原稿用紙3枚文
最終更新日:弐千伍年如月玖日



 「不調な男」

 最近、あいつは目に見えて元気がない。ただ元気がないというだけでなく、どうも何か悩んでいるような雰囲気なのだ。
 以前、恋愛問題で悩んでいたときも結構おとなしかったもんだが、今回はそういうことでもなさそうだ。もちろん、誰かに説教された、ということでもないだろう。叱られたくらいで懲りるようなヤツじゃない。
「まったく、気味が悪いよ。そのうち雪でも降るんじゃないか」
口の悪い友人はそう笑う。──ちなみに今は真夏だ。
 まあ気持ちは判らなくもない。お互い、あいつの暴力に悩まされたこともあるのだ。
「まあ、いいんじゃないか? おとなしくしててくれるならそれに越したことはないよ」
 そりゃまあ確かに。──とはいうものの、普段が結構乱暴なヤツなのでよけいにそう感じるのかもしれないが、ありあまっているくらいに元気なヤツが落ち込んでいるのはこちらも見ていてあんまり気分のいいもんじゃない。
「──どうしたんだよ?」
 知らず、溜息でもついていたのかもしれない。顔を上げると、同居人がじっとこちらを見ていた。
「いや、実は……」
今の状況を説明すると、
「いいんじゃないの」
と、誰かと似たようなことを言い出した。
「いつもあいつには苦労させられてるんだ。そういう仕事が減るのは悪いことじゃない」
 同居人はたまにこういう冷めた物言いをする。普段は何のかんの言っても情に厚いヤツなのだが。
 結局、仲間内に相談したところで返ってくる答えは同じだ、ということだろう。ま、それならそれでいい。直接尋ねてみるまでのことだ。今のあいつなら乱暴されることもないだろう。
「──で、何かあったのか?」
問いかけると、案に相違してヤツはニヤリ、と笑った。
「おう、実は最近ちょっとスランプだったんだがな」
 スランプ? いやな予感がした。この男がスランプという言葉を使うことに関して、最悪の心当たりがあったからだ。
「昨日、天啓のようにひらめいてな、どうやら俺の最高傑作になりそうな予感なんだ」
いやな予感が急速にふくらんでゆく。
「そ、そう、そいつはよかった。じゃあ……」立ち去ろうとする肩をぐっと掴まれる。
「まあ待てよ。特別に聴かせてやろう。お前が名誉ある第一号だ」
「え、や、ま、待ってよジャ──」
 止める間もあればこそ、ヤツの殺人音波が精神を打ち砕いていった……。
「♪ボェ〜〜」 

主宰:明那咲人
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弐千肆年皐月拾伍日始動


タイトルの通り原稿用紙3枚分(1200字)以内でショートストーリーを書いております。
奇妙なもの、何かしら心に残るもの、どんでん返しのあるもの等々、
週一くらいでちょこっとずつでも増やしていければ、と思っています。
限られた文字数の中、何処までできるのか僕自身にも分かっちゃいませんが、
温かい目で見守って頂ければありがたく思います。