差し出す。
「ありがとう。ってか、このスープ微妙なの?」
「なんでさ、人が折角あげたのに」
「だって、ごはんと比べてスープの量全然減ってない」
「まぁ、微妙だったんだけどね」
楽しそうな会話が目の前で繰り広げられている。少し、羨ましいが目を合わせただけで顔が赤くなってしまうので一生懸命食べる。シソがアクセントになっていて美味しいなどと、心の中では一人実況レポートが始まっている。
「瀬理、久しぶり」
ふいをつかれて顔を上げてしまった。目が合う。
「久しぶり、手真っ赤だよ」
一瞬で目を逸らすことに成功したが、視線が泳いでいることに気づく。
「外、見てよ。雪だよ。こんなとこで何してるの? 寒いじゃん」
その言葉に救われた。泳ぐ視線は雪が降り積もる外へと向けられる。
「あ、さっきより積もってる。自転車なのに」
「瀬理、自転車で来たの? じゃあさ、この後バイトだから送っていってくれない? 駅まで」
の言葉に間を入れず「やだ」と答える。でも、そのシュチュエーションは少し嬉しい。
「いいじゃん。いいじゃん。俺、うしろ乗るから」
「なんでよ、後ろはあたしだし。別に送ってもいいけど、駅に着いたら今度はあたしを送る番」
「あはは瀬理うけるー」の合いの手が入る。
「意味無いじゃん」
「やだよ。往復するの」
前より、楽に話している自分に気がついた。あの時は悲惨だったな、とも思った。すきですきで、誰よりも何よりもすきで、だけど気持ちも伝えられない意地っ張りなあたしの事を思い出していた。
わずかだけど胸の痛みに気づいた。まだ、すきなのかもしれない。
「いいじゃんー。積もるハナシもあるじゃん。昔の話とかしようよー」
「え、やだ。帰る」
ちょっと、ドキっとした。何を話すんだ。悲惨な日々のハナシ? 努力が無駄に終わったハナシ?
昔の話はしたくなかったけれど、二人乗りだなんて一生出来ないだろう。本当は送りたい、だなんて口が裂けてもいえない。
「お願い、奢るから。ドリンクバー代だけ」
「デザートも奢れ」
彼女はそういうとウェイトレスを呼んで苺パフェを頼んでいた。
「奢りません」
「じゃあ、やだ」
「おまえじゃなくて、瀬理に頼んでるんだってば。せーりー」
「わかったよ。パフェ奢れ」
彼女がパフェを食べ終わるのと同時に会計を済ませる。彼は折れて彼女にパフェを奢ることとなった。
外に出ると冷気がひんやりと身体を包み込む。吐く息が濃い白色となって視界に入る。さっきよりも雪は深く降り積もっていた。
「瀬理の自転車どれ? 青いのでしょ?」
「え、何でわかったの?」
「なんとなく…後ろついてないの?」
彼の言う後ろとは荷台のことである。あたいしの自転車にはついていない。よって、後ろに乗るものは立つことになるのだ。
「まって、あたしハイヒールで来ちゃった・・・」
愛用している黒のエナメルが二つの足に収まっている。
「え」
「ごめん」
「乗れないの?」
ヒールが滑って片足でさえ乗せることが出来なかった。
「じゃあ、いいや。俺、走るから。またね」
そういうと彼は、雪の中走っていってしまった。行ってしまった後も彼の足跡をずっと見つめていた。
すごく、気が落ち込んだ。スニーカーで来ていれば、荷台が付いていれば。
少しの夢を見ることが出来たのに。
高校の時に叶えられなかった事が出来たかもしれないのに。
仕方が無い。
彼の荷台に乗るのは、あたしじゃない。
まだ、見たことも声を聞いたこともない女の子。
彼の荷台にそのこがちょこんと座っているのが想像できる。
笑顔がかわいい子。
その子には悪いけど、年の終わりにいい夢見せてくれてもよかったじゃない、と心の中でつぶやいた。
そう彼にはカワイイ恋人が―――。
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「雪と彼と恋敵」の前に
恋愛小説を書いたのはいったいどれくらい前だっただろう。
ってふと考えてみたら二年前・・・(汗
そして、どれもシアワセな終わりかたしてないです。
この頃、日本語の題名つけるのスキです。
思い浮かばないと英語表記になります。
でも、意味わからなかったら、しょうがないですね。
HPの名前の意味でさえ忘れそうになります(おい
Lot Starry Eyed
”非現実的な偶然の運命” たしか。
しかも、英語表記これであってるかさえも、わかりません;
わかるかたが読んでくらっしゃるようでしたら、
こいつバカだーって思っててください。
ってか、あとがきがなんでHP名の話題に・・・(迷)
(2005/1.3完成
2005/9.24編集)