ファイル2
NO.1
タラップを降りながら依子はジャケットを脱いだ。ねっとりと生暖かい空気が身体全体にまとわりついてくる。
さすがにここマレーシアのタイ国境近くアンダマン海に浮かぶ島、ランカウイ島である。クアラルンプールよりドメスティックで約1時間、リゾートっぽくこじんまりとした南国情緒あふれるかわいい空港といった感じである。クアラルンプールの想像以上に大きく立派できれいないかにも大都市といった空港から一変した。
現地ガイドの人はまだ来ていない。日本人のように几帳面に何分も前から待っていてはくれない。のんびりとして悪くはない。
やって来たのはハレルという中国系マレーシア人で30歳前後の目の鋭い彫りの深い顔の男性だった。最初ちょっと怖い感じがしたがそれは目に力のあるせいだったのかもしれない。しゃべりだすと、なんとフレンドリーでしかも勉強熱心なのがわかる。というのは日本語はとても上手といってもいいだろうもちろん、外国人独特のアクセントや言い回しはある。それがよくしゃべる。とにかく日本語を覚えてしゃべりたくてしょうがないといった感じである。途中、難しい熟語を聞いてくる。でも、そこまで日本語を覚えたのはえらいと思う。彼は日本独特のわび、さびまで勉強しているかもしれない。
車は右手に真っ青というより少し白を混ぜたような淡い青い海が果てしなく続く道を走り出した。遠浅だからかもしれない。左手には林が続き、時折思い出したように民家や店がかたまってたりする。その家々は南国でよくみられる床がたかく床下から向こう側の林が見えるほどで木造建築のアユタヤー様式という手作りの山小屋風である。ある店先では外においた簡素なテーブルにビールかなにかを飲みながらいかにものんびりと笑顔で話しをしている人々の光景が、車の中であいかわらずハレルの話を聞かされながら車窓をながれていくのが見えた。
HOTELランカウイの立て札が少し細くなっている二股の道の右の角に立てられているのを見つけた。でも景色はあいかわらず海と林が続いている。ここからはずっとHOTELの敷地内であることがわかる。車で2、3分走ってやっとHOTELの入り口が見えた。
この島で2番目に豪華なHOTELだとハレルは言った。ここで依子は生まれて初めての恐怖をあじわうことになるとは夢にも思ってはいなかった。